太陽がサボっているせいなのか、4月も近いというのに真冬並みに冷え込んでいた。

俺が外出という選択肢を排除し、家でぬくぬくと快適に過ごそうと決めたまさにその瞬間に携帯がうるさく鳴り出した。

携帯に表示されていた名前はやはりあいつだった。

「もしも・・・」

「今からあたしんちまで来なさい!!大至急よ!!5秒で来なかったら死刑だからねっ!!」

やれやれ、ったくあいつはいつも勝手だな。

悪態をつきながらも、せっせと出かける準備をする。

さてと、行くか。・・・って、おい。

俺はハルヒの家の場所なんか知らんぞ。しょうがない、ハルヒにかけ直すか。

と、携帯を手に取ったときに家のチャイムの音がした。

「キョンく~ん、ユキちゃん来てるよ~」

妹が満面の笑みを浮かべて俺の部屋に入ってきた。

「どこ行くの~?ユキちゃんと二人ぃ~?エヘヘ~」

こいつは何か勘違いをしとるな。

「俺はハルヒの家に行くんだ。長門もおそらく呼ばれたんだろうよ」

「ハルにゃんのとこ?あたしも行くっ!」

「お前はおとなしく待っていなさい!」

「ぷ~!いいも~んだっ!シャミ~遊ぼ~」

やれやれ、いちいち疲れるな。

おっと、長門を待たせてるんだったな。

玄関を出るとやはりそこにはいつもの制服姿の長門がいた。

「長門、何か用か?」

「涼宮ハルヒに呼ばれた」

「そうか、お前もか。でもここはハルヒの家じゃないぞ?」

「知っている」

「じゃあなんで・・・」

「あなたは涼宮ハルヒの家を知らない。だから私が迎えに来た」

「長門・・・、いつも悪いな」

「いい」

さすがは長門だ、何でもお見通しだな。しかしまた迷惑かけちまったな。今度美味いカレーでも奢ってやろう。

それから長門の案内でハルヒの家に向かった。

「そういや長門、ハルヒの奴なんか言ってたか?」

「何も」

「そうか」

やはりハルヒはハルヒか。

「でも、ひどくあわてている様子だった。」

そうだったか?俺には怒鳴っているだけにしか聞こえんかったがな。

それにしてもあのハルヒがあわてるだって?一体なんだってんだ?

これがハルヒの家か。結構でかいな。意外とあいつもお嬢様だったりするのか?

ハルヒの家に着くとそこには見知った二人がいた。

「おや、あなた方も呼ばれていたのですか。いや、やはりと言うべきでしょうね。フフっ」

笑顔の気持ち悪い奴だ。その笑い方、こいつ事情を知ってやがるな。

「あ、キョン君、長門さんもこんにちは~」

にこっ。

あぁ、朝比奈さんの笑顔を見てると暑さなんて吹っ飛びそうだ。

挨拶もそこそこにして、いよいよチャイムを鳴らす。

さぁ、何が出るんだ?鬼か?蛇か?何でも来い!

