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※※※※※※※※

涼宮ハルヒの消失前日

 落ちる!
 無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。
 まったく、暑い夏ならともかくなんでこのクソ寒い時に布団からこぼれ落ちたりするんだ、俺は? 再びぬくもりを享受すべく布団に潜り込もうとした俺は、そこに先客の存在を認めて凍り付いた。
 妹のヤツが潜り込んだ? いやいや、いくら暗くてもそれならわかる。 もちろんシャミセンでもない。 ハルヒ? 可能性としてはありそうだが、説明したくない理由でそれも違うと断言しよう。
 誰だ、こいつは!?
 慌てて明かりを付けた俺の目に映ったのは、俺と同じように吃驚の貌をしている、俺と同じ顔だった。

※※※※※※※※

 お前は誰だ! 叫びかけて、慌てて口を抑えた。 下手に騒いで誰かが起きてきたりしたら面倒なことになる。 見ると、アイツも同じように口を抑えている。
 思考せよ! 思考するんだ俺の灰色の脳細胞! アリシア人のように!
 こいつは誰だ? 顔は一緒だ。 行動パターンも一緒だ。 おそらく今考えてることも一緒だ。 俺と同じならばそれは俺だ。 なら俺は誰だ? いいやそんなことは後回しだ。
 原因は何だ? 超能力的な何かか? そんなはずはない、あいつらの能力はおかしな赤い玉になることくらいだ。 超能力方面は除外だ。
 では未来的な何かか? あるかもしれんが、それなら俺かあいつのどっちかはこの現象を経験済みのはずだ。 だがどうみてもそうじゃない。 未来的何かも除外だ。
 なら宇宙的な何かか? 銀色に光るコンバットナイフの影が頭をよぎった時、ケータイが鳴った。 着信音は『雪、無音、窓辺にて』、長門だ。
 ケータイは机の上で光りながら鳴っている。 俺の方が近い。
「長門か?」
『今からそちらへ行く』
 電話が切られるとほとんど同時に、少女の姿が音もなく浮かび上がった。
「「長門」」
 重なる声にかまわず、少女は抑揚のない声で
「遮蔽シールドを展開」
 相変わらず言葉が足らないが、話しても声が漏れないってことなんだろう。 そう解釈した俺は、もう一人の俺――ベッドの上であぐらを組み、いつのまにかエアコンの暖房まで入れている――に向かって
「訊かなくてもわかるような気もするが一応訊くぞ、お前は誰だ」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ」
 なんてひねくれた野郎だ。 いや、こいつは俺なのか? だとしたら俺がひねくれ者でひねくれ者がひねくれ者をひねくれ者だと言ったらそいつはひねくれ者なのか?
 あぁめんどくせえ!
「異次元同位体」
 なんだって?
「あなた方の概念で言うところの、『異世界人』が最も近い」
 ついに出たか、異世界人。 しかも俺かよ! やれやれだ、と首を振ってハタと思った。 どっちが異世界人なんだ?
 見ると、もう一人の俺も俺を見ていた。 俺たちは同時に、長門へ振り向いた。
 長門は俺たちを見つめている。 いや、あるいは何も見ていないのかもしれない。 いつもにもまして表情が読めなかった。 長門?
 まったく動かない長門に、俺たちは二人して心配し始めていた。 長門? 大丈夫か、長門?
 肩をつかんで揺すってみるべきかと考え始めた時、まばたきをしてマイクロ単位に頷き、
「問題ない」
 そうか? 目で問いかけると、再びミリ単位で頷いて見せた。
 俺は長門に向けてイスを出して、机にもたれかかった。 もう一人の俺はベッドに腰を下ろした。
 俺も、もう一人の俺も口を開かなかった。 長門に尋ねるべきことはわかりきっていたが、もし自分の方が異世界人だったら、俺はこれからどうすればいいんだ?
「なぁ、長門」
 俺は意を決して長門に尋ねた。 どっちが異世界人なんだ? と。 長門の答えは意外だった。
「答えられない」
 どうしてだ?
「命令だから。 わたしはあなた達の意志行動を支援すること、および情報秘匿を命じられた」
 ――そうか――
「つまり、俺たちも観察対象になった。 これでいいんだな?」
「いい」
 はぁ…… 要するにまたハルヒのトンデモパワーのせいなのか。 こんどは俺が二人だと? 何考えてやがんだ? 雑用がもう一人欲しいのか?
 俺たちは互いに貌を見合わせ、同時にため息をつき、腹をくくって互いの情報交換を始めたが、違いらしい違いは見あたらない。
 余計にわからない。 同じ俺なら二人いる必要はないはずだ。 俺とこいつは何が違う? そこに事態打開の鍵があるはずだった。

