家に帰る途中、ふと見慣れたマンションを目にする。

あれは…長門の住んでる所だ。そういえば、今日は長門と全然話せなかったな。
昨日のことに関しても…まともに礼も言えてない。ちょっくら挨拶してくるか。

1階の玄関へと入り、インターホンを鳴らすべく3桁の部屋番号を入れる。
…いや、入れようとした。

……

長門の部屋番号…何だったっけか?…忘れた。なんたる不覚!これでは呼び出せないではないか…
とはいえ、このまま帰るのも癪だったので、携帯で長門に番号を聞くことにする。

…ガチャ

ドアが開いた。はて、俺はまだインターホンすら鳴らしていないのだが。
それどころか長門に番号すら聞いていないのだが。これは一体どういう原理だ?
すると、中から顔を覗かせている人物がいる。どうやら、彼女がカギを開けてくれたらしい。
1階に降りてまで、いちいち開けに来てくれたっていうのか?なんともご苦労様なこった。

「…長門!?」
「カギは開けた。これであなたも入れる。」
「そ、それはいいんだが…どうして俺がココに来てるってわかったんだ??」
「部屋の窓から、あなたがマンションの中へと入っていくのが見えたから。」
「そうなのか…それは運が良かったぜ。…ん?」

俺は違和感を覚える。

「そういや…何で1階にまで降りてくる必要があったんだ?
お前の能力を持ってすれば、玄関のロックを遠隔操作で外すことくらい造作な…」

言いかけて気付く。…バカだ俺は。なぜ今になって気付いた…、
こいつは俺のせいで、しばらくの間、情報統合思念体として力を行使できないんだろうが…!

「…すまん長門。」
「いい。それより、入って。」

素直に従い、マンションへと入れさせてもらうことにする。





……





長門の階に着き、部屋へと入る俺。

別に、ちょこっと話す程度だったから、外での立ち話でも全然構わなかったのだが…
とはいえ、今は12月。寒冷化に見舞われる時期の上、時は夕刻だ。中で話そうという
長門さんの判断は正しかったのかもしれない。案の定、暖房がつけてある。…なかなか心地よい。

…相変わらず殺風景な部屋だな。と言おうと思ったが、今回は少し違った。
本棚が置いてあったのだ。もちろん、中には書物が敷き詰められている。

「長門…こんなにも大量の本、一体どこから持ち込んだんだ…??」
「…秘密。」
「……」

そうですか…そうきましたか長門さん。まさかの黙秘権行使というわけだ。
おおよそ例の能力でも使ったんだろうが…。もっとも、本自体を情報連結で作り上げたのか。それとも、
元々これらの書物は部屋にあったということで情報操作されたのか。いずれかは俺の知るよしもない。

テーブル手前の座布団にて、とりあえず座る俺。…お茶を持ってくる長門。

「…どう?」
「……、おお、なかなか美味しい緑茶だな!」
「…そう。」

いや、マジで悪い味はしない。一度、部室でみんなに披露してみたらどうだろう?
朝比奈さんとは違った、また別の良い味を出せるかもしれないぞ。

……

「それで、要件は何?」
「え、ええっとだな…。」

面と向かって聞かれてもな…あ、いや、これが長門のキャラだってのはわかってるぜ。

「今日、お前と全然話せなかったじゃないか?だから、ちょっとしゃべろうと思ってな。」
「…そう。」
「とりあえず長門…、今までどうもお疲れ様。ハルヒが倒れてからというもの…気が気じゃなかっただろう?」
「…あなたこそ、よく頑張ったと思ってる。同じくお疲れ様と言いたい。」
「そして…改めて言わせてもらう。長門、いろいろとありがとな。」
「……」

「お前が与えてくれた情報に、俺は幾度となく助けられた。何より俺の命を救ってくれたもんな。
だから、本当に感謝してる…ありがとう。」
「…いい。むしろ感謝するのは私のほう。あの局面で、世界を救ってくれたあなたは称賛に値する。
重要観察区域である地球の秩序が守られたことで、私を含む情報統合思念体の面々は
あなたに感謝している。と同時に、私はSOS団の一人としても、あなたに感謝したいと思ってる。
涼宮ハルヒを助けてくれて…本当にありがとう。」
「長門…。」

「それともう一つ、あなたに礼を言っておかねばならないことがある。」
「…?」
「今日の不思議探索のときは…ありがとう。」
「??何のことだ?」
「私のことを…あなたはかわいいと言ってくれた。」

!!

