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タグ:キョン ハルヒ ハルヒxキョン キャラ崩壊注意 オリキャラ注意 シリアス 未来的

崩壊? 森さんごめんなさい。
オリキャラ? ゲストにハルヒのご両親をお迎えしました。



※※※※※※※※

クリスマス・イヴ、愛する妻の待つ家に帰ったと思ったら、そこはマイスイートホームのないただの空き地だった。
突然の出張先は、ハルヒが小学6年生の時のクリスマス・イヴ。
にわかサンタの役目を果たした俺は、叶うはずのなかった願いが叶ったことを知る。 俺は、ハルヒの両親と対面した。

※※※※※※※※
Before 5 years their deaths.

 家が…… ない……。
 我が家が建ってるべき場所には、何もなかった。 代わりに枯れ草ボウボウの空き地が広がっている。 新築30年ローンの俺の家はどこへ行った!?
 まて待てマテ、Please wait a moment. 落ち着け俺。
 俺は誰だ? キョン(本名不詳)だ。 生年月日は? XXXX年XX月XX日だ。 家族構成は? 愛する妻、それに近所に住む両親と妹だ。
 ようし、俺は正常だ。 つまり異常なのはこの状況だ。 以上、状況整理完了。 って何の解決にもなってねぇっ!
 俺は、今にも白い物がちらつきそうな空に向かって嘆息した。 ハルヒぃ、これはお前からのプレゼントなのか? 俺は普通にクリスマスを楽しみたかったぞ?

 ここにずっと立っていても仕方ない。 元の世界に帰るにはどうすればいいか、ヒントを探さなくては。 しかし俺にはなんとなく、どこで、誰に会えばいいかわかっている気がした。
 勘の告げるとおり、ある一軒の家に足を向ける。 はたしてそこには、『涼宮』の表札のかかった家が建っていた。 中にいるのは一体、何歳のハルヒなんだろうね。
 それもまぁ、小学6年生のような気がしてしょうがないんだが。 最初の情報爆発の後、灰色の世界にストレスを溜めまくって一触即発の火薬樽のようなハルヒが中にいる。
 さて、問題はこの家には煙突が無く、俺はサンタの衣装を持っていないということだ。 煙突はどうしようもないが、せめて衣装くらいはどうにかしたいな。
 高校生の頃なら部室に行けばトナカイの衣装があったが、今は部室そのものが無いに等しい。 駅前まで行けばそれらしいグッズが買えるだろう。 そう考えた俺は、とりあえず駅に足を向けた。

