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「暇潰し」という言葉を思い付くと、部室に足が向いてしまう・・・

居心地の良さや仲間とのコミュニケーションを求めるというよりは、ある種の習慣的なものに背中を押されている気がする最近の僕だ。

そして今日も、暇潰しの為に部室を訪れる。
無論、特に用事があるわけでも無く。

-こんにちは。
「あら、古泉くん!」

ふむ・・・部室には朝比奈さんしか居ない様だ・・・と、すると長門さんは隣で涼宮さんとキョン君は出掛けたか?
とりあえずは、会話を続けるとしよう。

-今日は、だれも居ないんですね?
「ええ、長門さんは隣に居ます。キョン君と涼宮さんは・・・買い出しに行きましたよ?」
-買い出し・・・ですか?
「ええ。部室に蓄えておいた食糧が底をついた、とかで・・・」

なるほど。
そう言えば、ここ最近で何回かキョン君と涼宮さんが、部室でカップ麺を食べて居るのを見た気がしたな。


ところで、僕は最近少しだけ困っている。

それは、朝比奈さんがキョン君と涼宮さんの話をする時、言葉に詰まったり切なげな表情をする事だ。

実は、僕はコレに気持ちを揺さぶられていた。
別に、朝比奈さんに恋愛感情の類の特別な想いがあるわけでは無い。

朝比奈さんがキョン君に対して特別な感情を抱いているのは概ね把握している事実で、眼前に展開される叶わぬ恋物語に密かに同情を寄せている、というのが正直な所か。
ただ、それだけの要素では「気持ちを揺さぶる」という表現をするには少し足りない。
その少し足りない部分が何なのか・・・自分でも解り得ぬところで、自分の中にそういった部分があるという事実が言い様の無いもどかしさを僕の心に残していた。

その、もどかしさ故だろうか。

不意に朝比奈さんを、この部屋から連れ出してみたい衝動に駆られる。

-朝比奈さん?
「はい?」
-僕らも、街へ行きませんか?
「ふえええっ?これからですかぁ!?」
-はい。たまには我がSOS団の象徴たる朝比奈さんに『息抜き』をして頂こうかと。
「いい・・・ですけど。」
-では、着替が済むまで外に出ていますね?
「わ、わかりました!」

朝比奈さんを待つ間、今後の予定について少し考えてみる。
彼女の趣味趣向は不透明な部分が多いので、とりあえずは笑顔で居てもらう事を最優先としよう。
目的地は時間を考慮して1つに限定する。
移動手段は・・・仕方が無い、車を使うか。
朝比奈さんは既に僕の素性を知っている訳だし、今更車を運転して見せた所で特に驚かれる事もあるまい。

しばらくすると、メイド服から制服に着替えた彼女が、部室から出て来た。
戸惑いを隠せない表情に初々しさを感じつつも、少し強引に誘い過ぎたかと後悔する。

-何か、他に予定がありましたか?
「いえ・・・ただ、涼宮さんに部室の留守番を頼まれてたから・・・」
-ああ!それはらば僕が「副団長」として後で話をしておきましょう!ね?
「ホントですかぁ!ありがとうございますぅ!」

全く、彼女のこのある意味気弱というか従順過ぎる部分が、涼宮さんの言うところの『萌え要素』のひとつなんだろうか。
時折、気の毒になる。

学校を出て少し歩くと、僕は彼女に「そこのバス停で少しだけ待っていて頂けますか?」と告げた。

この近くのパーキングに隠してある車を取りに行く為だ。
車は当然、僕の所属する機関の所有するものだが、管理自体は担当者たる僕に任されているので様々な事態や状況に応じて自由に使う事が出来る。
ただ、今懸念される事といえば最近使う機会が無かったので、バッテリーがアガってないかという事だ。

僕はパーキングに着くと、一番奥に停めてある銀色のセダンのドアにキーを差し入れた。
しばらく使っていなかったにも関わらず、以外と汚れが目立たない事に少しだけ安心する。
ドアを開け、後ろの座席に置いてあったジャケットを取り出す。
さすがに、高校の制服のままで運転するのは気が引けるのだ。

エンジンは少しだけ躊躇いがちながらも、素直に始動してくれた。
ゆっくりとハンドルをきり、朝比奈さんの待つバス停へ向かう。


「古泉くん!?それ・・・・!」

軽くクラクションを鳴らし、バス停の横に車を停めた僕を見て、朝比奈さんが眼を丸くする。

いや、驚かれるとは意外だな。

-大丈夫。どこぞで拝借して来た訳ではありません。
少々事情もありますが、免許も持ってますよ。
「そう・・・ですか。」
-ええ、早く乗って下さい?あまり長居は出来ない様だ・・・

僕は、サイドミラー越しに後ろから近付くバスを見付け、朝比奈さんを急かした。

走り出した車の窓に見慣れた景色が映り、流れる様に消えていく。
車に乗ってから暫くの間戸惑っていた彼女も、馴れて来たせいか少しづつ話を始めた。

「ごめんなさい。あの・・・折角乗せてもらったのに、私・・・驚いちゃって・・・。」
-いいんですよ。高校生である筈の僕が、こんな事をしてるんですから。
ところで、行き先にリクエストはありますか?
「リクエストは無いんですけど・・・訊きたい事があります!」
-なんでしょう?
「古泉君・・・貴方、本当はいくつなんです?」

僕は、少しだけおどけて答えた。

-禁則事項・・・ですよ!