「それを聞いたとき私は…嬉しかった。だから、ありがとう。」

……

------------------------------------------------------------------------------

「…待て。今のが不思議とどう関係あるんだ?」
「それはね、有希が予想外にかわいかったってことよ!」
「…全然意味がわからないんだが…。確かに長門はかわいい、俺もそう思う。だが、それのどこが不思議だ??」

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『確かに長門はかわいい、俺もそう思う。』
『確かに長門はかわいい、俺もそう思う。』
『確かに長門はかわいい、俺もそう思う。』
『確かに長門はかわいい、俺もそう思う。』

全然自覚してなかった… 本人を目の前に、俺はこんな台詞を吐いてたんだな…、

「まあ、その…なんだ、礼を言われる所以はどこにもないぜ。事実、お前はかわいいんだし。」

ッ!

また… 俺は何を言ってるんだ…??

「そう言ってくれると…、嬉しい。」

うーむ…思ったことをすぐ口に出す俺の癖、直したほうがいいかもしれんな。

「…それにしても、今日はどうだった?ハルヒと一緒にいて楽しかったか?」
「楽しかった。いろんな服を着れて…私は凄く満足。」
「そりゃよかったな。」 

最近、長門が変わってきてるように見えるのは…決して気のせいではないだろう。
オシャレを気にしたり、『かわいい』という言葉に反応してみたり…なんというか、随分と女の子らしくなった。
それだけじゃない。文化祭が終わってからというもの、彼女はギターに興味津津だ。これまで趣味といえば
読書くらいだった長門…加えて、今じゃ料理までその範疇か。それだけに今の長門は、見てて何か微笑ましい。

「あなたは…今日はどうだった?楽しかった?」
「いや…図書館で調べ物をしていただけに、そんな楽しくはなかったな。」
「…嘘。」
「…え?」
「古泉一樹のあの発言は嘘…本当は調べ物なんかしていない。適当に涼宮ハルヒを繕っただけ。」
「…どうしてわかったんだ?」
「勘。」
「く…ふふっ、あははは!長門には全てお見通しだったってわけだ!」

後で長門には本当のことを話すつもりだったのだが…まさか、第一声で『嘘。』と断じられるとは。
あのとき能力が使えなかった長門ではあるが…そんなのお構いなしだったということかい。さすが長門さん。

「それにしても、勘…ね。いやに漠然としてるじゃないか。」
「涼宮ハルヒと朝比奈みくるの会話に彼が…古泉一樹が割って入ってきた時点で怪しかった。
何か意図があると感じた。古泉一樹の行動が不自然だった。判断材料としては、それで十分。」

……

どうやら長門さんの分析力・洞察力の前では、あの古泉とはいえど歯が立たなかったらしい
ダメじゃないか古泉!そんなことじゃ一流の詐欺師にはなれないぜ!?…何を言ってるんだ俺は。

「今日はな、こんなことがあったんだ。」

俺は、長門に事の全てを話した。
古泉・朝比奈さんと話したこと。藤原・橘に会ったこと。大人朝比奈さんに呼び出されたことetc....







……







「…私は」
「…ん?」
「私は、謝らねばならないことが二つある。」
「な、長門??」
「一つは、藤原一派の件。」
「…!」
「私の勘違いで、私はあなたちを窮地へと追いやってしまった。
不必要な争いをしてしまった…本当に申し訳なく思ってる。」
「長門…、」

------------------------------------------------------------------------------

「そうかよ…ならいいんだがな。それにしたって、俺は忘れたわけじゃねえぞ!
よくも…朝比奈さんを血まみれにしてくれたな!?」
「ああ、あれか。あのことで僕たちに文句言われても困るんだがな。やったのは九曜だし。」
「もっとも、その九曜さんは今ここにはいませんけどね。」
「そういう問題じゃねえだろ!?九曜とか何とか関係ねえ、連帯責任だ!」
「うるさいやつだな…第一、九曜にそうさせたのはどこのどいつだ?」
「あれって言わば正当防衛みたいなものですからね。私たちが非難される所以はどこにも
ありませんよ?誰かさんが家を爆破したりしなきゃ、こんなことにはならなかったんですから。」

