お題「FINAL FANTASY」
 
 
 灰色の空と地面との境界を、埋めつくすように歩く青白い神人の群れ。
 視界の限りに広がるその光景は、まるで早朝の海の様でした。
 感慨に耽る時間はないんですが……さて、いったい彼女は何を感じたんでしょうね。
 破壊の限りを尽くす神人をまた1つ塵に返しながら、僕はそんな事を考えてみる。彼女がここ
までのストレスを感じたその理由を。
 そうしている間にも、次々と生まれる神人達に果敢に赤い光が飛び込んでいく。
 光が弧を描くたびに神人は消えていくのですが、それ以上の速さでまた神人は生まれるのでし
た。
 閉鎖空間が発生して2分、悪化を続ける現状を打開する為に僕は襟元の無線に手を当てた。
 こちらは古泉、状況を伝える。神人の殲滅は進まず閉鎖空間は現在も拡大中。殲滅作戦を中断
し、鍵に賭ける。各人はこのまま、神人への抵抗を続け――
「報告します」
 突然、僕の声を遮るように強制回線で割り込んできた同志の声。
 どうした、負傷者ならすぐに搬送を
「いえ、侵入者です」
 侵入者?
「はい。反応からすると、能力者ではなく一般人です」
 よりによってこんな時に……。
 わかった。すぐに保護してこの空間から避難させろ。
「了解。――し、しまっ……! ――――」
 ……何があった。おい、返事をしろ! おい!
 彼の最後の反応は……発生源のある結婚式場の辺りですね。
 
 
「ね、ねえキョン! 園を見なかった?」
 新郎新婦のサプライズから俺がようやく解放された時、ハルヒは青白い顔で客席の周りを探し
回っていた。
 見なかったって……さっきまでお前の隣に座ってただろ?
 いつも通りの年齢を感じさせない大人しさで座ってたじゃないか。
「それが居ないのよ」
 ハルヒの言う通り、挙式会場の中に園姿は見えなかった。
 挙式の最中という事もあってハルヒの声は小さかったが、それでも必死だという事だけはわか
る。まあ、園に限って何も無いとは思うが……。
 いいかハルヒ。
「う、うん」
 まずはこいつを落ち着かせないとな。
 大丈夫、園はしっかりしてるからすぐに見つかるさ。それに結婚式場の中に居れば取りあえず
心配は無い。だろ?
「そう……そうよね」
 ハルヒ、とりあえずお前は席に座って待ってろ。園が戻った時にお前が居ないと寂しがるから
な。俺は一応トイレを探したり、従業員に聞いてくる。
「わかった。……ねえ、キョン」
 なんだ?
 園の居場所に何か心当たりでもあるのかと思ったんだが、ハルヒはじっと俺の顔を見つめたま
ま何も言わず、結局そのまま自分の席に戻ってしまった。
 なんだあいつ? ……まあいい、とりあえず今は園を探そう。
 俺は阪中(旧姓)にハルヒの様子を見ていてくれと頼んでから、式場の人に事情を話して目立
たないようにそっと挙式会場を抜け出させてもらった。
 さて、どこから探せばいいんだ?
 
 
 最初、その瓦礫の山が結婚式場だったという事に僕は気づきませんでした。
 ……数分前までは、確かにここで多くの人が幸せを祝っていたんですよね。
 神の祝福、それとも皮肉なのか……崩れ落ちた屋根の上で、子供の天使の石像はまだ無邪気に
微笑んでいます。
 脳裏を過る最悪な結末を振り払うように首を振り、息を吸う。
 聞こえるか! 誰でもいい、この声が聞こえたら返事をしてくれ!
 大声で呼びかけた僕の声は虚しく響き渡っていき、その声が消えかけた頃――山彦の様に返っ
てきたのは僕の回りに現れた大量の神人の姿でした。
 待ち伏せ?! いや、新たなストレスが彼女にかかったんでしょうね……。
 もう溜息も出ませんよ。
 ひとまず上空に避難しようと舞い上がった僕の視界の中に、廃墟の中から抜け出てきた小さな
人影が目に入る。
 ……あ、あれはまさか?!
 神人達の足元、小さな体で自分の背丈ほどの瓦礫の上によじ登っているのは――間違いない!
 迷う事無く急降下を始めた僕が見たのは、瓦礫の上に立つ園生さんでした。
 左右を見回す彼女の周りには、無慈悲な神人の群れが闊歩している。
 ――何も考えないまま急降下を始めた僕は、自分の体に向かって振り下ろされている神人の腕
に、気づ――
 
