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なんの前触れもなく、それは突然やってきた。
俺達が卒業式を終えてから、一週間後の出来事。
朝比奈さんが未来に帰らなければならなくなったのだ。
そりゃあ、いつかはそんなときが来ると分かってはいたが…
いくらなんでも、急すぎる。
 
ハルヒがいる手前、朝比奈さんは未来に帰る、などと言えるはずがなく、
家庭の事情で海外へ引っ越さなければならなくなったという事になっている。
心の整理がつかぬまま、俺達は朝比奈さんの待つ空港へと足を運んだ。
 
朝比奈さんは最初こそ涙を堪えていたものの、それは無駄な努力に終わり、
現在は人目も気にせず、わんわんと号泣している。
このお方は自分の卒業式でも号泣していたな。
素直な人だと、しみじみ思う。
こんな姿を見れるのもこれで最後かと思うと、
俺まで泣いてしまいそうになる。
 
ハルヒも最初は「笑顔で見送ってあげるのよ!」と無理矢理にでも
笑顔を作っていたが、今は朝比奈さんと同じく号泣している。
長門は無表情の中にもチラリと悲しみの感情を浮かべており、
古泉は呆然としながら朝比奈さんを眺めていた。
 
「みくるちゃん、また、会えるのよね?」
腕で顔をゴシゴシと擦りながら、ハルヒはもう二度と会えない人へ向けるような声色で問う。
ハルヒの勘の良さにはいつも驚かされていたからな。きっとこいつも察しているのだろう。
もちろん、俺達は知っている。朝比奈さんとは、もう……。
 
「うぅっ……涼宮さん……ふえぇ」
顔面に大雨洪水警報が出ていそうなくらい涙を流しながら、
朝比奈さんは一生懸命、言葉を繋いだ。
「私……私、楽しかった、です……。本当に……。
 涼宮さんと出会って……、みんなと出会って……、うっく…
 恥ずかしい思いも、たくさんっ…したけど……それでも……
 大変だったけど……楽しかった…楽しかったんです…」
 
ふと気付くと、俺の頬には涙が伝っていた。
泣かないようにしてたんだけどな、俺も。
悲しいぞ、チクショウ。
「ごめんね。みくるちゃん。ありがとう……」
ハルヒは、何度も何度もありがとう、と繰り返していた。
 
「キョンくん。お世話になりました。本当に、ありがとう」
いえいえ、どういたしまして。また何かありましたら、いつでもどうぞ。
あなたの為なら俺は未来にだって飛んで行きますよ。ハルヒと一緒にね。
そう言いたいのだが、言葉が喉に引っかかり、上手く喋れない。
最後なのに、しっかりしやがれ俺。
「大丈夫っ……ありがとう、伝わってるよ」
朝比奈さんは笑ってくれた。涙よ邪魔だ。朝比奈さんの笑顔を滲ませるな。
 
「元気で」
長門は握手を求め、朝比奈さんは大事なものを扱うかのように、
そっと長門の手を包み込んだ。
「長門さんも、お元気で。迷惑ばかりかけてしまって…」
「いい」
朝比奈さんの言葉を遮り、長門は「楽しかった」と告げた。
もうこの二人をセットで見られなくなっちまうのか。
今のうちに目に焼き付けておこう。
 
しかし、それは次の出来事によって掻き消されてしまう事となった。
 
「古泉くん……」
「はい」
珍しく笑顔を貼り付けていない古泉は、静かに答えた。
「映画…あったでしょう?キスのとき、私、ドキドキしてたのよ。ふふ」
「僕も、です」
朝比奈さんしか見所がない、あの映画の思い出話をしているようだ。
今思えば、あれはあれで良かったのかもしれないな。
なんだかんだ言って、楽しかったしな。
 
「……ありがとう、古泉くん」
長門のように、俯きがちに握手を求める朝比奈さんの手は、小刻みに震えていた。
ぼーっと朝比奈さんの手を眺めながら、古泉はポツリと呟いた。
「ずっと、好きでした」
顔を上げた朝比奈さんの見開かれた目には、涙がたっぷりと溜まっていた。
俺やハルヒも驚いていたが、長門は……知っていたのか?
優しく見守るような目を二人に向けていた。
 