------------------------------------------------------------------------------

……

「いや、お前が責められる言われはどこにもないさ。もとはと言えば、偽朝比奈さんに唆されて
藤原たちを犯人だと決めつけてた俺が悪いんだからさ…お前は俺の言葉を信じてくれてたわけだし
むしろ謝るのは俺のほうだ。気にする必要なんか、どこにもないぞ?」
「…優しい人。」
「ん?何か言ったか?」
「…なんでもない。」

……

「もう一つは、一度でも朝比奈みくるのことを疑ってしまったこと。
彼女の事情を知ってしまった今となっては、酷くそれを後悔している…。」
「…ありゃ仕方ねえよ。お前だって、朝比奈さんが犯人だなんて思いたくなかったんだろ??
ただ、状況証拠ゆえに…そう思わざるを得ない事態へと追い込まれたんだ。」
「…でも、私は…、」

……

「謝ったとして…彼女は私のことを許してはくれるだろうか?」
「……」

……

「…そこに居合わせた古泉も朝比奈さんに謝ってたんだがな、
彼女は…ヤツに対して、決して酷いことは言わなかったぜ?」

俺は、朝比奈さんが古泉に対し言った言葉を長門に伝えた。

『…確かに、それを聞いたときはショックでした。でも!それを言うなら私にも非があります…!
だって…考えてもみれば、世界がどうなるかもわからないこの局面で…みんなに何の相談もせず、
勝手に時間移動をしてしまった。状況的に疑われても仕方ないことを…私はしてしまいました。
だから、責められるべきは迂闊で軽率な行動をしてしまった…私にあります。古泉君は…涼宮さんのことを、
みんなのことを一生懸命考えてた…!だから、一つでもあらゆる不安要素は潰しておきたかった!
仲間想いの優しい副団長さんだと…私はそう思いますよ…?』

……

「彼女は…そんなことを。」
「ああ…、そんなわけだからな。朝比奈さんは、決してそんなこと気にしちゃいないぞ。」
「……」
「だから、俺は別に謝る必要はないと思うがなぁ…もっとも、
それじゃお前の気が済まないっていうのなら、そのへんは好きにすりゃいいさ。」
「…そう。」

……

「ところで長門…体のほうはどうだ?大丈夫か?」
「…?なぜそんなことを?」
「だってお前…今、能力とやらが使えないんだよな?
そのせいで、何か体に異変でもきたしてないかって心配になったんだよ。」
「…情報の操作と改変における力は基本、身体機能とは独立したもの。
凍結されたところで、この個体に変調をきたしたりはしない。」
「そうか…それならいいんだが。 しかし、一切の能力が使えないっていうのは
いろいろと大変だろう…何かと不便なんじゃないか?」
「…不便かと聞かれれば、否定はしない。」
「だからさ、何か困ったりきついことがあったりしたら
いつでも俺を呼んでくれよな。携帯にはいつも出られるようにしとくからさ!」
「…それではあなたに迷惑がかかる。」
「何言ってんだ…??もとはと言えば、俺のせいでこんなことになってるんだろう!?
なら、お前の能力が戻るまでの間、いろいろと支えてやるのは当然のことだろ?」
「…ありがとう。」
「礼なんかいらねえぜ。…そういうわけだから、能力が回復するまでの間は何かと気をつけろよ。
今のお前は普通の人間なんだから…間違っても、夜遅く一人で出歩いたりするんじゃねーぞ?」
「…わかった、気を付ける。同時に、自身が【広義で言うところの人間】であることも自覚しておく。」
「おう、よろしく頼むぜ。」

そういや…能力で思い出した。

「長門…聞きたいことがあるんだ。」
「何?」
「今回の一件でハルヒの能力が失われつつあることは…、お前は知ってるか?」
「知っている。近いうち、涼宮ハルヒの能力は完全に消滅する。」
「そうか…古泉の言ったとおりだったな。…それでだな。」

