「というわけなんだよ。佐々木さん」
 それは僕の羞恥心をえぐり出すような体育祭を終え、紅葉が河川敷に四季を彩らせた頃だ。
「一体何がというわけなんだい」
 生徒会室にて前期生徒会役員だった国木田が僕に提案した依頼は、一理の理解すら不可能に近い物だった。と言うより理解してたまるか。
「そんなこと言わずにさ、ハロウィンの日に魔女衣装を着て商店街を練り歩いてよ。お願い」
「できるか!」
 なんだその罰ゲームみたいなお願いは!ハードだしハードルが高過ぎる!そしてその人畜無害を似顔絵にしたような笑顔を消したまえ!今すぐ空中佐々木チョップで全身計26箇所の複雑骨折を強いりたくなるくらいにムカつく!
 実は我が校の生徒会にはハロウィンの日になると、地域振興と交流を兼ねて町内の子供会と共に、ハロウィンの意識した仮装で商店街を練り歩くという伝統があるのだ。いやだ、そんな伝統。
 しかしだ、国木田の話によると魔女役の女生徒(今期生徒会会長)は当日、父の単身赴任先であるイギリスに出向かなければならないようだ。
「勘弁してくれ。あの体育祭の時みたいな羞恥心の削り売り大バーゲンセールなどごめんだ。他を当たってくれ」
 岡本さんとか岡本さんとか、あと岡本さんとか。彼女ならノリノリでやってくれるさ。自前のステッキを装備して最前列でアホみたいにクルクル回ってくれるよ、絶対。マッワーレッ!
「実は昨日既に岡本さんに頼んでみたんだ。「いいよ」って即答だったよ」
二つ返事どころか一つ返事で彼女らしい。それで決定ではないのか?
「ただね……」
 その瞬間は見逃さなかった。刹那、国木田の視線の角度が二度ほど下に折れた。そして捉えたのは僕の心臓だ。あぁそうですか。そういう事ですか。
「国木田。怒らないからちょっとそこに正座しようか。つーかしろ」
 この復讐は僕のものだ!
「うん。まあそういうわけなんだよ。岡本さんじゃ、ちょつとサイズが合わなくてね。かと言って寸法を直すほど予算が出ないわけで。仕方ないから岡本さんには辞退してもらったよ」
 そして僕は国木田のお眼鏡にかなったわけか。やれやれ。
「断る!」
 要は貧にゅ……ではなくて幼児体け……でもなくて……えぇと……その……もう良いよ貧乳で!貧乳だから頼んでるんでしょ?!そんな依頼理由で喜ぶ女がどこにいるの!
「どうしてもダメかな?子供会の子供達も楽しみにしてるんだけどな」
 次は泣き落としか。確かに良心がチクリと痛んだが、こんなところで負けてたまるか。僕のプライドのためにも。
「キョンが出ても?」
「だからなぜ毎回毎回キョンが……は?」
 あのキョンが?彼をプロファイリングする限り、こんなコスプレ大会に出場したいと思うわけがない。
「キョンは妹には甘いからね。妹さんが「キョンくんが出てくれなきゃヤダヤダ!」って泣きつかれたらしくてさ。子供会代表として出るみたいだよ」
「国木田。つかぬことを聞くが、彼は何の仮装をするんだい?」
「あ、食いついてきたね」
 ほっといてくれ。そしてそのアオダイショウみたいなスマイルを外したまえ。
「で?」
「フランケンシュタイン」

 


