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--------ッ






銃声音が聞こえる。

「…ふふっ、やっぱりここで張ってて正解だったわ。」

……

「一応あなたの死は確認したはずだったんだけど。長門さんにでも助けてもらった?」

……

「今の発砲は気にしないでね。ただの威嚇射撃だから。」

……

「朝比奈…さん…!!」

拳銃を握った【朝比奈さん】がそこにいた。俺を殺した【朝比奈さん】がそこにいた。

…長門の言葉を思い出す。
『基本、この空間においては涼宮ハルヒを除くあらゆる生命体は存在不可な上、侵入も不可。』

そう言われはしたが、やはり俺の勘は的中した。

…古泉の言葉を思い出す。
『あなたと涼宮さんを除いては、この世界には誰も残らないはず…理論上はね。
しかし、非常時ですから何が起こるかわかりません。』

結果的に古泉の言ったことは正しかった。かといって、長門の言ったことが間違ってるようにも思えない。
ならば、俺の目の前に立ち塞がる…この空間に居座り続ける彼女は、一体何者だ…??
…そんなこと、今更考えるまでもないだろう?彼女は未来人朝比奈みくる

朝比奈みくる

朝比奈みくる…?

『アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』

……

こいつは…誰だ?あのとき俺を見下し、笑っていたこいつは誰だ?

「どうしたの硬直して?まあ…無理もないわね。さっきあなたを刺した人間だもの。」
「…お前は…誰だ?」
「…え?」
「朝比奈さんのふりをしたお前は… 一体誰だ!?」
「…何を言ってるの?私はみくる。未来から来た朝比奈みくる。」
「違う!!朝比奈さんは…俺の知ってる朝比奈さんは…っ!お前みたいに人を嘲ったり笑ったりしない!!
ましてや人を刺すような真似なんか…するはずがない!!!絶対しない!!!」
「……」
「…もうわかってんだよ。この閉鎖空間ではなぁ…通常の人間は存在すら許されない!!
それなのに、現にお前はここにいる… なあ、そろそろ正体を明かしてもいいんじゃねえか?」
「…なかなか面白い推理ね。でもね、それでも私の名前が朝比奈みくるであることには変わりないわ。」
「!まだしらばくれる気か…!!」
「ただ、あなたの言うとおり、君の知ってる【朝比奈みくる】ではないかもね。」
「…どういうことだ??」
「逆に質問するわ。通常の人間が存在できないんだったら、どうしてあなたはここにいられるの?」

…!?

「どうして…そんなことを聞くんだ…??」
「知ってるんでしょ?自分がここにいられる理由を。」
「……」

…どうする?俺が異世界人であることを…こいつに話してしまっていいものだろうか…?

「……」
「…答えないのね。そんなに自分が異世界人だってこと、明かしたくないのかしら?」

!!

「どうしてそれを…知っている…!?」
「知ってるも何も、私は【朝比奈みくる】なんだから
あなたが涼宮ハルヒのカギだってこと知ってるのは当然でしょう?」
「…っ」

話の展開が読めない。こいつは一体何を言おうとしている…?

「俺が異世界人だったとして…だから何だってんだ??」
「私がここにいられる理由。それはね、私もあなたと同じ異世界人だからよ。」

……

混乱してきた。

「??お前は…未来人じゃないのか!?」
「あれ?私のこと朝比奈みくるじゃないって言ってたのあなたじゃない。どうして未来人だって思うの?」
もしかして、心の底では認めてるんじゃないの?私が朝比奈みくるだってことを。」
「…違う!お前は朝比奈さんじゃ…ない!!」
「言い続けるのは勝手だけどね。どちらにしろ、あなたの言うとおり私は未来人よ。」
「??さっき自分で異世界人って…」
「そう、異世界人でもあるわ。つまりね、私は異世界の未来からやってきた人間なの。」

…??

やはり得体が知れない。どこまで素性が知れないんだこいつは…??
そもそも異世界って何だ…?何のことを言ってるんだ??

