※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

放課後・・・である。

俺は足早に部室棟に向かい歩いていた。

実は今朝、古泉に『後で話がある』と持ちかけたものの、すっかり場所を特定するのを忘れていたのだ。

とりあえず、部室に行けば・・・そう考えて、急いでいるわけだ。
部室に到着した俺は、すぐにドアを開けようとして、一瞬躊躇った。『そうだ、朝比奈さんの着替えを警戒せねば』
思い直して、ゆっくりとドアをノックする。

トントン

返事は無しか?あれ?
微かに、何か聴こえる。
水道の水が流しに流れる音・・・
そして・・・
微かに聴こえる歌声・・・

♪指を 繋いだら oh friends 時が止まる 気がした ・・

朝比奈さんが歌っているのか?
あの、文化祭の映画での歌の印象が強烈だったせいか、意外な美声に少し驚く。

あ、そうだ。古泉、古泉。

朝比奈さん、居ますか?入りますよ!

「あ・・・は~い!」

部室のドアを開けると、朝比奈さんが流しの前に立ち茶碗を洗っているのが見えた。

まだ途中らしく、手を止めたままこちらを振り返る。

「ごめんなさい、キョン君。全然気付かなくて・・・」

いや、いいんですよ。

ところで、古泉は来ませんでした?

「え?ああ!ついさっき来ましたよ。おそらく彼が此処に来る筈ですから、よろしく!って、そのメモを・・・」

机の上を見ると、『中庭のテーブルに居ますね』と書いてあった。
ん、気のせいか?
今、朝比奈さんの目が少し赤かった気がしたが・・・。







中庭に着くと、古泉がメモにあった場所に座っているのが見えた。

相変わらず、ニヤニヤしてやがる。

よお、悪いな。呼び出しておきながら・・・

「いや、いいんですよ。それより・・・どうです?」

そう言いながら、古泉は紙カップに入ったコーヒーを差し出した。

ん?ああ、悪いな・・・

すこし冷めてる。
待たせてしまったな。

「いえいえ。で、話とは何でしょう。」

ふん、とぼけるなよ。察しはついてるんだろ。

「ははっ、まあ大体のところは。ただ、いずれ貴方から直接話して頂ける確証がありましてね。まあ、こちらの予測よりは早かったですが。」

では、短刀直入に言おう。
俺は、凉宮ハルヒを抱いた。

「!」

一瞬、古泉が真顔になった気がした。
しかし、すぐにいつものニヤケ面に戻り「そうですか。」と笑った。

?、想定外だったか?

「いえ、あまりにも表現が直接的でしたので。さて、本題に入りましょう。」

そう願いたいな。


実は、ここ数日間で俺とハルヒは急速に関係を深めた。

「その様ですね。」

これは、お前らの機関の活動や例の・・・

「閉鎖空間と世界の終わり・・・ですか?」

ああ。それらに何か影響はあるのか?

「ふむ・・・影響が無い、とは断言しかねます。ただ、悪い意味ではありません。ここ最近においての閉鎖空間の発生は極小規模かつ小数ですし、これは貴方によって凉宮さんが満たされているからであると言っていいでしょうね。安定しているとも言えます。」

さらに古泉は続ける。
「元々、貴方は凉宮さんにとって選ばれた人間な訳です。この『選ばれた』という部分に関して言うのであれば、今回の事も驚くべきものでは無いかと。」
そうか・・・。
それとな、古泉・・・

「僕の所属する機関・・・いえ、僕の仕事は以前お見せした通りのものです。凉宮さんがこの世に存在する限りは、あの閉鎖空間も神人も存在する・・・だから僕は・・・
・・・今までと変わらず、あなたがたと共にいますよ。」

そ・・・うか。

「おそらく、長門さんも同じだと思います。形は違えども僕と似たような存在意義を持っている様ですからね。それに・・・僕は好きなんですよ。SOS団がね。」

俺の少し安心した顔を見届けると、古泉は「それでは、バイトがありますので・・・」と去っていった。

ん?ちょっと待て!