「フランケンシュタインは、イギリスのホラー小説家メアリー・シェリーが1818年3月11日に匿名で出版した小説『フランケンシュタイン、すなわち現代のプロメシュース』に登場した主人公であるスイス人科学者の名前なのさ」
「ややっこしいなぁ。じゃ、あの怪物はなんて名前なんだ?」
「ジョン・スミス」
「は?」
「ジョン・スミスあるいはジョン・ドゥ。これは英語圏で身元不明の死体を発見された時、便宜上につけられる名前さ。名無しの権兵衛。つまりあの怪物には名前なんか無いんだよ。キョン」
「つってもなー、それじゃあフランケンシュタインは自分が造った怪物をなんて呼んだんだ?」
「呼ぶ必要なんかないさ。なぜなら、呼んでないから」
「え?」
「君も承知のはずだろうが、あの怪物はひどい容姿だろ?少なくとも僕だったら、出会った瞬間に気絶するだろうね。それはヴィクター・フランケンシュタイン氏も同様だったらしく、彼を創造した瞬間、恐ろしくなって故郷のスイスまで逃げ帰ったのさ」
「ちょっと待てよ佐々木!つまりフランケンシュタインは自分の勝手な都合でそいつを造って、自分の勝手な都合でそいつを見捨てたのか?」
「そうなるね」
「ふざけんな。そいつの気持ちはどうなるんだよ?それじゃ、そいつがあまりにも惨めじゃねーか」
「それは君が原作を読んで判断すべきだね。だが……僕の意見を言わせてもらえば、彼はヴィクター・フランケンシュタインを恨んではないとは思いたいね」
「なんでだ?俺だったら怒り狂うぜ」
「僕はねキョン、この世界が好きなのさ。自宅には父と母がいる。学校には心許せる友人がいる。君と言うかけがえのない親友がいる。そんな世界に生んでくれたんだ。僕なら感謝したいね」
「……佐々木、お前はやっぱいい奴だな」
「ありがとうキョン」
「ただ……」
「わかってるから黙りたまえ」
「お互い、こんな格好でする会話じゃないよな」
「ああ。そうだね」
 どちらかともなく深いため息と共に、あの決め台詞が漏れた。
「やれやれ」
 キョンの言う通り、今の僕たちの格好は魔女とフランケンシュタイン・クリーチャーだ。そしてここは町の公民館。これから羞恥心の削り売り大バーゲンセールの開始である。
 なぜかは簡単だ。数日前、生徒会室にて国木田の泣き落としに屈し、キョンのコスプレという知的探究心に負けたからである。
 そのキョンの格好だが、おしろいで顔を蒼白気味に変え、黒い上下の背広という、伝承どおりのフランケンシュタイン・クリーチャーだ。
 うん、まぁ、なかなか似合ってるよ。メイクもさっき岡本さんがやっただけあり、無駄に凝っている。正直魅力三割増しだ。これだけなら僕も来たかいはある。だが、
「しっかしなー。お前のそれはまずくないか?小さい子もいるんだぞ」
「……文句なら国木田と現生徒会長に言ってくれ」
 これはあれだ、魔女と言うよりマジシャンだ。もっとも、魔法も手品も英語にすればマジックだが。
 黒のシルクハットに、バニーガールみたいな露出過多ピチピチスーツ。そして足首まであるマントだ。ご丁寧にステッキと宝塚歌劇団に出てきそうな仮面までついている。正直気力十三割減だ。合わせてプラスマイナスゼロである。勘弁してくれ。
「そういうな。結構似合ってるぞ」
「これが似合ってても嬉しくないよ。人を変人みたいに言わないでくれたまえ」
「何を今さヘブラッ!」
 僕の装備しているステッキ先端が、キョンの鼻孔をこじ開けたのは言うまでもない。

 