数秒後、ドアが壊れていないか心配になるほどの轟音とともにハルヒが姿を現した。

泣き喚いている赤ん坊を抱いて。

「みんな、よく来てくれたわね!あたし1人じゃ手に負えなくってさ。」

「あ~、ハルヒ。お前に子供がいたのには驚いたが、いじめるのはよくないぞ、そんなに泣かせて。」

「このバカキョン!あたしの子供なわけないでしょうがっ!親戚の子供を預かってるだけよ。」

ハルヒの話を聞くに、親戚の子供を預かっているのだが、ハルヒの両親も出かけなくてはならなくなったらしく

1人で面倒を見ることに限界を感じたらしい。

「しょうがないじゃない。子供育てたことなんてないんだからさ。」

そりゃそうだ。俺だってこんな状況になったら、とにかく応援部隊を呼ぶだろうよ。

「とにかく入って。すんごい寒いし。」

そういって俺たちはハルヒの部屋に向かった。

「え~っと、まずは自己紹介ね!」

部屋に着くなり自己紹介をしだした。まずは泣き止ませることが先だろうが。

「この子は平野綾ちゃん!まだ1歳にもなってないわ。生後6ヶ月とか7ヶ月とか……まぁそのへんね。」

「みんな!よろしくねっ!」

「ふぎゃあぁぁぁぁぁ~!!」

なにがよろしくねっ、だ。ものすごい勢いで泣き続けてるぞ。

「しかし呼ばれたはいいが、俺には何も出来そうにないぞ。」

「ほ~ら綾ちゃん、あのまぬけ面を見なさい!きっと楽しい気分になって泣くことなんて忘れるわっ!」

お前はそのために俺を呼んだのか。ハルヒの思惑とは裏腹に、赤ん坊は一向に泣き止む気配は無い。

「おっかしいわね~。これで泣き止むと思ったのに。」

おかしいのはお前の頭のほうだろ。

「とにかく色々試してみましょう!まずは古泉君っ!まかせたわ!」

こいつはもしかして楽しんでるんじゃないか?

「分かりました。僕に考えがあります。」

ほう、余計な知識は豊富なこいつのことだ。きっと赤ん坊を泣き止ます方法も知っているんだろうよ。

ゴソゴソ、古泉は鞄の中からスプーンを1つ取り出し、赤ん坊の前に置いた。

まさかな。というかこいつは常時スプーンを携帯しているのか?それともやはり事情を知ってて準備してきたのか。

「綾さん。このスプーンをよ~く見ていてくださいね。」

ふぅ~っと、ひとつ大きなため息をついた後、カッ!と目を見開かせて

「ではいきます!マッ…『ふぎゃあぁぁぁぁぁ~!!』」

何も出来ずに拒否反応を見せられ、さすがの古泉もかなりヘコんだようだ。今のは同情してやろう。南無。

「古泉君じゃダメみたいね。う~ん……、そうだわ!赤ちゃんと言えばやっぱりおっぱいよね!」

朝比奈さんが本能的に体をビクッと震わせた。俺にもこいつが何したいのか手に取るように分かるぜ。

「みくるちゃん!あなたが一番母乳出そうね。さぁっ!脱ぎなさ~い!!」

「ふぇ!?い、いい嫌です~!うぅ~。」

「ほらほら、さっさと脱ぐの!綾ちゃん待ってるじゃないの。」

「で、でも~!私まだおっぱいなんて出ません~。そ、それに……」

チラっとこちらの方を見る朝比奈さん。そりゃそうだ。この状態じゃあいくらなんでもな。

「古泉、早く出……『出てけぇ!!』」

せっかく穏便に出て行こうとしたのにハルヒに蹴飛ばされるようにして部屋から追い出された。

「さぁみくるちゃん。邪魔者はいなくなったわ。」

「う、うぅ~」

あぁ~、今頃朝比奈さんは授乳で悪戦苦闘しているのだろうな。そんなことを想像していた。

「あ、……ん!あ、赤ちゃんって、ふぁ…吸うの…強いですぅ~。」

どうして俺は録音機材を持ってきてないんだろう?人間てのは無力だな…。



「入っていいわよ。」

赤ん坊は泣き止んではいたが、いつまた泣きだしてもおかしくない顔をしていた。

もっとも朝比奈さんは顔を真っ赤にしながら泣いていたが。

この子が女の子で良かった。男だったらいくら赤ん坊でも許すことは出来んだろう。

「う~ん、一応泣き止んではくれたけど、まだ何か足りないわね。」

確かにこのままでは泣きだすのも時間の問題だろう。

「有希、とりあえず何かしてみてちょうだい。」


コク、と長門式うなずきをした後、長門は赤ん坊を凝視し始めた。

じー……

おい、そんなに睨んでやるな。状況が悪化する。

「まかせて」

そう短く答えると、驚くべきことに、長門は赤ん坊のおしめを変えたり、ミルクを作ったり

さらには赤ん坊を優しく抱きかかえ、子守歌まで歌いだした。

「もう大丈夫」

赤ん坊はすっかり気持ちよさそうに眠ってしまった。

「長門よ、一体どこで子守術なんぞ習得したんだ?」

「図書館の雑誌に書いてあった」

雑誌?長門は雑誌なんかも読むのか。すると続けて言った。

「ひよこクラブ」

その後、赤ん坊もすっかり落ち着いたところで、みんなは解散することになった。
俺を除いてだが。

「なぁハルヒ。なんで俺だけ残らにゃならんのだ?」

「うるさいわねぇ!男がそんな小さいこと言わないの。」

「へいへい」

ハッキリ言って俺が残る理由が分からなかった。
ハルヒもまた赤ん坊とタイマンになるのは心細かったのか?
だとしても俺なんかより長門を残せばいいだろうに。
俺なんか残ったってなんの役にも立たんぞ。