「離れたく、ないです」
手で顔を覆い、絞り出すように声を出す古泉。
こいつの泣くところを見るのは初めてだな。
もっとこういう風に感情を表に出せばいいんだ。
笑顔のバリエーションを増やすより、よっぽどいいと思うぜ。
などと考えていると、朝比奈さんは古泉の手を取った。
泣き顔もハンサムで腹が立つね。
 
「言ったほうが悲しくなるって、分かってます。
 でも……言わせて、ね。私も、好きです」
朝比奈さんの目に溜まっていた涙は、ボロボロと零れていた。
いつの間に想い合っていたんだという疑問は、昔の俺なら浮かんでいただろうな。
今の俺には浮かばない。ハルヒと俺が想い合っていたように、朝比奈さんと古泉も
想い合っていたんだ、ずっと。自分達が知らない間に。
 
俺達が見ているにも関わらず、古泉と朝比奈さんは抱き合っていた。
朝比奈さんを抱きしめるという俺がずっと実行したかったことを
すんなりとこなしやがるとは。古泉め。
 
「忘れません。私、ずっと、ずっと。古泉くんっ……」
「僕も、忘れません。この気持ちも、あなたも。ありがとう」
――まるでドラマを見ているようだ。
二人のキスシーンは、そう思えるほど絵になっていた。
悲しくも、美しい。俺には似合わない言葉だが、
そう思ってしまうんだからしょうがない。
 
こうして朝比奈さんは、未来へ帰っていった。
古泉は、あれから一度も涙を流すことはなく、
笑顔で日々を過ごしていた。
「笑っていてね」という朝比奈さんの言葉通りに。
 
高校を卒業しても、休日はSOS団で過ごすことになっている。
今日もいつもの場所で、いつものように、四人で集まっていた。
なんと、今日は俺よりも遅いやつがいるのだ。
「あ、来た来た」
ニコニコといたずら好きの子供のような笑みを遅刻者に向けるハルヒ。
 
「すみません、遅れてしまったようですね」
と苦笑しながらも不思議そうな顔を俺に向ける古泉。
きっと今こいつの頭の中では、どうして俺より遅れてしまったのか、
という疑問が駆け巡っているに違いない。
 
それもそのはず、古泉には集合時間を何分かずらして伝えていたからな。
「遅刻した人は罰金、ですよ。古泉くん」
照れ笑いを浮かべながらハルヒの後ろから出てきた人物を、
古泉はポカンとしながら見つめていた。
そう、ハルヒの後ろから出てきた人物とは、
何を隠そう朝比奈さんなのである。
 
俺達や朝比奈さんが勝手に永遠の別れと思い込んでいただけで、実際は違ったらしい。
朝比奈さんのドジっ子属性が俺達にもうつってしまったのだろうか?
古泉は顔を真っ赤にしながら、その場にしゃがみこんだ。
しゃがみこんだ古泉の前に、朝比奈さんも頬を真っ赤に染めながらしゃがみ、
古泉の顔を覗き込んだ。その瞬間、
 
「ひゃうっ!?」
古泉が思い切り朝比奈さんを抱きしめた。
朝比奈さんの肩に顔を埋めながら、
「また会えて、良かった」
と、心から幸せそうな笑みを浮かべていた。
朝比奈さんも幸せそうに涙を流しながら、微笑んでいた。
ハルヒは満面の笑みで、長門は無表情だが嬉しそうにしている。
俺も自然と顔が綻んでいた。
 
「あんた達をこのまま二人きりにさせてやりたい気持ちはあるんだけどねぇ」
と言いながら、朝比奈さんを古泉から引っぺがし、
「今日は有希の家で『みくるちゃんおかえりパーティ』をするって決まってるの!」
ハルヒは朝比奈さんを抱きしめ、頬擦りをした。どさくさに紛れて俺もしていいか?
なに馬鹿なこと言ってんの?と俺を睨んだと思ったらすぐに笑みを作り直し、
「思いっ切り楽しむのよ! 隙を見て二人で抜け出しても、今回は特別に許してあげるわ!」
「ありがとうございます、涼宮さん」
なぜ俺にウインクを飛ばす。気色悪いぞ古泉。
 
「さぁ、買い物に行くわよ! キョン、変な顔してないで、
 しっかりと荷物を持ちなさいよ!」
やれやれ。
今日は楽しい一日になりそうだ。
 
 
『古泉一樹の告白』
終わり

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