<悩みの種の潰えぬ世界>


私は病院に着いた。もう行くのも慣れたものだ。
腫れた目…みんなにバレないかしら?大分引いたものの、まだ腫れが残っていた。
キョンの病室に着くと、もうすでにみんなは揃っていた。

「涼宮さんが最後とは…ある意味、キョンくんも嬉しがっているかもしれませんよ?」
古泉くんが悪戯そうに言った。
「この人、今までずっと最後で奢り続けてましたからねえ…涼宮さんより早く来ることは願望だったようですし。ほら、僅差で涼宮さんが先だったときあるでしょう?あの時彼、かなり悔しがっていましたから。」

そうしてキョンを見ると、心なしか笑っているようにも見えた。
起きたら私が奢るわよ…負けちゃったしね!

私達は準備にかかった。宴会の準備や部屋の飾り付け…だけど今回の飾り付けはいつもと違った。

キョンが外が見れないため、その気分だけでもと、病室の中を真っ暗にするようにした。黒い紙を貼り付けたりと…真っ白な部屋が真っ黒な部屋に変わる。

それがある程度準備が一段落すると、短冊を取り出し、一人一人の思いのままに願い事を書く。
みんなの願い事は竹を立てるまで見ないようにした。

私の願いはもちろん!


―――キョンが目を覚ましますように…―――


それが今の私の一番の願いであることに一寸の迷いはない。それ以外欲しいものなどない。キョンがいれば私は…

そうして書きあがったみんなの短冊を外にある竹の笹にかけた。病院に許可をとったら快く承諾してくれた。
ここの病院は色々と融通が聞いて助かる。もうちょっとうちの生徒会もそういう所があってもいいと思うけど…

空を見上げると生憎の空模様…こんなんじゃ彦星と織り姫が感動の再開を果たせないじゃないの!どんな恋敵かしらね全く!

病室に戻り、宴会が始まった。

相変わらずの食いっぷりの有希などに遅れを取らないように必死に食らいつく。
いっぱい話たり、芸をやったり、ゲームをやったり…なにも変わらないこの風景。
私は幸せだった。でも…あいつがいないと完全な幸せとは言えないわ…

それからしばらく落ち着いたので、部屋の照明を落とした。

すると…真っ暗な天井に輝く天の川…
有希が簡易プラネタリウムを持ってきたのである。

綺麗…本物かと思い違うぐらい。

キョンどう?綺麗でしょう?こっちの世界にはこんな光が満ちているのよ?もっと探してみようと思わない?
だから早く探しに行きましょうよ!私と…いや、みんなと一緒に…

私はカーテンを開け外を見た。

…さっきまでの空模様は嘘のように綺麗に雲がなくなっており、そこには本物の天の川が流れていた…
みんな!綺麗に晴れているわよ!天の川が見えるの!
「そうですか…それじゃあ、そろそろ竹を立てますか。」
古泉君が電話で何か言うと、竹が立てあがった。その短冊を一つ一つ見る。

キョンくんが目を覚ましますように。 古泉
キョン…が目を覚ますように願う。 長門
キョンくんがすぐに目をさましますように。 みくる

なに…これ…?みんな…書いてる事同じじゃない?みんなキョンを想って…
「おや…みんな願いは同じのようですね…キョンくん?あなたはこんな素晴らしい仲間に恵まれて幸せ者ですね。」
涙がこぼれてきた。これは昼間泣いたものとは違う涙。嬉しさからでる涙。
あっ…流れ星…
私はとっさに願った。