「何話してるのか全然わかりませんって顔してるわね。…そうね、冥土の土産にでも教えてあげるわ。」
「……」
「例えば、今あなたは北高生として人生を歩んでるわけだけど
もし他の高校へ通ってたとしたら、自分は今何をしていただろう?って考えたことはある?」
「…ないことはない。」

ふと、佐々木のことを思い出す。

「可能性ってのはね、よっぽど強い制約に縛られない限りは無限大なの。
もしかしたら、他の高校で生活を送ってる別世界の君がいたりするかもね。」
「…分岐の数だけ世界はあるってことを言いたいのか?」
「あら、理解が早くて助かるわ。そういうのを一般にパラレルワールド…ないしは平行世界って言うのは知ってる?」
「…知ってる。映画や小説で見たことがある。」
「平行世界ってのはね、そういう意味で無限大に存在するの。だって、
分岐の数だけ世界があるんだから。数字が無限であることと理屈は同じね。」

……

「でもね、いつもそうであるとは限らない。例えばね、確率50%で『今日人類が滅亡する天変地異が起こりますよ』
って言われたら、果たしてどうかしら。人類が死滅する未来と栄える未来。地球規模の人間的観点で
大別するならば、そういった意味では平行世界は二つしか存在しえない。どう?私の認識は間違ってる?」

ッ!!

「ま、あなたが驚くのも無理ないわ。だって、今日が【その分岐点】なんだもの。」

そうか…そういうことかよ…!!

「じゃあお前は…」
「気付いた?私がいた未来ってのは、フォトンベルトで人類が死滅した後の世界。」
「……」
「そしてもう一つ、私がさっき言った…フォトンベルトから逃れてめでたしめでたしって未来。
その世界にいる私っていうのが、あなたの知ってる朝比奈みくるのことでしょうね。
どうせ今頃未来で呑気に過ごしてんでしょうけど…何をバカなことしてるのかしらね。
この世界が滅亡すれば、即ち今自分がいる未来だって無くなってしまうというのに。」

……

こんなときに…こういう表現をするのは不謹慎かもしれないが…。正直、俺は安心した。
目の前にいるこの人物が、俺を殺したこの人物が、俺を嘲け笑っていたこの人物が、
俺の知っている…この世界の朝比奈さんとは全くの別人だということがわかったから。

…しかし、だからといって浮かれてはいられない。
この瞬間にも、この世界の運命は刻々と進みつつあるのだから…。









1つ疑問に思うことがある。

「確認しておきたいことがある。お前はこの世界を滅ぼすつもりでいる…そうだな?」
「そうよ。だって、それが私のいる未来だもの。」

おかしい… 矛盾している。

「さっきフォトンベルトで人類は滅亡するって言ったな?なら、どうしてお前は…その人類が滅亡したはずの
世界で生きてられるんだ?おかしいだろう!?人間のいない世界でどうやって生まれてきた!?」
「…あなたは言葉通りの意味で受け取ってしまったようね。例えば、60億いた人類のうち59億が死にました。
生存者は1億人。けれど、9割以上の人類が死滅したのは事実。滅亡と表現したって、
別におかしくはないんじゃないかしら?」
「じゃあ…お前はその生き残った、1億人のうちの子孫ってことか??」
「そういうこと。」

おかしい… なおさら矛盾している…!!

「それなら、どうしてお前はこの世界を滅ぼそうなんていう真似をするんだ!?人類の9割が死ぬ世の中なんて、
ろくな世界じゃないだろう!?未来だって荒廃しきって、とても目の当てられる状態じゃないんじゃないのか…?
お前自身願ったことはないのか。あのとき…こんな大災害さえ無ければみんなもっと平和に暮らしていけたのに
ってよ…。少なくとも、俺がお前の立場ならそんな天変地異なんて絶対起こさせない…過去へと遡行してでも
防いでやる。それがどうだ?お前のやってることは全くの逆じゃないか!?」
「…あなたは本当に今のこの世界が平和だとでも思ってるのかしら?」
「…何?」
「相変わらず、今日でも民族間・宗派間・政治的問題等による紛争や虐殺は後を絶たないわ。
あなたもそれは知ってるでしょう?日本みたいな平穏な国に住んでちゃわからないでしょうけど、
例えば、アフリカなんかでは生まれたときから少年兵として教育され…上層部の勝手で戦場へと送られ、
一生を終える子供たちがいるわ。中東もそう、1人外で遊んでた子供が誘拐され…その挙句テロリスト達に
自爆テロの駒として道具のように殺されるのは…日常茶飯事。他にも挙げればキリがないわ。」
「!!」
「ねえキョン君。そんな子供たちにとってこの世界って… 一体何なのかしらね?」
「…っ」

俺は… 返す言葉がなかった。

「そもそも、何で人は互いを殺しあうのかしら?私利私欲が絡むから?心が洗練されていないから?」
「…だから…、だからお前は…!この世界を滅ぼすってのか…!?」
「そうよ。」

!!

