※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ハルヒがパソコンの画面に顔を近付けて、何やら唸りながら睨んでいる。難解な文章でもあったのだろうか。
「ちょっとキョン、なんか変なメールが来たんだけど」
メール? ハルヒに呼ばれた俺が画面を除き込むと、確かに一通のメールが来ていた。
本文には、「1946.7.29」とだけ書かれていて、砂漠の真ん中に船がある奇妙な写真が添付されていた。…なんだこれは?
俺とハルヒがあれでもないこれでもないと推測を繰り返していると、長門か画面を覗き込んだ。
長門によるとその写真は、アラル海という湖が砂漠化により縮小して取り残された船を写したものらしい。そして日付は戦艦長門が核実験で沈んだ日だそうだ。
まだこの時は、奇妙なメールだとしか思っていなかった。
 
授業中、グラウンドがにわかに騒がしくなった。何が起こったのかは人だかりで見えなかったので、教室にいる俺達は「誰か騒いでいるのか」と思った程度だった。
暫くして救急車のサイレンが近付くと、授業そっちのけでざわつく生徒達(俺も含めて)。ストレッチャーに乗せられているのは…
「長門…!」
「嘘…有希が倒れたなんて…」
授業を抜け出そうとしたハルヒだが、教師に止められた。見舞いは放課後にしろとのことだ。
大丈夫だ、長門のことだから大したことはないだろう。そう思っていた。
だが、長門が搬送された(機関の)病院へ行くと、長門は意識不明の重体というとんでもないことになっていた。朝比奈さんは泣いていたし、古泉は明らかに落ち着きを失っていた。俺とハルヒはただ呆然としていた。
たかが日射病だろ、しかも体育の授業でそんなに過酷な運動はしない筈なのに…、どうしてだよ。
 
病院を出たところで、ハルヒの携帯にメールが届いた。
 
『長門有希のことは、残念だったね。部室のパソコンにメールを送ったから、今日中に見ることだね』
 
送信先のアドレスは英数字をランダムにしたものだった。気味の悪いメールにハルヒも落ち着きを失いかけていた。
「な、何よこれ…どういうこと?」
古泉、これは部室に行って確認した方が良いのか?
「僕も、その方が良いと思います」
学校へ急ぐ。部室のパソコンには、確かに一通の未読メールがあった。本文は点と横線だけで構成されていた。
「これは…モールス信号ですよね」
古泉がそう言った。試しに、モールス信号を変換できるサイトを開き、コピーした本文を貼り付けて変換する。
 
これはしようぶだ
こちらのよこくがしつぱいしたらそちらのかち
あなたたちみなまけたらとわにねむる
 
「殺害予告…ですか…?」
朝比奈さんの一言に、全員が凍りついた。
予告…。砂漠に残された船の写真はグラウンドで長門が倒れることを表したものだったというのか?
そこに、新たなメールが届いた。
本文には「明日 2437 3284」とだけ書かれていた。添付画像は事故で大破して原形を失った車の写真だった。
「次は…誰なの?」
古泉が推理を始めた。
「明日は未来のことを表します。未来(ミライ)は読み方を変えるとミクルになりますから…、恐らく、朝比奈さんが狙われているのだと思います。しかし、この考え方だと数字が示すものがさっぱり分かりませんが…」
「ぇ…、ぇぇぇぇぇ…」
朝比奈さんは震えていた。
「大丈夫よ、古泉君や私、あとキョンもいるし、皆で守るから」
帰りは皆で朝比奈さんの家まで一緒に帰った。朝は古泉が迎えに行くことになった。機関の車を利用するらしい。
夜、古泉から電話があった。
「誠に困ったことになりました。現時点で閉鎖空間が確認されていないのは幸いですが、我々の能力も封じられてしまったようです。朝比奈さんも、未来との通信が遮断されたそうです」
敵はかなり強い力を持ってるみたいだな。自分達で解決するしかないってことか。
「ええ、この先貴方もいずれは標的になる可能性もあります。それだけは避ける必要があります」
確かに、朝倉の時みたいに情報フレアとやらを期待しているとも考えられる。任せろ、必ず犯人をガッカリさせてやる。ところで、あの数字の指すものは分かったか?
「現時点では車のナンバーではないかと推測しています。明日はあのナンバーの車に警戒する予定です」
 
