【前注意】
これは虐めSSにあるまじきハッピーエンドです、救済ルートイラネな人にはお勧めしません
 


 
「…ん…朝か」
 
あれから数ヶ月がたった、佐々木のことを早く忘れようと勉強に明け暮れ本を読みまくって気付いたら部屋は本だらけだ。
漫画ばかり読んでいた昔の俺には想像がつかない光景だろうな。
 
「さっさと準備するか」
 
部屋から出て洗面所にむかう。煙草はやめた、急に馬鹿らしく思えたからだ。
 
「おはよう、お兄ちゃん」
 
「ああ、はよ」
 
お兄ちゃん…そう呼んでくれることは嬉しくもあり、少しだけ悲しかった。
二人して歯を磨き、お互い部屋で服を着替えてからリビングに向かった。
 
「おはようキョン、またテストでクラストップになったんだってな」
 
「そうよ、キョンはうちの自慢なんだから」
 
勉強に明け暮れていたら、気付けば俺はクラストップ、学年でも最上位の成績になっていた。
途端冷戦のような状態に陥っていた我が家には笑顔が戻り、両親は俺をちやほやするようになっていた。
母親が自慢したのかご近所さんにあっても褒め殺される始末だ。
一家に笑顔をが戻ったのはいいことのハズなのだが、俺はいつもどこか空しさを感じていた。
酷く薄っぺらく感じる一家団欒の中にいるのが耐えられず、会話もそこそこに俺は素早く朝食をとり、親父よりも早く家をでた。
 
「清々しい朝だな…はぁ」
 
いくら天気が晴天でも、この後ろぐらい気持ちを晴らしてくれることはない。
駐輪場で自転車を止め、気だるげな気持ちで学校へ続く坂を登っていると不意に声をかけられた。
振り向いた先にいたのは見覚えのある女性徒だ、確か隣のクラスの奴だったと思う。
 
「…なんか用か」
 
返事をすると、その女性徒は緊張した面持ちで、絞り出すような声でこういった。
 
「あっあの…よければわたしと…付き合ってください…」
 
なぜか俺はやけにモテるようになっていた。勉強もスポーツも出来たら顔がよくなくてもモテるらしい。
 
「…悪いな、俺誰とも付き合う気ないんだ」
 
しかし俺は、今までされた告白に一度として頷いたことはなかった。ある女性のことが忘れられないせいなのは、気のせいではないだろう。
全く、昔はモテたいとか彼女が欲しいとか思ってた癖に、何がしたいんだろうね俺は。
 
「………」
 
「でもありがとな、それじゃ」
 
それで終わりと判断し、立ち尽くす女性徒を置いて坂を登る。
後ろから女性徒に友達が話しかける声が聞こえた。
 
「だから言ったじゃん、あんたなんかじゃ無理だって」
 
「キョン君は並みの女なんかじゃ満足しないのよ」
 
友達なら慰めの言葉くらいかけてやればいいのに、薄っぺらい友情だ。
その後は誰かに足を止められることもなく学校につき、昇降口で靴を履き替えそのまま教室へ向かった。
 
「あっ…」
 
俺が教室に入った途端クラスが静まり返り、皆俺の方を見た。
しかしそれは侮蔑や畏怖の視線ではない、尊敬や羨望の眼差しだ。
そりゃ虐められてた頃よりはずっといいんだろうが、どうにもやるせなかった。
一歩引いてることには変わりないんだ。
とりあえずはおはようとだけいい自分の席に座り授業の予習をしていると、複数の生徒が近寄ってきた。
 
「あっあのさキョン」
 
「なんだ?」
 
「数学の授業あてられそうなんだけどわからなくて…教えてくれない…かな」
 
そんな遠慮がちに聞かなくてもいいのに、評価は変わっても周りの態度はやはり同じようなものだった。
 
「ああ、別に構わんが」
 
「あっありがとう!」
 
俺はもう、前みたいに罵倒したり無視したりするのをやめることにしていた。
それじゃ俺を虐めていたこいつらと変わらないし、自分が屑より酷い存在に思えたからだ。
それに…どうせ俺は独りだ。
虐められていたことを言及するのもしないことにした、それじゃなにも変わりはしない。
 