朝比奈さんはどうなんだっ?










部室に戻ると、ハルヒが例によって朝比奈さんをオモチャにしていた。

おいおい・・・

「みくるちゃ~ん!今日はチャイナドレスにお団子頭よっ!」

「ふえええん!」

相変わらずだな・・・。

しかし、よくもまあ毎度毎度・・・

ハルヒと朝比奈さんのコスプレショーを見ながら、ぼんやりと先程の古泉の話を思い出していた。

朝比奈さんが・・・話に出て来なかったのは、おそらく長門や古泉の様に特殊な能力が有るわけでは無いからだろう。

未来から来たという事を除いては、朝比奈さんは至って普通の高校生だしな。

ん?彼女が未来から来た目的って・・・確か未来を固定化させるって・・・。

今のこの状況に対し古泉は「安定」という言葉を用いていた。

このまま行けば「未来の固定化」ってヤツになるのか?

そして、朝比奈さんは・・・


「らめええええええっ!見ないでええっ!」

いっ!?


朝比奈さんの絶叫で我に返った!
今まさに、朝比奈さんがハルヒの手によって産まれたままの姿になろうとしているっ!

俺は、部室を飛び出した。

しばらく待って、俺は再び部室のドアを開けた。

着替えは完了した様で、朝比奈さんは先程とは違う柄の・・・少し丈の短いチャイナドレスを纏っていた。

今更敢えて言う事も無いだろうが・・・物凄く良い!

大満足のハルヒが腕を組んで頷く。

「うん!完璧ね!いますぐフカヒレスープを注文してあげたくなるわ!」

相変わらず、訳が解らない。

ところで、何でチャイナドレスなんだ?

「アンタ、知らないの?」

何を!

「ミクルちゃん、一週間ほど中国に旅行に行くんですって!」

何っ?


聞いてない!聞いてないぞ、そんな話!

「まあ、私もさっき聞いたんだけどね!」

・・・。

しかし、この時期に旅行とは珍しいな。

ハルヒは意気揚々と続ける。
「そこで!このチャイナドレスコレクションが登場したわけ!」

おい、「そこで」の「そこ」が見えんぞ?

「はあ?相変わらずの冴えわたる鈍さね!中国での予行演習をするのよ!我がSOS団の国際進出の尖兵として、ミクルちゃんには期待を惜しまずにいられないわ!」

・・・もういい。

ところで長門は?

「ああ、となり。」

そう言って、ハルヒはコンピ研の部室の方に目をやった。

ああ、そうか。
いつぞやに『臨時部員になってくれ』みたいな感じで頼まれていたっけ。

結局、「中国での予行演習」なんてのは恒例のコスプレとハルヒの口先のみで終わり、俺は朝比奈さんの入れてくれたお茶を頂きつつ、いつも通りの午後のひとときを迎える事となった。

ところで、朝比奈さん。

中国へは、御家族と?

「え、ええ。知り合いが旅行会社に勤めていて・・・その・・手違いがあって、チケットが余ったらしくて・・・」

そうか・・・ん?ちょっと待て!
訊いた俺もバカだが、未来から来た朝比奈さんに家族?知り合い?

「あ・・あ・・・これ旅行に・・行ってる間の連絡先です。何かあったら連絡下さいっ!」

そう言って、朝比奈さんは慌てながらメモを手渡した。

『今夜八時に公園で』


困惑する俺を、ハルヒが『そんなの、アタシだけに渡しておけば十分でしょうに』と言わんばかりに睨む。

俺は朝比奈さんに「解りました、よい旅を」と言い、軽く微笑んで見せた。

今、俺は全速力で自転車を走らせている。

学校を出たのが午後五時、ハルヒを送り終えたのが午後七時・・・
学校からハルヒの家まで二時間もかからないだろって?
まさか『朝比奈さんと約束があるから早く帰りたい』なんて言えないだろう。
だから、いつも通りに『あの販売機』に寄って、少し話をしてからハルヒを送り別れた。
そして、時計を見たら七時と言うわけだ。

学校からハルヒの家まで寄り道無しで40分・・・ハルヒの家から見て公園は学校の向こうだから・・・駄目だ、頭が回らないっ!