 
 
翌朝、朝比奈さんは無事だろうかと思いながら急いで朝食を詰め込んでいた。
電話が鳴った。
「ぐすっ…キョンくん……ごめんなさい……ぅぐっ…」
「朝比奈さん? 何があったんですか!?」
「古泉君が…」
古泉は予定通り、朝比奈さんを迎えに行った。
その時、いきなり車が横から突っ込んできたそうだ。朝比奈さんはほぼ無傷で済んだが、古泉は車と電柱に挟まれて意識不明の重体。危険な状態だという。
学校へ走った。
部室には既に朝比奈さんとハルヒがいた。
朝比奈さんは泣きじゃくっていたし、ハルヒも涙目になっていた。何故だ、どうして予告と違う人が…?
長門も古泉も昏睡状態の今、二人を守れるのは俺しかいなくなった。
 
授業の内容が全く頭に入らないまま放課後になった。あの数字は何を指していたのか。
部室に行き、パソコンを見る、まだメールは無い。
その時、携帯が震えた。
着信:非通知
『ヒントが難し過ぎたことを謝罪するよ。まあ、そちらが早とちりしたのもあるけれど』
「お前が犯人か! 誰だ!」
『教えない。ヒントは、区点コード』
…一方的に話して切りやがった。畜生、誰なんだ?
句点コード? 確か携帯で見た気が…。
はやる気持ちを抑えながら、携帯のメール作成画面で、句点コード入力にしてあの数字を入れた。
 
画面に表示されたのは『古泉』の二文字だった。
畜生、何故もっと早くあの数字について考えなかったんだ。その時にハルヒと朝比奈さんがやって来た。俺は電話の内容と区点コードについて話した。
「キョン君のせいじゃないですよ…」
頭を抱えていた俺に朝比奈さんが言った。
「明日」は単純に明日を指していただけで、古泉が真の狙いだった。
 
パソコンが勝手に送受信を始めた。俺達に畳み掛けるように次の予告が送られて来るのだ。
「もう嫌…やめてよ…」
ハルヒは泣きそうだ。画面には次の予告メールが表示されていた。
本文には、『お客さん』とだけ。また画像が添付されてあるようだ。
俺はディスプレイを覗き込んで画像を見た。
中心に一つの星、そしてそれを囲むように八つの星が並んだ記号のようなものだ。
星? そんなの当てはまる人はここにはいないよな…。
まさか、標的の範囲を広げたんじゃないだろうな…。
その時、扉がノックされた。こちらが返事をする間もなく入ってきたのは、
周防九曜だった。
「貴方達も──狙われて──いるの?」
開口一番、その質問である。俺は身構えた。何故知ってるんだ? 犯人はお前なのか?
九曜は首を僅かに横に振った。
「私達も──標的───橘も──佐々木も──藤原も──既に───」
それ以上言わなかった。九曜は俯いていた。ゆっくりと歩いて、パソコンの画面に映る画像を見て言った。
「その紋章は──九曜紋──次の──標的は─────」
分かった、もう喋るな。九曜は俺の制服の裾を引っ張ると、小さな声で言った。
三人が巻き込まれた「事故」はどれも酷いもので(具体的なことは控えさせてもらう)、しかも全て目の前で起こったそうだ。ハルヒや朝比奈さんには話さない方が良いだろうと思った。ハルヒもそれを察知したのか、追求しようとはしなかった。
「九曜という──文字を含む──単語──には──九曜星も──ある。──九曜紋を──選んだことが──多分──ヒント──」
ヒントか…。星、まさか隕石が落っこちる訳はあるまい。あと考えられるのはこの輪っか位だな。輪…?
ヒントについて分からないまま、俺達四人は下り坂を歩いている。九曜はずっと俺の腕にしがみつき、道路と反対側になるようにしている。
天蓋領域のこいつも怖いのか? 目の前で友人があんな目に遭って平気な奴の方がおかしいが。
「敵の攻撃を受けた───今の私は───只の人間───」
つまり、下手すりゃ死ぬってことか…。犯人は俺が思ってたよりも力があるのか…。
ハルヒ、変な目で見ないでくれ…。あくまでも命がかかってんだからな。
後方で、何か音がした。振り返ると、黒い物体が物凄い速さで真っ直ぐ俺の方に迫っていた。
俺はとっさに九曜を抱いて地面に伏せた。背中を物体がかすめていき、止まっていた車に激突した。
俺達の進行方向に止まっていたミニバンを大破させた物体の正体はタイヤだった。坂の上を見るとトラックが不自然な止まり方をしている。タイヤが脱輪したのだ。
あの紋章は九曜とタイヤを表したものだったのか。つまり俺は事故を回避出来たって訳だ。勝ったんだよな…。
「──ありがとう──」
「ちょっとキョン! いつまでも抱きついてるんじゃないの! 嫌がってるでしょ!」
少なくともそうは見えんが…。立ち上がると、朝比奈さんは安心したような表情を浮かべていた。…いい微笑だなぁ。
「さて! これで解決したわね! あとは二人の回復を待つだけ! いつまでもエロキョンをハーレム状態にさせる訳にはいかないからね」
な、何を…。おれはそんなに変態ではない…筈だ、うん。
 
