四章A

涼宮さんが風邪で寝込んでる日も、わたし達は自然と部室に集まっていた。
やっぱり、みんな此処が居場所なんだなぁ……ってしみじみ思います。
わたしはお茶を注ぎ、みんなに配った。
無口で本を読み続ける長門さん、一人でボードゲームをする古泉くん。
そして、涼宮さんが来なくなってから元気の無い、わたしの大好きなキョンくん…。
やっぱり、涼宮さんがいないから元気がないのかな?わたしじゃダメなのかな?
今週も何回かキョンくんを連れ出そうと誘ったけど、全部断られちゃった。
やっぱりわたしはキョンくんにとっての《好きな人》にはなれないのかな?
……だからって、何もせずに終わるのはいや。
《みんな帰ったら残っててくださいね?》
そう書いた手紙をキョンくんに渡した。ただ、諦めるだけのわたしになるのはいやだから……。


「なんですか?朝比奈さん」
……キョンくんは天然なのかな?わたしがこないだキスして、それで呼び出したって言えば普通の人には用件がわかると思うんだけど…。
「あ、あの~、こないだ言えなかったこと……」
わたしの顔が真っ赤になる。言葉で伝えるのって恥ずかしいよぉ…。

「わ、わたしキョンくんが大好きですっ!……そ、それでもし付き合ってくれるなら明日!明日の17時に駅前公園に来てくださいっ!」
恥ずかしさと緊張のあまり、言い終ると同時にわたしは部室から逃げ去った。情けないなぁ……。
家に帰ったわたしは、引き出しから短冊を二枚取り出して願いごとを書いた。
そう、約束の土曜日は七月七日七夕の日だった。もし、キョンくんが付き合ってくれたら星を見に連れて行ってもらおう。
ダメだったら……。


あと10分で17時。駅前公園にいるのは私服の若い人達とわたしだけ……。
大丈夫、キョンくんは来てくれる。……来てくれたらいいなぁ。
あと5分。まだ、まだ時間じゃない。キョンくんはいつも時間ちょうどに来るから大丈夫だよね?
あと3分の所でわたしの携帯が震え出した。キョンくんからのメールだった。
《朝比奈さん、ごめんなさい。俺、朝比奈さんの気持ちには答えられません。……やっぱり、心の底ではあいつが好きだったみたいです》
……ダメ、かぁ。
いつもすぐに涙が出るわたし。なんだか涙が出ないなぁ、なんでだろ?
わたしは、もう一つの目的地に向けて街中を一人で俯きながら歩き出した。


「おや?奇遇ですね」
わたしが顔を上げると、そこには古泉くんがいた。
時間はもう20時を回ってる。こんな時間に何してるんだろう?
「ふふふ、涼宮さんに負けたみたいですね?」
古泉くんが指をさした先には、二人で笹の木に短冊を付けているキョンくんと涼宮さんが居た。
「あ、あ……」
わたしは声が出なかった。そんなわたしを後ろから古泉くんが支えて歩きだした。
「さて、僕達は違う所の笹の木に行きましょう。……これなら泣いても彼らに気付かれはしないでしょう?」

あぁ、これは古泉くんの優しい気遣いだ。そんなに優しくされたら……涙が出ちゃうよぉ……。
「うっ…うっ…うあぁぁぁぁあん!」
わたしは古泉くんにエスコートされながら、古泉くんの胸で泣き続けた。
たぶん、古泉くんは道行く人の注目を浴び続けたんだと思う。
ありがとう。
そう思いながらも、二人の居た笹の木と違う笹の木に着くまでわたしは大声で泣き続けた。

「此処でよろしいですか?」
古泉くんの優しい声に、わたしは頷いて答えた。
そして、鞄の中から短冊を取り出した。まず、一枚。
《キョンくんとずっと一緒にいれますように》と書いた短冊をクシャクシャに丸めて、ゴミ箱に捨てた。……ありがとう、そしてさようなら。
代わりに、もう一枚。
《誰か優しい人に逢えますように》と書いた短冊を、携帯から外したキョンくんと色違いのストラップと共に、笹に結んだ。
頬を伝う涙をすぐに拭き取って、古泉くんの所に戻った。
「もう、ご用件はお済みでしょうか?」
「うん、ごめんなさい。……恥ずかしかったですよね?」
肩をすくめて、ニコリと笑顔が返ってきた。
「泣いている女性を放っておけるほど、僕は冷酷な人間じゃありませんよ」
優しいなぁ……古泉くんは。今日だけならもう少し甘えちゃってもいいかな?
「あ、あの……よかったら今日だけいろいろと付き合ってもらえませんか?その……お買い物とか……いろいろ……」
「ふふふ、ストレス解消ですね?僕で良ければいくらでも付き合いますよ」
意味合いは違うけど短冊の願いは叶っちゃったのかな?
「織姫様、彦星様、ありがとう」
わたしは空にそう呟くと、古泉くんと一緒に街中へと繰り出して行った。



