コンコン、俺はすでに習慣になっているノックをした。のだが、部室からは
なんの反応も無いのでさっさと入ることにする。
 
ガチャ
 
「ん?長門、いるんなら返事くらいしてくれよ」
 
誰もいないと思っていた部室には、この部屋の置物と化している
自称、宇宙人に作られたアンドロイド、長門有希がイスに座って
音も立てずに本を読んでいた。
 
「………」
 
何の反応もなしか。最近では俺も少なからず長門の表情を
読み取ることは出来るようになったんだがな。
 
突然俺は目に違和感を感じた。ゴミでも入ったか?
 
「長門、悪いんだがちょっと俺の目にゴミが入ってないか見てくれないか?」
 
そう長門に頼むと、長門は無言で頷き、フラフラと俺の目の前までやってきて
少し背伸びをするように俺の目を覗き込んだ。
 
長門の顔が目の前にある。俺は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
 
その時、部室のドアが勢いよく開いた。
 
俺は反射的にドアの方を向いた。そこには眉の片方をピクピクと動かして
さらにはその動きと連動しているかのように口の端もピクピクさせている
団長様が立っていた。
 
「あ、あんたねー!有希にな、なんてことしてんのよ!!」
 
あ?そうか、まずいな。傍から見りゃあれは俺と長門がキスしているようにも見える。
しかしなぜ俺が無理やり長門にしたみたいなことになってるんだ?
 
「あー、ハルヒ。お前が言いたいことは良くわかる。
しかしだな、まずは俺の話をだな…」
 
「言い訳すんな!このエロキョン!変態!変態変態!!」
 
俺の話をまともに聞こうとしないばかりか
人のことを変態呼ばわりするハルヒに、俺はムカっときてしまった。
今思えば俺はなんであんなくだらない嘘をついちまったんだ、と後悔している。
 
「…っ!俺が長門とキスして何が悪いんだっ?」
 
「ッ!?」
 
『バチーン!!』
 
「ぶへぁ!!」
 
俺がハルヒにくだらない嘘ついたその瞬間、ハルヒの強烈な平手打ちが
俺の頬にクリーンヒットした。
 
「ってぇな!何すん……」
 
俺はハルヒの様子がおかしいことに気づき怒鳴ることをやめた。
 
「…ヒック、バカキョン、…なによ…ヒック…バカキョンバカキョン…」
 
ハルヒは泣いていた。俺は状況を把握するのに精一杯で
ハルヒに対するフォローが出来なかった。
タッタッタッ……。ハルヒはそのまま部室を後にした。
 
あぁ、俺は何やってんだろうな。長門はすでに何事も無かったかのように
イスに座り読書に耽っていた。
 
部室のドアを開けるとそこには信じられない光景が見えたわ。
だってそうでしょ?なんたってキョンとあの有希が
……キス…してたんだから。
 
「あ、あんたねー!有希にな、なんてことしてんのよ!!」
 
あれ?なんであたしこんな怒ってるんだろ?
べ、別に高校生がキスするなんて普通じゃない?
でもよりによってキョンが…しかもこんなとこで…
そ、そうよ!あたしは、このSOS団の部室でこんなことしてるが許せないのよ!
……きっと。
 
「あー、ハルヒ。お前が言いたいことは良くわかる。
しかしだな、まずは俺の話をだな…」
 
「言い訳すんな!このエロキョン!変態!変態変態!!」
 
あれ?今、キョンが何か言おうとしてたのに。
あたしったらまた怒ってる。なんだろ?すごく苦しい。
よく分からないけど、すっごくムカムカするわ。
 
もっと落ち着かないとね。さっきのだってきっと何かの勘違いよね。
あぁ、怒鳴りまくったら少し落ち着いたわ。
さぁキョン!洗いざらいゲロっちゃいなさい!
 