なぜこの人は…何の迷いもなく即答できるんだ…!?

「ふざけんな!!お前…自分が何を言ってるのかわかってんのか!?そりゃあな、今日もなお世界中の
いろんなとこで尊い命…幼い命が奪われてるってのは事実だろうよ。いつの時代も痛い目を見るのは弱者だ…
そういう人たちを同じ人間と見なさず、ボロ雑巾のように使い捨てる上の連中は、はっきり言って俺も死ねばいい
と思ってる。だがな、世界を滅ぼすとか言ってる時点でよ…お前もそいつらと大差ねえよ!!罪のない人や
日々を精一杯生きてる人たちまで巻き込んで…お前は59億もの人間を殺すつもりでいるのか!?」
「……」
「それとな…いくら人類の数が減ったって、それが人間である限り戦いは止まねえだろ…?お前の世界だって…
全人口がどれくらいなのかは知らないが、一切の諍いや争いが無くなったわけじゃねえんだろ!?」
「知ったような口を利かないでくれる?」

…顔はいたって真面目。だが、どことなく高圧的な口調になった気が…。

「もし私のいる世界では一切の争いごとは起きてない…と言ったらどうする?」
「は!?そんなことあるわけ」
「ある…としたら?」

……

この表情は、決してハッタリなどではない。彼女は 真 剣 にこれを口にしてるみたいだった。

「どうやら、あなたはフォトンベルトの負の面ばかり知りすぎてしまったようね。」

…その言い方だと、逆にプラスの面もあると言ってるみたいじゃないか…??
俺は長門の言葉を思い出していた。








『太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、
その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。』
『人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。』
『大量のフォトンにさらされたとき、まっ先に重大な影響を受けることになるのは
地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は地球磁場の減少。』

…あいつが説明した中に、どこにプラスの要素が…?

「高次元のフォトンが人体へと及ぼす影響は…知ってるかしら?」

…?

「…真っ先に現れる症状は、心身共に健康であるにもかかわらず妙に倦怠感があるとか、背中が痛むとか、
胸がつかえるとかと言ったもの。つまり、病気ではないのだけど、不安定症候群のような状態になることね。
さらに事態が進展すると、インフルエンザに似た症状や目眩、心臓動悸、呼吸困難、頭痛、
それに、筋肉痛や関節痛、痙攣などの症状が起きやすくなってくるわ。」

話の流れがよくわからない。

「見事に有害だらけじゃねえか…これが何だってんだ??」
「あくまで、これは初期症状にすぎないわ。最大の変化はね、細胞内のDNA配列に対する影響。
フォトンが高次元の電磁波エネルギーであることから発生する…こうした遺伝子レベルでの変化は
人類にとって大きなプラスをもたらすことになったわ。」

…DNA?配列…?

「地球上の人類は脳を始め、内臓の諸器官が本来の能力の10%も使えず
一生を終えるって話。あなたは聞いたことないかしら?」
「…聞いたことはある。」

何かのテレビ番組で見た記憶がある。

「その原因はね、人のDNAは本来12の螺旋から成り立っているにもかかわらず、
実際にはその内の2本しか使われていないせいだとされてるわ。」
「…おいおい、まさかフォトンのおかげでDNAが何本も使えるようになったとか、そんな話じゃ」
「ええ、そのまさかよ。」
「……」
「DNAってのはね。1本でも多いと、あらゆる病気に対する免疫力を持てたり、
他にもいろんな各部で実際的効果を発揮してくれるの。凄いでしょう?」

……

「…そうそう都合よくいくかよ…!高次元フォトンだの電磁波エネルギーだの…
俺にはよくわからんが、中身がそこまで変化すれば外部にだって、必ず影響が出るはずだろ!?
皮膚が爛れたりとか、思ったように足が動かなくなったりとかな!」

今のはさすがに、自分でも無理やり反論してる感が拭えなかった。案の定、次の瞬間には即座に論破される。

「電子レンジの中の料理が、マイクロ波の照射によって
姿は変えずに形態を変えてしまう。これと全く同じ理屈、何ら問題ないわ。」

……

淡々とただちに反論できる辺り、おそらく彼女の話してることは事実なんだろう。
まさか…フォトンにこんな側面があったとはな…。

…?