この日の夜、橘・佐々木・藤原の三人が意識を取り戻した。どうしてそれが分かったかというと、佐々木が電話を寄越したからだ。
「まさか君に助けられるとはね」
「それはどういう意味で言ってるんだ?」
「邪推はよしてくれたまえ。詳しい話は九曜さんから聞いたんだが、何せ意識を回復したばかりで混乱しているのだよ。僕は君に感謝してるんだよ、これでもね」
「…ところが俺はあまり喜んでいられないんだ」
「まだそちらは解決していないのかい?」
「何でか知らんが、こちらの二人は昏睡状態のままなんだ」
「つまり、こちらとそちらの二つのグループ別々にに仕掛けられたということなのかい」
「そう考えたんだが、九曜の予告がこちらに届いたことはどう説明するんだ?」
佐々木は少し唸ると、仮説を立てた。
「ゲームメイクというものかもしれないね、首謀者の。こちらで九曜さんは一人残され、ただその時を待つだけだった。それでは面白くないから、そっちにも予告のメールをよこして反応を見たのではないかな」
「まぁお陰でそっちは勝った訳だがな」
「…頑張って欲しい。もう僕は関与出来ないんだよ。九曜さんに、ゲームのことについて参加者に関与すると標的になる可能性が極めて高いと警告を受けたんだ」
「仕方ない、まぁそう簡単には死なないさ。これが最後になることはない」
「…よくもそんなことを平気で言っていられるものだよ」
再び佐々木の口調が険しくなった。
「悪かった、だが本音だぞ?」
「くくっ、そうかい。勝利の報告を楽しみにしているよ。じゃあね」
「ああ、お大事にな」
 
電話を切った次の瞬間、着信音がなった。こんなタイミングが狙えるのは…首謀者か?
 
テレビ電話着信中:長門有希
 
どうして長門の携帯から?
「誰だ」
「見れば分かるでしょう?私よ」
画面に映っているそいつは
「朝倉!?」
あのナイフのトラウマの元凶、朝倉涼子だ。何でいるんだよ!
「いきなりごめんなさいね。明日の帰りに長門さんの部屋に来て欲しいの。私はそこにいるから」
「待て、何が目的だ」
「明日になったら分かるんじゃない? それはあなた自身が決めることだから。じゃあね」
…勝手に切りやがった。やはり朝倉が黒幕か? 情報統合思念体の急進派とやらが犯人か?
 
