それは、無駄に暑い夏の日の午後、ハルヒの思いつきにより俺達が林の中で蝉取りに興じていた時の事だった。

ハルヒ「ねえキョン、蝉って食べたら美味しいのかな」

知らん。

時代劇物の漫画で意外と食べれるとか言ってるのを読んだ事はあるが、試してみたいとは思えんね。

ハルヒ「天麩羅にして食べたら結構食べれそうだと思わない?」

「天麩羅って、よくよく考えてみれば美味しいのは衣だけの様な気もするし」

謝れ、全国の天麩羅屋さんに今すぐ謝れ!

――とまあ、俺はハルヒの脊髄反射の発言に、何時ものように突っ込みを入れながら虫取り網を振り回していた訳だ。

ただ、

長門「……」

そんな俺とハルヒの会話を、林の陰で聞いていた宇宙人の存在に、俺は気付いていなかったんだ。



タイトル 「ふわふわ」「天麩羅」



――夕方

ハルヒ「さっ! みんな虫籠を見せなさい!」

古泉「おや、結構捕れましたね」

まあな。

みくる「わたしも一匹捕れました~」

おお、本当ですね。

殆ど目を粒って網を振り回してた朝比奈さんに捕まる蝉っていったい……ああ、俺みたいな奴か。納得。

ハルヒ「古泉君が10匹で、キョンは12匹。みくるちゃんは1匹ね」

で、お前は?

ハルヒ「22匹! ふふ~ん、残念だったわねぇ一日団長になれなくて」

全然。

ハルヒ「我慢せずに悔しがってもいいのよ?」

いや、全然?

ハルヒ「あっそう言えば。有希の捕まえた蝉の数をまだ数えてなかったわ」

長門「……これ」スッ

どれどれ? えっと……これ、多過ぎて数えようがないんだが。

ハルヒ「う、嘘? ちょっと貸しなさい! ――24匹居る!」

っていうか、お前虫籠の中にびっしり詰まってる蝉を良く数えられるな。

下手なパズルより難解だぞ、これ。

ハルヒ「悔しいけど完敗ね……数字は無情だわ」

「有希、約束通り一日SOS団団長の権利をあなたに与えます」

長門、要らないって言っていいんだぞ?

長門「受領する」

え”マジで?

みくる「おめでとうございます~」

ハルヒ「ほ~らみなさい。キョン、あんたの価値基準が世間からずれてるの」

「将来なりたい職業は何ですかって小学生に聞けば、10人中9人はSOS団団長って答えるに決まってるでしょ?」

お前が一人一人ヘッドロックして、無理やり言わせてる状況しか思い浮かばねえよ。

古泉、お前もそろそろ何か言ってやれ。

ここまでまともな台詞無かったし。

古泉「そうですね、そこはやはり10人中10人かと」

……お前に期待した俺が馬鹿だった。

ハルヒ「それで有希、団長になるのはいつにする? 明日? なんなら学校が始まってからでもいいわよ」

ふむ、ハルヒが暴走しそうになったタイミングで長門に団長になってもらうのもいいかもしれんな。

等と勝手な事を考えていた俺なのだが、

長門「今からがいい」

予想外な返答が飛び出した。

ハルヒ「えっ? 今から?」

長門「そう」

ハルヒ「まあ有希がそうしたいならそれでもいいけど……うん、そうね」

「SOS団の団長を一日でも勤める者なら、それくらいの積極性と意外性は必須事項だわ」

俺としては常識を必須事項に挙げてもらいたいのだが。

長門「許可を」

ハルヒ「よしっやっちゃいなさい! 今から一日、有希はSOS団の団長だから、みんなもそのつもりでね?」

古泉「かしこまりました」

みくる「は~い」

ま、長門ならハルヒよりはまともそうだから歓迎だ。

それで? 団長になるって事は何かやりたい事でもあるんだろ?

長門「ある」

――ここでもし、長門が「現時刻をもってSOS団を解散する」とでも言いだしたらどうなるんだろう?

と一瞬考えたんだが、解散直後にハルヒによって再結成されるだけか。

ハルヒ「なになに? 何をするつもりなの?」

何でお前がそんなに楽しそうなんだろうなぁ。

初めてカブトムシを見た家の妹の様な顔で長門を見つめるハルヒに向かって、

長門「蝉の天麩羅に興味がある」

ちょおっとまてーいっ!!!