「キョンく~ん」
 鼻を串刺しにしたステッキを引き抜いた瞬間に、妹さんがキョンの膝に抱きついた。間一髪。あと少し引き抜くのが遅かったら、傷害事件を見られていたとこだ。
「あっ!ササッキーちゃんもいる~。こんにちわ~」
「ええ、こんにちわ」
 そんな彼女の衣装だが、全身に包帯を巻きつけたミイラ男(いや、ミイラ女か?)ことマミーだ。どことなく小動物を彷彿させるような仕草も相まって、可愛らしいじゃないか。思わず頭を撫でてしまった私を誰が責めようか?
「えへへ~ありがと~ササッキーちゃん」
 減ってしまった気力が三割ほど戻った気がした。
「ん?そういやミヨキチとは来てないのか?」
 はて、ミヨキチ?妹さんの彼氏さんだろうか?なかなかませているじゃないか。
「ミヨキチは、はずかしいからあそこにかくれてるって」
 妹さんが指し示したのは、窓際で折りたたまれているカーキ色をした分厚いカーテンだ。その気持ちはよくわかる。私なんか隠れるどころか逃げ出したいくらいだしね。
「ミヨキチ~せっかく来たんだから出てきなよ~。キョンくんも楽しみにしてるってさ」
「おいおい。あんまり無理強いは……お、出てきたな」
 ……え?
「お、お兄さん!お久しぶりです!」
「そうか?一週間くらい前にあった気がするが。ミヨキチはドラキュラか。うむ、似合ってるぞ」
「……キョ、キョン!」
「なんだ佐々木?今、俺はミヨキチを愛でることで忙しい。後にしてくれ」
 とりあえず鞭のように鋭いローキックをぶちこんでおいた。僕の話を聞きたまえ!今すぐに!
「いだだだだだ。なんだよ佐々木?」
「君の妹は小学校何年生だ?!」
「小4だよ。容姿は低学年くらいだが」
「そんなことないもん!」
 ああ妹さん。ご立腹なのはわかるが、少し黙ってくれたまえ。
「それじゃ彼女も小学四年生になるのか?!」
 嘘だ!認めくない!こんなに発育の良い小学四年生がいてたまるか!
「あたりまえだろ?」
 目眩がした。ああ……僕が小学四年生の時なんか、もっと子供子供していた。特に胸が。
「佐々木?どうした?あとなんか顔色わりいぞ?」
 膝をつき、両手で床を押さえつけている僕にキョンは心配げに語りかけてきたが、僕は自分が心配でならなかった。特に胸が。……ねえお母さん、佐々木家では巨乳は劣勢遺伝子なの?もしくは貧乳が優勢遺伝子なの?
「……帰りたい」
 本音である。そしてミヨキチか、おもわぬ伏兵がこんなとこにいたというわけね。おのれ諸葛孔明め。

 

 

「トリックオアトリート♪」
 それからの事は良く覚えてない。敗北感が私の体をむしばんでいたからからね。ぶっちゃけどーでもいい。気がつくと子供達と一緒に仮装で商店街を練り歩いていた。
 不幸中の幸いか、私の魔女装備には目元を覆い隠せる仮面が着いているため、素顔を晒せないでいる。ここだけは感謝しよう。
「へ……へくちゅ!」
 しかしだ。あれだけ暑かった夏のわりに残暑は期待できず、今年の秋は非常に寒い。こんなR-15指定露出過多マジシャン衣装では辛すぎる。
「うぅ……お腹空いた」
 それに腹の虫も空腹を訴えている。だがこんな格好ではコンビニなんかに入れない。と言うより財布を持っていない。魔女なんだから財布ぐらい出させろと言いたい気分だ。
「お、お兄さん!」
 すると、最前列付近で妹さんと仲良く行進をしていた発育過多小学生吉村美代子ことミヨキチちゃんが私たちの前まで走ってきた。なにかあったのだろうか?
「どうしたミヨキチ。あれ?うちの妹は?」
「ごめんなさいお兄さん!私、はぐれちゃいました!気がついたときには手も離れてて……本当にごめんなさい!」
 どうやら妹さんは迷子になってしまったらしい。
「キョン」
「わかってるよ佐々木。探しにいくぞ」
 いまごろどこかで泣いているかもしれない。早く見つけ出さないと。あと、
「ミヨキチちゃんはここにいてね。あなたまではぐれたら元も子もないわ」
 妹さんが心配なのか私が残留を提言すると、ミヨキチちゃんは不満げに私を見据えてきたが、ここは譲るわけにはいかない。
 成長率だけなら私たちと同年代だが、さすがに中身はまだ小学四年生のはずだ(というより、そうであってほしい)。二次災害も十分にありえる。
「心配するな。俺たちがすぐに見つけて来るからな」
 ちょっと待ったキョン。そこで彼女の肩を抱く必要がどこにある?そうやって無差別にフラグを立てるから……いや、今はいいか。
「……わかりました。二人とも気をつけてくださいね」

