「…ねぇ、キョン。ずーっと思ってたんだけど。これは夢なの?」

「…夢…っつーか、現実っつーか。その間みたいなモンだな。俺にもよく分からん。詳しい事は古泉に聞け」

「なんでそこで古泉君が出てくるのよ?」

「色々あるらしいぞ。俺には分からんが」

「…ふーん。…じゃあもしかして、あんた今日のコト覚えて無いの?」

「いや、覚えてるさ。…前にここに来た時の事、お前だって覚えてたろ?」

「…あ。じゃあポニーテール萌えなんだ、とか恥ずかしいコト言ってたの、アレも夢じゃなかったのね?」

「……そうなるな」

「…あの後もあんた、あたしにキスした」

「…う。あれは…だな。そうしなきゃならなかったっつーか…なんつーか」

「いいわよ、慌てなくて。…あたしだって、嬉しかったんだし」

「…光栄だね」

「でも…良かった。せっかくこうなれたのに無かった事にされちゃたまんないわ」

「…俺だってそうだ」



「じゃあ約束して?」

「何をだ?」

「明日の朝、あんた、あたしにキスしなさい」

「…は? …なんだそりゃ」

「そうしたら、あんたもあたしもこれが夢じゃないって分かるでしょ?」

「…いや…それはそうかも知れんが。…他に何か無いのかよ?」

「それが一番分かりやすいじゃない。…それともあんたはあたしとキスするのイヤ?」

「…嫌って訳じゃないが」

「…あたしは好きよ。あんたとキスするの。なんか…とろけそーになる」

「……分かった。分かったから。キスすりゃいいんだろ。だからそれ以上、刺激的な事を言わないでくれ」



「へっへー。分っかればいいのよ。…それと。刺激的で思い出したけど。あんたさっき………おっきくしてたでしょ」

「ななななななんの話かね、涼宮さん」

「……当たってた」

「…それは…だな………生理的なものっつーか…お前が…あまりにも…だな…」

「…こーふんしたの?」

「……好きな女にベタベタくっ付かれてキスして。…それで平然としてる男なんて居ないと思うぞ」

「へー? そーなんだー? キョンはあたしとえっちしたかったんだー?」

「…勘弁して下さい」

「…なんならついでにしちゃえば良かったかもね。ここならナマでもナカでも大丈夫そーだし」

「………お前は鼻血が出そうな事を平然と言うな」

「…まぁ、それは現実に取っておくとしましょ。…あたしの初めてなんだから、大事にしなさいよね?」

「………サー、イエッサー」



「…あ、それからキョン。…一つ、言い忘れてたわ」

「まだ何かあるのか? そろそろ時間切れっぽいぞ」

「これだけはハッキリさせとかなきゃいけないの!」

「分かった分かった。だから暴れるなっての。…んで? ハッキリさせとかなきゃいけない事ってなんだよ?」

「…えと…あ、あたしと付き合いなさいよっ」

「……なんだかね。…順序が逆になっちまったな」

「なによ。あんたが言い出さないからでしょ? ってゆーか、フツーこういう事って男が言い出すもんじゃないの?」

「…そうかもな」

「ホンットあんたってヘタレよね」

「…なんだよ。なんならやり直すか?」

「あ、いいわね、それ。ほら、あんたから言いなさいよ」



「あー…と、だな。…その。…えーと」

「………」

「…悪かったよ。だからそんな顔すんな」

「………ぶー」

「……可愛い可愛い子豚さん。どうか俺と付き合ってもらえませんかね」

「…ぶーぶー♪」





































☆ 10月8日、曇りのち雨、ところにより満月 ☆


…この日付の日記を書くのはこれで二回目。
なんだかスゴク不思議な気分。
でも神社の中でキョンに掛けようとした携帯には、確かに10月8日って出てた。


…あれは夢? あの空間はなんなの?
灰色の世界がぐるぐるってなって、キョンと溶け合うみたいになって…。
…気付いたらベッドの上に居た。フツーに考えたら夢って事なんだろーけど…。

…ううん、夢じゃないわよね。
キョンの唇の感触がまだ残ってるから。


好きって言ってくれた。
なによ。やっぱりキョンだってあたしの事好きだったんじゃない。
しかも出会った時からとか、恥ずかしい事まで言ってたし。

…好きで居てくれたんだ。

それにしてもホンットここまで長かった。
キョンがチンタラしてるから悪いのよ。
ずっと好きだったなら、もっと早くに言ってくれても良かったんじゃないの?
…ホント素直じゃないんだから。バカ。


けど、やっと。
伝えられた。
その事が、嬉しい。


…明日、どうなるかな。
キョンは、してくれるのかしら?

…ううん。どーせあのヘタレの事だから自分からなんて出来ないハズ。
いいわ、あたしからしてやるんだから!