……

「もしハルヒの能力がなくなったとしたら、お前はどうすんだ?」
「……」
「やっぱ…宇宙へ帰っちまうのか…?俺たちと一緒には…いられないか?」
「それについては何とも言えない。」
「…わからないってことか?」
「…涼宮ハルヒの能力が消滅、即ち彼女が一般有機生命体としての存在を確立したとき。
それは、彼女が情報統合思念体の観察対象から外れることを意味する。その場合、
有機ヒューマノイドインターフェイスとしての私の役割は終了する。同時に、存在意義もなくなる。
そんな私が地球に留まれる可能性は極めて低い。上からの許可が下るとも、到底思えない。」
「…お前の意志を聞かせてくれ。お前自身は…どうしたい?」
「立場上の制約を無視し、私という個体のみに意見を求めるならば」

……

「私は…あなたたちと一緒にいたい。」
「…長門…!」
「あなたたちは、私にとってかけがえのない人たち。」
「……」

『長門さん…ですか。そればかりは本人に聞いてみませんと…
わかりませんね。おそらく、内心は僕らと近いはずです。』

内心は僕らと近いはずです…か。古泉、やっぱお前の言ったとおりだったよ。
長門も…俺たちSOS団のことを大切に思ってくれている。お前や朝比奈さんみたいにな。

「…もし、上がどうしてもお前の独立を認めなかったとき…そのときはどうする?」
「そのときは、あきらめざるをえない…。」
「…顔が不服そうだぞ?本当は、嫌でも抵抗したいんじゃないか?」
「抵抗など無理。私という個体がそれを感じている。」
「…勝てないと思ってるのか?」
「勝つ勝たないの問題ではない。上と戦うなどという発想自体、私にはない。」
「…何あきらめてんだ!?必死に思いを上連中にぶつけてみたら、万一にもわかってくれるかもしれないぞ。」
「逆らってまでも、自己主張することは許されるの?」
「誰が許さないって決めたんだよ…。お前が決めたんならともかく、そうじゃないなら…
まずは自分の意志を突き通すことから始めようぜ?ダメならダメで、またそのとき考えりゃいいさ。
そんときは俺も助太刀してやる。…もっとも、俺なんかじゃ力にもならんだろうが…
でもな、少なくともお前の背中を押してやれることくらいは、できると思ってるからな。」
「…優しい人。」
「ん?」
「あなたは…以前の世界でも、そうやって涼宮ハルヒを助けだした。…違う?」
「……」

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「…バカなことを。仮にも神の化身であるあたしが、そんな考えをすることは許されないわ…。」
「誰が許さないって決めたんだよ?」
「え?」
「確かにお前自身は神の意志で生まれてきたのかもしれない。でもな、
別個体で生まれたって時点でもう神だの何だの関係ねーんだよ!!好きに生きりゃいい。」
「あんたは何を言って…それはね、無責任というものよ!?第一、化身である以上
これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。」
「単にお前が勝手に束縛されてると思ってるだけなんじゃねーのか。
自分の意志で生きることを諦めてるようにしか、俺には思えない。」
「……っ!」
「自分がしたいと思えばそれをすればいい、やろうと思えばやれる…お前は十分そういう立場にあるんだからな。
それを忘れるなよ…俺という人間が世界中で俺一人しかいないようにお前もお前でしかねえんだからな。
なら、束縛だの何だの難しいことは忘れて胸張って好きなように生きりゃいいんだよ。」





「じゃあさ…もしあたしが自分の意志で、一人の人間として生きたいと願ったとして、
もしそれを神が妨害してきたら…そのときはどうすんのよ…??」
「そんときは…俺がお前を助けてやる。」

------------------------------------------------------------------------------

……

はははっ…何だこりゃ?あのときと…言ってることが見事に一緒じゃねえか。
何か既視感めいたものを感じると思ったら、そういうことだったんだな。
あの世界の俺とは…思考パターンまで同じだったわけだ。

『いくら自分とは対の異世界人だとしてもね…、何もかも違うってわけじゃないの。
性格や思考パターンといった、そんな内面的・本質的なものは…基本変わらない…。』

自分という例に当てはめ、初めてこの朝比奈さん大の言葉に実感が沸いた。
第三世界の【俺】と第四世界の俺…まあ、厳密に言えば
朝比奈さんの言う『対の異世界人』とは意味が違うんだがな。

