「正味の話、あたしのことどう思ってるの?」
 ある日の活動のこと。ハルヒはキョンに問いかけた。
「何だ、藪から棒に。同級生で、年がら年中変なことを考えてる変な団長、とかか?」
 キョンはお茶をすすりながら、さもやる気なさげに答えた。
「何よ、つまんない反応ね。ま、あんたに聞いたあたしが間違ってたわ」
「お前が自らの非を認めるのも珍しいな」
「古泉くんは?」
 ハルヒはキョンのコメントを無視して古泉に問いかけた。
「そうですね、ぼ……」
「あんたは、『僕にとって、涼宮さんはとても素敵な女性だと思いますね』と言うっ!」
 ハルヒは古泉の発言に被せて叫んだ。
「これはこれは。内容を読まれてしまいましたか」
「ふふん、伊達に団長は名乗ってないわ。それぐらいは楽勝よ! たまにはあたしの意表をついてくる副団長も見てみたいわね」
「精進します。」
「さて……みくるちゃん!」
「ひゃうっ!?」
 水を汲みに行くことを装って部室からの逃走を図っていたみくるが、正にドアノブに手をかけた瞬間、ハルヒに呼び止められた。
「みくるちゃんは、あたしのことどう思ってるのかなー?」
 つかつかと、実に良い笑顔でみくるに歩み寄ったハルヒは、ギギギという音が聞こえそうなほどぎこちなく振り返ったみくるの顔を両手で挟んで詰め寄った。
「え、えっと、えっと~……」
 目を逸らしながら返答に窮するみくるは、しかし顔をしっかりとハルヒの両手に固定されているため、ハルヒの視線から逃れられない。
「な・に・か・な~?」
「あうあう、あの、えと……」
「おい、朝比奈さんが怯えてるじゃないか。大体、何で急にそんなことを聞いてるんだよ」
「黙ってて。ここ、大事なところだから。」
 ハルヒは、キョンに元気を注入したときのような顔になっていた。
「それは……き、禁則事項です!」
 みくるは怯えながらも、ハルヒの熱烈視線に真っ向から対峙した。涙目で。
「……みくるちゃんは、回答保留、ということね」
 ハルヒから開放され、へなへなとその場にへたり込むみくる。

「さて……あたしも実は一番気になるんだけど……有希!」
 ハルヒは、我関せずとばかりに窓辺で本を読み続ける長門に歩み寄り、その両肩に手を置いた。
「あんたは、あたしのことどう思ってるの?」
 無垢な小動物のように澄み切った黒い瞳を覗き込みながら、ハルヒは静かに問いかけた。
「…………」
 期待と不安で当人比5割増に輝いているハルヒの瞳を見つめながら、長門は無言を継続している。ハルヒもまた、長門の回答をいつまででも待ち続ける雰囲気を醸し出している。
 二人のにらめっこが続いた。
 やがて、長門の瞳が、長く付き合った人間にしか分からない程度に、微かに揺れた。
「あなたは……」
「あたしは?」
「…………」
 再び沈黙。しかしその裏で、長門の周囲には、人間には信じられないほどの高密度な情報の流れが発生していた。
 情報統合思念体との通信により、長門が今まで知り得た、涼宮ハルヒに関する観測情報を全て吟味し、最適の回答を検討する。不用意な回答は、世界の破滅をも招きかねない。
 涼宮ハルヒは、長門有希にとって、観測と保護の対象。しかし、その事実は観測対象である本人に伝えるわけにはいかない。観測に支障を来す。
 事実を隠蔽するのは簡単。だが、ハルヒはその強力な洞察力で、事実を覆い隠す虚偽の存在を敏感に検知してしまう。事実と大きく乖離した回答も危険。
 真実は言及せず、虚偽は申告せず。真実ではないが嘘は言っていない、そのような絶妙な回答を用意しなければならない。
「わたしの……」
「有希の……何?」
 ハルヒの瞳が、期待と不安で当人比30倍に輝く。
 『観測』の対象にして、『保護』の対象。これを人間の言葉に置き換えると。
 ハルヒの瞳を真っ直ぐ見つめる長門。長門が用意した回答はこうだった。

「……特別な人。大切な人」

 ハルヒはひどく赤面した。


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