だから何だってんだ??

「あんた…さっき自分たちの世界では一切の争いごとは起こらないって言ってたよな?
…あれは今のとどういう関係があるんだ??いくら肉体面が屈強になったところで
人の精神が変わらん限り、争いは無くならんように見えるんだが…!?」
「遺伝子レベルでの変換を舐めてもらっては困るわね。高次元のフォトンが内包された
空間域に身をさらした人間は、高度なエネルギーによってDNA分子が再プログラムされ、
肉体と霊体とが半ばした高度な精神性を持った存在に変容するのよ。」
「……」

さすがに精神部位の話ともなると、こいつの説明は聞いてても理解できそうにはない…
それが本当なのかどうなのか…DNA配列により人間性そのものが変化するなんてことが、
本当に可能なのか??できたとして、それはどの程度まで??その基準は一体どうなってるんだ??





……





まあ、仮にそうだったとしよう。お前の言ってることが、本当だったとしよう。

「…それでも!俺は、お前の考えには納得できねえ!!そりゃ、素晴らしい世界なんだろうよ…
それは認める。だがな、59億もの人間を殺してまで得ようとは、俺は思わない!!」

結局、これが全てだった。どんな理由があるにせよ、虐殺まがいのことを
肯定しなければならない事態など…少なくとも、俺個人は絶対に認めたくなかった。

「そう、それは残念。どうやら、私とあなたとでは根本的に価値観が違うようね。」
「だから…頼むから、元の世界に帰ってくれないか…?」
「何を言ってるの?」
「その世界で…お前はお前で自由に暮らせって言ってんだよ!!
どうして俺たちの世界に…お前は干渉してくるんだ!?」
「…あなたがそこまでバカだったとはね。さっきも言ったでしょう。今日この時間こそが世界の分岐点なんだって。
つまり、この世界がフォトンベルトにより滅ぶ様をきちんと見届けるのが私の努め。でなければ、
私たちの未来は分岐からはずれて消滅してしまう。もちろん、そのときは私自身も消滅するわ。」

俺はそれを聞いて違和感を覚えた。

じゃあ、俺が今まで会ってきた大人朝比奈さんは一体何だったんだ?言うまでもないが
彼女がいる世界は…この世界、第四世界が滅亡しなかった場合の未来だ。そして、今
俺の目の前にいる【朝比奈さん】、彼女は第四世界が滅亡した後の未来からやってきた人間だ。

この時点ですでにおかしいだろう…?

彼女たちが存在しているということは、滅んだ世界と滅ばなかった世界…
その両方が過去になくてはありえない話だからだ。過去の経緯があり今の彼女たちがある。
朝比奈さんと【朝比奈さん】、独立した2つの平行世界が存在しているということ。
即ちそれは、2つの分岐が過去において完了し終わってることに他ならない。
にもかかわらず、【朝比奈さん】は完了し終えてるはずの、それも異世界の過去に干渉した…?

『この世界がフォトンベルトにより滅ぶ様をきちんと見届けるのが私の努め。
でなければ、私たちの未来は分岐からはずれて消滅してしまう。』

ならば、どうして第四世界崩壊後の未来人たる【朝比奈さん】は今ここに存在している!?
彼女がいるということは、世界滅亡はすでに補完された事実ということなんじゃないのか??
しかし彼女は…この世界が滅ばなければ自分たちの未来は消滅すると言った。

矛盾している…

「そもそも、この分岐自体ありえなかったのよ。」
「…ありえない?」
「そう。世界が助かるっていう分岐はね。」

??

「【2012年12月24日世界滅亡】、これは幾多とあるどの平行世界においても共通の事項。つまりね、
世界滅亡の不発が可能性として僅かながらでも残っていたあなた達の世界は、言わば偽物ってわけ。
本来あってはいけない世界だったのよ。」

…偽物…??

「異世界から来た人間に…偽物だの何だのとやかく言われたくはねえな。
別に、人類が救われる世界が一つくらいはあったって…いいんじゃねえのか…!?」
「よくないわ。」

即答だった。

「だってそうでしょう?地球が誕生してから46億年…人類はこれまでずっと【あること】を大前提に生きてきたのよ。
数々の平行世界においてもね。そして、これから来たる第五世界においても…ずっと。」
「…ある…こと…?」
「それはね。神の存在。」

…っ!