四章B

「キョン……?」
窓の下にいるキョンが声をかけて来た。
「なぁ、暑いんだから中に入れて麦茶の一杯でも出してくれよ。せっかく見舞いに来たんだぞ」
……なんて厚かましい奴なのかしら。まぁいいわ、上がってもらおう。……ちょっとうれしかったし。

「お前の部屋……意外に普通だな」
今、この部屋にはあたしとキョン二人きり。ちょっとドキドキしてるかも。……何も起こらないだろうけど。
「それで、何しに来たのよ。見舞いなら普通は何か持って来るもんだから見舞いじゃないんでしょ?」
キョンを目の前にすると、どうしても強がってしまう自分がいる。ほんとは《ありがと》って伝えたいのに。
「はははっ、お前には全部お見通しだな。実はな、これだ」
……織姫と彦星がくっついたストラップ?
あぁ、そうだ。今日は七夕だ。あたしとしたことがこんな大事なイベントを忘れてた……。
「こないだのお前の欲しい物買ってやるって言ったやつだ。……まぁ、欲しいかどうかはわからなかったがな」
と言って、キョンは笑った。イタズラ小僧みたいな笑い顔。初めて見たかも。
「あ、ありがと。もらっとくわ」

手を伸ばした瞬間、キョンがそのストラップを引いた。
「ちょっと!何すんのよ」
「ちょっとした条件がある。俺の質問に答えたら、ちゃんとやるよ」
こんな意地悪な性格だったかしら?なんかいつものキョンと違う気がする。
「いいわ。早く言いなさいよ」
強がるあたし。ほんと不器用だわ、あたしって。
次の瞬間、キョンの口からは信じられない言葉が出ていた。
「俺は、お前が好きだ。付き合ってくれるかをイエス、ノーで答えてくれ」
10秒程、頭の中で今の言葉を反芻したら、涙が出た。……ほんとかな?ほんとなら……うれしいよ。
「先に言っておくが俺は至って真面目だ。……って何泣いてんだ!?」
あたしが涙を流すのと同時にキョンの声が聞こえてきた。もう、タイミング悪いよ。
「バカぁ……うれしいから泣いてるのよぉ……」
これしか言えない。気持ちが通じたのなら、言葉なんてなんでもいいわ。……よかった。
「じゃあ、ほら。手ぇ出せよ」
あたしが手を出すと、織姫だけが乗っかっていた。
「あ、あれ?半分?」
すると、今度は色違いの織姫と彦星をポケットから出して、今度は彦星を手に乗っけられた。

「これなら、織姫と彦星も離れないで俺とお前も一緒にいられるだろ?ストラップも一緒で気持ちも一緒だ」
今、あたしメチャクチャ幸せだ。キョンと気持ちが完全に繋がってる。
「あんたにしては……良いアイデアじゃない。ありがと、ありがと……」
キョンの胸に頭を押し当てて泣いちゃっていた。しばらくは喜びと安心感で泣きやめそうにないよ……。


「さて、行くか!」
あたしが落ち着くと、キョンは声を上げた。
「何処に行くのよ」
「決まってるだろ?街に置かれた笹の木の所だよ」
そういえば今日は七夕なんだ。まだ短冊あったかな?
「ほら。1分以内に書けよ?俺は書くこと決まってるから」
そう言うと、キョンはあたしに短冊を手渡した。あたしだって、もう書くことは決まってる。
二人で素早く書くと、キョンの自転車に二人乗りして笹の木へと向かった。

笹の木の近く、あたし達はお互いの短冊を見せあった。
「やっぱり同じだったか」
「そうね。まぁ、気持ちが通じていていいじゃない」
あたしとキョンは同じことを書いていた。……だってこれしか無いじゃない。

「どうせだ。一つに括って一緒に結ぼうぜ」というキョンの提案で、一つにした短冊を二人で一緒に結び、願いを込めた。
「叶うといいな」
キョンが聞いてくる。
「叶えてよね?」
あたしはそう答える。
二人が短冊に書いたこと、《キョン(ハルヒ)とずっと一緒にいられますように》
その言葉に幸せを感じながら、笹の木の下であたし達は口付けを躱した。
空を見上げると、天の川があたし達を祝福するかのように輝いていた。


終わり

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