「まあ!ふふっ、古泉君たら・・・」

彼女の顔から微笑みが溢れる。

釣られて、僕も少し笑った。
そういえば、この車に女の子を乗せるのは久し振りだな。
ここはひとつ、気まぐれな午後のドライブを楽しむとしよう。

学校前のバス通りを抜け、駅の近くを通り過ぎる頃には、すっかり彼女は普段の表情を取り戻していた。
それどころか、普段よりも良く喋る気がする。
まあ、楽しんでくれている様でなによりだ。

「ふふっ、こういう感じ久し振りです。」
-おやおや?聞き捨てなりませんね。その時のお相手は恋人ですか?
「さあ、どうでしょうね~?」
-では、勝手に想像させて貰いましょう?
「どうぞ、どうぞ。」

やがて、車は市街地へと滑りこんだ。
夕方の街の雑踏も、フロントガラスのこちらから眺めると、どことなく別の世界の出来事に見える。

「こんなふうに、ここを車で走るなんて、考えてもみませんでした。」
-まあ、僕もですけどね?
「本当に?」
-えっ?
「何か手慣れてる感じがしますよ?」
-そんなことありませんよ。なにしろ僕は「高校生」ですからね!
「まあ、あてにならない高校生だこと・・・あ!」
-ん?どうしました?



言葉を止め、一瞬切なげな表情をした彼女の視線の先には、歩道を連れ添って歩く涼宮さんとキョン君の姿があった。
なんと・・・タイミングの悪い偶然だ。

僕は、気付かない振りをして続ける。

-そうそう、もう少しで目的地に到着しますよ。






僕は裏通りを左へ曲がり少し走り、パーキングスペースに車を停めた。
車を降りると、赤い煉瓦作りの小さな建物がある。

「ここは、お店ですか?」
-ええ、まあ中へどうぞ?

ドアを開け、中に入ると様々な色のボールや衣装の様なもの、ちょっとしたパーティ用品が所狭しと吊されている。
僕は、その奥の少し広くなった所に彼女を招き入れた。

「ここは・・・オモチャ屋さんですか?」
-まあ、ある意味そうですね。そうだ朝比奈さん?

「はい?」
-こんなのはご存知ですか?
「なんです?」

僕は、ショウケースの上に置いてある金色のキャップを手にとった。

-この中に、一円玉を五枚入れます。
「あ、はい。」
そして、ゆっくりと伏せて再び持ち上げると・・・
「わぁ!百円玉に変わってる!」
-そう、ここは手品道具の店です。他にも何かお見せしましょうか。
「はい!」

僕は、ひとつのボールを掌の中で五つに分けたり、指を鳴らして花束を作る手品を披露してみせた。
彼女の瞳が、まるで少女の様に輝いている。

-好きですか?こういうの。
「ええ、とっても!でも、凄いわ・・・子供の頃からやっているとか?」

ええ、まあ・・・と答えかけて、僕は少しだけ「悪ふざけ」をしてみようと思い付く。

-そうですね。では、こんなエピソードをお話しましょうか。
「ふふっ、何かしら?」

-そうですね。では、こんなエピソードをお話しましょうか。
「ふふっ、何かしら?」
-まあ、僕の少年時代の話と思って聴いてください。
『窓際に佇む一人の少女。
敵わぬ恋に焦がれいつも溜め息をついている。
彼女は恋を許されぬ身の上故に、想いを告げる事が出来ないという。
僕は彼女の笑顔が見たくて、買ったばかりの手品道具で、花束を出してみせる・・・』

僕は、そういいながら右手に薔薇の花束を出して見せた。

「わあっ!」

途端に彼女から笑顔が溢れる。

-如何です?

「ふふっ、古泉君は知ってたのね?」
-まあ、朝比奈さんはすぐ顔に出ますからね。
「ありがとう。じゃあ、そのエピソードの最後はこう締め括ろうかしら・・・『窓際の少女は、もの凄く幸せな気持ちになり、お礼に少年の頬にキスをした』
そう言うと彼女は、僕にそっと近づき頬に唇で触れた。
僕は、少し離れて丁寧にお辞儀をして見せた。
-そろそろ、帰りましょうか?


別れ際、彼女は「今日はありがとうね!」と、これまでに見たこともない様な笑顔をくれた。

彼女を送った後、車の中には少しだけ彼女の香りが残っていた。
車を走らせながら、僕はふと思う。

おかしいな・・・彼女には「楽しい時間」をプレゼントした筈なのに・・・代わりに「切ない恋心」を受け取ってしまった様だ・・・


次の日の放課後。

例によって部室に入ろうとする僕に、みんなの声が聞こえてくる。
「ちょっと、みくるちゃん?何これ?なんでアタシの机に薔薇の花束が生けてあんの?」
「ふえええん!駄目ですかあ?」
「おい、ハルヒ!別にいいじゃないか!」
「花言葉・・・情熱」

僕は、少し笑いながらドアを開けた。


やあ、皆さん!お揃いで!


終わり
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