※※※※※※※※

 遠目にもよく目立つ黄色いカチューシャ。 あそこにいるのは……
 学校への坂道を上っていく生徒の流れの中に、ハルヒの姿があった。
「よう」
 少し歩を速めて、横に並ぶ。
 二人で額をつきあわせた結果、一致しなかったのはハルヒとの関係だ。 ある意味では一致したのだが、全く意味がなかった。
 つまり、お互いに『俺にとってハルヒはなんなのか』という問いに答えを出せなかったのだ。
「珍しいわね、こんなところで会うなんて。 明日は雨かしら」
「別に。 たまには早起きすることくらいあるさ」
 妹に起こされるわけにはいかない理由が出来ちまったからな。 『キョンくんが2人いる~!』なんて注進されてみろ、これ以上事態をややこしくするようなマゾっ気は俺にはないのさ。
 俺たちの出した対策は、とにかくハルヒを観察することだった。 こうなった原因はハルヒだ。 ハルヒを観察していれば、何か掴めるかもしれない。
 ちなみにあいつは長門にもらったナントカで透明人間と化している。 『意志行動の支援』ってやつだ。 一日交替で入れ替わることになっているので、明日は透明人間初体験ってわけだ。
「いつまでもだらだら布団にしがみついてるよりはマシね。 そうだ、明日もこの時間にきなさい。 坂の下の公園で待ち合わせ、あたしより遅かったら罰金だから」
「マテマテマテ、なんだいきなり」
「あんたに早起きのクセをつけてあげようという、団長としての配慮よ。 ありがたく受け取りなさい」
 ありがたくねぇよ。
「ついでに体力ね。 はい、これ持ちなさい」
 そう言って、さっさと鞄を押しつけやがった。
「おまえな、自分の鞄くらい自分で持て」
 憮然としてそう返すと、
「鍛えようと思わないと鍛えられないわよ。 いつか好きな子が出来たとき後悔したくないでしょ」
 意外なことを言う。
「お前の口からそんな言葉が出るとは意外だな。 恋愛感情は精神病の一種じゃなかったのか?」
「あんたまで同じに考えなきゃいけないって決まりはないのよ、もっと主体性ってものを持ちなさい。 それで?」
「それでって、何がだ?」
「鈍いわね、それでも健康な若い男なの? 気になる子とか好きな子はいないのかって訊いてるのよ」
 こいつは本当に昨日までの、俺の知っている涼宮ハルヒなのか? 愕然として見つめる俺には目もくれず、恋愛談義を続けるハルヒ。
「みくるちゃんと有希はダメよ。 SOS団内での恋愛禁止、もちろんあたしもダメ。 わかって… ってあんたどうしたのよっ」
 どうしたって、何が? 嗚呼、俺か。 俺がどうかしたのか?
「どうかしたのかって、あんた自分でわかってないの? 真っ青よっ」
「そんな貌してるか? 気のせいだろ。 さっ、行こうぜ」
 確かに俺はショックを受けている。 だが、何にだ? ここが俺の世界じゃない可能性は何度も考えて、覚悟してたはずじゃないか。
「気のせいって、そんなわけないでしょ! そんな貌色で――帰るわよ、鞄よこしなさい」
 ハルヒは鞄を二つとももぎ取ると、たまたま通りかかったクラスメートを掴まえて担任への連絡を命じ、俺の腕をつかんで坂を下り始めた。
 こういう、こうと決めたら有無を言わせないところは俺の知っているハルヒだ。
 抵抗も虚しくタクシーに押し込まれた俺は、部屋のベッドに寝かされている。 無理に起きようとしたら、技を掛けられて押し倒された。 ハルヒが俺を病人と思ってるのかどうか疑問だ。
 ふぅ…… 肺の中の空気をはき出すと、全身が弛緩していくのがわかる。 ぬくもった布団が心地いい。 眠い…… 夕べ寝てないしな……