「まあ…ハルヒのことは置いといてだ。お前自身は結局どうするんだ?」
「そのときは異議を唱える。あなたに言われ、私はそう決心した。」
「!そうか、決心してくれたんだな…。」
「確かに、何事もやってみなくてはわからない。私はそれを…あなたから教わった。
だからもし、私がそれを躊躇してしまったときは…そのときはあなたにも協力してほしい。
…あのときの涼宮ハルヒのように。」

「ん?最後何て言ったんだ?」
「…なんでもない。」
「そうか。まあ何はともあれ、お前もこっちの世界に残ってくれるようで安心したぜ!」

本当に良かった。これで…ハルヒの能力が消えるにしろそうでないにしろ、
SOS団は全員続投というわけだ。…改めて、みんなの絆を確認できたような気がする。

……

…もうすぐ6時半か。そろそろ家に帰る…かな。夕飯を家族に待たせでもしたら大変だ。

「長門、今日はお前といろいろ話せてよかったぜ。」
「私も…同じ。」






……






「じゃぁな長門。また明日!」
「また明日。……ぁ…、」
「ど、どうした?」
「曲作り…頑張って。」
「お…おう。頑張らなきゃな!はははは…。」

俺は長門の家を後にした。

……

ホント、作曲どうすんだ俺… 

家まで直進するつもりだったが…ちょっと寄り道すっか。ゴメン家族のみんな…
本屋行って、早速そのあたりの本をチェックだ!善は急げ…だな。
本当は楽器店がいいんだろうが…こっからは遠い上、今日はもう遅い。また明日考えるとしよう。

そんな慌ただしい様子で、この日は幕を閉じたのさ。


















後で気付いたんだが、今日の不思議探索…何で集合が3時だったんだろうな?
いつものハルヒなら12時や1時を指定していただけに謎だ…

もしかしてあれか?ハルヒも…俺と同じだったのか?そういやメールの発信時刻が2時をすぎてた記憶がある…
なるほど、いくら前後の記憶がなくなってるとはいえ、疲れは健在だったというわけだ。

…あぁ、そういうことか。駅で会ったとき、いつも以上に俺の遅刻を咎めてるように感じたのは…
気のせいじゃなかった。俺への戒めを隠れ蓑に、強引にも悟られまいと、画策したんだなあいつは!?

自分の寝坊を

……

そんなハルヒも、なかなかカワイイと思った。






































それから2週間がすぎた。

今日は12月23日。

……

時は夕刻。俺は最寄りの店へと寄っていた。いろんな人形やぬいぐるみを手にとり凝視する俺。

「おいおいキョン、まさかお前にそんな少女趣味があったとはなあ…正直失笑もんだぜ!!」

はてはて、特にこいつは影が薄いキャラ設定でもなかったはずだが…俺はこいつの気配に
今の今まで気づかなかった。ここ最近ハルヒの閉鎖空間云々といった騒ぎに巻き込まれず、
温和な日々が続いていたせいだとでもいうのか?すっかり外的要因を感知する能力が衰えていた。

「外的要因??キョン、そりゃあんまりじゃねーか?俺はお前の親友だろ?」

悪友といったほうが正しいような気もするが。とりあえず、少女趣味云々イミフなことを言うヤツは放置に限る。

「あーあー、さっきのは悪かったって!あれだろ?妹ちゃんにやるクリスマスプレゼント探してたんだろ??」

わかってるんじゃねーか…ったく、別に俺がからかわれるのには構わないんだけどな。
そういうことを鶏が朝一番に鳴くようなレベルの大声で言うなと…
もし側に俺の知人がいたら、こいつはどう責任をとるつもりだったんだ。

「だから悪かったって言ってるだろ… す み ま せ ん で し た ! 」

…わかった。わかったから!とりあえず大声出すのはやめてくれ…頼むから…。

……

「ところで谷口、お前はこんなとこで何やってんだ?」
「あ?単にココア買いにきたってだけだぜ。」
「ココア程度なら外の自販機でいくらでも買えるだろう?なぜ、わざわざこんなデパートに?」
「だって寒いじゃねえか…外。暖房の効いた店に避難して何が悪い?
そのついでにココアも買っちまおうってわけだ。別におかしくもなんともねーだろ?」