「第一、第二、第三世界と、神はこれまで幾度と世界を滅ぼしてきた。そして、この第四世界崩壊も、
神に言わせれば既定事項だった。【あなたという存在】が現れさえしなければ…ッ!!!」

戦慄を覚えずにはいられなかった。彼女の俺を見るその目が…恐ろしいくらい、憎しみに満ちてたんだからな…。

「俺が…どうしたってんだ…?」
「第三世界終焉時、涼宮ハルヒに妙な入れ知恵をした張本人は…他ならぬ、あなたでしょう…!?」

入れ知恵??俺が…ハルヒに!?一体何を

……

『別個体で生まれたって時点でもう神だの何だの関係ねーんだよ!!好きに生きりゃいい。』
『負荷や重圧のみがかかる人生に一体どんな意義があるってんだ…?俺はそれを言いたかった。』

まさか…。これが入れ知恵だとか言わねえよな…?

「あなたのくだらない独善で、涼宮ハルヒは神として生きる気力を失った。そして、何を血迷ったか…
彼女は人間の側に立って生きることを決意した。そのために本体である神にも抗った。
結果、神を封じ込め彼女は一人間として生まれ変わった。あなたはね…自覚ある?
自分がパンドラの箱を開けてしまったという…その自責の念が…!?」

ッ!!

「パンドラって…何だよ!?自責って何だよ!?そんなに俺は悪いことをしちまったってのか!?
ハルヒを…1人の人間を助けることのどこに間違いがあったってんだ!?」
「あなたが助けたのは人間じゃない。神。」
「違う!!あいつは…れっきとした人間だ!!」
「それが独善って言うのよ。あなたの勝手な思い込み。そのせいで、世界は随分と狂わされたわ。
一時的に神の影響下から逃れた世界は、これまでにおいては考えもしないような分岐をし始めた。
神ありきだったはずの世界は瞬く間に消滅し始め、神とは無縁の、無数の平行世界が出来上がってしまった!!
それも…修正不可能なくらいね…!!」

そんなことが…

「第四世界崩壊の後、今私がいるような誰もが平和に過ごせる世界…本来ならそうなるはずだった。
ところが、あなたの出現のせいで、第五世界から派生したいくつもの平行世界の存在が揺らぎ始めた。
それもそうよね。神がいない。それは、つまり世界は破壊されることも創造されることもないってこと。
第四世界はいつまで経ったって第四世界のまま。」

……

「わかる?異世界だから影響がないとか関係ないとか、もはやそういう次元の話じゃないの。
だからなんとしてでも神を復活させ、この第四世界を葬る必要があった。
本来であればそれは2012年12月24日だったはずだったけど、なんせ私からすればここは異世界。
そうそう上手くはいかないわ。結果としてその日付は12月2日になっちゃったけど。
まあ、多少の誤差…第五世界が創設されることには何ら変わりない。」

…ちょっと待て。今…こいつは 12月2日と言ったか…?

今日は何日だ…??12月1日だよ…な?

腕時計で時刻を確認する。23時33分…

…!?

「…冗談だろ?後30分もしないうちに、世界は滅亡しちまうってことか!?」
「そういうこと。地球がフォトンベルトに突入するのも後わずかね。」

っ!!

俺は…こいつと話しているヒマなどない!!今すぐ…ハルヒのもとへ駆けつけてやらねえと!!

「…最後に聞かせてくれ。11月29日… 一昨日の放課後、俺の下駄箱に手紙を入れたのはお前か?」
「手紙?そんな記憶はないけど。」

…なるほど。あれはそういうわけだったか…っ!

「その同日、俺んちの玄関前で藤原に気をつけろと忠告しに来た朝比奈さんは…お前か?」
「そうよ。どうだった?あの私の一言で藤原君たちのこと、随分と
疑心暗鬼になっちゃったんじゃない?目論見通り、私の思うつぼだったわね。」

…藤原たちは、異世界からやって来た【朝比奈さん】が世界を滅ぼすことを最初から知っていた。
それにも気付かず俺たちは…結果として藤原一派と戦い、無駄なタイムロスをした。
あの間に【朝比奈さん】に逃げる隙を与えてしまったとするならば…!!
まさか、彼女は最初からこれを想定していて…俺にあんな一言をぶつけたってのか??

