今日は12月23日。

……

時は夕刻。俺は最寄りの店へと寄っていた。いろんな人形やぬいぐるみを手にとり凝視する俺。

「おいおいキョン、まさかお前にそんな少女趣味があったとはなあ…正直失笑もんだぜ!!」

はてはて、特にこいつは影が薄いキャラ設定でもなかったはずだが…俺はこいつの気配に
今の今まで気づかなかった。ここ最近ハルヒの閉鎖空間云々といった騒ぎに巻き込まれず、
温和な日々が続いていたせいだとでもいうのか?すっかり外的要因を感知する能力が衰えていた。

「外的要因??キョン、そりゃあんまりじゃねーか?俺はお前の親友だろ?」

悪友といったほうが正しいような気もするが。とりあえず、少女趣味云々イミフなことを言うヤツは放置に限る。

「あーあー、さっきのは悪かったって!あれだろ?妹ちゃんにやるクリスマスプレゼント探してたんだろ??」

わかってるんじゃねーか…ったく、別に俺がからかわれるのには構わないんだけどな。
そういうことを鶏が朝一番に鳴くようなレベルの大声で言うなと…
もし側に俺の知人がいたら、こいつはどう責任をとるつもりだったんだ。

「だから悪かったって言ってるだろ…マジごめんって。」

まあ、わかればいいさ。謝ってる相手に追い打ちをかけるほど俺は畜生ではない。

「ところで谷口、お前はこんなとこで何やってんだ?」
「単にジュース買いにきたってだけだぜ。」

ジュース程度なら外で自販機がいくらでもあるだろうが。なぜ、いちいちこんなデパートに?

「おいおいキョン、外のこんな暑さをみてそんなこと言うのか?冷房のきいた店に涼みに来たってのも兼ねて、
ついでにジュースを買いにきたってだけだ。別におかしくもなんともねーだろ?」

なるほど、筋は通ってる。

「しっかし、冬至だってんのに夏みたいに暑いとか、
いよいよ地球もオシマイだよな。地球温暖化もくるとこまで来たってわけだ。」

…こればかりは同意しておく。実は、今年は12月に入ってずっとこの調子なのだ。何がって?
もちろん地球気温のことだ。炭素税、クリーン開発メカニズム、国内排出証取引、排出権取引、直接規制による
CO2削減義務、気候変動枠組条約、京都議定書…数えればきりがない。それくらい俺たちは現代社会等で
温暖化対策を強く教わってきたし、各国もそれなりの規模で取り組んできたはずだ。

にもかかわらずこのザマである。
もはや、これでは人間の努力の範疇を超えてしまっているではないか。…そもそもである。
人間ごときが地球規模レベルの変革を推進できるという考え自体が…傲慢だったというのであろうか。

…まあしかし、こればかりは俺たち一個人、ましてや一高校生にどうこうできるレベルではない。
つまり、谷口含む俺たち地球人は…。この苦い現実を受け入れ、生きていくしかないということである。

……

しばらくして、ようやく妹へのプレゼントを買うことができた。
用事を済ませた俺は、谷口と一緒にデパートをあとにしたんだが…その直後だったか。

「?」

違和感が襲う。足に力が入らない。

……

なぜ…俺は宙に浮いているんだ?

…??

空に舞ったあと、物体はどうなる?誰もがわかるように、ただ地球の中心に向かって
落下するだけだ。不変の真理である万有引力の法則に基づき、俺は地面へと強く打ちつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











…どれだけ時間が経過したのだろう。俺は目を覚ました。どうやら気を失っていたようだ…証拠に、
いまだに地面に打ち付けた衝撃で頭がグラグラする。打ちどころが悪ければ…まさか死んでたのか俺は。

……

一体何が起こった??わけもわからず、俺は必死にさっきの事象を思い出そうとする。
しかし、それは叶わなかった。思い出すとか以前の問題だった。目の前に広がる光景以外…考えられなかったから。

「…なんだってんだ…?これは…?」

周辺道路に亀裂がはしってたり陥没してるのはなぜだ??さっきまで俺たちがいたデパートが…
跡形もなく崩れ去ってるのはなぜだ??…なぜ、ありえない形で看板に人が突き刺さってる??
あそこで転がっているのは何だ…?!体の一部か?遠くから…煙や火の手があがってんのはなぜだ??