翌朝、二人はまだ復帰していなかった。俺達三人は朝早く来て部室に集合した。
「どういうことよ! 予告はハズレたんでしょ?」
俺に怒るな。向こうは向こう、こっちはこっちというのが奴等の言い分だろう。
この予告ゲームが始まって四日目になる。次の標的は誰だろう。まさかと思い、パソコンを起動してメールを調べる。
またあのメールがあった。
 
あちらの標的を助けたそうだね、おめでとう。だが君たちのゲームは終わっていないよ
さあ、次の予告をしよう。
ひとやすみやすみしたいかい?勿論、われわれがそん
なヒマをあげるつもりは全くないけどね。君たちは死という
未来を変えることが出来るかな?一つ警告してお
くよ。これを口外すると、参加者である君たち以外の人々も巻き込まれ
ることになるよ?それでもいいなら、相談するといいよ。
そして添付画像はスリップ注意の道路標識と割れたガラスの写真。こいつ、九曜と同じ警告をしてやがる。
「次は…誰?」
考えなくても分かる。縦読みすれば「あさひな未くる」と読める…。えらく単純だな、ヒントを易しくしたのか?
次の標的は、今度こそ朝比奈さんです。予告内容はスリップ、足元に気を付けて下さいね。
 
朝比奈さんはその日、階段をできるだけ避けたし、ちゃんと足元を見て注意していた。
なのに、なんでこの日に大掃除があったんだ。
悲鳴を聞き付けて人混みに向かった俺達は、それを知った。
窓拭きをしていた朝比奈さんが、校舎から転落した。
「嘘…みくるちゃん…」
 
泣き叫ぶハルヒを阪中に預け、朝比奈さんの元へ走った。出血は見られないが、頭を強く打ったのか意識はない。必死に呼びかけたが、目を開けることはなかった。
と、その時、悲鳴が聞こえた。
見上げると、窓枠がフレームから外れてこちらめがけて落下していた。あのガラスの画像って…これのことかよ…。
とてもじゃないが逃げられない。俺は目をつむった。
 
ガシャン
 
飛び散ったガラスの破片が頭に当たる。だが、痛くない…。
「大丈夫かいキョン君!」
鶴屋さん!?
鶴屋さんが段ボールの束を背負って盾にして守ってくれた。
「みくる……」
俺は鶴屋さんに何も言えなかった。ハルヒに負けず劣らずの笑顔である鶴屋さんがあれほど悲しい表情は見せたことはなかった。
「触るのは危険だよ。神経に傷がついたらおしまいっさ…」
朝比奈さんが目を開けることはなかった。
去っていく救急車を呆然としながら見送った。俺はその場に座り込んだ。手足は震えていて、押さえつけても止まらなかった。
「キョン君、保健室に行こっか…」
そ、そうですね…。そうします。と言いながら立ち上がって震える足を一歩踏み出した。谷口が走って来るのが見えた。
「大丈夫だったかキョン! ビックリしちまって………」
谷口、慰めは要らん。
「まぁ、うん…、涼宮は保健室にいるぞ…」
そうか、分かった。
 
保健室のベッドでハルヒは横になっていた。俺に付き添ってくれた鶴屋さんは教室に戻っていった。
「あとは…私とアンタだけね」
ああ、
「どうやったら避けられると思う?」
次の予告に必ず勝たなくてはならない。次に狙われるのは間違いなく俺だ。俺が負けたら、ハルヒ一人になる、そうなれば絶望的だ。
九曜の時のように回避可能とは限らない。何か確実な方法は…。
俺はあの電話の内容を思い出した。まさかな…いや、そのまさかかもしれん。
「ハルヒ」
「何よ」
「放課後、俺は部室に行かない」
「何でよ、もしかしたら予言が…」
「予言で標的になるのは一日に一人だ。チャンスは今しかない」
 