「台所借りたわよ。 ――キョン? 寝ちゃったのかな」
 小さな土鍋をのせたお盆を手に、ハルヒが俺を呼んでいる。 ベッド脇に座り、俺の貌をのぞき込んで――
 ――今まで一度も見たことのない貌だった。 安堵? 慈愛? 満足? 誇り? なんなんだ? とても綺麗な、けれどどこか怖い――肉食獣を連想させる――、貌。
「もう大丈夫そうね。 よく寝てるみたいだし」
 その声も、今まで聞いたことのない柔らかさを持っていた。
 ハルヒの貌、ハルヒの声、その向かう先にいるのは――あれも俺だが、この俺じゃあない―― そもそも、あのハルヒが俺のハルヒかどうかは…… って俺のハルヒって何だっ!
 ハルヒは眠ってしまった俺をつついたりして遊んでいる。 その貌にはまるで、『愛してる』と書いてあるようじゃないか。 ……イライラするな。 なぜだ?
 ハルヒが普通の恋愛をしてる? いいことじゃないか。 普通、ウェルカムだ。 望むところだ。 相手が俺ってのはどうなんだ? 嫌なのか? そんなわけあるか!
 嗚呼、そんなことあるわけがねえよ! なのになぜ、あいつが他の男にあんな貌を向けるのを黙って見てなきゃいけないんだ!?
 あれも俺だ、俺だが、この俺じゃない。 なんだってあそこにいるのはこの俺じゃないんだ!
 唐突に、本当に唐突にわかった。 これは嫉妬だ。 俺が俺に嫉妬している? なんてばかばかしい図だ。 『俺にとってハルヒはなんなのか』? 嗚呼、今や答えは明白だ。
 それから、俺で遊んでいるハルヒを見ながらボーっと考えていた。 ここがあいつの世界ならいい。 そうだったら、俺は俺のハルヒが俺を好きかどうかなんてまだ知らないですむ。
 逆に、もしここが俺の世界だったら、俺はハルヒの心の内を覗いてしまったことになる。 そいつはフェアじゃない。

 いつのまにか、ハルヒはベッドにもたれかかって眠っていた。
 俺はステルスモードを解除して押し入れの毛布を取り出し、その背中にかけてやった。 よく眠っているようで、規則的な寝息が聞こえてくる。
 その横にしゃがんで寝顔を見つめ、今やはっきりと自覚できる気持ちを言葉にした。

※※※※※※※※

 落ちる!
 次の瞬間、世界は反転し暗転し俺は果てしない落下の感覚に襲われた。 意識を失う直前、ハルヒの柔らかい微笑みを聞いたような気がした。
 ――無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。
「帰って…… 来たのか? それとも、リアルな夢……?」
 いや、どちらでもいい。 俺は気づいちまった。 そしてここには俺のハルヒが居る。 それで十分だ。
 もしかしたら、俺は呼ばれたんじゃなく送り込まれたのかもしれないな。 気持ちを自覚するために。
 それにしても、俺が見たハルヒをあの世界の俺は知らないわけだな、寝てたんだから。
「なるべく早く気づいてやれよ、別世界の俺。 自分の気持ちにも、あいつの気持ちにも」
 窓の外、星を見上げながらつぶやいて、ふと思いついて付け加えた。
「そして頼むからこっちには来ないでくれ」
 異世界人騒動はもう勘弁してくれ。