出来るだけわかりやすいよう勉強を教えていると、後ろから声をかけられた。
誰…と考えるまでもない、俺の後ろから声をかけてくるやつは一人しかいない。
「キョン…放課後、部室に来てほしいの」
 
「………」
 
「…来てくれるって信じてるから…」
 
それで会話は終了、今更なんの用なんだろうか。もう俺はSOS団には必要ないはずなのに。
しかしいかないのもばつが悪い、今日はバイトもないしいくことにしよう。
 
午前の授業、教師も今では俺をいびるなんてことはせず、むしろ優等生として俺を扱っていた。
 
「ここわかるやつ…いないのか。すまんキョン、またたのむ」
 
立ち上がり答えを言うと、教室中が湧き上がった。
 
「うむ、ありがとう」
 
「さすがキョン!」
 
「やっぱりキョン君は凄いわ、天才ね!」
 
天才…か。俺はただ必死こいて勉強しただけなんだけどな、それはわかっちゃ貰えないんだろう。
漫画とかでそういう立場にいるキャラの気持ちが少しわかった気がする。
 
「まぁまぁ静かに、授業続けられないだろ」
 
「あっ…ごめん…」
 
そんな気まずそうに静まり返らなくてもいいだろ、やれやれ。教師に促して授業を続けさせた。
谷口のほうを見ると、悔しそうに拳を握っていた。
唯一谷口だけは、相も変わらず俺のことを特別扱いせずに立ち向かってきた。
谷口は俺が嫌いなんだろうが、1対1で対等に扱ってくれてる気がして、俺は嬉しかった。
しかし、今やクラスの人気者になってしまった俺に喧嘩をふっかけてくる谷口が次の虐めの的になるのは、あまりにも当たり前の話だった。
 
昼食の時間になり、今やお気に入りの場所になった屋上に向かおうと弁当を取り出していたら、また谷口が虐められていた。
 
「だからウザイって、一人で食べなよ」
 
「ていうかさっさと教室から出てけよ」
 
俺の次は谷口…こいつらは一体何度同じことを繰り返せば気がすむのだろうか。
 
「みっみんなクラスの一員だろ…」
 
「はっ?お前なんかクラスの一員じゃないって…」
 
「いい加減にしろよお前ら!」
 
俺の怒鳴り声で教室が静まり返った。
 
「きょ…キョン君…?」
 
驚いた声をあげるクラスメイトを無視し、谷口の席に近付く。
 
「ほら谷口、机くっつけるぞ」
 
「きょっキョン…俺…」
 
「許した訳じゃない…でも、俺はお前を変わらず友達だと思ってるからな」
 
「キョン…うっ…」
 
「男の泣き顔なんてキモいだけだぞ」
 
そのまま二人で食べ始めた俺達をみて、国木田が近付いてきた。
 
「ごめん谷口」
 
「国木田…」
 
そして国木田も加わり、昔の状態に戻った。いろいろ変わっちまったこともあるが。
 
「…ごめん」
 
「ごめんなさい」
 
国木田を皮きりにクラス中の奴らが謝り始めた。
こいつら本当にごめんと思ってるのだろうか…しかしまぁ、これでもう虐めは起こらないだろうし谷口もうれしそうだし、とりあえずよしとすることにした。
そうして、若干のわだかまりは残ったままだろうが、久しぶりにクラス中が纏まった昼食だった。
 
その後の午後の授業も恙無く終え、ハルヒ指定の放課後となった。
掃除中の俺をチラチラ見てくるハルヒに行く旨を伝えてさっさといかせ、掃除を終えた俺はあの懐かしき…二度と行くことはないだろうと思っていた文芸部室に向かった。
一応の礼儀は守り、ノックをしてから入った俺の目に飛び込んできたのは…SOS団4人が頭をさげる姿だった。
 