なるほど、筋は通ってる。

「はぁ…それにしたって、どうにか暖かくならないもんかねぇ…。」
「おいおい、今は冬至だぞ??そんなバカなことあるか。」
「今って地球温暖化の時代だろ?冬くらい暖かくならねえのかなってさ。」
「そんな都合良くいくかよ…人類だってバカじゃないぜ。日々日々、
温暖化に向けた対策を打ち出してんだからよ。その効果が表れてるのかもな。」
「へいへい…人類は賢いでございますこと。」

地球温暖化…か。

炭素税、クリーン開発メカニズム、国内排出証取引、排出権取引、直接規制によるCO2削減義務、
気候変動枠組条約、京都議定書……数えればきりがない。それくらい、俺たちは現代社会等で
温暖化対策を強く教わってきたし、各国もそれなりの規模で取り組んできた。

こんなにもやってんだ…そりゃぁ、ある程度の効果は出ねえと、泣きたくなるわな…。

「あぁー!今年ばかりは暖かくなると思ったんだけどな俺は!」
「…まだ言ってんのか。懲りねえヤツだな。」
「キョンだって見ただろ!?ちょうど、一か月前くらいのニュースでやってたじゃねえか!
12月は夏みたいな気温になりますってよぉ…。」
「そんだけ天気予報も当てになんねえってこった。文句なら気象庁にでも言うんだな。」
「文句言ったって暖かくなんねーよ!」

そんなバカ話をしながら、俺は妹へのプレゼントを買い終えた。

「それにしても楽しみだよな~ 明日が終われば、ようやく冬休みだぜ!」

…そう。明日は終業式である。

「授業を受けなくていいってのがポイントだよな。いや~幸せ幸せ。」
「宿題は出るんだろうけどな。」
「そんくらいわかってんだよっ!少しは夢くらい見させろ!」

……

明日で今学期も終わり。

…ああ、わかってるぜ。何か約束あったよな…そういえば。

------------------------------------------------------------------------------

「そうそうキョン!忘れないでよね!!」
「…ん?何をだ?」
「作曲よ!作曲!!」





「じゃあ、今学期中には作ってくるぜ。」
「そう?わかったわ。じゃ、絶対作ってきてよね!また明日~」

------------------------------------------------------------------------------

その直後、俺は後悔したわけだが。(時期的な意味で)

……

なんとしても、今日中に完成させねえとな…ッ!!























さて、この2週間の中で…1つわかったことがある。

……

それは

世界が救われたということである

……

これでは言葉足らずか

『世界が救われたということ』が【確認できた】と、と訂正しておこう










12月2日

俺たちは世界を救った  …だが、この時点ではまだ 神の消滅は確認されていない

つまり

世界は一時的に助かっただけで、再び危機に瀕す可能性も考えられたということ

12月13日

この日、ようやく長門の力が回復する

12月14日

長門が 神・フォトンベルト・涼宮ハルヒの能力 この3要素の完全消滅を発表

12月15日

閉鎖空間の観測不可、および超能力者たちの能力消失が 機関から正式に通達される
涼宮ハルヒの能力の消滅が確定

12月21日

機関が以下の内容を発表

・地球磁場の減少停止
・地球気温上昇率の鈍化
・太陽風や宇宙線の観測頻度の低下
・地震頻度の低下
・火山活動の沈静化
・海流の安定化

長門もこれらを確認したことにより、フォトンベルトの消滅が確定  逆算的に神の消滅も確定

…それもそのはずだ  本来、ハルヒの能力無しでは
【フォトンベルト】とかいう空想の産物は実在しえないのだから










『未来の時間軸が安定しました。』

トドメは朝比奈さんのこの一言
当たり前だが、朝比奈さんのいる未来では第四世界の崩壊は確認されていない
つまり…俺たちの世界が危機に晒されることは二度とない

世界は 救われた



……



とか何とか言われても、いまいち実感が沸かねえってのが正直なとこだ…。
だが、確かに俺は聞いたんだ。長門・古泉・朝比奈さんが口を揃えて言ったことを…
『世界は救われた。』ってな。世界の危機に奔走したのは数日間だったが…俺には長く感じた。

…本当に、本当に終わったんだ。



……



長門、古泉、朝比奈さん…そしてハルヒ

どうもありがとう…!!

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最終更新:2010年10月27日 17:35