視覚で物事を把握した途端に、今度は聴覚が冴えてくる。 

「助け…」

?!

「ひ、火を消してくれえええええええええええ!!!!」
「だ、誰か!!」
「ああ…あああ…!!!!!」
「私の子供が…っ!!瓦礫の下敷きに!!!」
「うわああああ痛いよおおおお!!!」

何を騒いでるのだこの人たちは?

「ちょ…おい、ま、待ってくれ…何だこの状況は」

聴覚で物事を把握した途端に、今度は嗅覚が冴えてくる。

「う…!」

異臭に鼻をふさぐ。この臭いは…腐臭である。

一体何の…?

……

にん…げん…?








視覚、聴覚、嗅覚が正常に機能して 初めて俺はこの場所で何が起こったのか…それを思い出した。

「こんな地震見たことねえぞ…!?」

そう、さきほどこの地域全域で地震が起こったのだ…それも、考えられないくらいの強い地震が…!!
これまでの経験上、一度も地震に遭ったことがないのでなんとも言い難いが…震度やマグニチュードで言えば
関東大震災や阪神淡路大震災の比ではないのではないか…!??直感でそう思った。

根拠はあった。でなければ、縦型の地震とはいえ、人間が空に舞うなど絶対ありえないだろう…?

……

まさかこんな事態に見舞われようとは、一体誰が予測できる??先程までの俺や谷口はそんなこと微塵も…

?そういえば谷口はどうなったんだ?

俺は辺りを眺める。おかしい、地震があったとき確かに谷口は俺と一緒にいたんだ…
それなら、ヤツは気絶してる俺を叩き起こしたり、惨状を見て発狂したり、取り乱したり…
とにかく、俺に存在感を示すに決まってるんだ…あいつはそんなヤツだ。しかし、その気配はない。

認めたくなかった。それが意味するところを、それだけは絶対認めたくなかった。
最悪の状況を回避してくれることをひたすら信じ、俺は必死に辺りを見回した。

ふと、数10メートル先に瓦礫に埋もれている人間を確認できた。
ぴくりとも動かないことから、おそらく死んでいるのだろう。そしてその人間の服に、俺は見覚えがある。

考えが途切れた 

「ははっ…嘘だよな…おい、嘘だよな?」

側まで近付いてみて疑念が確信に変わった ケガをしてたっていい、瀕死だっていい、
とにかく生きてさえいりゃよかった 死んでさえいなけりゃよかった

……

「谷口よお…お前だけは殺しても死なねー男だと思ってたのによぉ…」


…ッ!!


「あ…ぁあ…あ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

その雄たけびが状況ゆえに発狂した奇声だったのか、友人を亡くしたことに対する怒声だったのか、
今にも崩壊しそうな自我を守るための悲鳴だったのか。今の俺には判断のしようがなかった。
というか、どうでもよかった。何もかもがどうでもよかった。





……





「はははっ…」

俺は笑っていた。俺がさっきまで一緒にいたであろうヤツに
『外的要因を感知する能力が衰えていた。』と言ったことを思い出していたからだ…っ。

「さすがに…こんな大地震まで感知できるわけねえよ…っ」

皮肉とはこういうことをいうのだろうか。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






それからどれだけの時間が経ったのだろうか。相変わらず、目の前には無残な光景が広がっており
悲鳴は絶えない。だが…どういうわけだ?理不尽にも、俺はこの状況に慣れつつあった。
例えば、ずっと暗闇の中で暮らしていれば、微量な光でも辺りを察知できるよう目は慣れてくるものだ。
ずっと大音量でイヤホンから音をたれ流していれば、耳はそれに順応するものだ。
同じことが起こっていた…それも、俺の全感覚を通じて。

落ち着きを取り戻した俺は、ようやく他のことに考えを回せる余裕をもった。次の瞬間、ある人物が脳裏をよぎった。

「…ハルヒ!!」

そうだ、ハルヒは一体どうなったんだ??まさかっ、死んじゃいないよな…??