「ミルクとか他は有希が用意してくれたからなんとかなるわ。
後はうちの親が帰ってくるのを待つだけね」

しばらくすると赤ん坊は起き出してまたぐずり始めたが
そこは秀才なハルヒである。長門がどうあやしていたかをちゃんと見ていたようだ。

気がつけば、すっかり日も暮れて夜になっていた。
赤ん坊にミルクをやると同時に俺の夕飯まで用意してくれた。
それはもう絶品だったね。

「さて、ミルクもあげたし。そろそろお風呂に入れないと」

俺は風呂と言う単語聞き、あからさまに反応してしまっていたらしい

「キョン~、もしのぞきでもしたら即刻死刑なんだからね!!」

「わかったわかった。のぞかないでやるからさっさと入って来い」

ハルヒはもう一度俺に釘を刺してから風呂場へ向かった。

俺はハルヒが風呂に入っている間、健全な男子高校生なら
仕方がないであろう、ハルヒの入浴姿を想像しながら悶々としていた。
ハルヒは自分の部屋で休んでろと言ったので、俺は今ハルヒの部屋にいる。
さっきみんなでいたときは気づかなかったが、いい匂いがするな。
俺は疲れた体を休ませるべく、吸い込まれるようにハルヒのベッドに横になった。
これまたとんでもなくいい匂いだった。

ガチャ、とドアが開き、風呂上りのハルヒが赤ん坊を抱いて部屋にやってきた。
俺は風呂上りのハルヒの姿を見て、さらに興奮してしまっていた。

「あんたも入ってきたら?」

「あぁ、そうさせてもらう」

そして俺は風呂に入った。まず俺は髪から洗った。
涼宮家のシャンプーはやや高級な品なのだろう。
スーパーでは見たことのないものだった。
そして体を洗う。最初は左手から洗い、左足、右手、右足と洗っていく。
まず四肢を洗い終えてから体を洗うのが俺流だ。

「それにしてもボディーソープも高いやつなんだろうな」

そんな独り言をしてしまうほどいい匂いだった。
そして涼宮家の風呂を一通り満喫した俺は、風呂を後にした。

ふぅ~、気持ちよかった。
俺は体をタオルで拭きながらさっさと自分の服を着ようとした。
のだが、無い。服がなくなっている!

「なんで俺の服がないんだ?」

思わず自分に聞いてみても答えは返ってくるはずもなく
俺は途方にくれた。
俺は確かにここに置いといたはずだ。なくなってるということは
ん?まさかハルヒが?まさかもなにもこんなことをする奴はハルヒしかいないだろう。

フヒヒ、こんなイタズラをするハルヒには俺がもっとすごい悪戯をしてやるぜ。

俺は素っ裸の状態でハルヒの部屋に向かった。
それにしても他人の家で素っ裸で行動するのは落ち着かないな。
ハルヒの部屋に着いた。
ハルヒよ、悲鳴をあげてももう遅いぞ。
悪いのは全部お前なんだからな。
さぁ、覚悟は出来てるんだろうな!

ガチャ、とドアを開けると
そこには赤ん坊と寄り添って気持ちよさそうに寝ているハルヒがいた。
ハルヒの横には俺の服が置いてあった。
イタズラしたはいいが、疲れが溜まって眠ってしまったのだろう。
俺はハルヒと赤ん坊に毛布をかけてやり、ハルヒの隣に横になって寝た。

翌朝

「ん~っ!よく寝た!」

あたしいつの間に寝ちゃったんだろ?
あ!キョ、キョンの服隠したまんまだった!!
ど、どうしよ~。キョン怒ってるかな?

そんなことを考えていると、横からイビキが聞こえてくる。
キョンいつの間に?あ、この毛布キョンが…。ありがとね、キョン。

「……ん?………ッイヤアァァァァァ!!」

「うお!?なんだ!どうしたハルヒ!?」

「あんた何で素っ裸なのよおッ!!」


 終わり

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