 
 誰かの声が聞こえて、それまで隠れていた瓦礫の山から抜け出した私が見たのは、青白く光る
巨人の群れと、灰色の空。
 ……これは現実?
 目に入る物全てが非現実的、これは夢だと言われた方がまだ納得できる。
 どうすればいいのかわからないでいた私のすぐ傍に、空から赤い光が落ちてきた。
 ――綺麗な光。
 瓦礫の上に落ちてきたその赤い光は地面にぶつかってすぐに消え、その場に残されたのは倒れ
たまま動かない古泉の姿だった。
 ど、どうして? 何故古泉が? ……これは、私の夢ではない?
 自分のすぐ近くを地響きを立てて歩いている青白い巨人が、実は恐ろしい存在なのだとようや
く私は理解した。
 おい古泉、起きろ。
 駆け寄って顔を叩いてみたが、古泉からは何の反応も無い。
 ここは危険だ、古泉!
 そうしている間にも、青白い巨人は素知らぬ顔で街を破壊しながら歩き回っている。このまま
では遠からず、私達も踏み潰されてしまうだろう。
 
 
 ここは教会なんだから、きっと神様には不自由しないはず。
 神父の話が響く中、あたしは必死に祈っていた。
 新郎新婦の立つ祭壇よりももっと向こう、壁際に置かれたマリア像に視線を向ける。
 ……神様、あたしは罪を犯しました。認めます、あなたに祝福されている花嫁を、心の底から
憎いと思いました。彼女が……あたしの大切な人の心に触れたから。神様、自分の罪は自分で償
います。だから……だから園を返してください!
 馬鹿げた事をしてるって思うかもしれないけど、あたしは本気。
 ――見ちゃったのよ……本当は。あたしの手を握っていた園が、目の前で消えていくのをあた
しはこの目で見てたの。
 こんな事誰にも言えないし……言った所で絶対信じてなんかもらえないわ。
 祈る事しか出来ない自分に苛立ちを感じながら、それでもあたしは祈っていた。
 お願い、あたしの全てを失ってもいいの。だから園を返して! 返しなさいよ! いいかげん
にしないと本気で怒るわよ! 
 握っていた手に自然と力が入り、爪が皮膚に食い込んでくる。
 だんだんむかついてきたわ……キョンもキョンよ。いくら新郎の頼みだからって、へらへらし
ながら花嫁の指に指輪を嵌めたりするなんて……。あれがどーゆー意味なのかわかってやったの? 
しかも佐々木さんに向かってあんな愛しそうな顔しちゃって……人の花嫁よ? 結婚式で何やっ
てんのよ! ……お願い……あたしから大事な人を取らないで? お願いよ……。
 
 
 状況は悪化している。
 巨人の数は数えるよりも早く増えているし、もう巨人が居ない場所を探すほうが難しくなって
しまった。
 これからどうしよう……。
 古泉は倒れたまま目を覚まさない、体格差のせいで私では引きずって逃げる事もできない。
 もし、私が一人ならここから逃げる事もできたのかもしれない。神人はただ破壊を続けるだけ
で、こちらに向かって来る事はなかったのだから。
 ――でも私はそうする気になれなくて、古泉の隣にじっと座っていた。
 寂しげな風が吹きぬけて、寒さを感じた私は動かない古泉に体を寄せる。
 この世界は何なのか。
 あの巨人は何がしたいのか。
 私達は、これからどうなるのか。
 浮かんできた疑問の答えは、私には出せそうになかった。
 ……ただ。
 何も言わないまま倒れている古泉の手を、そっと握る。
 その手は大きく、まだ暖かい。
 これからどうなっても構わない……ただ、この手でもう一度頭を撫でて欲しい。
 私がそう強く願った時、古泉の手は確かに私の手を握り返したのだった。
 驚く私の前で、古泉が目を開ける。
「……ここは……君は園生さん? ……そうだ、神人は!」
 目を覚ました古泉は、自分の置かれている状況を見て青ざめていた。
 古泉、よかった。無事だったのか。
 私の声が耳に入らないのか、古泉は遠くを見たまま呆然としている。
「間に……合わなかった……」
 いつもの笑顔も無いままで古泉は呟く。
 何が間に合わなかったんだ?
 尋ねる私に寂しげな顔を向けて……溜息と共に古泉は語り始めた。
「いったいどこからお話すればいいのかわかりませんし、納得してもらえるように話せる自信も
無いんですが……そうですね、これから起きる事だけをお話ししましょう」
 周囲を歩く巨人を指差し、疲れた目で呟く。
「あの青白い巨人の破壊行為が終わった時、世界は崩壊します」
 崩壊?
「はい。これまで園生さんや僕が暮らしていた世界と、この灰色の世界は同じように見えますが
別物なんです。そして、この世界が完全に崩壊した時、二つの世界は入れ替わります。私達の世
界は消えて、新しい世界が始まるんです」
 新しい世界。
「そうです。新しい世界には、恐らく僕は居ないのでしょうね。よく似た男は居るかもしれませ
んが」
 寂しそうに笑う古泉の言葉は、どれ1つとっても到底信じられない内容で――それなのに、私
にはそれが真実なのだとわかっていた。
 ――そう、理屈ではなく「わかって」しまう。
 古泉の言葉を聞く間に……私は……私は――
 聞いた事は無いはずなのに、何故かずっと前から知っていた不思議な単語。
 