放課後、俺は長門の部屋にいた。言っていた通り、そこには朝倉が待っていた。
「これは長門さんに託された任務なの、だから恨ま…」
「分かってる」
長門が朝倉に託したのは、予言を回避する確実な方法。つまり
「俺を殺すんだろ?」
「…そうね、だけど一つ勘違いしないで欲しいのは、私はこの為だけに此処に来た訳じゃないってこと」
この為に長門に呼ばれたんじゃないのか?
「私はあの後、処分を受けた。その頃、情報統合思念体は長門さんが次々に報告する感情というエラーに興味を持ったの。その法則性のない突発的なエラーを分析するには膨大な情報が必要になってね」
派遣された…か、じゃあまた学校に復帰するのか?
「カナダから帰国したという形でね。復帰の準備で先週からここにいたの」
そちらのことは良く分かった。…済まんが精神的に余裕が無いんだ。そろそろ始めてくれ。
「…出来れば、私だってこんなことはしたくないんだけどね」
朝倉はナイフを弄びながらそう溢した。
「何故だ?あの時は…」
「嫌といったら嫌なの!」
朝倉が怒っている。…すまん。
「あの時は急進派にいたけど、今は違うの。能力はかなり制限されているし、…出来れば貴方と和解したいのよ」
和解か…、じゃあこのゲームとやらが終わったらな。
 
俺は確認の為にハルヒに電話を掛けた。
『言われた通り、阪中さんと一緒に部室にいるわよ。あの事は言ってないし』
「分かった」
『ちょっとキョン! 何をするつもりなの!? いい加減教えなさいよ!』
「俺はこれから解決策を実行する」
『え?』
「なぁハルヒ、予告はまだ来てないな?」
『え、ええ…、キョン? 何をしようとしてるの?』
「ごめんな」
『何で謝るのよ! いい加減教えなさいよ!』
「先手必勝っていうだろ? だからな……」
一つ、静かに呼吸してから言った。
「殺される前に死ぬんだ」
『…キョン!? そんなバカなことしないで!』
ハルヒが悲痛な声を上げている。
「大丈夫だハルヒ。成功すればみんな生き返るんだからな」
『良くないわよ! そんな…』
「他に方法がないんだ。すまん」
『やめなさい! そんなことでカッコイイと思ってんの!?』
「ハルヒ、良く聞け。俺は死なない。死んでも死なない、絶対にな」
『キョン…』
「お前のこと、好きだぞ」
返事を聞かずに電話を切り、電源も切った。
「…待たせたな」
「まさかこんな時に愛の告白なんてね…。悲しむわよ、涼宮さん」
忘れろ。知らん、さっさとしてくれ。さっきも言ったが俺は死なない。
朝倉はあのナイフを握っている。そして決意したように言った。
「ある程度は痛みを軽減するけど、覚悟しなさいよ」
ああ、仕方ないな。お前にもこんなことやらせて済まない。自分では(自殺なんて)出来そうにないからな。
「じゃあ、死んで」
いつぞやの台詞を言った瞬間、俺の左胸にナイフが刺さる。
意識が遠のいていく中、朝倉の声がした。
 
これからもよろしくね、キョン君
 
 
 
