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以前、俺は涼宮ハルヒの事を太陽のような女と評した事があったと思う。それに
はよくよく考えると様々な意味がある事に、鋭敏で知性溢るる皆様ならお気付き
だろう。
まず思い浮かべるのは、ハルヒの明るい笑顔の事である。俺とて健全な男子高校
生。笑顔の可愛い部活仲間に対して、いつも不満ばかり抱いているわけではない
。某携帯怪物で色違いに遭遇するぐらいの確率で、いつもそうやって笑ってれば
面は悪くないのだから……と思ったりするのだ。
太陽光は我々人類に多大なる恩恵をもたらすと共に、その心を癒すという役割も
確実に持っている。あいつの笑顔にも、たまにはその効果を期待出来ると素直に
認めよう。
……言っておくが、俺は一般論を述べているだけだ。おい古泉、ニヤニヤするん
じゃない!

話をハルヒの事に戻そう。
ご存じのようにあいつは、願望実現能力という厄介な物まで所持していたりする
。その傍迷惑に強大な力は、遠く一億五千万キロ先にあっても常に我々に影響を
及ぼす太陽に例えられても納得出来得る物である。一部の人々はいつ大爆発を起
こすか、戦々恐々としているらしいが、仮に何か起きても矮小な我ら人類にはど
うしようもない。どうか何事もありませんようにとひたすらに祈るのみだ。哀れ
な小羊に救済があるよう、どうか皆さんも一緒に手を合わせて欲しいと思う。

そして今までの話が全て前置きであった事に気付いてしまった諸君には、俺が思
い付く限りの様々な讃辞と謝罪を送ろう。長々とお待たせしてしまった。ハルヒ
に免じて許してやって欲しい。
本当に言いたいのは簡単なこと。あいつは否応なしに周りのものを引きつけて、
太陽系ならぬハルヒ系を作り上げてしまう。知らぬとは言えど、宇宙人未来人超
能力者を侍らせて、やっている事は単なる不思議捜しと来たもんだ。青い鳥ここ
に極まれりと言ったところか。そうして今のところ、着かず離れずの距離を保ち
つつ、惑星たちは微笑ましく周りを回っている。強烈な引力に抗う事は無駄に過
ぎないと、皆が諦めているのかもしれない。
俺はその中で、かなり特殊な位置に立っているらしい。理由なくハルヒに近付き
、意味なくハルヒに許され、力なく流されているにすぎないのだが。他の奴等は
どうだかわからんが、俺としては平穏な毎日を享受するためだったらあいつに逆
らう事もためらわない。なぜなら、運命でも必然でも誰かの望みでもなく、俺は
自身の意思でここにいるのだから。
……いや、あいつと共にあると不本意ながら感じてしまう、重力の影響を受けて
くれない、浮ついた気持ちも関係しているかもしれない。これは自らの意思とは
関係ないと言って構わないだろう。本能に逆らう事なんて、誰にだって出来ない
さ。


なぜ今この話題なのか、疑問に思われるのではないだろうか。俺自身そろそろ飽
き始めているこの話が、今回の主題。そう、七夕である。


涼宮ハルヒが涼宮ハルヒたる所以は、あいつが中学一年の時の七夕に、俺が目の
前に現れたからである。とまで言ったら語弊があるか。ただ、あいつにとって七
夕が特別な意味を持っているのは、七月七日に限って、俺の日常が電柱の影に身
を潜めて好きな彼を窺う純情ガールのように身を潜める事から推測するに間違っ
てはいないだろう。
日本人に取っての二大行事と言えば、なんと言っても正月と盆であり、そこに七
夕などと言うバカップル、否お馬鹿夫婦のデートが入り込む余地などないはずな

のだが、そんな俺の常識的な言葉が、ハルヒに素直に聞いてもらえるなんてことが
今までにあった試しがない。そんなわけで今回のハルヒ的な出来事もまた、七夕に
起きたのだった。端的に申し上げるならば、俺が彦星に、あいつが織り姫に成った
話だ。そして私見を述べさせて頂くが……、胸糞悪い事だらけだった。


――――


「涼宮ハルヒの力があなたに感染した」


不完全ながら、と最後に慰めのように付けられた言葉は、事実を一層強烈に叩き
付ける効果を持っていた。俺は恥ずかしながらハルヒと日々を過ごす中で、あい
つのその力を羨ましく思った事が多々あった。そんな何の考えなしな思考がこん
な結果を生み出したのだとしたら、テスト前や両親に説教されている時の自分を
殴ってやらねばならん。
しかしながら、朝起きた直後に聞かされる話題としては重すぎるそれを上手に飲
み込む事は容易でなく、俺はまだ暗い窓の外をぼんやりと眺めながら、携帯電話
の通話口に向かって「そうか、大変だ」などと頭の悪そうな返事しか出来なかっ
た。

「聞いて」
「長門、今何時だ」
「午前四時四十二分」
「……そうか。早起きだな」
「そうでもない。それより、話がしたいから起きて」
「起きてる、起きてるさ。すごく起きてるさ」
「公園で待っているから、来て」
「……いや、危ないから家にいろ。なるべく早く行く」
「そう。朝食は用意しておく」


ふつりと切れた電話を意味無く見つめた後、俺は大きく溜息を吐いた。一体なん
だって、俺はそのような面倒事に好き好んで巻き込まれているのか。夜のうちに
来ていたハルヒからのメールに返事をしようとして思い止まり、制服に袖を通す
。万が一にも起こしてしまったりしたら、俺の背中が大惨事になるに違いない。
……いや、制服なんざ着る前に顔も洗わなきゃならん。
やはり俺は寝ぼけているのだろう。しっかりと、いつもの自分を取り戻さなけれ
ば。まず考えろ。長門は俺にハルヒの力が感染ったと言った。感染、つまり俺は
ただいま神様である。神様であるという事は即ち何でも出来るという事だ。長門
の家まで瞬間移動とか、昨日やり忘れた宿題がいつの間にか終わっているとか…
…。
五分ぐらいうんうん念じてみたが、徒に時間が過ぎ行くのみであった。まぁ、所
詮そんなものだろう。大きく伸びをして気合いを入れ、久しぶりの非日常に一歩
踏み出した。誰かに危険が及ぶでなく、誰かが影で泣きもしない、単純な話にな
りそうな予感だった。


「朝カレー」
「玄関から気付いてはいた」
「流行している」
「俺は乗りたくない流行だ」
「……そう」

そこはかとなく悲しそうな長門に負けて、結局ご相伴に預かる事になるのだが、
その話はいいだろう。まずは事件の発端となったとされる会話を聞かされた事か
ら話そう。声帯まで弄ったんじゃないかと思うほどに完璧な再現に、徐々に俺の
頼りない記憶も蘇る。そう、他愛もない日常。団長によってミーティングと称さ
れた駄弁りは、今年の七夕についてに話題を移していた。

 

 
続きたい

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