 ダメだ、買えない……
 金を持っていなかったわけじゃない。 俺の財布を握ってるハルヒの名誉のためにも言うが、クリスマスのパーティーグッズくらいでは減った気がしないくらいの金は持っていた。
 ただ単に、まだ発行されていない紙幣だったというだけのことだ。 生憎、旧札が一枚もない。
 これには参った。 ケーキ屋かどこかで衣装付きのバイトでも探すか? しかし今日はもうイヴだ。 今更サンタの求人があるとも思えない。 八方ふさがりだった。
 紅白の衣装に身を包んで労働に勤しむエセサンタ達から、どうにかして衣装を借りる手はない物かと思案していると、
「声を立てるンじゃねぇ」
 後ろから、何者かに迫力のある声で圧迫された。 なんだ? 親父狩りか? ちらっと伺うと、頭の軽い若者の軽率な行動というわけではなさそうだ。 はて?
「おとなしく言うことに聞けば手荒なまねはしねぇ。 歩け」
 抵抗のそぶりを見せずにいると背中を押され、歩いた先にあったワゴン車に押し込まれた。
 まず間違いない。 こいつらは『機関』の連中だ。 ハルヒの家の前で不審な行動を取った怪しい人物、それが俺というわけだ。
「前のシートに両手を突け。 そのまま動くな。 質問に答えろ。 素直に答えてくれりゃあお互い時間も節約できるしいやな思いもしなくて済む。 ――わかるな?」
 男は口を動かしながら、コートやズボンのポケットから慣れた手つきで所持品を奪い取っていく。
「財布は返してくれよ。 愛する妻がプレゼントしてくれた物なんだ。 無くすと――」
 無くすとハルヒはどうするだろう? 泣くか? まさか。 怒る? ありそうだがそれだけで済むとも思えない。 とにかく、きっと、えらい無茶を言われるに違いない。
「――きっと俺が酷い目に遭う」
 自分の想像に笑いを堪えきれず、苦笑が漏れる。
「貴様どこのモンだ。 誰の命令で動いてる」
 俺をどこか組織の人間と思ったようだ。 そりゃ、素人がこんな状況になれば普通は気色を失ってるだろうからな。 無理もない。
 しかし、どこまで話して良いんだ? 今の俺は未来人だ。 俺とハルヒの未来を守るためには、下手な情報は明かせない。 禁則だ。
 朝比奈さんは、なんと言って俺にカミングアウトしたっけ……?
『私は、この時代の人間ではありません。 もっと未来から来ました』
「――俺は、この時代の人間じゃない。 もっと未来から来た」
『いつの時代から来たか話すことはできません』
「――いつから来たかは話せない」
 さっき取られた身分証明を見られたらバレバレだが。 いいんですか、朝比奈さん。 こんなザルな禁則で。
「てめぇ、俺は素直に答えろと言ったはずだ」
 いってぇ…… 脇腹にパンチ一発。 頼むから腎臓打ちは勘弁してくれよ? 下手な怪我して帰るわけにはいかないんだから。 なんとか息を整えて
「素直に答えてるさ。 だが、これ以上話すにはまず、あんたたちが俺の思ってるとおりの存在かどうか確かめてからだ」
「質問してンのはこっちだ」
「ちょっとした妄想を垂れ流すだけだ。 邪魔せずに聞いてくれれば、お互い時間も節約できていやな思いもしなくて済むかもしれないな」
 男が気色を上げたその時、助手席から女の声がした。
「かまわないから喋らせな」
 今や懐かしいとさえ思えるほど久しく聞いていない、これは森さんの声だ。 森さんがいるからには、こいつらは『機関』で間違いない。
「いや、いい。 俺はこの声の女性を知っている。 あんたたちは俺の思ったとおりの存在だった」
 さて、どこまで話すか……
「まず、俺はあなたたちの敵じゃあない。 ハルヒに喚ばれて来たんだ。 いきなり超能力者になった連中とはある意味で同類だな」
 車の中が動揺した。 首筋に冷たく硬い何かを押し当てられた。 銃だろうか?
「貴様、どこでそのことを知った? どこまで知っている。 言わなければ撃つ」
 銃を押しつけられてさすがに平気ではいられないが、なんだろう。 俺ってこんなに肝の据わった男だったか?
「わかってしまうのだから、仕方がない。 といったところだな」
 本当に便利な言葉だった。
「そこまで」
 森さんの声が、隣で湧き上がった殺気を制した。 顔を上げて見ると、俺の身分証明をうさんくさい物を見るように眺めている。
「あんた、ホントに未来人かい? なんていうか、イメージとだいぶ違うね。 それに、未来っても20年にも足らないと来てる」
「貴女こそ本当に森さんですか? なんていうか、イメージがだいぶ違うんですが。 俺の知ってる貴女はもっと上品でした。 ――怒らせるとちびりそうなほど怖かったですけど」
 車の中がわっと沸いた。
「あ、あたしが上品? それが本当なら嬉しいねぇ」
 ヒーヒー言いながら嗤ってる。 周りの連中は、確かにちびりそうなほど怖ぇ! つって人の背中バンバン叩きながら嗤ってやがる。 立ち直った一人が、
「姐さん、こいつの言うことを信用するんですか?」
「姐さんって言うな! 主任って呼びな」
「す、すンません、主任!」
「そうだねぇ。 未来人云々はともかく、お嬢ちゃんに喚ばれたってのは無視できないね。 ここでこいつを足止めして神人に暴れられでもしたらなんだしねぇ。 アンタ、何のために喚ばれたんだい?」
 なんのため、と言われてもこれと言って自覚はない。
「今日はイヴだし、あいつのことだからサンタの一人でも降ってこい! くらいに思ってても不思議でもなんでもありませんね。 それでなんでオレなのかはわかりませんが」
 森さんは俺の貌をじろじろと見た後、にやにやしながら身分証明を見直して
「あんた、お嬢ちゃんと同い年だね。 もしかしていい仲かい?」
 いい仲? いい仲と言われて、思わず貌がゆるんだ。 すぐに引き締め直したが、しっかり見られて
「あんた、意外といい男だね。 それに『恋人がサンタクロース』とは、あのお嬢ちゃんもなかなか意外なかわいげがあったもんだ」
 森さんはニヤニヤしているが、森さんに『いい男』と言われた俺を見る、他の連中の目には殺気が含まれている。 もてもてじゃないですか、森さん。
「取ったモン、全部返してやりな。 あんたも、もうういいよ。 早くお嬢ちゃんのとこ行ってあげな」
「その前に、ひとつ頼みを聞いてもらえないでしょうか?」