もう悩むのはヤメ。

感じるままに感じることだけをしよう。
答えはいつも、私の胸に。


































翌日の朝。

眠い目を擦りながら玄関から出ると、ハルヒがそこに居た。
相変わらず偉そうに腕を組んで。

「遅い。」

…やれやれ。こんな所まで焼き増しか?
今朝は待ってろって言った覚えは無いんだが。
…けどよ。そう言われたら、こうやって返すしかねぇよな。

「…でも、寛大なお前は哀れでドンガメな俺を許してくれるんだろ?」

だが俺がそう言うと、ハルヒは。

「…ううん、許してあげないっ!」

「…ッ…!?」

ハルヒが、俺の腕の中に飛び込んで来た。
思わず抱きとめる。
つか、抱きとめるしか選択肢が無いだろ。

「…あのな。…お前、朝から何してんだ?」

「…なによ。あんた、昨日のコト、覚えて無いの?」

…腕の中のハルヒの不安そうな上目遣い。
…覚えてる。覚えてるさ。

訳の分からない空間に引っ張り込まれて、馬鹿でかい巨人どもに追っかけ回されて。
駆けずり回って、逃げられて、押し倒して、押し倒されて、告白して、キスして、もう一度告白させられて。

…忘れようったって、忘れられるかよ。…忘れる訳ねーだろ。
昨夜だって長門や朝比奈さん、古泉にどうやって昨日の事を話そうかと、そればっか考えてて一睡も出来てねぇ。

「…いや、覚えてるが」



俺がそう答えた途端。

「…ッ…!?」

ハルヒの顔がパアッときらめいたかと思えば、俺の頭がガッと引き寄せられ、唇に甘い感触が押し付けられた。

…おい。
……なんだこれ。
………家の玄関から出たら突然唇を奪われたんだが。

…顔が赤くなっているのを自覚出来る。
…唇を離したハルヒの顔も、やっぱり赤かった。


「…何してくれてんだ、お前。…ずいぶんと積極的じゃねぇか」

「へっへー。あんたの事だからどーせ出来ないと思って気を遣ってあげたのよ」


俺の腕の中のハルヒ、その挑発的な笑顔。
昨夜、月光に照らされていたその笑顔は陽光の下で更に輝いて見えた。
……ダメだ、コイツ。
…可愛すぎる。かも知れない。

「三度目の…ファーストキスね」

ハルヒは自分の唇を触ると、照れたようにそう言った。
…恥ずかしいセリフ禁止だっつってんだろ。

「…でもあたし、三って数字キライなの」

そう言うと。
ハルヒは、目を閉じた。
顔を少しだけ、上に向けて。
その唇を、捧げるように。

…あの、だな。
こんな朝っぱらから自宅の目の前でイチャイチャしてる俺達ってどーなんだ?
それにしたとしてだな。今度は「四って数字キライなの」とか言い出すんじゃないのか?


………いや。…それも、まぁ…いいか。

…つか、キスしたくて。
…しょうがねぇわ。



今度は俺からたっぷりと口付ける。

…舌とか入れたら殴られるかね。
…そういうのは、もう少し後の方がいいか。
これから腐るほど時間はあるんだ。ゆっくりと積み重ねていきゃいい。

ハルヒの唇はやっぱり甘く、柔らかく。
その抱き心地も、無くしたパズルのピースがはまるように、ぴったりと。

…愛しい。その実感がここにある。


そして唇が再び離れた時、ハルヒは俺の背中に回した手にぎゅっと力を込め、囁いた。


「…恋するあたしは、世界一のワガママなんだから。
こんなあたしに選ばれるなんて、あんたはきっと世界一の不幸者。
…だから…感謝しなさいよね?」


やっぱりその理屈は全くもって意味不明で。

けれど。それでも。
俺はコイツを守ろう。側に居よう。
それは境界の曖昧な世界で。唯一、確かな事。














































「…おぉ?」

校門の辺りでキョン君とハルにゃんを見掛けた。
…なーんかやたら仲良さそうに手ぇ繋いでるっさ。

最近、ハルにゃんが元気無いってみくるから聞いてたけど…元気になったのっかな?
ってゆーか、めがっさ幸せそー。
…二人の周りだけピンク色に見えるのはあたしの気のせいかい?

「んやっ、キョン君、ハルにゃん、おっはよぅさーん!」

「あ、鶴屋さん。おはようございます。…ホントによく会いますね」

「ってちょっとキョン…!」

見ればハルにゃんがキョン君と繋いだ手を離そうとしてる。
…むっふふー、あたしに見られて恥ずかしいのかな? ちょっとからかってみよっか!