キョンが…目を覚ましますように…。


…何も起きない…キョンが起きる事はない。そんな早く起きるわけないよね!自分に言い聞かせた。

そろそろお開きにしよう!そう思い、後片付けが終わり、最後にみんなで空に向かってお祈りした。

―――キョンが…キョンくんが…元気に起きてくれますように…―――


みんなは帰って行った。私だけまだ残っている。今日はずっとキョンのそばにいたい。

私はそれから空を眺めていたの。綺麗な星空。空に流れる無限の星。

空を見ながら言った。

ねぇキョン?今日彦星と織り姫、会えたのかな?愛し合ってた二人が急に引き離されて、だけど毎年一日の夜の間だけ感動の再開を果たせてくれるの!
なんかとってもロマンチックよね!?でもアンタのことだから私にはそんなロマンチックなんて言葉似合わないとか思ってるんでしょ?
…私も前までならこんなこっぱずかしいこと言えなかったわ。なんで言えるようになったかっていうと…
本当は起きたら言うつもりだったけど…今言いましょ。
私ね!キョンの事が好き!ずっと前から…実は二年前のあの日も…本当は私の想いを告げようと思ってたの。
だけどね…自分気持ちに素直になれなくて…キョンの優しさに素直になれなくて…突き放して…明日こそ素直になって謝ろうとしたら…
でもね!今は自分の気持ちに素直になれるの!なんでだろ…今言わないと後悔にしかならないように感じるの…

今日の夢のせいかな…あんな怖い夢見たから…キョンが遠くに行っちゃう夢…
本当にいなくならないわよね…?今とっても不安なの…あなたが本当に遠く知らない処へ行ってしまったら…


「………どこにも行くもんか………」


えっ………


「………俺はどこにも行かない。いつまでもお前のそばに居てやる。………」


キョンの声………まさか………



「俺は…ハルヒ、お前の事を愛している。俺も前からずっと…だけど素直になろうとしないで自分の気持ちを引っ込めてた。だけど今は言える。ハルヒを愛している。」


キョン…?キョンなの…?


後ろを振り返る。しかし視界が滲んで前が見えない。

だけど…急に体が引き寄せられる…それは紛れもない、キョンの広くて、暖かいぬくもりを感じるキョンの胸。

「ゴメンなハルヒ…俺はお前を泣かせたくなかったんだけどな…いくら謝っても謝り足んないよ…」
キョン…キョン!

キョンの胸にすがりついて話を聞いた。

「だから…責任とろうと思うんだ…」
キョンのせいじゃない!責任とかそういうのはいらない!キョンがそばにいればいいの!
「いや、悪いのは俺さ。だから責任をとる。ハルヒ。俺と結婚してください。」


………えっ………



「俺じゃお前を幸せにするには力不足かもしれない…けど、俺はハルヒに相応しい男になるから…それまで待ってくれるか?」

止めどない涙が溢れてきた。

ううん…今でも私にとってキョンは相応しい人よ…あなたがいるだけで…私は幸せなの…だから…私と結婚して下さい…
「ハルヒ…」

私はキョンの胸の中で大声で泣いた。キョンは泣いている私を力強く抱きしめてくれて…頭を撫でてくれて…その一つ一つにキョンの優しさと暖かさが伝わってきて…

あぁ…夢じゃないのよね…これって本当のキョンなのよね…

「ハルヒ…今までゴメンな。本当にゴメンな。」
ぐすっ…もうキョン謝るの禁止!謝ったら罰金!
「………俺さ?夢を見てたんだ。今まで。いつもの日常の夢。古泉がいて、朝比奈さんもいて…長門がいて。他にも谷口や国木田、鶴屋さんや妹もいて…ハルヒがいて。」
「それは現実かと思えるくらいにリアルで…こっちが現実かと思ったよ。だけどな?たまに何処からか声がきこえるんだよ…」
「谷口のバカな声や鶴屋さんのハイテンションな声…朝比奈さんの舌足らずの声…そして、ハルヒの楽しそうな声や泣き声、いつもの怒鳴り声とかな。」

「最初は俺も超能力者か?みたいな感じでそんなに気にもしてなかったんだよ。だけどハルヒの泣き声を聞いた時は凄く辛くて…」

「でも最近その声がハッキリ聞こえるようになってきたんだ…ハルヒ?昨日セミの話したろ?それで気づいたんだ…こっちは夢なんだ…あっちの世界では本物のハルヒが悲しんでいる。」