 森さんの厚意で手に入れたサンタ衣装を着込み、やはり森さんの厚意で両替してもらったお金でなんとかプレゼントを用意した俺は、ハルヒの家の外に立ち尽くしていた。
 どうやってハルヒのところまで行く? よじ登るのは論外だった。 俺自身、この家の防犯設備はよく知っている。 鍵はあるが、いきなり侵入は避けたい。
 高校生のハルヒが使っていた部屋はあそこだが、6年生の時に自室が与えられていたかどうかまでは知らなかった。 森さんに聞いておけば良かったな。
 部屋のカーテンは開いていた。 ハルヒのことだ、夜が明けるまで起きてはいるだろうが…… 俺は小石を探したが見つからず、仕方なく小銭を小石代わりに窓へ向けて投げつけた。
  カチン
 どうだ?
 少し待ってみて、俺はもう一度、小銭を投げつけた。
  カチン
 部屋の中で人影が動いたような気がしたが、明かりは…… 点かないな。
 もう一度、と構えたところで明かりが点いた。 窓が開き少女が顔を出すが、逆行で貌は見えない。 シルエットはセミロング。 高校入学時はロングだったから、これから伸ばすのか。
「あんた誰」
 誰何の声に、懐かしさを覚える。 出会った頃の、何もかもおもしろくないってのコンチクショー! なハルヒの声だ。
 自分の衣装を見下ろして、
「見てわからないか? 一応、サンタのつもりなんだが」
「格好だけでしょ。 どうせ中身はただの人間のくせに」
 一応、未来人で、ついでに言えばお前の未来の夫だ。
「まぁ、そう決めつけるな、たまには変わり種がいるかもしれないだろ? 中に入れてくれないか? プレゼントも用意してある」
 ハルヒは腕組みしてこちらを睨み付けていたが、窓を閉めてカーテンを引いてしまった。 おいおい、これで終わりか? これで帰れるのか? ものすごく不安だ。
 どんよりと不安に沈んでいると、玄関の明かりが点いて扉が少し開いた。 外を覗いているシルエットはセミロングの少女、ハルヒだ。
 玄関へ行くと、扉は開いているもののチェーンがかかっている。 隙間からハルヒの貌が見えた。 まだあどけなさの残る、写真でしか知らないハルヒだ。
「プレゼントって何。 寄越しなさい」
 『性格以外は文句なし』の看板に偽りなしだ。 あまりの変わってなさに笑ってしまう。
「そうは行かない。 俺はお前のためだけにここまで来たんだ。 渡すにも、ちゃんとそれなりの形式ってものがある。 さ、チェーン外してくれ」
「見ず知らずの他人を入れるわけ無いでしょ」
 閉まりかけた玄関を慌てて抑えて、
「まてまてまてまて、お前のためだけに来たって言ったろ。 役目を果たさないと帰れないんだ。 頼む、協力してくれ」
「知ったこっちゃ無いわよ」
「わかった、じゃあ、一つゲームをしよう。 俺が普通じゃないところを見せる。 そしたら中に入れてくれ」
 閉めようとする力がゆるんだ。
「なに、早く見せなさいよ。 つまんなかったらケーサツ呼ぶわよ」
 馬ににんじん、猫にかつぶし、ハルヒに不思議。
「玄関を閉めて、鍵を全部かけてくれ。 すぐに開けてみせるから」
「なに、やっぱりあんた泥棒?」
「お前のためだけに来たって言ったろ。 鍵くらいちゃんと持ってる。 ただ、不法侵入したくないだけだ」
 玄関が閉じられ、次々と鍵の閉まっていく音が聞こえる。 一番下の鍵が閉められたのを確認して、
「じゃ、行くぞ」
 ポケットから鍵を取り出して、上から下まで一気に鍵を開けていく。 ハルヒが一時、一人暮らしをした時にもらった物をずっと記念に持っているのだ。
 全部開けたところで玄関を大きく開……
「……チェーン外してくれ」

※※※※※※※※

「早く寄越しなさい!」
 どうにかこうにかハルヒの部屋へ上がり、腰を下ろす間もなくひったくられるように紙袋を奪い取られた。
「何、これ」
 中身を取りだしたハルヒがしげしげと眺めているそれは、トレードマークとも言えるリボン付きのカチューシャだ。
「なんだか、普通のカチューシャに見えるけど……」
「普通のカチューシャだからな」
 普通にデパートで買える。
「何でそんな物わざわざ?!」
「似合うからだ」
 そうとも、規定事項だ。
 きっぱりと言い切る俺にあとじさって、
「あんたやっぱり「ロリコンでもないしストーカーでもない」
「あんた、本当に何者? うちの鍵をどこで手に入れたのよ。 それに、あたしのことをよく知ってるみたい。 みたい、じゃないわね。 あたしの部屋も知ってたんだから」
 どう答えたモンだろうね。 あるいは、答えを与えることがこのタイムスリップの意義なんだろうか? 禁則に縛られていない俺にしかできないことではある。
 俺は少し考えてから人差し指を立てて示し、
「世の中にはいろいろと秘密があるものさ。 だが、質問は一つにしよう。 それが特別プレゼントだ。 つまらない質問でがっかりさせないでくれよ?」