 


「どうかなキョン?妹さんの居場所で、どこか思い当たるところはないかい?」
 商店街のメインストリートから一本道を離れてから、とりあえず聞いてみた。兄妹だしね。なにか思うところがあるかもしれない。
「悪いな。まったく思いつかん」
「ならしらみつぶしが効率的かつ、一番確実性があるだろう。僕は東側。君は西側。それでどうだい?」
「それしかねえか。それじゃ、後でな」
 キョンとハイタッチをし、それを合図に僕たちは二手に別れた。もうじき日が落ちる。早く見つけないとね。

 


 秋の夜長とはよく言ったものだ。さっきから月の光が私を照らしている。もうこんなに暗くなってしまったようだ。
「……困ったわ。全身包帯姿の少女なんて、すぐに見つかると思ったんだけど」
 目立つ格好だし、私はある種の楽観論で考えていたが、どうやら覆すべきのようだ。
「本当、どこにいるのよ」
 一瞬、頭の中で「キョンのいる西側方面にいるかもしれない」と思ったが、偶然に頼るほど私は白状者じゃない。相手がキョンの親族ならなおさらだ。
「ああ!ごめんなさい!ちょっといいですか?!」
 とにかく聞き込みだ。目の前の十字路を横切った女の子に聞いてみよう。この制服は東中ね。
「……なにあんた?変質者?」
 この格好じゃ無理も無い。私が彼女の立場なら悲鳴を上げただろう。こんだけ敵意の視線は向けないと思うが。
「すまない。決して変質者でもなければ、精神病患者でもない。とりあえずこの格好には指摘をいれずに私の話を聞いてくれない?」
「……話って何?」
 気のせいか?一瞬だけ嬉しそうに目を輝かせた気がするが。いや、今は気にしてる暇は無いわね。
「この近くで小学生くらいの女の子見なかった?」
「そこら中にいるわよ」
「話は最後まで聞いて。その中で、ミイラ男みたいに全身包帯姿の女の子よ。知らない?」
 彼女はしばらく考え込むように俯き、
「……ああ、あの子か」
「知ってるの!?どこで!?」
 子一時間走り回ってやっと手がかりを発見した。しかし、
「あんた、その子とどんな関係よ?悪いけど、変質者かもしれない相手においそれと教えるほど簡単じゃないのよ。あたしは」
 これも無理も無い。だけど今回ばかりは勝手が違う。なんとか彼女に話してもらわないと……。
「彼女の兄の友だちじゃダメかい?」
「そんなのどうとでも言えるわ」
 疑り深い女の子だ。常識的過ぎるのも考え物ね。
「……ならこんなのはどうかな?あなた、その子を見た場所まで私を案内してくれない?もし彼女が私に拒否反応を示したら、警察にでも何でも突き出せばいいから」
「あんたが凶器とか持ってたらどうするのよ?」
「こんな間抜けな格好のどこに凶器を隠せるのよ」
 財布だって隠せないのに。
「……それもそうね。そのかわり変なことしたら、すぐに縄でフン縛って、商店街のアーケードに吊るしてやるから!」
「くっくっ、好きにすればいいさ」
 やれやれ、とりあえず第一関門突破ね。あとは無事に見つかるといいけど……。

 