――それから暫くの間、俺はいつになく頑固な長門の説得に追われた。

長門曰く、蝉取りの最中にハルヒの口から蝉の天麩羅の話を聞いて以来、混じりっけ無しの本気で蝉を捕ったそうだ。

……今夜、食べる為にな。

それで、だ。自分は蝉の天麩羅の作り方を知らないから、SOS団の団長としてそれを教えて欲しいという事なのだが。

いいか長門? 確かに特定の生き物を食べるのは可哀想だとか言い出すのはナンセンスだと思うし、それを人に強要するのもどうかと思う。

ハルヒ「もう別にいいじゃない。みんなで食べれば怖くないわよ」

うるさい、馬鹿、黙れ。

だがなぁ長門、やっぱり蝉は食用には向かないぞ? 俺には、食虫属性とか無いし。

長門「……」

みくる「長門さん、天麩羅にして美味しい物なら他にもいっぱいありますから。そっちにしませんか?」

ナイスフォローです朝比奈さん!

長門「蝉に代わる食材を聞いてみたい」

いや、蝉はそもそも食材じゃないから。

みくる「そうですねぇ……例えば」

ハルヒ「ちょおっとまったー!!!」

みくる「ひぇっ!?」

急にでかい声を出すな。

ハルヒ「ねえ有希。こんなのはどうかしら」

「みんなでこれからスーパーに行って、それぞれが一番天麩羅に美味しいだろうって思う物を買ってくるの」

「そして、有希の部屋で天麩羅パーティーをして、有希が一番美味しいって思った食材を選んだ人が勝ち」

その内容で勝ち負けを決める必要がどこにあるのか、俺はそれが知りたい。

長門「魅力的な提案」

ハルヒ「でしょ?」

長門、涎が出てるから拭きなさい。




――とまあそんな理由で、俺達は長門のマンションの近くにあるスーパーに買い出しに来たのだ。

選ぶ食材のテーマは「天麩羅に合いそうな物」

さて……どれにしようかね。

古泉「おや、野菜コーナーですか」

ああ。この時期なら山芋、南瓜、玉葱、牛蒡、人参……とまあ、天麩羅系の食材には困らないしな。

古泉「あ、あの。あなたの野菜の選び方が若干ですが専業主婦っぽい様な」

気のせいだ。

古泉「でも財布に入ってるそれ、このスーパーのクーポン券ですよね?」

……当たり前だろ。

お前まさか、折り込みチラシを毎日見てないとか言わないよな。

古泉「見てません」

マ、マジかよっ?

驚天動地だ。そうか……これが特進クラスと赤点ぎりぎりの奴の差なんだな。何だか物悲しいぜ。

古泉「あの。多分、成績やクラスは今の件に関係ないと思うんですが……」




――そんなこんなでそれぞれに買い物を終え、俺達は長門のマンションへと再び集まったのだった。

ハルヒ「さ! 揚げるわよ~超揚げるわよ~」

朝比奈さん、ハルヒが台所に居る時はなるべく遠くに離れて伏せていて下さい。

みくる「え? え?」

ハルヒ「失礼ね~あたしだって、料理の一つくらいできるわよ」

ちなみに、その一つって何だ。

ハルヒ「鍋に食材を入れて火をつけるの」

ああ……そういえば前にも同じ様な事を聞いた気がする。

古泉、お前は料理経験あるんだろうな。

古泉「いえ? 天麩羅って、油の中に食材を入れればいいんですよね」

どいつもこいつも……となると、だ。他にまともに料理が出来そうなのは

みくる「あの、実はわたしも包丁とか握った事なくって……」

朝比奈さん、あなたもですか!

でも長門なら、長門ならきっと何とかしてくれるさ。

そんな俺の淡い期待は、

古泉「長門さん、天麩羅鍋って何処にあるんですか? フライパンしか見当たらないんですが」

長門「天麩羅鍋って何」

ハルヒ「……」

みくる「……」

早々と打ち砕かれたのだった。

そうさ、こうやって食べ物系の話題が続いた時点で気付くべきだったんだよな……。

随分更新が無かったから、正直な所完全に忘れていた。多分これを書いてる奴も同じだろう。

……さて、メタフィクションな発言はこの辺にしてそろそろ話を進めようか。

このタイトルコールが終わったらな。



簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 7食目 「ふわふわ」「天麩羅」

前回までの話はこちらに ttp://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5245.html  きまぐれ更新



現在の状況、食材多数、調理器具はフライパンのみ。

……待て、っていうか油はあるのか?