先程の谷口を思い浮かべ、俺は背筋に寒気が走った。すぐさまハルヒのもとにかけつけよう…ッ!!
そう決心しようとした矢先に、大事なことを思い出した。

「…そういや、あいつは無意識のうちに願望を実現できる能力をもってんだよな…。」

ご察知の通り、涼宮ハルヒは自身の願望を実現させる能力を有している…それも無意識のうちに。
であるからして、ハルヒはとりあえずは無事だという結論に至った。人間危険な状況に臨めば誰しも
反射的に防衛反応をとる。ゆえに ハルヒが死ぬなんてことはまずありえないはずだ。
かく言う俺も、地震で宙に投げ出され地面に激突する際、確かに受け身をとっていた。…無意識のうちに。
わずかだが、今思い起こすとそういう記憶がある。 

【ハルヒは無事だ】 そう納得した、いや、違う、納得したかったのは、実は他に理由がある。
それは…家族のことが気がかりだったからだ。ハルヒのほうが助かっているであろう根拠はあっても
こっちは、生きている保証などどこにもないからだ…!!

「家に戻ろう…!!」

俺はすくんだ足をたちあがらせ、一目散へと自宅へ走り出した。

……

自宅に着くまで時間はかからなかった。なぜなら、一々遠回りをせず、ほぼ直進してここまで来れたからである。
なぜ直進してこれたのか?障害物が見当たらなかったからである。いや、本来そこにあったはずのものが
瓦解消滅してしまった、という言い方のほうが適切であろう。その障害物とは何か?民家や塀のことである。

言わずもがな、住宅街はほぼ全壊していた。第二次世界大戦下で東京大空襲を経験した祖父から、
その様子を聞いたことがあったが…まさにそれがこの状況なのではないか?唯一の相違点は、今回は地震なため
空襲とは違い、そこまで火災があったわけではない。ないが、もはやそういう比較は意味を成さない。
双方とも言葉にできないくらいひどかったのは間違いないんだからな…。

民家はまるでダンプカーに押しつぶされたかのごとく、見事なまでに原型を失っている。
瓦礫の下から人間の手や足が覗いている。悲鳴やわけのわからない奇声があちこちからこだましている。
一歩一歩、歩くごと血を流し横たわってる死体…なれば、考えざるをえない。同じ境遇で生き残ってる俺は…
一体どこまで運がよかったのか…?

地獄絵図








しばらくして…俺は見つけた。

荒廃してて庭だったかどうか識別できない…そんな場所で、俺は倒れてる少女を見つけた。

「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」

すぐさま妹のもとにかけよる

「きょ、キョン君…」

凄惨な光景には見慣れていたはずだったが…さすがに、肉親の肢体のあちこちから出血させられてる姿を見て、
平然としていられるはずがない…っ!いや、ある意味平然としていたのかもしれない俺は。あまりのショックに。

「今、止めてやるからな!!」

…血のことだ。

俺はもっていたハンカチやティッシュ、そして次々にちぎった着ていた服を布代わりに、
とにかく俺は妹に応急処置を施した。しかし…あまりに傷が深すぎて…出血が止まらない…ッ

「くそ!!何で止まんねーんだよ!?!?」

自分は無力だと実感する。本当に自分は無力だと実感する。兄のくせに俺は…!
妹のために何もしてやれないのか!?このまま何もしてやれないまま…妹は死んでいくのか!?