「早く起きなきゃと思ったんだが…どうにもならなくて…でも今日みんなの声が聞こえたんだ…俺が元気で起きてくれますように…ってな。」

「それで光が刺してきてな…その先にハルヒがいたんだ。そして気付いたらここにいて…ハルヒがいた。」

「夢の中でもハルヒに想いを告げようとしたのに何故か出来なかったな…つまり起きてからちゃんと本物のハルヒに言えって事だったんだな。」

私はずっと泣きながらうん、うん、と相づちを打っていた。

「本当に言えてよかったよ。言えないまま死んでたら幽霊になってたな。」
私は幽霊なキョンでも愛し続けるよ?
「そりゃよかった。ハルヒ?」

うん?と答える前に口を…キョンの唇で塞がれていた。嬉しかった。本当に夢じゃない…



キョンはここにいる。


私の目の前に。


相変わらずの間抜け面、だけどカッコよくて、可愛くて、笑った顔も…全てが愛おしい。


愛おし過ぎて…もう離さないからねっ!
「あぁ…俺も離さないよ…離したくても離せないからな?覚悟しとけ?」
うんっ!キョン専用の抱っこちゃんになるわ!
「アホかお前?それ人形だろ?」
いいのっ!なんでも!


二人で向き合い笑った。笑った顔は…やっぱりキョンで…あのキョンで…


ある夏のある日………
七月七日………


七夕の日………


織り姫と彦星が一年に一度再開を果たす日。


その日、織り姫と彦星…私とキョンが二年の時を経て再開を果たした。


でも織り姫と彦星には悪いけど、私達はもう離れないんだから!


織り姫と彦星が私達を見て祝福してくれているように…
空の無限の星は…眩い光で輝いていた…


だから言ったでしょ?こっちの世界には光が満ち溢れすぎているって…


ねぇ?キョン……っ!




七夕の日、俺が目覚めた日から1ヶ月が経った。

俺は脅威の回復力をみせ、無事退院する事が出来た。

この回復力の源は…やはりハルヒだろう。ハルヒが七夕の日祈ってくれたからと、ハルヒの笑顔を見たらどんな怪我や病気でもすぐ治っちまう。
この笑顔は神の力だな…なんとなくそう思う。ハルヒは本当に世界の創造神だっけ?そんなことはどうでもいい。

七夕の次の日、本当は起きたその日のうちにもみんなに会いたかったんだが…ハルヒがサプライズをみんなにしでかしてやろうと計画したのでその誘いにのった。
ハルヒの計画はこうだった。

怪談話でその話にはゾンビが出てきて、この病院にはゾンビが存在していたという噂があったという設定。

ハルヒがキョンにも聞かせてあげましょうということで病室内で怪談話をする。
合図があったら俺がゾンビの真似をして、よっしゃゃゃゃあぁぁぁぁ!THE ENDォォォォォ!っというバカらしいサプライズ。

朝比奈さん辺りが本当に失神するんじゃないか?って言ったがまぁ大丈夫でしょ!と相変わらずのハルヒ。二年経っても変わらないのな。

そして、作戦実行と来た。

カーテンで締め切って真っ暗になった部屋のベッドで準備する俺。

ハルヒが怪談話をし始めた。

しかしハルヒの奴耐えきれなくなって笑い始めやがった。あ~いるいるこういうの。先知ってるから笑い堪えられないやつ。

「もうキョン…私ムリ…あははっ!」
もう少し堪えろよ!言い出したのはお前のくせに!

みんながえっ?えっ?と顔を見合わせて状況を理解しようとしてる。これはこれで面白かったからいいか。

俺実は昨日起きたんだよ。みんな、心配かけてすまなかった。起きたの知ってるのハルヒと両親だけなんだよ。

空気が鋭くなった気がした。ヤバい。怒ってる?みんな怒ってる?キレてるんスか?