※※※※※※※※

 目を覚ますと、ハルヒはベッドに寄りかかり、毛布をかぶって眠っていた。 押し入れ開けたのか? 仕方のないやつだ。 あそこには健康な男子の必需品もあったんだが、どうやらばれてないな。
 時間は…… 昼をとっくに回ってるじゃないか。 時刻がわかると、とたんに腹が減った気になるのはなぜなんだろうね。 のども渇いたし、台所で何か探すとするか。
 ごそごそと起き上がろうとすると、ハルヒが目を覚ました。 うにゃうにゃと寝ぼけてる貌は――うむ、可愛いと言わざるを得ないな。
 だんだんと目の焦点が合っていき…… 俺の存在に気づいたな。 うれしそうな笑みがこぼれて――うむ、さっきの100倍可愛いと言わざるを得ないな。
 だがまだ寝ぼけているようだ。 俺がじっと見ていることに――今、気づいた。
「こぉらキョン! 女の子の寝顔を勝手に見るなんてサイテーよ!」
 さようなら、100倍可愛いハルヒ。 短い生涯だったな。
「ハルヒ」
「なによ」
「可愛かったぞ」
「ばか」
 こいつのこんな貌を見るのはあの、ポニーテールをほめた時以来だな。 いつまでも見ていたい気もするが、悲しいかな、人間とは腹の減る生き物なのだよ。
「腹減ってるだろ? なんか喰おうぜ」
 なぜにアヒル口になる?
「あ…… 毛布かけてくれたんだ。 ありがと」
 かぶっていた毛布をたたみながら、そんなことを言った。
 ハルヒが自分で出したんじゃないのか? 嗚呼、あいつか。 俺は曖昧に答えて台所へ降りていった。

 ハルヒのこしらえた軽い物を二人で食べながら、
「それにしても朝は吃驚したわよ。 あんたホントにまるで血の気のない顔してたわよ? 今は大丈夫みたいだけど」
 ふむ。
「嗚呼、あの時はちょっとショックなことがあってな……」
「へぇ?」
「恋愛談義なんて絶対しそうにない女が突然、俺に向かって好きな子はいないのかなんて訊いてきたんだ。 異世界にたった一人紛れ込んだんじゃないかと思うくらいショックを受けても当然だろ?」
 実際、そうかもしれないからな。
「へぇ……」
「あっ! こらっ!」
「喰うなっ! 自分で作れっ!」
 ハルヒのやつ、俺の皿を取り上げやがった。
「はぁ、なんだかいい夢見てたと思ったんだけどなぁ」
 皿を取り返して、
「いい夢? どんな夢だ? 宇宙人か未来人か超能力者か異世界人でも出たか?」
「な~いしょっ。 はぁ……」
 なぜそこで俺を見ながらため息をつく。 なんだそのかわいそうな生き物を見るような目は?
「ま、いいわ。 食べ終わったら支度しなさい」
 支度? 何のだ。
「学校行くのよ。 今からならSOS団の活動に間に合うわ」

※※※※※※※※

「みんな居るっっ!?」
 文芸部室の扉を開けて涼宮ハルヒが入ってきた。 『鍵』……彼を伴って。
 私は本を読み続ける。
 彼はいつもの席に座り、お茶を飲み、古泉一樹とゲームをする。
 涼宮ハルヒはいつもの席に座り、お茶を飲み、ネットサーフィンをする。
 何も変わらない、いつもの風景。
 私の、エラー発生頻度が異常を示していること以外は。

 『彼』は元からこの次元に存在していた『彼』
 もう一つの『鍵』は消滅した。 元の次元に帰ったのかは不明。 私には次元を超える観測能力はない。
 異次元同位体は存在した。 これは事実。 しかし出現した経緯は不明。 不明。 不明。
 私は、なぜ、涼宮ハルヒが喚んだに違いないという判断に固執している?
 判断は保留されるべき。 あるいは、統合思念体に情報提供を申請するべき。
 私はするべきことをしていない。 否、できないでいる。 必ずノイズが発生し、実行に至らない。
 自己診断。 診断結果は異常なし。 このような結果はありえない。 診断結果が異常。 私は私の異常を報告するべき。
 ノイズ発生。 失敗。