 彼女が案内してくれた場所は、そばに高級分譲マンションが目に付く、それなりに広い公園だった。
「あたし、昼過ぎからずっとここのベンチで座ってたのよ。で、それも飽きたから帰るときにその子を見たわ」
 昼過ぎって。今日は平日でしょ?学校はどうしたのよ。
「……うっさいわね。あんたには関係ないでしょ」
「無いね。でも、学校生活なんて人生の中では十二年しかないんだから。行かなきゃもったいないと思わないの?」
「……入ったって、つまんないわよ」
 それだけ言って、彼女は拗ねたペリカンみたいに唇を突き出してだんまりを決め込んでしまった。
 野暮だっただろうか?……いや、深く指摘してはそれこそ野暮だ。
「ササッキーちゃ~ん!」
 ごふっ!泣き声と同時に、妹さんが茂みから飛び出してきた。だけど抱きついた瞬間、彼女の額が私のみぞおちを直撃!ちょっと待って!息ができないから!
「げほげほ……ふう。君はどこに行っていたんだい?キョンも私もミヨキチちゃんも心配してたのよ?」
「うぇーん!ごめんなさぁーい!」
 顔面を涙でくしゃくしゃにしながら謝っているので、わたしはこれ以上注意する気が失せてしまった。
「でも見つかってよかったわ。さ、みんなのところに帰ろうか」
「うん!」
 私の差し出した手を、よほど寂しかったのか彼女は歳不相応の強い力で握り返してきた。

 それは公園の出口をくぐろうとした時だった。
「……ねえ、あんた楽しい?」
 妹さん捜索に多大なる功績を挙げた彼女が、そんな抽象的な質問をしてきた。
「くっくっ、唐突だね。一体何に対応した質問だい?」
「決まってるでしょ!この世界よ!」
 夜空に浮かぶ月をも貫くような勢いで彼女は指で頭上を指した。
「なかなか壮大なことを聞くね。……うん。楽しいね。楽しくなければこんな格好はしていない」
 そうさ。本当に心のそこから嫌なら、私はこんな依頼は断ったはずだ。なぜなら私はキョンと違って事なかれ主義ではないからね。
 嫌なら嫌と言っていた。でも断らなかったのは……簡単な解だ。
「私は楽しい思い出を残したいから、今を楽しんでいる」
 このまま進路が滞りなく進めば、私はみんなとはお別れだ。ああ、はっきり言って嫌さ。誰だって一人は嫌だろ?
 だから私は今までやったことも無いようなことを経験し続けている。……恥ずかしいけど、恋とかね。思えばキョンと交友を重ねてからは、友人が飛躍的に増えた気がする。うん、楽しいさ。
「……変な奴」
 意義あり。と言いたいが、私の今の姿は、何度も言うようにR-15指定露出過多マジシャンだ。これでは変な奴と言われても反論の余地が無い。
「ま、その子が見つかってよかったわね。それじゃあたし帰るから」
 それは振り返る必要も無いと言わんばかりの潔さだで、それはまるで「またいつか会えるからいいわ」と錯覚するくらいの潔さだった。

 

 

「キョンくんただいへぐっ!」
 玄関を開いた瞬間、キョンの拳が妹さんの頭上に振り下ろされた。
「いたーい!」
「どこに行ってやがった!?みんな心配したんだぞ!?」
 キョンは勿論手加減はしただろうが、結構大きな音が聞こえた。
「ご、ご、ごめんなさーい!」
 しかし、どうやら彼女は頭の痛みよりも、キョンの怒り顔の方に涙を流しているようだ。その証拠に、私の背中に隠れて顔を出そうとしない。
「キョン。彼女なら僕が見つけたときに少しお灸を据えといたから、そこらで許してあげたまえ」
 本当はしてないけどね。このくらいの助け舟くらいは出してあげよう。
「それに今日はハロウィンさ。お菓子でも食べて仲直りするべきだね」
「……やれやれ」
 キョンの溜息交じりの微笑を見て、彼女は全て済んだと察したらしく、
「わーい!キョンくん大好きー!」
 と、彼女は先ほどの泣き顔が嘘泣きだったかのように、泣き顔を満面の笑顔に変えてキョンに飛びついた。
「……なあ佐々木。俺って甘いか?」
「くっくっ、何をいまさら。それに今日はハロウィンだろ?甘くて当然さ。それではキョン」
 僕はキョンに手を差し出し、妹さんと互角になるくらいの笑顔でこう言った。

 


「トリックオアトリートさ」

 



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