…そうだ!!ハルヒに!!ハルヒに会えばいい!!ハルヒに会って妹の生存を望ませれば
妹は助かる!!よし、今すぐにハルヒをここに連れてきて

「おにい…ちゃん………」

!!

妹が何かをしゃべろうとしてることに気付いた。

「しゃべるな!!これ以上の出血はシャレになんねーんだぞ!?」
「もう…ながくない…よ。なんかね…さっきから意識が…消えそうだったり…」
「なら、尚更しゃべるんじゃねえ!!死ぬぞ!!」
「だか…ら。最後に…言わ…せて」

妹が最後の力を振り絞って何かを言わんとしていることがわかった。もはやその声はかすれ声そのもので、
読唇術でも使わない限り音声を完璧に把握できない…そう言っても過言ではないほど、事態は深刻なものに
なっていた。俺は全身全霊をもってその言葉に耳を傾けた。決して、決して聞き逃さないように…!

「いま…ま…で」

……

「あり…が…、……………………………」















その後、妹が口を開くことは二度となかった。どうやら、俺のかばんの中に入ってるぬいぐるみは
用無しになっちまったらしい。生きていて、そしていつものように笑顔を見せるお前に渡したかった。
…そういえばお前、最後の最後で俺のこと お兄ちゃんってちゃんと呼んでくれたんだな…はは…なんだかな。

こぼれきれないほどの涙が 目から氾濫する

……

しばらくして、俺は放心状態のまま家をうろついた。そこで俺は…親父とおふくろを発見した。
しかし…すでに息はない。

……

追い打ちとはこういうことを言うのか

俺の自我は 崩 壊 し た

ナ ゼ コ ン ナ コ ト ニ ナ ッ タ ?

リピート機能がついた壊れたレコーダーのごとく 延々と脳内から再生される片言
いつまでも、延々と  ただその機械は 一定の行動を繰り返すだけだった












 



…しばらくして、その輪廻から俺を解放してくれたのはある声だった。ある声といっても、
そこら中で聞こえてる悲鳴や轟音ではない。不思議なことに、その声は俺の脳内だけで鳴っているようだった。
これが幻聴というやつか?ついに俺も気が狂ってしまったか。まあ、こればかりはもうどうしようもないじゃないか。
これで狂わない人間など、もはやそいつは人間ではない。

しかし、その声がどこかで聞き覚えのあるように思えるのは…どういうわけだ?

『…けて……た……て…!』 

何回も聞くうちに、しだいに何を言っているのか…聞き取れるようになっていた。

『助けて!キョン!助けて!!』

…確かにこう聞こえた。

……

これは…ハルヒの声…??どういうわけかはわからんが、俺の脳内にこだまするこの声は…
ハルヒのものか!?ハルヒが俺に…助けを求めてるのか!?

例の特別な能力のおかげでハルヒの安否については大丈夫だろうと踏んでいた俺だったが…
まさか、俺に助けを求めるほど事態が窮してたとでもいうのか!?

「くそお!!」

壁に拳を殴りつける。友人が死に、家族も死んだ…その上、ハルヒも死なせるのか…?

「これ以上誰も死なせてたまるか…!」

気がつけば俺は飛び出していた。どこにいるのかすらわからない涼宮ハルヒの行方を追って…












 

 




いたるところを探し続けた。ハルヒの家、公園、商店街、広場…正しくはその跡を。
いずれの場所にもハルヒは見当たらなかった。一体ハルヒはどこに…!?

っ!!

地面がまだ少し揺れている…余震はまだ収まっちゃいないってのか。とりあえず、この周辺がどうなってるのか
把握する必要がある。かといって、余震があることがわかった今、闇雲に歩き回るのは危険だが…そうだ、
携帯で地震速報を見ればいいわけか…!?あまりのショックの連続で、すっかり携帯電話の存在を
忘却してしまっていた。ついでにこれで…長門にも連絡しておくか…。とりあえず、
あいつなら力になってくれるはずだ!ハルヒにもその後かけよう…!

…?