 ……いつもの時間。 私は本を閉じた。
 彼がこちらを見ている。 彼は情報を欲している。 だけ。
 ……エラー頻度の非線形変化を検出。

 一人になってマンションで待つ。 彼は来る。 来た。
「俺だ」
「入って」

 彼が座卓に座る。 私はお茶を淹れて彼の前に置いた。 朝比奈みくるの淹れるお茶と温度、成分とも同じになるように淹れた。
「早速で済まないんだが、あいつはどこにいるんだ?」
 期待した言葉ではなかった。 期待? それはナニ? 期待。 期待値。 確率。 数学。 ……unmuch failure
 原因不明のエラー増大を検知。
「消滅した」
「消滅っ!?」
「状況から、元の次元に帰還した可能性が最も高い」
「あ、あぁ…… 帰ったのか。 脅かすなよ」
「……」
「それじゃあ、俺がこの世界の『俺』で間違いないんだな?」
「そう」
 彼が安堵している。
「そうか、一度くらいは透明人間を体験してみるのも悪くないと思ってたが、そのチャンスはなくなったってことか。 少し、残念だな」
「あなたが望むなら」
「なんだ? 透明人間体験、させてくれるのか?」
 私は頷いた。
「そうだなぁ……」
 私の提案を彼が思案する。 何故思案するのだろう? 彼は透明人間を体験してみたいと言ったはず。 私の認識は間違っている?
 彼の表情が微妙に変化した。 心拍、血流の増大を検出。 貌が赤い。
 原因不明のエラー増大を検知。
「やっぱりやめておく」
 彼は小さく「卑怯だからな」とつぶやいた。 もちろん、私には聞こえている。
 誰に対して卑怯なのか。 彼がどんな想像をしたのか。 判断する材料は不足している。
 不足しているにもかかわらず、私の判断は『彼は涼宮ハルヒのことを考えていた』と断定した。
 原因不明のエラー増大を検知。
「そう……」
「それより」
 彼が話を変えた。
「あいつはどうして帰ることができたんだ? 長門はずっと観察してたのか?」
 そう。 私はずっと観察していた。 彼が消滅する直前、涼宮ハルヒにしたことも。 そのことは統合思念体にも報告していない。
 私は答えない。 答えられない。
 それを口止めされていると解釈したのか、彼はまぁいいかと言って立ち上がった。 彼が行ってしまう。
「それにしても、人騒がせなやつだ。 俺はもう少し、常識的で普通の生活がいいんだがな」
「じゃあ長門、今日は世話になった。 こんど何かおごるよ。 また明日、学校でな」
 靴を履き、彼は出て行った。

 異次元同位体が消滅の直前に、涼宮ハルヒに投げかけた言葉。
『好きだぞ、ハルヒ』
 涼宮ハルヒは彼でない彼からの言葉で彼を解放した

≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫

 涼宮ハルヒは彼でない彼からの愛の言葉に反応した

≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫

 涼宮ハルヒは、彼 で な い 彼 で も い い の だ

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 否、これはエラーではない。
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 これは私が新しい概念を獲得した証。
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 これは『恋』という概念。
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 全てのエラーがマスクされていく。 『恋』は全てに優先する概念。 これで正しい。
 私は、正常。 そう、わたしはせいぢょう。

※※※※※※※※

 少女が歩いている。
 セーラー服を着た、小柄な、ショートヘアの少女は真冬の夜を歩くにはあまりにも薄着だったが、まるで寒さなど感じていないかのように歩いている。
 ひとつの街灯の下で少女は立ち止まった。 街灯の明かりがまるで、スポットライトのように少女の姿を映し出す。
 アッシュの髪。 感情のない無表情な貌には、何も見ていないような、あるいはすべてを見透しているような黒曜の瞳。
 少女は夜空へ向けて手をかざす。 伸ばした手の先には、輝く冬銀河。
「            」
 少女が何かをつぶやいた。

 やがてかざした手を下ろした少女は、自分が今まで何をしていたのかわからないとでも言うように不安そうにあたりをきょろきょろと見回し、寒そうに早足で夜の闇に消えていった。

※※※※※※※※

 もし聞く者が居たら、少女のつぶやきはこう聞こえただろう。
『常識的で、普通の世界……』
 少女が恋する、普通の少年が何気なく口にした一言。
 少女は、自身の恋に忠実に行動した。

fin.

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最終更新:2009年02月03日 20:58