――こーのーおおぞらにーつばさをひろーげー


ラジオから昔ながらの名曲が聞こえてくる。
昔はよく小学校で歌ったもんだ。一番好きな合唱曲だったな。
しかし自慢じゃないが俺は音痴なのだ。授業のテストでたった一人で歌わされたのは地獄だった。
昔の事を現実逃避気味に思い出し、ため息が出る。
「なーにをやってるんだろうね・・・俺は」
周りには誰もいないので、俺は普段の声量で口にする。
透き通るような綺麗な青や白が、空を描いていた。
芸術センスなど皆無なのだが、この空の色を出せる人はいないだろう。それくらい綺麗だった。
「ムカつくくらい青いなチクショー!」
大声で、誰に向けたか分からない叫び声を出す。空に対して、かな。
ラジオで聞いていた音楽はいつの間にか終わっていて、別の曲が流れていた。
そして俺はラジオの電源を消し、立ち上がって普段生活していれば踏み出すことの無い一歩を踏み出す。


「あーあ、俺にも羽があればなあ」
そして俺は、蟻のようにひしめく人ごみの中に、飛んだ。
無論、俺の背には羽など付いていない。あと数秒したら付くんだろうね。


空はいつまでもどこまでも、青かった。
俺は、一瞬だけれどもその空を飛んだ。確かに、飛んだのだった。


 
終わり

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最終更新:2009年07月05日 03:46