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※ある曲のオマージュになります。
 なんの曲かは最後に記載しましたが、その曲を全くわからない人でも普通に読める内容にしたつもりです。
 気になる場合は、最初にそれを見て、いやな予感がしたりそもそもオマージュが苦手だったりする人はスルーしてください。

 

◇◆◇◆◇

 
ガチャガチャ。
 
部室のドアノブが激しく動く。
だけど扉は開かない。
鍵がかかっているわけではない。
私はかけたつもりもない。
 
「あ、あの…!開けてください!」
 
外から朝比奈みくるの声がする。
私は膝元に乗せていた本を机に置くと、扉を開けた。
 
「あ、ありがとうございます!」
 
返事はしない。
する必要も無いと判断した。
 
「あ、そっか。押さないと開かないんでしたっけ、この扉…」
 
…今度は部室から出るときに押して扉を開けようとする朝比奈みくるが安易に頭に浮かぶ。
 
「あ、思い出しました!定時連絡で聞きましたよ!大丈夫ですか!?」
「…何が?」
 
該当事項が見当たらない。
特に私に不調な部分は見つからない。
 
「あれ?確か急進派に襲われたって…」
「…朝倉涼子のことなら平気。こちらの不手際」
「…そうですか。長門さんが平気なら安心しました。びっくりしたんですよ。知らないところで色んな事が起こってて…」
 
そういうと彼女はため息をつく。
立っていてもしょうが無いので、私は元いた位置に戻る。
 
「…いっつも置いてけぼりなんですよね。私」
「…いつも?」
「…はい。私が元いた時代でもここから少し前の時代でも。色んな場所を回ったけど、私はいっつも指示に従うばっかりで…」
「………」
「あ、ごめんなさい…愚痴っちてしまって…」
「…いい」
 
有機生命体の概念はわからないが、恐らくはたまに内に秘める不安を出したくなるのだろうか。
 
「…朝比奈みくる」
「はい?なんですか?」
 
メイド服に着替えてお茶を煎れようとしている彼女に話しかける。
既に先程の雰囲気とは違い、いつもの朝比奈みくるに戻っているようだった。
 
「…あなたは全ての任務を終えたら──」
「いなくなりますよ。この時代から…」
 
珍しく彼女から割り込んでくる。
半ば自分に言い聞かせるかのような、そんな口調で。
 
「悲しいけど、規定事項なんです。避けようのない」
「…そう」
 
………。
 
「………」
 
沈黙が訪れる。
朝比奈みくるも静かに窓の外を見ている。
…本の続きを読もう。
 
そう思い、手を伸ばした時──
 
「…長門さんは?」
 
不意に朝比奈みくるが口を開いた。
しかし質問の意味がわからない。
半ば真剣な彼女の顔に視点を合わせてみる。
 
「…全部が終わったときのことです」
「…わからない」
「………」
「…何?」
「あ、いえ…意外だったから。長門さんがそういう返事をするのが」
「…そう」
 
…わからない?
今更ながら自分の出した答えに疑問符を打ってみる。
 
…本当はわかっている。
消えてしまうこと。
いなくなってしまうこと。
 
少なくとも、全てが終わったその時には私も彼女もこの世界からはいなくなってしまう。
 
「…ただそれだけのこと」
「…え?」
「…私はこの世界から消えてしまう。それ以上もそれ以下もない」
「…淋しくなりますよ?」
「…でもそれだけのこと」
 
きっといつか、何の前触れも無く。
…私が所有していた本だけ置いてけぼりになるのだろうか。
栞を挟めば、たまには思い出してくれるだろうか。
 
「…長門さんは、つまらないですか?SOS団の一員でいて」
 
…そんなことはない。
 
「私じゃないにしろ、誰かが一人でも欠けたらどう思いますか?」
「…嫌」
「私達だって同じです。長門さんがいなくなったら、物凄く悲しみますよ…だから簡単に『それだけ』なんて言葉で済ませないでください…」
「…わかった」
 
返事を聞いて満足したのか、彼女は柔らかな笑みを浮かべる。
…それはきっと私が持ってなくて、朝比奈みくるが持っているもの。
 
「…それでも虚しい」
「………」
 
今度は静かに聞いてくれる。
椅子に座り、机に視線を落としながらポツリと呟いてみる。
 
「…楽しい、恐らくこの感覚を言葉に表すのならそういうことになる。しかし…何も残らない」
 
…これが愚痴なのだろうか?
 
「…こうして本を読むことも、あなたと話すことも、いつか何もできなくなってしまう」
 
なのに何故?
 
観測、それが私の役目だから?
 
それなのに何故?
 
「…あなたは笑顔でいられるの?」
「………」
「…無意味だとは思わないの?」「…たまーに思いますよ。虚しさなんかいつものことです」
「…ならば何故」
「だって…つまらないじゃないですか。そんなの。虚しくても、つらくても…それがいつか無くなってしまうことであれ、日常は進んでいて…」
 
………。
 
「…楽しまないと損かなぁ、って」
「…損?」
「可笑しいかもしれないけど」
 
クスリ、と彼女が笑う。
 
「それに、みんなと一緒にいる間だけでも、私は私でいたいから…だから笑ってるんです。私がいた証を残しておきたいから」
 
証。
私は何を残せるのだろうか。
 
「ほら、私がいなくなって、たまにみんなが思い出してくれた時に、落ち込んでる私が出てきたら嫌じゃないですか」
「…だから、笑顔」
「そうですね。作り物の笑顔じゃなくて、本当にSOS団にいるのが楽しいから…」
「…そう」
「長門さんは無いですか?そういうの」
 
…無い。
 
「少しだけでも笑ってみたらどうですか?」
「…笑い方がわからない」
「わからないって…」
 
朝比奈みくるが苦笑いをする。
 
「…こう?」
「苦笑いは真似しなくて良いですよ…それと、あんまり変わってないです」
「…難しい」
「無理にするものでも無いですからね…自然と笑う感じです。楽しいこととか、嬉しいこととか頭に浮かべたりして」
 
そう言うと彼女は湯飲みにお茶を注ぐ。
 
「はい、どうぞ」
「…ありがとう」
 
湯飲みを覗き込んでみる。
恐らくは無表情といえる私の顔が写っていた。
 
いつか普通に笑顔になれる日がくるのだろうか。
それがみんなの記憶に残る日がくるのだろうか。
 
「みくるちゃーん!新しい衣装を持ってきたわよ!!」
 
扉を蹴り飛ばして、涼宮ハルヒが入ってくる。
 
「ひぇ!?ぬ、脱がさないでくださいぃ!!」
 
朝比奈みくるが助けを求めるような目で私を見る。
 
「ほらほら!観念してこれに着替えるのよ!!」
「じ、自分で着替えますから!!」
 
こんなに騒がしい日々も、楽しい日々も、いつか無くなってしまう。
それぞれ決まった道があって、それでも明日はやってくる。
 
「…賑やか」
 
ポツリとひとつ呟いてみる。
 
少し揺らいだお茶の面に、僅かに口元が緩んだ私がいた。
 
『ワンダーフォーゲル』
 
song by くるり
 
おわり
 

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