「このバカっ!心配かけといてそれかよ!」
『ゴメンね谷口!私が言い出したの!サプライズを仕掛けてみないかって!』

「…でもよかったですぅ!キョンくんが…ぐすっ…起きて…わぁーん!」
すいません朝比奈さん。泣かないでください。

『これでオセロの再戦が出来ますね?』
あぁ…一回ぐらい負けてやろうかと思ったがやっぱりやめだ。少しは強くなったんだろうな?
『それなりに鍛えましたよ?油断しないでくださいよ?』
でも古泉は古泉だからな。どうだか。

「私は…あなたが起きてくれることをずっと望んでいた。ありがとう。」
いやこっちがありがとうだよ。ありがとう、心配させて悪かったな。また図書館に連れて行くからな?
「……そう。」

そういう長門の目からは涙が流れていた。

おいおい長門まで泣かないでくれよ?
『あんた女の子を泣かせる事はどんな罪よりも重いのよ?』
わかってるよ。退院したらみんなに奢ってやる!

「さすがだねキョン!僕もずっと心配してたんだからね!ずっと信じてたけどね。」
さすがだな国木田。お前の勘はなかなか鋭いからな。

『キョンくんが起きてくれて私はめがっさ嬉しいよっ!お姉さんもおもわず泣きそうにょろよ…』
鶴屋さんは笑顔以外は似合いませんよ。
『そうかいっ?でも私の泣いている姿も大人の魅力があるにょろよ?』
いいえ。鶴屋さんは笑っている姿以外は鶴屋さんじゃありません。
『ありがとうよっ!んで、お姫様とはどうしたのかねぇ?』

あぁ、みんな聞いてくれ。俺とハルヒは将来結婚する。
みんな驚いた顔をしてたなぁ。特に谷口の驚き方は失神するんじゃないかってぐらいになってたな。

「ちょっとキョン!」
いいじゃないか。いつか知らせることだ。早いに越した事はないだろ?
「そうだけど…心の準備ってものがあるじゃない!」
いやなのか?…そうか…おれはふられたのかー(棒読み
「違うわよ!離れたくても離れられないって言ったのどっちよ!?」
ならいいだろ?
「う…うん…。」

みんなは俺を祝福してくれた。谷口は今にも倒れそうで、国木田に支えられてなんとか立っていられる様子だ。なんでだ?

そんなこんなで一ヶ月が過ぎ、無事退院した俺はSOS団の活動として恒例行事の市内探検に来ていた。

この行事自体が久し振りだ…街を見るのも久し振りで忘れているかもしれない。
集合場所はやはりいつもの駅前だ。

俺は駅前に向かいながらハルヒに渡されたものを思い出した。

「あんた、危なっかしいからこれ持っときなさい!中に私のパワーの源が入ってるから効果抜群よ!」

何だったんだろ?ふと思い、俺は中を見てみた。

…あのプリクラか!本当に持ってやがった!

落書きしてあるな…本当に俺の顔に落書きしてるのか?

…違った。俺とハルヒとのツーショットの写真には、ハルヒの方には「将来のお嫁さん」俺の方には「将来のお婿さん」と書かれていた。

…お前は予知能力者か?

俺は大事にまた御守りの中に入れた。
これがあればどんな事からも護ってくれそうだ。

そう思い、また駅前までの道を行った。


俺は集合一時間前に駅に来た。さすがに誰もいないだろう?

…甘かった。すでに俺以外の団員は揃っていた。お前ら何時から来てるんだよ…そんなに奢るのが嫌か…せめて退院祝いとして奢って欲しいものだね…

俺が勝には一日前から泊まるしかないのか?

そして俺の姿を捉えたハルヒがニィっと笑って
「遅い!罰金!」
はぁ…やれやれ…俺の【悩みの種】は尽きないよ…

みんなが笑っている。俺も笑う。


やっぱり―――俺にはこの世界がお似合いだ。―――




―――この世界にはこんなにも光が満ちているのよ?―――




確かにそうだな…
だがな?俺にとってお前が一番の光の源であり、悩みの種なんだよ…




そんな世界を俺は望んでいる。人間は悩む生き物だ。これから一生俺を悩ませ続けてくれよ………




………なぁ?ハルヒ………?




悩みの種【悩みの種の潰えぬ世界】


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