「何でも答えてくれる?」
 おいおい、直球すぎるぞ。 知り合った頃のハルヒはあれで、もうちょっと思慮深かったんだな。
「それが質問だとしたら、がっかりだな」
 さも残念そうに首を横に振ってみせると
「待って、今のは違うわ。 ちょっと待ちなさい、考えるから!」
 懸命に質問を考えているハルヒからは子供らしい純粋さが見て取れる。 しかしどんな質問をしてくるんだろうな、STC理論なんて質問されても答えられないぞ?
 どうやら質問を決めたらしい。
「質問はなんだい?」
 ハルヒが一瞬息をのみ、目を閉じて深呼吸を繰り返す。 俺は幼いハルヒの決心をゆっくりと待ち続けた。
 やがて、ハルヒは迷いを振り切ったまっすぐな瞳で俺を見据え、ゆっくりと口を開き
「あたし、こんな世界はつまんないと思ってた。 でも世界には秘密があるって、アンタ言ったわね。 わくわくドキドキするような、不思議な秘密もこの世界にはちゃんとあるの?」
 もしここで、そんな物はないと言ったら世界が改変されるんだろうか? だが幸いにして、俺は嘘をつく必要なんか全くなかった。
「あるとも。 具体的には言えないがな、なにせ秘密だ。 そう簡単には見つからないだろうが、お前の人生は不思議のど真ん中で大暴れだ」
「ホントに? 宇宙人や未来人や超能力者や異世界人もいるの!?」
「おっと、質問は一つだったはずだろ? プレゼントは終わりだ。 よい子はもう寝る時間だぞ」
「えーっ! もっと詳しく教えなさい!」
「不思議を教えたら不思議じゃなくなるだろ。 なーに、お前なら自分でちゃんと見つけられる。 そしてみんなで遊ぶんだ」
 ハルヒがしぶしぶ布団に入ったのを見て明かりを消し、おやすみを言って扉を閉めた。 あとは元の時間に戻るまで待っていればいい。
「しかし、どうしたら戻れるんだろうな」
 そうつぶやいた俺の後ろから
「どこへ戻るんだい? 今度は私たちの質問に答えてもらいたいね。 もちろん、一つと言わず」
 驚いて振り向いた俺の前には、ゴルフクラブを持った壮健な男性と金属バットを持った女性が立っていた。
 初めて聞いた、お義父さんの声。
 俺はサンタの帽子や付けひげを取りながら、思わずつぶやいていた。
「ハルヒ、これはお前からのクリスマスプレゼントなのか?」

※※※※※※※※

 明かりのついた居間で二人に向き直り、
「ハルヒのご両親ですね。 初めまして、お会いできて本当に嬉しく思います」
 初めてこの居間に通されたときから、会って話をしたいと思っていた。 結局、それは叶わなかったのだが。
 貌を隠そうともせず、丁寧に挨拶する不審者に二人は貌を見合わせ、構えていた得物を下ろしてくれた。
「どうやら危険なたぐいの人間ではなさそうだが、君は何者かな。 訊きたいことは山ほどあるぞ」
 お義父さんは量るように俺を見て、お義母さんにお茶を淹れるように言ってから、ソファに腰を下ろした。
「まぁ掛けたまえ」
 勧められるまま、俺もソファに腰を下ろす。
「まず君の名前は? 我が家の鍵を持ち、娘の名前を知っていて、私たちのことも知っているようだが、どこかで関わりがあったかな?」
 名乗っていい物だろうか? いいわけがない。 あだ名にしろ本名にしろ、これから俺と出会うハルヒの口から同じ名前が出る可能性がある。
「済みませんが、答えられません」
 お義父さんの貌が厳しくなる。
「――いいだろう。 それで、君はまだここで何かすることがあるのかな?」
 これは…… 出て行けと言われてるんだろうか。 無理もないが。
「いえ、何もありません。 ――できればもっとお二人と話をしたいですが」






