すっかり太陽の出番は終わり、月が照らす暗闇の世界へと変わっている。さすがに晩秋だと夜が早いな。
「結局レポート終わらなかったじゃない!おかげで徹夜じゃないのよあのハンドボールオタク!!」
名前すら出すのが嫌になったんだろうか。ハルヒはまだ岡部の愚痴を続けている。
「半分は俺に絡んでたからだろうが。」
「それもそうだけど!アイツに止められたってのが腹立つのよ。いつ帰ろうが勝手じゃない?」
「ハルヒ。忘れてると思うから言うが、インフルが蔓延した校舎にいつまでも留めてやれんからだろう。」
「・・・・・そういえばそうだったわね。」
数秒沈黙した後に呟いた。どうやら忘れていたらしい。
・・・・俺も一つ忘れてたな。この坂道を二人だけで帰ったのはいつぶりだろう?その時も秋と冬の境だったような。
坂道を下りながらこんなことをぼんやりと考えていたら、いつのまにか、いつぞやか新聞を見るだけに立ち寄ったコンビニの前を通り過ぎようとしていた。温かそうな店内が目に留まった途端に腹が減り始める。都合のいい腹だ。
「なあ。コンビニ寄っていいか?腹減った。」
「別にいいけど。」
なんか奢ってと言ってくるかと思ったので素っ気無い返事に驚いたが、まあいいか。俺の紳士的心遣いという正当な理由で勝手に奢ってやろうじゃないか―と思ったがこんな時に限って財布とは非情なり。俺分の食費しか入っていない。ああ、とうとう俺の財布もここまで来たか。何回も散財すりゃそうなるよな。
俺は迷わず1個の肉まんだけ選び、いつぞやから見たあの兄ちゃんがレジ打ちしてコンビニを退散する。何なんだろうな。あのコンビニに行くのは新聞を見るときだけにしてしまおうか。あの兄ちゃんが俺とハルヒを見てニヤニヤしてたのが癪に障る。・・・忘れよう。こんなものは忘れてしまうに限る。
再び徒歩を続けるハルヒだが表情は寒さと空腹からなのか、まさかとは思うが本当にレポートで悩んでいるのか、どこか難しそうな表情だ。後者はありえないだろうからたぶん前者だろう。
「ハルヒ、肉まん少し食べるか?寒そうで空腹そうな面してるぞ。どちらの条件も満たすにはこれが最適だ。」
まだ4分の1しか食べてないが、ハルヒもそう人のものをどこぞのガキ大将のようにがっつかんだろうと思ったので少しやることにした。しかし珍しい。人のものを真っ先に奪取するのがこいつなのに、何もしてこないとは。マフラーやカーディガンを羽織っているのに寒さにやられたか?
ハルヒは驚いた表情でこちらを見てきた。これまたレアだと思ったが、なんだその顔。
「いや、あんたにしては気が利くじゃない。」
「あのな。隣でそんな面してる奴に何もしないほど俺は無神経じゃないぞ。」
「え?あたしそんな変な顔してんの?」
「ああ。」
「おかしいわね。罰ゲーム考えてただけなんだけど。・・・まあちょうどおなか減ってたから有難く貰うわ。」
ハルヒは俺の手に持ってた食べかけ肉まんを奪取し食べ始める。おいこら、頼むから全部食うなよ。
「考え始めるとどうもあんたの財布が寂しくなるものしか思いつかなかったんだけど、今思いついた!」
あと2口食ったら問答無用で取り上げようという心構えを知ってか知らずか、ハルヒはいつもどおりの100Wの笑顔を向けてこう言った。
「キョン、次の日曜日ちょっと付き合いなさい。あたし一人じゃ手が足りないから困ってたのよね~。何で思い出せなかったのかしら。」
それは俺が勝とうが負けようがどうせ付き合わされる話のように思うのだが。
「うん。SOS団の皆に頼もうかと思ってたから、本当は電話で呼び出す予定だったけどね。負ければあんた一人に全部頼むわけ。」
「そりゃ何か言ってみろ。」
「洋服選びでしょ、それと日曜日までの福引権の消費、CDプレーヤーも最近調子悪くて。それから――」
「いやもういい。解った。つまり俺は荷物持ちか。」
「ビンゴ!」
聞いてるだけで眩暈がしてきた。それ、SOS団の連中を呼び出しても荷物を持つのは結局俺と古泉じゃないか。
じゃあせめて任務で忙しいあいつらの負荷を減らしてやろうと俺の善良なる心から口を開く。
「しかしな、それに付き合うのは俺だけで事足りる。だから罰ゲームは他にしてくれ。」
「へ?」
「古泉はともかく、朝比奈さんや長門に荷物持ちは酷だ。しかも何かの行事とかじゃなくて全部お前の事情なんだろ?」
笑顔からハトが豆鉄砲食らったような顔に変わったがまた笑顔に戻った。忙しない奴だ。
「じゃ、遠慮なくどんどん持たせるわね。あっ、昼食代は持ってきてよね!たぶん1日かかるから。」
へいへい。
すっかり余裕の表情でいるハルヒが今度は別の罰ゲームを考えている。どっから見ても隙だらけだ。俺は残り4分の1の肉まんを取り上げる。
「あっ!」
「それ以上食ったら俺は半分も食ってないことになる。ちょうど半分だからいいだろうが。」
今度はアヒル口になりやがった。そんなに食い物を取り上げられたのが嫌か。元は俺のものなのだが。


|