「ごめんなさい」
 
4人声を揃えて謝る姿に面食らった俺は、何も言えず立ち尽くした。
 
「…」
 
「今までごめんなさいキョン、殴ってくれてもかまわないわ」
 
「ごめんなさい…ごめんなさいぃ…」
 
「僕からも深くお詫び申し上げます」
 
「私も、あなたを守らなかった…ごめんなさい」
 
全員が謝ってるってことは、だいたい何が言いたいのか予想はついた。
つきながら、俺は敢えて聞いてみた。
 
「まぁ顔あげろよ…でっ、俺になにをしてほしいんだ?」
 
「あなたに、戻ってきて貰いたいのです」
 
古泉が代表して顔をあげて答えた。やっぱりそうきたか…。
 
「やっぱりSOS団にはキョンが必要なの、それにあたし…あなたが好き…」
 
このタイミングで告白してくるとはな、全くこいつらにはほとほと呆れるぞ。
何も言わない俺に不安を覚えたのか、4人ともチラッとこちらを見てくる。
 
「…やっぱり…だめ?」
 
「…前はさ、お前らにどう復讐するか…そればっか考えてた」
 
「…」
 
何も言えず俯く。そりゃそうだ、それだけのことを俺はされたんだからな。
でも、それも今ではどうでもよかった。
 
「でも、やめたよ。そんなの悲劇の連鎖をうむだけだし」
 
「そっそれじゃあ…」
 
「ただ、いきなり戻ってくれと言われても、やっぱり心の整理がつかねえよ」
 
4人が悲しそうな顔をする、おいおい被害者は俺だぜ?やれやれ…。
 
「バイトもあるしな。だから…時々でいいなら」
 
その言葉に4人が嬉しそうに顔をあげる、コロコロ表情が変わるなこいつら。
 
「いっいいわ!来てくれるならそれで!」
 
「キョン君…私、とびっきりのお茶をおいれして待ってます!」
 
「久しぶりにあなたとゲームをしてみたいものです、少しは強くなったんですよ」
 
「…また図書館に」
 
現金な奴らだな、まぁいいが。っと、先ほどの返事をしないとな。どう返すかは決まってるが。
 
「ただハルヒ、俺はお前の告白を受け入れられない」
 
「…」
 
「それは別にお前らがやったことが関係してる訳じゃない。
ただ俺は…もう誰ともつき合う気になれないんだ」
 
素直な気持ちをつげた。佐々木を突き放した俺に、誰かと恋人同士になるなんてことは無理だった。
 
「…いいわ、あんたが戻ってきてくれるなら」
 
涙目ながらにハルヒはこう答えた。
そして、俺は昔と同じ空間に俺は戻った。
失ってしまった心をどこかに置き去りにしたまま…。
 
数日たった休日、俺はあの日のように駅前を歩いていた。
恒例の不思議探索ではない、なぜかセンチメンタルな気分になったから気晴らしに散歩していただけだ。
そんなとき、不意に後ろから呼びかけられた。
聞き覚えのある…忘れられるはずもない声で、あの日と同じように。
 
「やぁ、キョンじゃないか」
 
…どうやら神様は相当粋な奴らしい。
家も、学校も、SOS団も元通りになり、ただ一つ元通りになっていなかった二人の関係。
それをやり直すかのように、佐々木が後ろに立っていた。
 
「さっ…さ…き…」
 
「どうしたんだい?有り得ないようなものを見るような目でみて」
 
何もかも元通りになっても、こればっかりはもうやり直せはしないと思っていた。
そんな俺に不意にやってきた偶然…いや、必然かもしれない。
これは奇跡と呼んでいいだろうか…奇跡なら、やり直すことも許されるだろうか。
 
「…佐々木」
 
「なんだい?」
 
「今更だが、好きだ」
 
「…ふふ、遅いよ」
 
「すまん」
 
「全く…しかし僕も鬼じゃない。ここは仏心で先日のことも許そう。うん、僕も君が…」
 
やっとわかった。失ってしまったと思ってた俺の心…それは佐々木だったんだ…。
 
 
 
END

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最終更新:2020年08月17日 06:26