キ「長門。聞きたいことがあるんだが」
長「なに」
キ「お前が『自分が宇宙人だ』って俺に打ち明けるのが、正確な歴史よりも遅れたんだよな?」
長「『正確な歴史』という表現は不適切。実際に今存在する時間平面に『正確』『不正確』の定義はないから。強いて言えば、今の この時間平面が『正確』であり、あなたの言う『正確な歴史』が『不正確』」
キ「……。ああ。じゃあ、強いて言った時の『不正確な歴史』では、お前が俺に打ち明けるのはもっと早かったんだよな?」
長「そう。実際には、あなたが私のマンションに来た日に話す予定だった。つまり約二週間のズレが生じた」
キ「その『予定』ってのは、『インターフェースにウイルスが打ち込まれなかった場合』なんだろ?」
長「そう」
キ「それによって歴史がかなり変わったりしたのか?…ああ『不正確な歴史』と比べた場合な」
長「涼宮ハルヒによる『市内探索』、『閉鎖空間』の発生、及び侵入は、約二週間の遅れを見せた」
キ「また二週間か」
長「私があなたに『正体』を打ち明けなかったという『ズレ』により、あなたと私の行動に『不正確な歴史』と比べ変化が生まれた。それにより未来人、超能力者の対応も変化し、涼宮ハルヒの思考変化の経緯にも変化が生じた」
キ「お前の正体とハルヒの思考回路に直接的な関係があるとは思えんが」
長「わずかな変化による干渉は大きな波になり、大きな変化となる。全てはリンクしている」
キ「…よく解らんが。それで朝比奈さんはテンパってたのか……。ん?未来人に過去が解らなかったってことにならなるぞ。それっておかしくないか?」
長「朝比奈みくるにとって、『正確な歴史』はイレギュラー。未来人の『予定』は『不正確な歴史』に基づいていたと思われる」
キ「つまり、お前等インターフェースにウイルスが打ち込まれるのは未来人の知る『歴史』とは異なっていたってことか」
長「そう」
キ「…でも、過去と未来に食い違いが存在するなんて矛盾だろ」
長「情報生命体は時空を超越した存在。それに、時間平面は一繋がりではない」
キ「ああ…。朝比奈さんがそんなこと言ってたな…。つまりだ。え~と…情報統合思念体が俺にアプローチを仕掛けているはずが、それが無く。ハルヒもなかなか『市内探索』を思いつかなかったから、朝比奈さんは慌てていたのか」
長「未来人は『自分たちの知る歴史と異なった事象』を嫌う」
キ「朝比奈さんが俺に『自分は未来人だ』と打ち明けるのも『不正確な歴史』とは違ったのか?」
長「『不正確な歴史』では、長門有希→朝比奈みくる→小泉一樹という順番であなたに正体を明かした。だが今回の『正確な歴史』では、朝比奈みくる→小泉一樹→長門有希となった」
キ「朝比奈さんは予定を一つ繰り上げたのか…?」
長「おそらく朝比奈みくるの判断ではない。朝比奈みくるは指令の下で行動している。推測だが、当初『長門有希から異変が観測されるまで自分の正体を誰にも明かさない』と命令されていたのだと思われる」
キ「俺には…市内探索の日に明かしたぞ」
長「それも命令に従ってのこと。未来人が修正可能範囲と考えたため。だが、朝比奈みくるの意思も反映された結果と思われる」
キ「はあ……。なんかこんがらがってきたぜ。よう解らん」
小「そうですか?僕にはだいたい解りましたよ」
キ「うおっ!小泉いつのまに!朝比奈さんも!?」
朝「アハハ…」
小「すいません。ドアが開きっぱなしだったもので、やはりノックをすればよかったでしょうか」
朝「ごめんね。驚かせちゃって」
キ「いや…構いませんけど」
小「そんなに驚くことないと思いますが」
キ「バカ。ハルヒだったらやばかったぞ…」
ハ「私だとなにがまずいの?」
キ「うえ!ハルヒ!」
ハ「な~に?四人で何話してたのよ?気になるわねぇ~」
キ「べ、別に。その~なんだ」
ハ「『未来人』とか聞こえたけど」
朝「ひっ」
キ「だ!だからだな!未来人とか宇宙人を見つけるためにも頑張ろうって、な!」
小「ええ」
長「…」
朝「は、はい」
ハ「へぇ~。いい心がけじゃない。じゃあ早速明日。行きましょう」
キ「明日!?」
ハ「朝八時に駅前ね」
キ「早!」
ハ「遅れたら、お・ご・り。じゃ明日に備えて今日はかいさ~ん」
キ「…」
朝「…」
長「…」
小「いやはや。とんでもないことしてくれましたね」
キ「…スマン」
小「ハハ。冗談ですよ。先日の閉鎖空間の貸しがありますからね。それに、涼宮さんも楽しそうですし。安心します。では、お先に」
朝「じゃあ、わたしも着替えないで帰ろうかな…」
キ「すいません。俺が変なこと行ったばっかりに」
朝「え、いいですよぉ。私も涼宮さんの機嫌がいいと安心します。これもキョンくんが閉鎖空間で頑張ってくれたおかげね。ありがとう」
キ「いえ、とんでもない」
朝「じゃあ…明日ね。バイバイ」
キ「ええ。明日」
長「…」
キ「…」
長「…」
キ「明日。くじ引くときにインチキしてくれよ」
長「?」
キ「午前でも午後でもいいから、俺と長門のペアをつくってくれ」
長「……どうして」
キ「約束しただろ。『また図書館に』ってな」
長「……」
……コクッ