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【時のパズル~迷いこんだ少女~】
序章


唇に感じるどこか懐かしくも暖かく、そして柔らかい感触。
それを感じ、あたしは目を開いた。
目の前に顔があった。

…………

その顔を見たとたん絶句してしまった。
すぐに反応に移れなかったのは、困惑の極みにあったからだ。そして、状況を把握した瞬間。
ぱちーん、と素晴らしい音を立て、目の前の顔『キョン』の顔に平手を喰らわせてあたしは飛び離れた。

「キキキキョン! あんたなにしてんのよ!」
あたしは自力でどうにか再起動したものの、どういう状況なのかさっぱり把握できない。完全にパニック状態だ。
そして、目の前の男はというと
「痛ってぇーな……」
などと呟きながら、見事な紅葉が浮かび上がった頬をさすっていた。
「いきなり何すんだ? ハルヒ」
睨み付けるあたしを前にして、キョンは何故あたしが怒ってるのか理解できないといった表情をしていた。

「キョン?」
間違いないあたしのクラスメート、そして我がSOS団の団員その1であるキョンである。
あたしとはもう知り合って随分経つが、誓ってキスをし合うような甘い関係では『まだ』なかったはずだ。
だいたいだ……
「……なんであんたがここにいんのよ?」
「何言ってるんだハルヒ?」
「何言ってんだ……じゃないわよ! だから大体なんであんたがあたしの家にいるのよ!?」
目をすっかり吊り上げたあたしに、キョンはますます訳が分かりませんと言いたげに呟いた。
「あたしの家って……いつから俺の家はお前の家になったんだ?」
「え……?」

そう言われて部屋を見回すと、確かにここはあたしの部屋ではない。
キョンの家だ、間違いない。何度か尋ねた事があるが、机の位置、本棚、ベッド、壁紙の色も記憶の通りだ。
あたしが尚も混乱し続けていると、不意にキョンが「あ」っと何かを思いついたように、
「そうか……そういうことか?」
そう呟いた直後、キョンはあろう事か腹を抱えて笑い出した。

「な、なにがおかしいのよっ!」
「わ……悪い。で、でもな……? くっくっ……ぷっ」

謝罪の言葉を出しながらもキョンは笑い続けたままだ。
あたしは依然状況が理解できないが、機嫌は悪くなる一方だ。
今すぐ説明して欲しいのに、それが出来そうな唯一の人物は間抜け面を晒しながらそこで笑い転げている。
あたしが蹴りの一つでも喰らわせてやろうとした時、

「ハルヒ」
「な、なによ!?」

ようやく笑いの収まってきたキョンが言った。
「今はまだ説明できないけど、そのうち分かるからな」
「は? あんた何言ってんのよ?」
「だから今は教えられないんだ。それにしても……まさかな……ははははっ」
また笑い出した。

駄目ね……意味がわかんないけど、これ以上こいつに構ってんのも馬鹿らしいわ。もう帰りましょう。
キョンの部屋を出て回りを見回してみた。やっぱりキョンの家だ。
どうして、ここにいるのかしら?
「あいつ、あたしに催眠術でもかけたんじゃないでしょうね?」
そう呟きながら階段を下りていると、這うように部屋から出てきたキョンが言った。
「ハルヒ……」
「……なによ」
「頑張れよ」
「はぁ?」
訳の分からないことばかり言うキョンに、今度こそ文句を言ってやろうと向き直ろうとしたその時、あたしは階段を踏み外した。
「きゃあ!!」

悲鳴を上げはしたこそ勢いは止まらず、あたしは階段から転げ落ちていった。



序章 了。