ある暑い夏の日のことだった。
授業が終わり、俺はいつものように部室へと向かった。
ハルヒはHRが終わった瞬間に出て行ったので、一緒にはいない。
全く、どこに行ったんだろうね。また厄介事でも持ち込む気だろうか。
部室に着いた俺は、朝比奈さんが入れてくれた今の季節には合わない熱いお茶をすすりながら、古泉とゲームをしていた。
いつもと変わらない日々だ、平和で良いね。
とまあ、そんなことをゆったりと考えていたら、さっそくその平和はぶち壊された。
「皆揃ってる!? 今日はこれを植えに行くわよ!」
今空の上で光り輝いて、紫外線を振りまいている太陽とさして変わらないきらめき笑顔でハルヒはそう言った。
「何を植えるんでしょう」副団長がいつものスマイルで皆の疑問を代弁してくれた。
「これよこれ! キュウリよ! 夏といったらこれでしょ!」
ハルヒはどこから持ってきたか知らないが、キュウリの苗をたくさん抱えていた。
「植えるのは良いとして、どこに植えるんだ?」
これくらいのことはもう慣れっこなので、もうどこから持ってきたのかというハルヒにとって、どうでも良い質問はしないようにする。
聞いたって、罵声が飛んでくるだけだろうしな。
「裏門の近くに誰も使ってない花壇があったのよ! そこに植えるの!」
キュウリってそのまま花壇に植えても良いものなのか。まあそこらへんはハルヒのトンデモ能力でどうにでもなるかもな。
「さあ皆、花壇へ行きましょ!」ハルヒの一言で俺達は腰を上げた。


確かに、裏門の近くには打ち捨てられたような花壇があった。
花壇には埋め尽くすように雑草が生えていたので、団長様の命令により俺と古泉はこのクソ暑い中草刈をさせられた。
畜生マジで暑いぞ。


一時間ほどで大体の雑草は刈ることが出来た。終わった頃には二人とも汗だくだった。
「お疲れ様! さあ苗を植えましょうか!」
文句を言う元気も起こらないので、素直に苗を受け取って花壇に植えることにした。
皆で植えている途中、長門が少し悲しそうな、寂しそうな表情をしていた。無論、気付いたのは俺だけだ。
植え終わった後、近くに放り捨ててあった如雨露でキュウリ達に水を振り撒いてやる。
そして俺達は、時間も時間だったのでそのまま帰路に着いた。


「なあ長門、お前さっきどうしたんだ?」
登校路を下っている途中、さっき引っかかったことを聞いてみた。
「・・・」長門は何のことかわからないようで、俺に目で詳しい説明を求めてくる。
「ああいや、さっきキュウリを植えているときに少し元気が無さそうだったんでな。少し気になったんだ」
「・・・キュウリは、単為結果という方法で果実をつける」
「単為結果?」いきなり何を言い出すんだ。
「雄花を必要としない、受精が行われずに子房壁や花床が肥大して果実を形成すること」
「それが、どうかしたのか?」
「・・・つまり、キュウリは一人で生きていける、ということ」
少し長門にしては論理が飛躍してる気がしないでもないが、まあ気にしないでおこう。
「ううむ、まあそういうことなんだろうな」
「・・・私と同じ」
「はっ?」唐突に言われたので情けない声が出てしまった。
「北校に入学する以前の三年間、私は一人で過ごしてきた」確かそんな事を時間遡行したときに聞いたな。
「ずっと、一人だったんだよな」
「そう。・・・一人でも私は平気だった」
長門のまつ毛が少し、本当に微細だが震えている。
「しかし最近、自宅に帰ってから一人でいると、不可解なエラーが起きる。
 あなた達の言語に表すと、おそらく寂しいという感情。
 何故このようになるのかはわからない。多大なエラーが私の中で発生している可能性がある」
また、エラーか。俺は何故か軽い憤りを感じた。
「長門」少し語尾を重くして、呼びかける。
「・・・」
「それはエラーなんかじゃない。お前の中で大きな成長が起きているんだ」
「・・・」
「一人でいると寂しいと思う気持ち。それは人にとって至極当然のことなんだ」
「・・・」
「だから、そんなに耐えなくても良い。寂しいと思うことがあったらハルヒや俺達に連絡して来い。
 SOS団の皆がすぐに駆けつけてやる」


「・・・・・・・・・・・・あり、がとう」


長門は少し泣きそうな顔で、そう呟いた。
別にお礼なんか言わなくたって良いのにな。
今まで俺達は散々長門に助けられてきた。だから俺達が長門を助けるのも当然の事だろう?
皆、SOS団の仲間なのだから。

 


終わり

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最終更新:2009年07月05日 21:18