…くそッ!!

「…その翌日、ハルヒを気絶させたのもお前か?」
「その通り。ま、大体予測はついてたんでしょ?人の脳波にまで介入できる装置なんて
未来技術を応用した人間、あるいは情報統合思念体でもないと実行不可能だものね。銀河系から飛来する
宇宙放射線にデルタ波を混ぜた怪電波で脳内を満たしてあげたら…見事に卒倒してくれたわ。」
「てめぇ…!ハルヒを何だと…!!」
「神だけど、それが何か?」

この…!!

いや、落ち着け!今挑発に乗るわけには…こっちには時間がないんだ…っ!

「そして今日…お前はステルスか何かで、ハルヒの後をつけていた…そうなんだな??」
「そこまで推理してるのなら、もはや私から言うことは何もないわ。涼宮ハルヒの覚醒が
12月2日ってことを考えれば、彼女の様子や症状の変化を観察するのも私の努めでしょう?
途中であなたが現れた時は私もびっくりしたけど。」
「…そうかよ。」

……

「それで、あなたはこれからどうするつもり?私は私であなたに懇切丁寧に全ての事情を
伝えたつもりなんだけど、それでもこの世界の崩壊を止めに涼宮さんに会いに行くの?
もしそのつもりなら、私はここで、あなたを始末しなくちゃいけなくなるんだけど。」
「何が始末だ…!?さっき一度殺したくせして…どうせ俺がここで何を答えたって、
お前は俺を殺すつもりでいたんだろう!?」
「…察しがいいのね。だって あなたは言わば第四世界存続のカギのような物だもの。
敢えてそれを生かしておく道理もないでしょう?第五世界創造のためにもね。」
「まあ、仮に生かしてくれると言ったって…俺はハルヒに会いに行く。ハルヒだけじゃねえ…
俺はみんなと約束したんだ。SOS団のみんなと…『ハルヒは絶対助ける』ってな…!
今更ここまで来て退こうなんざ、微塵も思っちゃいねえよ!!」

言葉や口調にこそ勢いがあったが、実体はただの虚勢ともいえた。焦燥感で頭がどうにかなりそうだった。
なんせ、背負ってるものがあまりに重すぎる。今にもプレッシャーで潰されそうな感覚。足や手、体の各部も
震えている。長門・古泉・朝比奈さん、3人の励ましに覚悟を決めたつもりだったのに、このザマだ…
情けないことこの上なかった…いろんな感情が交錯して涙が出そうだった…っ!だが、今はなんとか堪えた…。
そうしていいのはこの世界…そしてハルヒを救えたときだけだ…っ!!

「覚悟がいいのね。じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか。」

死の気配を感じとった。とっさにポケットから麻酔銃を取り、朝比奈さん目がけ、引き金をひいた。

一瞬の出来事だった
















「な…!?」
「私を実弾でなんとかできるとでも思ってたの?」

俺は今、確かに朝比奈さんに向けて撃ったはず。彼女が動いたり避けたりした形跡はない。
はずした!??こんな近距離で!!?

「そもそもね、あなたとこんなに近くで会話してた私が…何の対策もしてなかったとでも?
そんなの、殺してくださいって言ってるようなものよ。」

迂闊だった。言われてみればそうだった。何の意図もなく、俺に近づいてくるはずがない…!!

「お前…今何をした!?」
「気になる?なら、私の足元でも見てみたら?」

言われるがままに彼女の足元に目を向ける…何だあの弾丸の痕跡は?俺は…あんな所へ発砲した覚えは

「あなたが撃ってきた玉を…私に直撃する手前で垂直落下させた。ただそれだけのことよ。」
「垂直落下!?」
「私の周りに1㎜膜の重力場を形成させたのよ。この膜に触れたあらゆる物体は…通常ではありえない
重力加速度で垂直落下する仕組みになってるわ。まあ、未来人の私からすればこんな技術造作もないけど。」

ちょっと待て

……

やばい

「いかなる攻撃も…お前には通用しないってことか…!?」
「その通り。」

麻酔銃は完全に封じられた。かといって、素手で殴りかかれば、その前に彼女の持ってる拳銃で

…殺される

「まったく、笑っちゃうわね。ここまで私の予想通りだとは思わなかったわ…前時代の人間なら
実弾攻撃は常套手段だものね。そういう物理攻撃から身を守る重力場を張るのは当たり前のこと。
もっとも、こんな旧式な手法、私のいる未来からすれば原始的でありえないんだけど。」

…どうすりゃいい

「重力場なんて使う日が来るとは思わなかったわね。未来では光線兵器が主流だから、
たいていの防御システムと言えば、高次元フォトンを使った光子バリアが当たり前。」

どうすりゃいい!!?