古泉「それでしたら、一応念の為にと思って僕が買ってきた物があります」

今日ばかりはお前の機転に感謝するよ。

天麩羅で油無しなんて、朝比奈さんの居ない部室みたいなもんだ。

ハルヒ「でもどうするの? 天麩羅鍋を今から買いに行くわけ?」

いや、俺はこのままでいい。

みくる「え? でも天麩羅鍋が無いんですよね?」

そうですね。

古泉「では、いったいどうやって天麩羅を作るつもりなんですか?」

長門、このフライパン使っていいか?

長門「いい」

じゃあ何とかなるな。

ハルヒ「え、天麩羅を作るのよ? フライパンで作れるわけないじゃない」

期待通りの反応をありがとうよ。




え~、という訳で今回は天麩羅だ。

『天ぷら(てんぷら)とは魚介類、野菜、山菜 等に、小麦粉に卵をあわせた衣をつけて油で揚げた日本料理である。
天麩羅、天婦羅とも表記する。』以上、ウィキペより抜粋。

つまり必要なのは油で揚げる環境であって、天麩羅鍋ではない。

ハルヒ「でも、フライパンじゃ深さが足りないでしょ?」

レシピの時のハルヒは発言が読みやすくていいなぁ……。

まあフライパンの事はひとまずおいといて、だ。最初に天麩羅用の衣を作る。

小麦粉や薄力粉が普通は使われるんだが

長門「その名称に該当する物はこの部屋に」

無いか。やっぱりな、コツの要らない天麩羅粉を買って来て正解だぜ。

ハルヒ「ふ~ん……ここに書いてある通りにすればいいって事?」

ああ。

いいか、下手に小細工とか考えるなよ?

混ぜるな危険。

ハルヒ「そうじゃなくて、これじゃレシピにならないじゃないの」

そもそも天麩羅にレシピを求められてもなぁ……。




みくる「衣の下準備が出来ました~」

こっちも準備できたんで、そろそろ始めましょうか。

ハルヒ「じゃああたしからね!」

……ジャガイモか。

ハルヒ「フライって言ったらポテトじゃない」

まあいい、じゃあジャガイモから行こう。

ジャガイモは皮を剥いて薄切りか短冊に切るのがお勧めだ。

スライサーが無ければ薄切りは止めておいた方が無難だろうな、という訳で今回は短冊にする。

ハルヒ「……あんた、結構器用ね」

馴れだ、馴れ。

古泉「普通の男子高校生は、馴れるほど包丁に触れていないのでは?」

知らん。さて、今日のジャガイモは一袋で157円(3個入り)だ。

みくる「ポテトチップ一袋と同じくらいの御値段なんですね」

まあそんな感じです。

そして水気を切って気持ち程度に衣をまぶして……と。

じゃあ揚げてくるからお前等は台所の外で待ってるように、特にハルヒ。

ハルヒ「どうやって揚げるの?」

人の話は聞こうな? な?

ハルヒ「あ、フライパンの底から三分の一くらいまで油が入ってる」

これで解ったか。

ハルヒ「でもこれじゃ、半分くらいしか油に浸からないじゃないの」

ハルヒ、風呂に入ってる時に誰かが入ってきたらどうなる。

ハルヒ「洗面器を投げるわね」

痴漢じゃねえよ、たとえ話だ。まあ百聞は一見に如かずって事で……こうなる。

ハルヒ「あ、なるほどね。ジャガイモが油の中に入ればその分嵩が増えるから」

結果的に油の高さも上がるって事だ。




――さて、お味はどうだい一日団長さん。

長門「……大いなる大地に感謝せざるを得ない」モグモグ

いや、そんな大げさな事じゃないから。

長門「これ、良かったら」

空の器だな。

もしかして、おかわりって事か?