 
『神人』
『次元断層』
『機関』
『TPDD』
『統合思念体』
『願望を実現する能力』
『ヒューマノイドインターフェース』
『異時間同位体』
『時空震』
『ジョン・スミス』
 パズルのピースみたいな単語の群れが混ざり合い、一枚の絵になる。
 
 
 ――願う事で叶う祈りなんて無い。
 この世の全てには理由と結果があり、愛さえあれば上手く行くなんて言葉は究極の幻想に過ぎ
ないわ。
 ……わかってる、そんなのわかってるわよ!
 でもね、それでもあたしは信じてるの。あたしの願いはきっと届くって!
 だって、あたしは園を愛してるんだもの!
『ねえ神様……あたしの全部をあげるから、園を返してください』
 ――「園生」花園で生まれたあたしの天使――
 
 
 まるで、霧が晴れるように意識が澄んでいく。
 呆然と立ち尽くす私を見て、古泉が不安そうに声をあげた。
「……園生さん、大丈夫ですか? すみません、幼い貴女にこんな事を言っても混乱させるだけ
なのに」
 悔やむように私の肩に手を置く古泉に、私は告げた。
 気にするな古泉、もう大丈夫だ。
「……え?」
 驚く古泉が顔を上げる中、私は能力を展開した。
 首を左右に回して荒れ狂う神人を確認していく――確認できた神人の総数は1215。
 頭上に両手を掲げ、私は適当に神人の数の10倍程度の数の光球を作り出した。
「な!?」
 突如浮かんだ黄金の輝きを放つ光球の群れ、その光が私と古泉がいる教会の跡地を含めた半径
100メートル程を眩く照らす。
 偶然その場に居た13体の神人が、その瞬間光の粒になって消えた。
 なるほど、古泉が絶望したのも無理は無い。
 確認できるだけですでに世界の半分以上が神人によって破壊されてしまっていたんだからな。
 だが、問題は無い。
 初めての事のはずなのに、私には何の迷いも恐れも無かった。
 当たり前の様に腕を前に伸ばし――
 往け。
 私の命令に従い、光球の群れは灰色の世界を黄金に染め上げていった。
 青白い巨人の体に光球が触れるたび、巨人の体は光の粒になって消えていく。
 ――さあみんな、ママの元へ帰ろう。大丈夫、私も一緒に帰るから。
 海の様に青かった地平線はまるで降りしきる雪の様に白く染まり、やがて黄金の朝焼けが訪れ
ると共に消えていった――
 
 
「園! よかった……本当によかった」
 苦痛を伴う程強いママの抱擁を受け、私の体は地面から離れた。
 苦しい……けれど嬉しい。
 理論的でない感情の変化を感じながら、私もママの体を抱きしめる。
「トイレの帰りに迷子になってた所を、古泉が見つけて案内所に連れて行ってくれてたんだ」
 どこか不自然な発音のパパの言葉に同意するように、
「驚きましたよ。まさかみなさんがここに来ているとは思いもよりませんでしたからね」
 古泉もまた肯いた。
「本当にありがとう、古泉君」
 泣き顔を隠そうともせずに謝辞を告げるママも、
「いえいえ。気になさらないでください」
 それに無難な返答を返す古泉も、
「やれやれ……披露宴開始間近で新郎新婦には悪いが、仲人の仕事はキャンセルさせてもらうか。
事情が事情だし、あいつらもわかってくれるだろ」
 溜息混じりに肩を落とすパパも、そして私も。
 その時、結婚式会場の待合室に居た私達4人の誰もが、平穏が戻った事に――胸に秘密を抱え
たまま――微笑んでいた。
 