「今日は他に、そういう兵器も持ってきてるの。前時代に合わせた拳銃でヤろうと思ってたけど…
あなたには、このレーザー銃で逝ってもらうのもいいかもしれない。殺傷力を有するレーザー光で
ありとあらゆる細胞を焼き切るから…。この時代じゃ体感できない死を味わえるわね。」





……





こんな恐ろしい状況を目の当たりにした普通の人間ならば、普通ならば精神的錯乱に陥るのだろう。
俺とてその例外ではない…はずなのだが、どういうわけか、俺はそんな朝比奈さんを目の前に
ただ落ち着いていた。ただただ落ち着いていた。人間、恐怖もドがすぎるとそういう人間的感情をも通り越して
無へ帰してしまう…そうわけだろうか?そもそもだ…精神が錯乱してるのは、果たしてどっちだ…!?

「…お前、さっき言ってたよな?自分たちは崇高な精神を持つ新人類だから争いは好まない…と。
あれは嘘だったのか?今のお前は、どう見たって殺しを楽しんでるとしか思えねえ…
傍から見りゃただの猟奇殺人者だ…っ!」

何とか声を振り絞り、俺は一連の態度から導き出される必然ともいえる感想を…彼女に告げる。

「ふふふ、あはははっ…そう思うのも無理はないかもね。一応未来の仲間のためにも弁明しておくけど、
あれは嘘じゃないわ。ま…そのせいで、私はこんな殺人者へと変貌してしまったわけだけど。」
「…どういうことだ??」
「涼宮ハルヒが神としての務めを放棄してしまったために…
私たちの世界、即ち第五世界の存在は揺らぎ始めた。もちろん、ただちに話し合いが行われたわ…
我々の世界存続のためにね。そのためには…2012年時の分岐を本来の流れへと修正するべく、
私たちはなんとしてでも第四世界を滅ぼす必要があった。でもみんなにはそれが…できなかった。」
「できなかった…?」
「戦いが一切起こらない。今の時代の人間たちから見れば考えられないような高度な精神性をもった…
そんな人間たちが住む世界。第五世界は平和そのものだった。…これがどういうことがわかる?
みんな人を傷つけることを知らなかった。いや、できなかった。」
「……」
「彼らは言ったわ。第四世界を滅ぼし大勢の人間を殺戮してまでも…
自分たちは生き残ろうとは思わないと。みんなはね…第五世界とともに心中することを決めた。」
「なんだと!?」
「はははは、笑っちゃうでしょ?今の人間からしてみれば信じられないでしょうけど。
でもね、私はこの世界が好きだった。消滅なんかしてほしくなかった。だから、私は一人でも戦うことを決意をした。」

……

「そうは言ったって私だってこの世界の住人。間接的であっても人を殺すことには…
大いなる抵抗があった。なら、どうすればいいと思う?簡単なことよ。


狂  え  ば  い  い  の  よ  」

…っ!?

「だってそうでしょう?今から59億もの人間を…私は直接的ではないにしろ殺すことになる。
普通なら、正常な精神の持ち主なら、こんなこと実行できるわけないでしょう?
だから、私は狂う必要があった。猟奇殺人者って言ったかしら?今の私はまさにそうでしょうね。」

……

…俺は

初めてこの【朝比奈みくる】に同情した。

……

平和な世界って言ってたよな。きっと良い世界なんだろうな。羨ましく思うな。
できれば俺もそこの世界に行ってみたい。でもそれも無理なんだろうな。

なぜなら

俺が死ぬことでしか…第五世界は救われないのだから。
俺が死ねば…この朝比奈さんが愛する世界は救われ…

「お別れねキョン君。」

ッ!!!

ちょっと待て…!!俺はこんな所で死んでいいのか!!?

……

良いわけがない!!!

この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?
状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 

…ハルヒを!

守りたい…!!!

……

------っ!!!