どういうわけだ…??電話もメールも…できない?
特に壊れた様子もない。にもかかわらず 主要機能が総じてシャットアウトしてしまっている…??

くそッ!!これじゃ一体どうしろってんだ!?   

……

いかん…落ちつけ…。状況が状況だ。今ハルヒを放って発狂するわけにはいかない…。

「…それならラジオはどうだ?何とかなるんじゃないか?」

俺は側にあった倒壊しきった民家に立ち入り、ラジオを探した。

…ああ、わかってる。非常識極まりない行動だってことは…おまけに、見つかるかどうかもわからない。
だが、今の俺には何か一つでもいいから自分を安心できる材料が欲しかったんだろうな。

「ぁ…」

今思えばそれは必然ともいえる光景だった。誰かが屋根の下敷きとなっている。

生きてる気配は感じられなかった。

……

俺は黙祷を捧げた… 一体何人の人が、この震災で命を落としたのであろうか…?
これだけの地震だ。死傷者数・行方不明者数は過去最悪になっていてもおかしくない…。






右往左往しているうちにラジオが見つかった。この状態で見つかったのだから、ほとんど奇跡に近い。
もっとも、それが奇跡だと実感できる精神的余裕は、今の俺にはなかった。

…さっそく電源を入れる。

「~~~~~~~~~~~~~~」

しかし ガーガー雑音が鳴るだけで、一切音声は聞き取れなかった。

やりきれない思いが爆発しそうになる。どういうわけかはわからないが、
なぜかラジオまでもが機能しないらしい。…どうして!?どうして機能しない…!!?

……

とにかくダメだとわかった今、自力でハルヒを探す他ない。…しかし、ハルヒはどこにいるというんだ??

落ち着いて考えてみる。

……

俺は賭けにでた。









 

 

 

 

 

 







「ハルヒ!!」

ようやくハルヒを見つけた…旧校舎近くで。よくよく考えりゃ、ハルヒが一番いそうな場所だからな…。

「キョン…無事だったのね…よかった…。」
「?どうしたハルヒ、大丈夫か??」

異様なくらいハルヒに元気がないのが見てとれる。いや、元気がないとかそういう問題ではない。
体を震わせて何かに脅えている…そんな感じだ。ライオンがシマウマを見て逃げ出すなんてことは
天変地異でも起こりえないことだが、今のハルヒは、まさにそのライオンに置き換えることができる。

……

見た限り、ハルヒはケガなど身体的外傷を負っている様子はない。どうやら、顔が青いのは
そのせいではないらしい。…さすが能力様様と言ったところか。とりあえず、ハルヒは無事だ…!
そのことがわかり、俺は安心した。ということは、原因は精神的なものか…?そりゃ、この光景を見れば…

いたるところに生徒の屍が転がっている。

……

幸いなのが、今日が日曜だったということ…、もしこれが平日だったならば…
今俺たちが見ているこの光景は、今よりずっと杜撰だったのであろうか…?

…わざわざ日曜だというのに学校に出向き、先程まで懸命に汗を流していたはずの彼ら。
まさかこれほどの規模の地震に遭うとは…ついさっき生きてる時は想像もしてなかったはずだ…ッ。

俺は…、彼らに静かに…黙祷を捧げた。

最悪の事態

ハルヒが精神を病むのも当然だろう。

しかし、ハルヒの様子がおかしいのは…どうもそれだけが原因には俺には思えなかった。
凄惨な光景のみで具合を悪くしているのだとしたら、俺もそうである。いくら見慣れたといえど、
あんな光景は二度と見たくもないし思い出したくもない。いまだに背筋がゾッとする…

だが、ハルヒは何か俺のそれとは違う。うまく説明できないが…とにかくそんな気がする。
考えてみれば、ハルヒが無意識のうちに願望を実現できるっていうのは事実だ。仮に、この光景のせいで
気分を害しているのだとしたら、ハルヒは無意識のうちに…これを見たくないと思うはず。…ならば、
極論を言えば、ここにある死体ともども消滅させることだってハルヒには…造作もないはずだ。

「ハルヒ、お前…本当にどうしたんだ…?」

なるべく刺激しないように、かつ精一杯の優しい口調で、俺はハルヒに語りかけてみた。

「あ…あたしは…、自分自身が怖い…っ」

予想外の返答が返ってきた。 …自分自身??