間に合うか、俺!



並木通りを抜けると、公園の入り口が見えて来た。

7時57分。

間に合ったが・・・恐らく朝比奈さんは待っているんだろうな。

俺は、入り口にある販売機で暖かいコーヒーを二本買うと、公園の中で待っているであろう朝比奈さんの元へ向かった。





公園に入るとすぐ、俺を背中から呼びとめる声がした。

朝比奈さん?

「キョン君・・・」

ああ、朝比奈さん!すいません、待ちました・・・よね?

「いえ、それほど待ってませんから。」

彼女はハニカミながら答えた。


私服の朝比奈さんは、全身をデニムでまとめているものの、短いスカートとブーツがどことなく彼女らしさを物語っていた。

「あの・・・」

はい?

「旅行の話、気付いているでしょうけど嘘です。」

でしょうね。

いや、俺こそ・・・すいません。
なんだか、昼間は気が利かなくて・・・

「うんん!いいんですっ!大丈夫ですっ!」

あ、そうだ!これ、どうぞ?

俺は、さっき買ったばかりのコーヒーを朝比奈さんに渡す。

「暖かい・・。」

朝比奈さんの表情が和らぐ。

ところで朝比奈さん・・・
話して貰えます・・ね?

話して貰えます・・ね?

「はい。」

そう言うと、朝比奈さんは静かに目を閉じ深く呼吸をした。
そして、何かを決意した様に目を見開き語り始めた。

「キョン君!私、帰らなくてはならなくなりました。」

・・・なんとなく、そんな気がしてました。
しかし・・・一週間ですよね?

「・・・いえ・・・ずっと・・です。」

旅行は・・・一週間だって・・・

「明後日・・・私は旅立ちます。そして到着後に事故で『死に』ます。もちろん・・・本当に死ぬ訳ではないんですよ?でも・・・そうして、この時間平面から・・・消えます。」

そう言い終わると、朝比奈さんは目を開いたまま、涙を流した。

唇を少し震わせながら、ただ静かに。

俺は、愕然とした。

そしてあの日、ハルヒを抱いてから少しだけ抱いていた不安が現実になってしまった事に震えた。

(原因は俺とハルヒか・・・)

それ以外には、おそらく原因は無い。


原因は、俺とハルヒですね?

「・・・はい。禁則事項で・・・あまり詳しくは言えませんが・・・涼宮さんとキョン君が結ばれる事で、私達の時間平面・・・つまり、ここからの未来が固定化されたんです。・・・私の・・・役目は終りました。




待ってください!
古泉はこの世にハルヒが存在する以上、自分の役目は終らないと言っていた!
そしておそらく長門も、と!
なのに何故!
あなただけが!?

「違うんです。」

え?

「私が、ここに来た目的は涼宮さん自身ではなく、彼女の持つ力の存在によって脅かされる時・・・いえ、未来のため・・・」

・・・。

「そして、古泉君や長門さんは涼宮さんそのものと今現在の世界を、安定させる為に存在している・・・」

だからって、なんで「死ぬ」んですか!
もっと、こう・・・転校するとか!

「私が転校したと言って、この時間平面上から消えたとして、涼宮さんは私を探し、会えることを望むでしょう?そして、私には永遠に会えない。わかります・・・よね?」

しかし・・・


「完全な消滅こそ、最善の方法です・・・」

ハルヒは・・・みんなの気持ちは・・・どうするんですか。

「ごめんなさい。」

最後にそう呟くと、朝比奈さんは両手で顔を覆い静かに泣いた・・・。


朝。

「ふっふっふっ・・・お土産は何を買って来てもらおうかしら?ねえ、キョン?」

自転車をこぐ俺の背中越しに、荷台に座ったハルヒが楽しげに語りかける。
まったく、自分が旅行に行くわけでも無いのに、妙に浮かれて・・・

そうだな、木彫のパンダなんかどうだ?