「今日もアッツアツですなぁ?」

「鶴屋さん!? そ、そんなんじゃないんだから!」

あっはっはっ、ハルにゃんが必死で慌ててるよ。かーぃぃな、もう。
…んでも、おっかしいなぁ。
いつもはキョン君が慌てる側なのに、今日のキョン君は、

「…それなりに」

とだけ。
…おろろ? キョン君…なんかいつもと違う。

「おんやー? …もしかして、何かあった?」

なーんか変な感じにょろ。
いつもは周りの目なんか気にしないーって風なハルにゃんが今日は慌ててて、
いつもはそんなハルにゃんに振り回されてるキョン君が今日は何だか堂々としてる感じ。

「…まぁ、色々と」

とはキョン君の言葉。
…その視線はハルにゃんに向けられてるんだけど、妙に優しい感じ。



…これはもしや!?

「あー! もしかして二人、付き合う事になったとか?」

まっさかねー。キョン君にそんな甲斐性があるとは思えないし。
んでも。その答えはめがっさ意外だった。

「…はい。昨日の夜に」

「うにょッ!?」

……あっちゃー…思わずおっきな声出しちゃったよ。
みんながこっち見てるなぁ。
…でもでも、そんな事よりっ!

「マジ!? ほんっとーのほんっとーに付き合う事にしたのかい!?」

「ちょ、ちょっと鶴屋さん、声がおっきいってば!」

ハルにゃんは慌ててるけど…キョン君はやっぱり何だかみょーに落ち着いてる。

「…はい。コイツを守るって、決めたんで」



…なんですと?

「…あっりゃー…こいつぁ、驚いたねぃ…」

ねぇ、聞いた? 聞いたかい今の。
キョン君がすっごいシブく決めちゃってるんだけど。
…ウカツにも、ときめいちゃいそーだよ。

「…ッ…! バ、バッカじゃないのっ!? あんた、急に何言ってんのよっ!!」

…あ。ハルにゃんのケリがキョン君の足に入った。結構マジんこ気味に。キョン君、いったそー。

「痛ぇッ! なにしやがんだお前!」

「あんたが朝っぱらからバカな事言いふらしてるから悪いんでしょ!?」

んでもハルにゃん、顔真っ赤だね。
うっれしそーにしちゃってさ。
…ってゆーか、夫婦漫才を見てる気分だね、こりゃ。

…うーん、それにしても。それにしてもだよ。



「…何か、キョン君、カッコ良くなったじゃないかっ。なんなら今度…あたしとデートしてみるかい?」

「え!? いや…その…!」

あたしがウィンク混じりにそう言うと、キョン君は分っかりやすくドギマギした。
あっはは、こんな所は変わってないんだ。
んでも、そんなキョン君より遥かにハルにゃんは慌ててた。

「つ、鶴屋さんっ? コイツは…その………ダメ…なんだから」

「えー、なんでさー? いいじゃん、ちょっとぐらい貸してくれてもー」

なぁんかこんなハルにゃん見てるとちょっと困らせたくなっちゃうよねー。



「うー…ダメ! ダメったらダメなの! ほら、キョン、行くわよっ!」

そう言うとハルにゃんはキョン君を連れて足早に校舎の方に向かって行く。

「お、おい、待てよ、ハルヒ! つ、鶴屋さん、それじゃ!」

キョン君がハルにゃんに引きずられながらも手を振ってくれた。

「はいはーい。おっしあわせにー!」

あたしもそれに答える。

そっれにしても、しっかりと手を握り合って指なんか絡めちゃってさ。
アツアツどころかホントにラヴラヴだねぃ。





ビュウウウウッ…!

「うっおー、さっみぃー…!」

今朝は風が冷たいなぁ。
あたしのお気に入り、ベージュのコートがパタパタと揺れる。
道に溜まった落ち葉が秋の空に舞ってキレイ。

「うー…ブルブル。最近寒くなって来たっさー」





風が止み、ふと前を見れば。
キョン君がハルにゃんと繋いだ手を自分のポケットに入れてあげてた。
…うっわー…あっためてあげてるよー…。

…なーんだかっねー。
ずーっとハッキリしないままだったから、こうなっておめでとさんって気持ちはあるんだけど。
イザ目の前でそんなに仲良くされちゃうと、こぅ、クルものがあるねぃ。

あてられちゃうってゆーか、羨ましいってゆーか。
体も寒けりゃ、心も寒いってゆーかね。

「いやはや。…あたしも彼氏でも作ろーかなぁ」

ま、いい男が居れば、の話なんだけどっさ。
とりあえずこの胸のモヤモヤはみくるのメロンでも揉んで晴らすとしよっと。





空はどこまでも高くて。
季節はもう11月。
気付けば冬の足音がすぐそこまで近づいて来ていた。にょろ。

















10月8日、曇りのち雨



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