「ハルヒ、そりゃ一体どういう…」

気付けばハルヒは泣いていた。

「もう…あたし、どうしたらいいか……って、キョン!?」

あまりに不憫すぎるその挙動を見たせいか、気付いたときには俺は、ハルヒを抱きしめていた。
…普段の俺ならこんな言動はまずありえない。それくらいに、事態はやばかった。

…何がハルヒをここまで追い詰めているのかはわからない。だが…
とりあえず、今は少しでもこいつを安心させてあげたい…とにかくその一心からでた行動だった。

「キョン…あたし…あたしは……」



その瞬間だった。俺の視界が真っ暗になったのだ。目をつむってもないのに真っ暗になるとは
一体どういうわけだ?俺が今立ってハルヒを抱きしめてる感覚はあるから、気絶したとか
そういうわけではないらしい。日が暮れて夜になったからか?いや、それもおかしい。
まるで、辺りが黒いカーテンにでも覆われたのではないか?と言っていいくらい…何一つ周りは見えなかった。

確かに、地震で街灯などといった光源体は破損しているかもしれない。しかし、空に星さえ見えないというのは
どう説明すればいいんだ??第一、急に真っ暗になったことを考慮すると…とてもではないが、
単に日が沈んだとかそういう問題でもない。…じゃあ、この状況は一体何だ…?

「キョン…どうして真っ暗に…??」
「……」

ただ確実に言えることは、これが異常事態以外の何物でもない、ということである。

……

まあ、あのとてつもない地震からして、すでに異常事態なわけだが…。

ふと冷静に考えてみる。そもそもあんな地震、いくら日本が地震大国と言えどそうそうあるようなものじゃない。
第一震度からして桁違いだし異常すぎる。それに、小さな地震ならともかく大震災レベルともなれば普通は…
もっと警告なり何だのあってもよかったはずだろ…!?東海大地震や第二次関東大震災のごとくな…!!
もちろん、俺たちの住む地域でこんな地震が起こるなんて噂…聞いたことがない。一回も聞いたことがない…!  
それすらなく、俺たちは…突発的にこの一連の大惨事に巻き込まれた。

もしかしてこの暗闇と地震は…何か関係あるのだろうか…?

!!

そんなことを考えてる余裕もなくなった。あたりが冷えだした…それも急激に。

わけがわからない。本当、何がどうなってるんだ??地震に暗闇に、
そしてこの極寒…まともな思考の人間なら、今頃発狂していてもおかしくはない。
そうはならないのが、俺がハルヒたちとともに、これまでいろんな修羅場をくぐってきた慣れというもんなのか…?

「これから一体どうなっちゃうんだろう…??」

身震いするハルヒ…。もっとも、この震えは寒さからくるものであって
さっきまでの原因不明の震えとは性質が異なるみたいだが…

ッ!?

いかん、気温の低下に拍車がかからねえ…!普通に氷点下下回ってんじゃねーかこれ?!
いや、もはやそういう次元でもないらしい。なんせ、今にも意識がとびそうなんだからな…ッ!

……

いや、ダメだ…!今ここで倒れたら…ハルヒはどうなるんだ…!!?

……

俺は今まで以上に強く、強くハルヒを抱きしめていた。ただ体を密着させるだけで…
この極寒に勝てるほどの熱を出せるとは、到底思わない。…だが!!今の俺にはそうする他なかった…っ

「守ってね……あたしを。」















会話はそこで終了した

いつのまにか 俺は意識を失っていた

暗闇を彷徨っていた


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