その時、キョンの口から出た言葉は私の予想と大きく違ったわ。
 
「…っ!俺が長門とキスして何が悪いんだっ?」
 
え?キョン?今…なんて言ったの?
あたしは気がつくとキョンを殴ってた。
それに…泣いてた。
あたしはキョンに何か言って、そのまま走って帰ったわ。
もうその場にいたくなかった。ううん、いられなかったの。
 
しばらくすると朝比奈さんと古泉が部室にやってきた。
 
「先ほど涼宮さんが猛スピードで走っていかれるのを見たのですが、何かあったのですか」
 
「ん?あ、あぁ…色々あってな」
 
「涼宮さん……泣いてましたよ?」
 
「え?…あ、あはは。そうでしたか」
 
などと俺はガキ以下のすっ呆けを演じて見せた。
しかし、この2人は最初から全部分かってて聞いてるんじゃないか?
と思うほどあっさり言い放った。それもタイミングピッタリで。
 
「嘘ですね」
「嘘ついちゃダメです」
 
はい、嘘つきました。俺は洗いざらい白状した。
 
「なるほど、そんなことが」
 
「キョ、キョン君!な、なな何でそんな嘘ついちゃったんですかぁ!?」
 
「いやぁ、急にハルヒに怒鳴られたもんで…」
 
「そ、そんなヘタレ野郎みたいなこと言わないでください!」
 
ヘタレ野郎って、朝比奈さん?
 
「とにかく、これは非常にまずいですね。今のところ閉鎖空間の発生は確認出来ていませんが
いつ何が起きてもおかしくは無い状況でしょう。」
 
「スマン」
 
俺は力なく謝った。また面倒かけさせちまったな。
 
「謝るのは私達じゃなくて涼宮さんにです!
確かに、何も聞かずにキョン君をキモイ変態野郎扱いしたのは悪いです。
でも、そこはキョン君が堪えないとダメなところなんです!
涼宮さんの気持ちも考えてあげて。」
 
朝比奈さん……。どうでもいいですけどそこまでひどいことは言われてません。
 
翌日、俺は何度もハルヒに謝ろうとしたが、話しかけてもそっぽ向かれるし
休み時間になるとどっか行っちまうで、謝れないでいた。
LHRも終わりかけたとき、俺はハルヒに口早に伝えた。
 
「ハルヒ、どうしても言いたいことがある。部室に来てくれ」
 
俺はそういうとさっさと部室に行った。
 
部室には当然ながら誰もいなかった。昨日のうちに皆みは言っておいたしな。
 
ガチャ、俺が部室についてから間もなく、ハルヒがやってきた。
 
「……話ってなに?」
 
俺はハルヒは怒ってるもんだとばっか思ってたが
これはどちらかというと落ち込んでるみたいだった。
 
「あ、あぁ。ハルヒ、その…スマン」
 
俺はとりあえず先に謝った。それから昨日のことの真実を打ち明けた。
 
「嘘よ、そんなの。」
 
「本当なんだよ。頼む、信じてくれ」
 
「嘘!そんなの嘘に決まってるわ!!いいじゃない!
あんたが有希と……何しようが勝手よ!」
 
ハルヒは頑なに俺の言うことを信じてくれなかった。
まいったなどうする?
 
ガチャ、と誰かが部室に入ってきた。
誰だ?昨日みんなには言っておいたはずなのに。
俺はドアのほうを見て驚いた。
そこには長門が立っていたのだ。
おいおい、今のタイミングだとさらに誤解を招くんじゃ……
 
「ッ!?あ、あら、有希じゃない。そういうこと。
ふ、ふん!また部室で楽しもうってこと!?」
 
「ち、違う!長門はだな……」
 
俺が必死に言い訳を考えてると、長門がゆっくりとした
口調で、ハルヒに語り始めた。
 
「彼の言ってることは本当。事実関係に虚偽はない」
 
「ふ、ふん!どうかしらね?」
 
「信じて」
 
「そ、そんなの、信じろって言われても無理だわ!」
 
俺が何とかハルヒを納得させるべく、頭をフル回転させていたとき。
長門はハルヒの方にフラフラと歩いていって、ハルヒの耳元に口をもっていった。
 
「な、なによ!」
 
ハルヒは長門を拒絶しようとしたが、長門も食い下がった。
そして長門がなにやらハルヒにヒソヒソ話を終えたところで
ハルヒは顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。
 
「そ、そう。ま、まぁいいわ。ゆ、許してあげるわよ」
 
ようやくハルヒの機嫌が直ったようだ。
それにしても長門の奴、ハルヒに何吹き込んだんだ?
 