ここはどこだ?見渡す限り真っ白だな。
ってかさっきの朝倉の台詞は何だ? 学校に復帰するからあんなこと言ったのか? 全く、TPOをわきまえろよな…。
「キョン君!」
朝比奈さん? それに古泉、長門!
「貴方も予告を回避出来なかったんですか…」
泣くな古泉(そして顔が近い)。喜べ、俺は予告を回避したぞ。
「どういうことですか? ここにいるということは即ち…」
ああ、死んだな…確かに。なんというか…予告を受ける前にな。
「ぇぇ…そんな、何でそんなことしたんですかぁ…。残された涼宮さんが可哀想ですよ…」
そう言われましてもですね、他に解決策が浮かばなかったんですよ…。こればかりは勘弁して下さい。
「なんとか成功したみたいね」
「朝倉涼子…」
「長門さん、任務はちゃんと遂行したわよ」
朝倉? 何でいるんだ? 後を追ってきたとか言うなよ。それを聞いた朝倉は笑った。
「言わないわよ。侵入したのよ。この空間に標的の意識は閉じ込められていることは知っていたけど、今までは侵入出来なかったのよ」
「…お疲れ様」
長門、犯人は一体誰だったんだ? お前のパトロンだったのか?
「半分違う。首謀者は、情報統合思念体の急進派から離反した一部の過激派が外部の何者かと共謀したもの。情報統合思念体の情報改変能力が押さえ込まれた為に手出し出来ず、私も真っ先に狙われてしまった」
何故朝倉がこのゲームのことを知ってて、狙われなかったんだ?
「私が意識を失う直前に朝倉涼子に連絡し、密かに協力を要請した。このことは過激派には察知されずに済んだ。情報統合思念体は急進派の協力で過激派による妨害を突破し、処分した。
しかし既に参加者が事故に巻き込まれるという情報改変が行われた後だった」
つまり…奴等は事故に遭うように世界を書き換えてたの間接的なものであって、直接的な攻撃ではなかったのか。
「そう。しかしその情報には外部勢力が未知の暗号化プロテクトをかけていたために書き換えることは出来なかった。
しかし改変された情報が少なかったことが幸いし、貴方が予告前に朝倉涼子に殺されたことで情報が上書きされてプロテクトが無効になった。同時に参加者達の精神が隔離された空間を発見した」
なるほど、で、結局、敵の正体は分かったのか?
「外部勢力の正体は依然として不明であり、天蓋領域も何も語ろうとはしない。現在、情報統合思念体は涼宮ハルヒの周辺を狙う別勢力の警戒を強めている」
長台詞ご苦労である。天蓋領域は何か知ってるのだろうかか、だとしたら何で教えてくれないんだ?
「何も──語らないのでは──ない」
俺は驚いて一歩下がった。その声は、あの時と違って圧力をかけるような声だった。
天蓋領域、周防九曜が長門と朝倉の前に立っていた。
「それじゃあ、そちらにも分からないってことなのかしら?」
「今回の──件については──予測出来なかった──。未知の──勢力──。我々も──監視範囲を──拡大している──」
そう言って九曜は俺を見た。
「今回の攻撃は──予想外で──対応に遅れたのは──事実。──貴方には──感謝している」
そう言い残して消えていった。朝比奈さんは古泉の後ろに隠れていた。古泉も何時もスマイルは無く「仕事」の表情をしていた。天蓋領域ってのはそんなにヤバい存在なのか?
「間もなくこの空間は崩壊する。そして私達は「キョン!!!」
その声と共に現れたのは…、
ハ、ハルヒ…?
何でこんなところにいるんだ?
「そんなのこっちが聞きたいわよバカ!」
そう言って俺の頬を殴った。いきなり馬鹿呼ばわりですかそうですか、ってグーは駄目だろグーは。
「みくるちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「ひゃぁぃぃぃぃぃ…」
一発でノックアウトされた俺を尻目に、今度は朝比奈さんに襲いかかり、天使の悲鳴が木霊した。満足すると、今度は長門に迫った。
見事にスルーされた古泉は悲しそうな笑顔をこちらに見せた。いや…、知らんがな。お前も殴られたいか…? 痛いぞ。
「で、有希! 犯人は誰だったの!?」
ハルヒは長門に掴み掛らん勢いだ。が、長門はこれに全く動じずに答えた。
「残念ながら不明。この空間についても分からない。ただ、もうすぐ元の世界に戻ると思われる」
「そう、元に戻るのね。良かった」
そして起き上がった俺にビシッと指をさして大声で言った。
「このバカ! こっちの返事も聞かずに死ぬなんて一生許さないからね!」
あの…頼むからその話は止めてくれませんでしょうか、古泉の三割増しのスマイルと朝比奈さんの興味津々な視線が痛くてたまりません。
「間もなく空間が崩壊する。議論する時間は無い」
沈黙を打破したのは長門だった。助かった…。
なあ長門、戻るといっても、朝倉は殺人犯な訳だが大丈夫なのか?
「ゲーム開始前の時間に戻る。記憶も消える」
そうか、それじゃあ佐々木との久々の会話や九曜の泣き顔やハルヒへの告白も忘れ…ゲフンゲフン。
「朝倉さん!? カナダに行ったんじゃなかったの? ってそうじゃなくて、キョン! あの告白は…」
ハルヒ、現実世界に戻ってから仕切り直しにしてくれないか? どうせ時間も戻っちまうんだしさ。
「…もっとマシなやり方にしなさいよ、真面目にしなかったら死刑だからね」
真っ白の空間にヒビが入る。やっと平和な日常が戻ってくるのか。
 