「あははっ、アンタ馬鹿ね?それ、なんて北海道土産よ?」

俺は、沈みきった気持ちをハルヒに悟られない様に笑った。


そう、今日は朝比奈さんが旅立つ日なのだ・・・


学校に着くと、ハルヒは何やら机に向かい始めた。


何をやっているんだ?
「ふふん、みくるちゃんに渡す『お土産リスト』よ!今日はみくるちゃん、学校に来れないみたいだから後でメールするの!伝達事項は確実に!私の様な優れたリーダーシップを持つ人間ならではの当然の準備ね!」

そうか・・・。

ところでハルヒ・・・
「何?」

弁当忘れた。

「はあ?」

取りに戻るが、いいか?

「もう、しょうがないわね!アンタが抜けた分の授業のノートは後で写させてあげるから、早く行って来なさいよ?」

すまんな。

(本当にすまんな、ハルヒ・・・)

俺は学校を抜け出すと、公園に向かい自転車を飛ばした。
一昨日の朝比奈さんの言葉が胸をよぎる。

『この事は私達二人だけの秘密にしてくださいね?本当に、お願いします。あと・・・もう一度だけ、この公園で会えませんか』


朝比奈さんは、「旅行の準備の都合で明日は」と昨日みんなに話していた。

俺に・・・何の用だ?
公園に着くと、俺は自転車を停め辺りを見回した。

まだ、来てない・・・か?

「キョン君っ!」

うおっ!

いきなり後ろから声をかけられて驚く!振り返ると、朝比奈さんが微笑んでいた。

そして・・・何よりも驚いたのは・・・

朝比奈さん!その・・・髪型!

「へへへ、似合いますか?」

ハルヒと同じ髪型!

「少しだけ、歩きません?」

あ、はい。

俺は困惑しつつも、すっかり朝比奈さんに見とれていた。

しばらく歩くと、俺達は公園の中心にある噴水にたどり着いた。
噴水の畔に二人で座る。

「ねえ!」

はい?

「私たち、恋人同士に見えるかしら?」

突然の朝比奈さんの言葉に、心臓がとまりそうになる。

「ふふっ、冗談ですよ。」

悪戯っぽく笑うと、朝比奈さんは立ち上がり、噴水の周りのモニュメントに軽く飛び乗った。

少しおどけて見せながら続ける。


「ねえ、キョン君?」
なんです?

「いつだか、私とはあまり仲良くしないで・・・って言った事あったでしょ?」

ああ、はい!

「あれは・・・ううん、もう解っていると思うけど・・・涼宮さんを刺激して、あの空間を産み出すのを防ぐ為だけでは無かったんですよ?」

・・・ですか?

「はい!私、あなたが好きでした!」

えっ?

「でも、結ばれない事も知ってました!」

あ・・・。

「キョン君!」



「今日は来てくれてありがとう!」

瞬間、彼女がフワッと宙を舞い・・・俺の目の前に舞い降りた。

えっ?

彼女の唇が、俺の唇に触れ・・・そして唇を離す寸前に 囁く

「 さ よ う な ら 」

っ!朝比奈さん!みくるさん!待っ・・・て!

行ってしまう・・・そう自覚した瞬間、彼女は






消えた。


♪何処で壊れたの
♪他人よりも 遠く見えて
♪指を つないだら
♪時がとまる 気がした

いつしか彼女が口づさんでいたメロディが

頭の中でグルグル回る
帰り道、俺は恥ずかしげも無く泣いた

泣きながら
ありったけの力で自転車をこいだ

おそらく 赤く腫れあがった目をしながら

教室へ向かう

そんな俺を見て
ハルヒが首をかしげる
埃が目にはいったのさ
「バカねぇ」 とハルヒがノートを差し出しながら笑う

そして何事も なかったかのように 一日を過ごすんだ

彼女との約束と明日来る悲しみの為に

Ⅳ fin
|