俺とハルヒは長門の計らいで一緒に帰っていた。
その時のハルヒはやけに可愛らしく、普通の女子高生だった。
俺の手を無理やり握るあたりはハルヒらしいんだがな。
 
俺はハルヒに最大の疑問をぶつけることにした。
 
「なぁハルヒ。長門の奴、なんて言ってたんだ?」
 
「……秘密っ!」
 
そう言ってアカンベをするハルヒ。
長門が何を言ったのかはもうどうでもいいことだった。
ハルヒと仲直りできたしな。いや、それ以上だな。
 
そうして俺はハルヒと手を繋いだまま坂道を下っていった。
 
おしまい。





 
~おまけ~
 
学校に行くとキョンがあたしに話しかけてくれた。
でもあたしは何を話していいかわからなくて、無視しちゃったり
休み時間になるととりあえずキョンから距離を置いた。
あたしってひどいね。
 
LHRも終わりそうになったとき、キョンが部室に来いって言ってくれた。
決めた!いつまでもこんなんじゃダメだよね。
部室に行ったらキョンに謝らないと。それからちゃんとキョンの話聞かないと。
 
部室に行くとキョンだけだった。
 
「……話ってなに?」
 
あぁもう!そうじゃないでしょ!?まずは謝るのが先でしょ!?
 
そんな風に自分に突っ込んでると、キョンが謝ってくれた。
それに何があったのかをちゃんと説明してくれた。
そっか、なーんだっ。そんなことだったんだ。
バカだなー、あたし。そう思うと、すっごく自分のことが嫌になった。
どんどんムカムカしてきちゃったの。
 
「嘘よ、そんなの。」
 
まただ。あたし何言ってるの?
 
「嘘!そんなの嘘に決まってるわ!!いいじゃない!
あんたが有希と……何しようが勝手よ!」
 
心にもないことしか出てこない。違う。
あたしが言いたいことはこんなんじゃない。
折角キョンが本当のこと話してくれたのに、どうして悪態しかつけないの?
 
そんな時、有希が入ってきた。どうしてだろ?
有希のこと見たらますますイラついてきたの。
そっか、キョンと有希はこうやって部室であんなことしてるんだ。
さっきキョンが説明してくれたばかりなのに、あたしはまたそんなことを考えてた。
 
「ッ!?あ、あら、有希じゃない。そういうこと。
ふ、ふん!また部室で楽しもうってこと!?」
 
もう自分を止められなかった。
 
突然有希があたしの方に歩いてきた。
何よ?やるっての!?
 
すると有希はあたしの耳元で囁き始めたの。
 
「……私は知ってる。彼はあなたにゾッコン。
部室で2人きりの時は大変。ずっとあなたの話ばかり。
あの仕草が可愛い、またポニーテールが見たい、一緒に手を繋いで帰れたら死んでもいい。
そんなことばかり。だからお願い。このままあなたに嫌われたままだと
彼は本当に死んでしまうかも知れない。彼はキスをするならあなたと決めている」
 
そんなこと言われたわ。キョンがあたしのこと?そうなのキョン?
 
キョンがそんなこと思ってたって知ったら、今までのことがどうでも良くなったわ。
 
キスはまだにしても、手くらいは繋いであげないとね。なぐっちゃた件もあるし。
 
そのまた翌日。
やはり俺は長門の言ったことが気になって本人に直接聞いてみた。すると
 
「あなたが嘘をついたように、私も嘘をついてみた。」
 
おしまい。

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