長門「……」コク

ハルヒ「あ、ごめん。残りはもう食べちゃった」ムグムグ

長門「すぐに半径五キロにある店舗のジャガイモを全て買い占めて来て。早く」

意外に横暴だこの団長。

まあ待て、他の食材が残ってる。

古泉「では、次は僕が」

これは……豚肉か。

古泉「ええ、トンカツ等どうかと思いまして」

まあタイミング的にも悪くない、これでいこう。




豚カツ用の豚肉は、すでにそのまま揚げられる形状になっている場合が殆どだ。

が、今回古泉が買ってきた豚肉がそうであるように、安い値段の物は外国産の物が多い。

ハルヒ「何よ、何でもかんでも国産がいいって訳じゃないでしょ?」

そりゃまあそうだ。

だが外国産の場合はひと手間かけた方がより美味しくなるってのも、俺の実体験でもあるんだよ。

みくる「ひと手間、ですか?」

はい。

簡単に言えばまず最初に叩いて薄くする、そしてスジに向かって切れ目を入れる……と。

ハルヒ「……なんだか、薄くて貧相な感じになっちゃったわね」

古泉「フライパンで揚げるには、しょうがないのかと」

いや?

次に指で肉を元の厚さに戻して……と。

みくる「あれ? 戻しちゃうんですか?」

ええ、そうしないと肉汁が流れやすいんです。そして衣をつけてフライパンで揚げる……と。

ハルヒ「あ~あ、せっかく薄くしたのを元に戻したから表面が油の外に出ちゃってるじゃない」

ここでごま油の登場だ。

ハルヒ「ふ~ん、ごま油で嵩を増やすのね」

そんなごま味の豚カツはどうかと思うなぁ……風味付けに少し足すだけだよ。

ハルヒ「じゃあどうやって反対側を揚げるのよ?」

そいつを解決するのは――これだ。

ハルヒ「スプーンね」

そうだな。

ハルヒ「……あんた、人を馬鹿にしてるの?」

黙って見てろ。こうやって油をすくって上からかけてやれば、表面もしっかりと揚がるんだよ。

ハルヒ「あ、本当だ! 衣の色が変わった!」

そして途中で一回ひっくり返し、反対側にも同じ様にして油をかけて行けば完成だ。




古泉「長門さん。お味の方はいかがですか?」

長門「……人を侮辱する時に、豚と呼ぶ事があると聞いた事がある」サクサク

ハルヒ「確かに言うわね」

言うなよ。

長門「これはもう、豚と呼ぶ事が侮辱に繋がるとは呼べないレベル」サクサク

そうかい。

長門「むしろ誉め言葉」

それはないっ!

みくる「ごま油の香りが食欲を誘いますね」

ハルヒ「ほらほらみくるちゃん、食べてないで次の食材を出す出す!」

とか言いつつ、朝比奈さんの食べかけの豚カツに箸を伸ばすな!

みくる「あっはぁい!」

「わたしはこれなんですけど……」

あ、これはエビですか。

みくる「はい」

衣のついた冷凍のブラックタイガーか、調理する側としては楽でいいね。

みくる「あの、さっきも言ったんですけど。わたし、揚げ物ってした事なくって……」

「キョンくんにお願いしてもいいですか?」

もちろんですとも。

――だが、その前にちょっとやる事があるんだよな。

ハルヒ「……ちょっとキョン」ジュウジュウ

なんだ、お前のプリンなら食べてないぞ。

ハルヒ「エビフライを揚げてると思ったら何? それってジャガイモの皮じゃない」

そうだ。

ハルヒ「そんな物を揚げて……待って、もしかしてジャガイモの皮って美味しいの?」

味は正直いまいちだな。食用にするのなら何か考えた方が良い。

ハルヒ「じゃあ、何でそんな物を揚げてるのよ?」

ふむ、俺も詳しい原理は知らんのだが……ジャガイモの皮を揚げると油が綺麗になるんだ。ほれ、見てみろ。

ハルヒ「そんな事があるわけ……う、嘘っ? 本当に綺麗になってる!」

エビフライは油をいっぱい吸うからな、特に油の質は気にした方が良い。

ハルヒ「この世の不思議がこんな所にあったなんて……」

ハルヒ、お前もこれを気に、お前も台所に入るようにしたらどうだ?