 
 それで? 何でお前があの場所に居たんだ。
 結婚式から数日後、オフィス街の喫茶店に俺を呼び出した超能力者に俺は質問を投げかけてい
た――久しぶりに見た気がするな、お前のそのどうやって説明すればいいのか迷ってる時の困っ
た顔。
 言っておくが、返答次第によってはこの昼飯代のレシートはお前に押し付ける事になるぞ。
「ここの支払いは僕が持ちますよ。せめてそれくらいはさせてください」
 太っ腹なのか余程後ろめたい事でもあるのか、テーブルの端に置かれたレシートを自分の傍に
引き寄せてから、古泉は躊躇いがちに話し始めた。
「これからお話しする内容を、貴方は理解も納得もできないかもしれません。ですが、どうか最
後まで聞いて下さい」
 宇宙人、未来人、超能力者と一緒に生活してきた俺が理解できない話ねぇ……わかった。最後
まで聞いてやるからさっさと喋れ、早く戻らないとハルヒが煩いんだ。
 ちょうどやってきたウエイトレスからAランチを受け取りながら聞く体制に入った俺に、
「わかりました。……あの日、僕達は最後の閉鎖空間を破壊する為に、機関の全戦力を投入して
事態に備えていました」
 早々と非現実的なワードが飛び込んできやがった。
 しかもその単語を懐かしいとか感じてるんだから性質が悪い。
 ……今日は煮込みハンバーグとポテトサラダか。まあまあだな。
 迷わず現実逃避を始める俺だったんだが、
「信頼できる協力者からの情報提供によって、今回の閉鎖空間の発生場所と時間は事前に分かっ
ていたんです。できる限りの準備をした上で、僕達はその時を待ちました」
 おい古泉、話の腰を折って悪いが突っ込んでいいか?
「はい。どうぞ」
 これは前から聞こうと思ってたんだが……閉鎖空間が出来るってわかってるなら、出来る前に
対処しようって考えは無いのかよ。
 その方が確実だと思うんだが。
「たとえ、目の前の危機を先送りにしても結局どこかで閉鎖空間は発生するんです。それならば、
今出来る最善を尽くすほうが無難かと。言うなれば夏休みの宿題ですね」
 ……なるほどねぇ。
 その例えはどうかと思うけどな。
 何で俺はハンバーグを切り分けながら、世界の危機についてなんて話を聞かねばならんのだろ
うな。はぁ……付け合せの人参、俺は空腹を満たす事を考えるべきか、それとも古泉の話を真剣
に聞くべきなのか……なあ人参、お前はどっちだと思う? 
「そして閉鎖空間は発生しました。白状しましょう、もし、機関で対応しきれないと判断した時
は貴方を呼ぶつもりでいました」
 危なかったな。俺、携帯の電源切ってたぞ。
 結婚式の最中だったんだから当たり前だが。
「大丈夫です。あの式場に居たスタッフは神父も含め、全員機関のメンバーですので」
 ギャリッ
 手元が滑ってナイフが皿を激しく擦る。
 飛び散ったソースの先で笑う古泉に……はぁ……もう溜息しかでねぇよ。
 でもまああれだ。結局俺は呼ばずに済んで、閉鎖空間を出てきた所でお前はたまたま園を見つ
けた。そうなんだろ?
「はい、そうです。……と、言えればよかったんですけどね」
 苦笑いを浮かべた古泉は、手荷物の中からA3サイズの封筒を取り出して俺の前に置いた。
 封筒の表紙の右下には、どこかで見覚えのある学校名が書いてある。
 なんだこれは。
「僕が勤める学園の資料です」
 ああ、どうりで見覚えのある名前だと思ったぜ。で、これと今の話がどう繋がるんだ。
「この学園に入って頂きたい。そう思っています」
 ウエイトレスさんすみません、なるべくでかいバケツに水かお湯を入れて持ってきてくれませ
んか? なんなら氷かコーラでもなんでもいいです。
 この馬鹿をそろそろ正気に戻さないと、俺の午後の勤務が危険な時間だしな。
「あの、ちょっと待ってください。僕は正気です」
 お前の正気なんぞ当てにならん。普段は9:1の割合で正気なのかもしれんが、今はどう考え
ても割合が逆だ。社会人になって子供も居る俺に突然学校に通えだと?
「違います。貴方じゃありません」
 あ、ハルヒにか。その学校が礼儀作法と常識に煩い所なら考えてやるぞ。考えた上でお断りし
てやる。
「いえ、違います」
 じゃあ誰だ。
 まさか長門だとか言うなよ?
「園生さんです」
 ……コップの中身が空だった事に感謝して欲しいぜ。
 半眼で睨みつける俺に、
「今の園生さんには、お母様から受け継いだ力が存在しています。この台詞を貴方に言うのは二
度目ですね。……彼女には願望を実現する能力がある」
 真剣な顔で古泉はそう言い切るのだった。
 しみじみと思う。冗談だと信じたい、と。
 