 
やれやれ
 
 
 
何とも不快な夢を見た気がする。それは俗に言うブルーマンデーのせいかもしれない。
教室に入ると、ハルヒが不快な表情を浮かべていた。
「何か…凄く嫌な夢を見た気がする……」
「俺もだ…お陰で全く眠れた気がしない」
「キョンと一緒なんて…、真似しないでよね全く」
「……」
月曜から不憫である。今週は波乱の予感がする…。
 
その日、長門が体育の授業中に倒れて保健室に運ばれた。何故だが、強烈なデジャヴを感じた。
二人で保健室に行くと、既に古泉と朝比奈さんがいた。長門は軽い脱水症状だったらしいが、今は回復したそうだ。
「有希、大丈夫なの?」
「無理をし過ぎた。今はもう大丈夫」
「いくらスポーツ万能でも無理はしちゃダメよ」
「分かった」
 
保健室を出たところで、古泉が話し掛けてきた。疲れた表情だな、閉鎖空間でもあったのか?
「いえいえ、昨夜は充分眠れた筈なのですが、悪夢を見た気がしてどうも疲れが取れた気がしないんですよ。参りました」
お前もかブルータス、もとい古泉。俺も悪夢を見たんだが、内容をすっかり忘れちまった。
「ぇ? 実は私もなんです…」
朝比奈さんもですか。しっかし一体どんな夢だったんだ? 気になっていつも以上に授業に集中出来ん。
「知らぬが仏、かもしれませんよ」
ハァ、今回ばかりは古泉の意見に同意させてもらうとするか。
 
その後のことは面倒なので一気にまとめさせてもらう。この一週間はいろいろあった、うん、いろいろありすぎた。
火曜日、機関の黒塗りタクシーが道端で故障して朝から大変だったという話を古泉から聞いた(機関の構成員とはいえ人の子だからミスもあるのか?)。
水曜日、学校の帰りにあの周防九曜に会った(軽く話をしたが、その間俺をじっと見ていたな。何だったんだ?)。その夜には珍しく佐々木から電話があった。佐々木とその仲間達にも色々とハプニングがあったらしく、大いに笑わせてもらった。お陰で暫く腹筋が痛かった。
木曜日、朝比奈さんが掃除中に転んでバケツの水を被るというハプニングを起こして、大騒ぎとなった。どいつもこいつも(主に男子)変態ばかりだった。ハルヒと鶴屋さんが野次馬共を追い払っていた。ハルヒは先輩相手でも容赦なかったなあ。
そして本日は金曜日。連日の騒ぎの疲れが残る中、教室へ入ると、あの朝倉がいた…。
俺に気付くと、微笑んで言ったのさ。
「これからもよろしくね、キョン君」
 
長門曰く、情報統合思念体が人間の感情について興味を持ち、その調査の為に派遣されたとか。またナイフで襲ってこないよな? デジャヴなんだが…どうしてだ? ハハハ…。
 
 
 
さて回想は以上として、俺は今、公園にいる。ベンチに座り、呼吸を整えている。俺は一つの大きな決断を下した次第なのである。
砂利を踏む音が近付いてくる。俺は振り返ることが出来ない。足音が止み、静かになった。
「何よ、話って」
その声の主は俺の目の前に立ち、腕を組んでいる。
「わざわざ呼び出しておいて変な内容だったら許さないわよ」
…変な内容なのかもしれんな。ハルヒ曰く、一種の精神病だからな。
 
「なぁハルヒ──
 
 
 

|