ハルヒ「……台所に入って何をしろって言うのよ」

そりゃあ、食事を作ったり食器を洗ったりをだな。

ハルヒ「嫌よそんなの、面倒くさい。そんなのが嫌だからあたしはSOS団を作ったんじゃない!」

驚愕の事実をさらりと言うな。



ハルヒ「待たせちゃってメンゴメンゴ! エビフライが揚がったわよ~」

みくる「わ~!」

古泉「いい匂いですね」

長門「こんがり狐色」

ハルヒ「でしょう?」

揚げたのは俺だけどな。

みくる「あ、これって……タルタルソース? でも色がちょっと違う様な」

ハルヒ「ふふ~ん、これはサウザーソースよ!」

愛も情けも要らなそうな名前を付けるな、これはお手軽サウザンアイランドソースだ。

ハルヒ「そうそれ! 温もりを感じる色合いでしょ~」

はい、それも作ったのは俺。

長門「でも、どうやってこのソースを」

    「我が家にはこんな特殊な調味料は無かったはず」

古泉、味見だ。試しに舐めてみろ。

古泉「ではさっそく。――おや、これは」

解ったか?

古泉「いえ、さっぱり」

……レシピだととことん役に立たないなぁ、お前。

っていうか、さっきの「おや」って何だったんだよ。

古泉「いかにもエビフライに合いそうな味だったので驚いたんです」

みくる「本当ですか? ――わ、本当に美味しいです! これ!」ペロリ

貴女のソースになりたい!

ハルヒ「で、結局これって何で出来てるの?」

お前は横で見てただろうが。

ハルヒ「……なんだっけ」

……ケチャップとマヨネーズだ。

みくる「えええっ?」

古泉「ははっ。冗談は」

     冗談でもスパッツでもない。本当だ。

長門「……成分はマヨネーズとケチャップで間違いない」ペロリ

長門、味を見るだけなのにスプーンでごっそり舐めるな。

長門「団長特権」

可愛い団長さんだな。

長門「……これ、良かったら」

また空の器かよ……マヨネーズもケチャップを残しておいて良かったぜ。

ハルヒ「お、美味しいっ! 何なのこのエビフライ!」サクサク

みくる「ソースが合いますね~」サクサク

古泉「これぞまさしく、エビフリャ~って感じですね」

いや、全然意味が解らないから。

古泉「おや、名古屋弁をご存知ないのですか?」

どですか! で聞いた事はある。

みくる「へ~地方独自の言語なんですか」

ハルヒ「有希、こんな時に名古屋の人なら何て言うの?」

長門「うみゃー」サクサク

無表情で泣きながら食べるんじゃありません。

みくる「へ~うみゃーですか。えへへ、うみゃ~うみゃ~」サクサク

――可愛いっ!

ハルヒ「むっ。……ごほん! うみゃ~うみゃ~」サクサク

ハルヒ、食べながら喋るんじゃありません。

ハルヒ「うなー!!!」



ハルヒ「さて、いよいよ最後はキョンね」

そうだな。

ハルヒ「あのエビフライの後なのに、随分余裕な顔ね。勝算でもあるの?」

……あ、そう言えば勝ち負けとか言ってっけ。すっかり忘れていた。

まあ大人しく待ってろ、〆に相応しいのを作ってきてやるから。

ハルヒ「急ぎなさいよ?」



さて、俺が選んだ食材なんだが。

玉葱、牛蒡、人参+秘密の食材がいくつかだ。

詳しい内容はみんなが食べた時にでも話すとして、先に作り方を進めようか。

ポテトやトンカツの時は付けるだけだった天ぷら粉を水に溶き、短冊形に切った食材を入れる。

そしてお玉ですくって、エビフライ同様にジャガイモの皮で綺麗にして、高温にしておいた油の中へと静かに――入れる。ジュワアー!
     
油が跳ね易いから、フライパンでやる時は特に注意が必要だな。

二つ口のガスコンロを使ってる人は、絶対にもう片方のコンロの火は消して置くこと。お兄さんとの約束だ。

揚げてる途中で箸で穴をいくつか空けると、中まで熱が早く伝わって美味しいと思う。

そして狐色になったらクッキングペーパーを引いた皿の上で油を切って……と。



みくる「うわぁー! これ、かき揚げですか?! ですよね?」

ええ、そうですよ。

長門「かき揚げって何」

古泉「恐らく、カキの天麩羅の事ではないでしょうか?」

高校生の小遣い舐めんな。カキなんて高級食材を5人分なんて買えるわけないだろ?