 
「ふ~ん……古泉君の勤めてる学園に園生をね」
 ああ、よくわからんが是非にって言ってたぞ。
「そんな話ならあたしも一緒に聞きたかったのに、何で一人で行ったのよ?」
 知らん。古泉に聞け。
 13時寸前にオフィスに戻った俺を待っていたのは、不機嫌な顔のハルヒとすでに午後の作業
を開始していた長門で、俺の説明を聞いたハルヒの機嫌はなんとか平常時くらいには落ち着きを
取り戻していた。
「でも凄いじゃない。古泉君が勤めてる学園って幼稚園から大学院まで一環で教育しててね? 
入りたくても中々入れない所なのよ。あたしも願書は送ったんだけど、定員数のせいで駄目だっ
たわ」
 やけに詳しいじゃないか。
 ついでに、願書の話を俺は聞いて無いんだがな?
「あたしが幼稚園や保育園の情報集めにどれだけ時間をかけたと思ってんの?」
 自信ありげに言い切るハルヒ。
 まてよ……そういえば前にそんな関係の資料を集めさせられた様な……。
 ……おい、もしかして以前営業のプレゼンでお前がごり押しで通した「少子化に向かう現在の
状況における子供の教育への親の関心」って奴はまさか……。
「園の為に企画したの。気づいてなかったの?」
 罪悪感ゼロ、当たり前の様に肯くハルヒ。
 おい長門、お前から何かこいつに言ってやってくれないか。
 俺が文句を言った所で火に油だ。長門の冷静な意見を聞けば、ハルヒも少しは反省するだろう
と思ったんだが、
「幼児教育に関わる不安を統括的に解消するという趣旨で開催されたセミナーは都内で12箇所
で開催。その全てが好評で次回は4ヵ月後に開催予定が組まれている。初回における契約に繋が
ったケースは18件。資料請求は121件。営業成果として、これは評価に値する成績」
 パソコンの画面も資料も見ないまま、長門は淡々と言い切って見せた。
 相変わらず凄い記憶力だな。
「でっしょー!」
 ……結果が出ればそれでよし、勝てば官軍って奴か。
 長門の頭を抱きしめて髪を撫でていたハルヒは、
「じゃあキョン、古泉君によろしくって言っておいてね」
 まるで夕飯の内容でも決めるみたいにあっさりと俺に指示したのだった。
 それでいいのか? と言いたい所でもあったんだがここは突っ込まないでいてやるよ。
 なんせ、それは世界と園生の為らしいんだ。
 ――古泉によれば、ハルヒと違って園生は自分の力を自覚していて尚且つ制御できるらしい。
 これがどれだけ危険な事かは、ハルヒと付き合ってきて所帯まで持った俺以上に理解している
奴は居ないだろう。
 冷静な園とはいえ、所詮は子供だ。
 万一閉鎖空間でも作ってしまったなら、それこそ古泉の口癖みたいな事になっちまうしな。
 かつて俺達がSOS団としてハルヒの傍に居た様に、今の園を守る存在が要るんだ。その役は
保育園の保母さんじゃ確かに荷が重過ぎる。
 それでも、園の意見を最優先に考えようと思っていた俺なんだが、
「いつから行けるの?」
 園は俺に――もしかしたら初めての――笑顔を向けて聞いてきたのだった……はぁ。
 
 
 未来の過去の話 4話 「FINAL FANTASY」 ~終わり~
 
 
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