エピローグ

 週末土曜日。一週間ぶりの市内探索ツアーである。
 五分前に集合場所に着くと、既に四人が待っていた。今日も俺が罰金なのか・・・そんなに俺におごらせるのが嬉しいのかと言わんばかりに、ハルヒは笑顔であった。いや、それ以上の笑顔ともとれる。昨日お前の食卓にワライタケでも出てきたっていうのか。
 「早く喫茶店に行くわよ」
 はいはい、分かってますよ。ハルヒに促されるように喫茶店に入り、指定席になってしまっている席へむかうところだった。誰かそこに一人座っている。今日は違うテーブルになるのかなどと思っていると、ハルヒはすでに一人座っているテーブルへ向かった。

 今回の騒動にて、一番の驚きがそこに待っていた。世界がハルヒの仕業で分裂したことなどどうでもよくなる出来事だった。現に俺だけじゃない。古泉はいつもの笑顔を忘れて口をあんぐり開けている。その顔写メにとっておきたかったな。朝比奈さんは自分で見るのも恥ずかしいくらいのコスチュームを、ハルヒのカバンから出された時みたいになっている。長門、その顔は念願の宇宙人ヒーローにでも会えたってのか。
 「みんな、早く座りなさいよ。紹介するわ。今日から我がSOS団に入団することになりました」
 おいおい嘘だろハルヒ。よりによって・・・そんなハルヒは俺たちに紹介してくれたのであった。 

 「佐々木さんよ。キョン、あんたは元同級生なんだから早く座ってみんなにも説明してあげなさい」
 いったいぜんたい、何をいえばいいってんだ。
 「みなさん何度かお会いしていますね。改めまして、はじめまして。佐々木と申します。今後とも長い付き合いになると思いますので、どうぞよろしく」
 佐々木よ。何でそんな平然としているんだ。しかも優越感にひたっているような顔もしやがって。
 「佐々木さんは週末の活動が中心となるわ。だって学校が違うからあたしたちの部室に毎日来てもらうのも悪いしね。このまえ会って話したんだけど、この人なかなか面白い考えをしているわ。あたしのいうことにきちんと筋道ってのをたてて反論してくれる。キョン、あんたとは違うのよ。で、SOS団の活動内容を話してみたわけ。そしたら興味深く聞いてくれたのよ。そこで入団希望者向けに作っていた筆記試験を彼女に解いてもらったわけ。そしたら百点満点中百点!それ以上あげちゃってもいいくらいだったわよ。佐々木さんはすごい発想の持ち主だわ。あたしが求めていた人がまさか学校外にいたとはね」
 ハルヒによる、怒涛たる入団経歴を説明された後、またしても取り残された俺たち四人は口を開けていた。それを無視するかのように佐々木は自己紹介した。
 「彼女もなかなか魅力的な人だね。それに部員である人たちも彼女から聞く限り興味深かったよ。涼宮さんは暇な時でいいって言ってくれているけど、できるだけ週末は参加することにした。なにしろ僕はこんな面白そうなことめったに体験できそうにないしね。出会いというものは大切にするものだ。一期一会を無駄にする必要はないと思っている。なによりキョン、君も同じ事を言ってたじゃないか。息抜きついでに丁度いい。彼女もそれを認めてくれた。みんなも早く座ってくれないか」

 冗談はスパッツだけにしてくれよ。俺と古泉は二人に聞こえないように話し始めた。
 「・・・これはどういうことだ、古泉」
 「・・・あなたが知らないのにどうして僕が知りえるんですか?」
 ハルヒが去年の自己紹介の時にした言葉を思い出していた。
 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』
 ああ、そうだった。ハルヒが望んでいる異世界人ってのがまだだったな。むこうの世界でハルヒは異世界人としての佐々木と出会った。しかしながらこいつは毎度のことながらそんなこと覚えているわけない。
 「・・・異世界人ってわけか」
 「・・・どうやらそういうことになりますね」
 かくして、ハルヒは異世界人に出会うことなくして、その本性は異世界人である佐々木をSOS団に入部させてしまったようだ。こんなこと、どうすれば起こるんだ?
 「くっくっ、君たちはどうやら女性を待たせていることに気づいていない。まあ僕自身もこんなことになるとは思わなかったが。今この状況を楽しんでいるんだ。さっきも言ったようにこれからもよろしく頼むよ」
 そんなことを言ったって佐々木よ。俺はまだなにがなんやら理解できていないんだ。
 「・・・まったく君は相変わらずだね。涼宮さんが怒るのも納得できる。この状況を説明できるものとして、君の言葉を使わせていただこう」
 そういって佐々木は、首をかしげ手を額に当てた。


 「やれやれ、だよ」

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最終更新:2010年02月19日 23:55