みくる「お野菜たっぷりで、外はカリカリの中はふわふわです~」サクサク

ハルヒ「あ、これは……ジャガイモ?」サクサク

お、気づいたか。

古泉「おや、これは豚肉ですね」サクサク

そうさ。

みくる「あ、エビも入ってます!」サクサク

さて、最後に相応しいって意味がこれで解って頂けただろうか。

かき揚げには野菜や肉等の色んな食材を入れられるから、冷蔵庫の中に残ってる食材を整理するにはもってこいだ。

更に言えば、

古泉「サウザーソースにも合いますね」

サウザンアイランドソース、な。これはそれっぽい何かだが。

みくる「あの、この緑色の粉は何でしょうか?」

ああ、それは抹茶塩です。

みくる「抹茶ですか? わたし抹茶大好きなんです~。試してみてもいいですか?」

どうぞどうぞ。

みくる「お、美味しいっ! 何ですかこれ? 凄く美味しいんですけど?!」

ハルヒ「……あたしには何か調味料を勧めないわけ?」

お前にはこれだ、ほれ。

ハルヒ「塩ね」

塩だな。

ハルヒ「……」

無言のまま震えだすな、騙されたと思って――ほれ。ヒョイ

ハルヒ「あ」パクッ ムグムグ

どうだ?

ハルヒ「おいひい……キョンの塩、おいひいよう」ムグムグ

変な声を出すな。

俺としては、抹茶塩もいいんだが個人的に普通の塩が一番かき揚げに合うと思ってる。

長門「天汁も美味しい」

だな。

とまあ、中に入ってる食材にもよるが、かき揚げには色んな調味料が合うんだ。

今上げた以外にソース、醤油、マヨネーズなんかも美味しいぞ。

食材にチーズを入れて調味料無しってのもいける。



ハルヒ「ふぅ……お腹いっぱいねぇ」

みくる「ついつい食べすぎちゃいましたぁ」

古泉「では、そろそろ一日団長から勝負の結果をお聞きしましょう」

長門「勝負の結果」

ハルヒ「そう! 有希が一番美味しいって思った料理を教えて」

長門「……」

長門、そんなに真面目に考えなくていいぞ? いつものハルヒの思いつきなんだし。

長門「……決まった」

みくる「わ~」ドキドキ

ハルヒ「ごほん! 第一回、長門有希杯天麩羅戦の優勝は――どうぞ!」

さりげなく第一回とか言うな。

長門「……じゃがいも」

ハルヒ「!」

長門「豚肉」

古泉「おや」

長門「エビ」

みくる「え? え?」

長門「玉葱、牛蒡、人参が入った――かき揚げ」

古泉「納得です。これは異論がありませんね」

ハルヒ「確かに美味しかったし、悔しいけど完敗だわ」

みくる「キョンくん、おめでとう。そして美味しい料理をありがとうございました~」

いえいえ、そんな。

ああ……こんな謝辞を毎日頂けるのであれば、俺はあなたの主夫になりたい。

謝辞どころかコメント無しでも、それはそれで俺の中ではご褒美です。

長門「ついては、あなたに優勝の賞品を渡したい」

    「受け取って」

賞品?

長門「そう」

まあいいが、いったい俺に何をくれるんだ?

長門「来週また、この部屋で天麩羅パーティーを開く権利」

うむ、全力で断る。

ハルヒ「あ、有希? 団長は断る事を断ってもいいのよ?」

長門「把握した。わたしは団長権限により、あなたが賞品の受領を断る事を断る」

よけいな事を教えるな馬鹿ハルヒ!

古泉「いやはや、何とも楽しそうでいいですね」

現実を見ろ、古泉。辛くても目を逸らすな。

みくる「……あの、キョン君。もしまた天麩羅パーティーをする事になったら、わたしも誘ってもらえますか?」

じゃあ来週で。あ、俺は明日でもいいですよ。

長門・ハルヒ「うなーーー!!!」



     
  簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 7食目 「ふわふわ」「天麩羅」 おしまい

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最終更新:2020年12月11日 10:56