朝比奈さんは銃の引き金を今にもひこうとしている。

俺は……俺は!どうすりゃいい!!?
この距離では素手で立ち向かう前に撃たれる…かといって、麻酔銃は通用しない…っ!!

どうすりゃいい!!?

「…さようなら。」

ころ…される

殺される



「あ…あぁ…うわあああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

------------------------ッッ!!!!!!!!!!!!!!!!





















「あ…くぅ…ああぁ…!!」

ヒザをガクっとおろし 右肩を左手で必死に押さえる朝比奈さん

……

今…何があった…?

俺が今…左手に握っている物は何だ…?

……

ようやくわかった…俺は、朝比奈さんに撃たれる寸前にとっさに押したのだ
ボタンを、小型装置の…【朝比奈さん】が俺にくれた、この小型装置を…

「ど…どうして、あ、あなた…が…!?そ、それも…偏光性…の…!!?」

吐息を荒くし、苦しげな表情で倒れ込む朝比奈さん。

……

俺は信じられない光景を見た。

ボタンを押した直後…辺りが急にまぶしくなった。まるでフラッシュでも焚いたかのごとく
その光は…彼女が俺めがけて撃ってきたレーザー光線を、はね返した。
はね返された光線は…彼女の右肩に直撃した。

…あのとき朝比奈さんがとっさに避けようとした姿を、俺は覚えている。もしその行動がなければ彼女は…
腹部に命中して即死だったかもしれない。そして…結局この装置の正体も何なのかわかった…、わかったが…ッ!
どうして、【朝比奈さん】はこの用途を俺に説明してくれなかったっ!!?朝比奈さんが…朝比奈さんが…っ!!!

「は…はは…っ…、そっち…のせか…いのわたし…も考え…たわね…っ」
「朝比奈さん!!!」

俺は彼女が別世界の朝比奈さんだと判明して以来…初めて彼女のことを『朝比奈さん』と呼んだ。
そして、苦しみもがく彼女のもとへと駆け寄った…

「朝比奈さん…!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!!!」
「な、何…あなた…、私を…しんぱいす…るわけ…っ?」
「今は…そんなこと言ってる場合じゃない!!」

世界を守ろうとしたのはこの朝比奈さんだって同じだった。思いは俺と同じだった。
不幸なことに対立した立場となってしまっただけで…その志は俺と同じだった…!
そんな彼女が…どうして今ここで死ななければならない!!?…どうして!?
彼女は俺たちとは違って…1人でずっと戦い抜いてきた。やったことの是非はともかく、
そこまでして頑張ってきた彼女の末路がこれか!?あまりに不憫すぎるだろう…!?

「無駄よ…、レー…ザー光っていうのは…ね、いちど…皮膚にふれてしまったら
体は…分子……単位で破壊されていくわ、もう…1分…も持たない…」
「そんな…!そんなことって…ッ!!」
「たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る、
私は…みんなより少し…早く先に逝って…るね」
「朝比奈さん!!!…朝比奈…さん…!!!」
「キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね、…………」
「…っ!?」
「……」
「朝比奈…さん?」
「……」
「そんな…朝比奈さん…」
「……」
「なんだよ…なんだよこれ!?どうしてこんなことになっちまったんだよ!!?
どう…して!!?ちく…しょう…ッ!!!朝比奈…さん…っ!!!!」










……










俺は 朝比奈さんに黙祷を捧げた。

…悲劇、それ以外に形容のしようがない。

……

「涼宮さんを大切にね…か。」

はっきり言って…今のこの状況で、俺はこの場を動きたくはなかった。ちょっと気を抜けば…
あまりのショックで放心状態になっちまう…相当きつい…くそが…ッ!!涙が…止まらない…!

「涼宮さんを大切に…。」

……

「…涼宮さんを大切にね…か。」

なぜか俺は…彼女の、最期の言葉を繰り返していた。

…時刻を確認してみる。

23時45分

…行かねえと。行かねえとやべえよな…。




……




「朝比奈さん…。どうか、安らかに…ハルヒは、守ります。」

俺は、気持ちを切り替えた。

「ハルヒ…!これが最後の大仕事だ…お前だけは…お前だけは
絶対…絶対に救ってやる!!今すぐ行く…待ってろよ!!!」

俺はとびだした。全速力で、全力疾走で、学校へと、ハルヒのいるところへと。

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