「――いいだろう。 さっきの質問だが、鍵はどこでどうやって手に入れた?」
 無理だ。 俺とハルヒの関係を言わなければならなくなる。
「すみません。 それも言えません。 ただ、正統な持ち主から与えられた物で、犯罪的な行為は一切無いとだけ、言わせてください」
「良ければ見せてもらえるかな?」
「ちょっと待ってください」
 ポケットから鍵を取り出し、未来的な何かが付いていないか確認してからテーブルに載せた。
 お義父さんがそれを手にとって確認していると、お義母さんは湯飲みをテーブルに並べて自分も腰掛け、困惑した表情でお義父さんを見ている。
 鍵を手に、夢中になって考え込んでいたお義父さんは自分の鍵も取り出し、二つの鍵を見比べたり鍵と俺の間で視線を何度も往復させたりした。
 やがて俺の貌を鋭い目つきで睨むように凝視して、深い息を吐いて体の力を抜き、鍵をテーブルに戻して
「うん、ありがとう。 よくわかった」
 そう言ってまた考え事に没入してしまった。 時々手振りが入るのは、ハルヒがよくやる仕草だ。 やっぱり親子なんだな。
 不安そうな貌のお義母さんが、そんなお義父さんの裾をそっと引っ張った。 不審者そっちのけで大丈夫なのかといいだけに。
「ん? 嗚呼、この人は大丈夫だよ。 心配しなくていい。 それより少し軽いものを頼めないかな。 きみ、腹は減ってないか?」
 正直ペコペコだったが、帰ればきっとハルヒはいっぱいのご馳走で迎えてくれる。
「きっと用意してあると思いますので…… ですが、少しでしたらご相伴させてください」
 お義父さん、お義母さんと食卓を囲むなど、きっともう、二度と無いことだろう。
「なんだ、夕飯はまだなのか? なに、若いんだから両方食べればいいじゃないか」
 『両方食べればいい』かつてハルヒから聞かされたセリフがリフレインして、思わず笑ってしまう。
 早めに頼むと言ってお義父さんは戸棚に向かい、
「できるまで、これでやっていよう」
 取り出してきたのはお酒とおつまみだった。

※※※※※※※※

「結婚7年目? その若さで! いくつだ? 24? ずいぶん早く踏み切ったもんだな、もしかして子供が出来たとか?」
「子供はいません! そろそろと思うんですけどね、女の子がいいなぁ。 あいつは美人だからきっと子供は世界一の美人になるに違いない」
 俺もお義父さんもすっかりできあがって、家族談義に花が咲く。 この頃にはお義母さんもすっかり打ち解けていた。
「それにしても、よく相手の親は娘を手放したな。 許してもらうの大変だったろう?」
 どきっとする質問だった。
「どうした?」
 とてもお義父さんの貌を見ながらは答えられず、俺は顔を伏せて
「あいつの両親は―― 亡くなっていたので」
 沈黙。 お義父さんがグラスを置いた音をきっかけに、俺は続きを口にした。
「あいつの親権者になった人は、その、良い人とは言えないタイプで。 俺たちが急いだのは、ひとつには親権者を排除するためでした。 結婚すれば成人として扱われますから」
「そうか、そうだっのか」
「俺は思うんです。 出会いは偶然でも、手を離さずにいるのは努力だと。 あの時あいつの手を離したら、俺は二度とあいつの手を取れない。 ――必死でした」

「なぁ、君は今、幸せか?」
 ええ、もちろん。
「奥さんは幸せか?」
 ええ、もちろん。
「そうか、幸せか」

 お酒はおいしいし、お義母さんの料理はさすがだし、お義父さんと呑むのは楽しい。 なのに、心はだんだんと澱が溜まるように重く沈んでいく。
 5年後、この人たちは事故で亡くなる。 そのことを俺は知っていて、この二人がとても好きになっていて、死なせたくない気持ちが大きくなっていく。
 俺が言えば、歴史は変わるだろうか? 事故は防げるだろうか? そうしたら二人が死ぬこともなくて、俺たちはもっと笑っていられるだろうか?
 事故は俺にとって規定事項だ。 規定事項を変える? それは禁則を破ることだ。 だが俺には禁則はかかっていない。 なら、俺は歴史を変えるためにここにいるのか?

「気分が悪いのか? 大丈夫か?」
 突然黙り込んだ俺を心配して、お義父さんが氷水を用意してくれた。 それを飲み干して、
「すみません、少し風に当たってきます」
 サンダルを借り、一人で庭に出ると冷たい空気が酔いを吹き飛ばしてくれる。 ハルヒ、でっかいプレゼントになるかも知れないぞ。
 不安だったこと、苦しかったこと、辛かったこと、全部無かったことにして、お前が笑っている歴史に……
『全部無かったことにして』?
 風が吹いた。 冷たい風が背中をなでて、熱を奪い去っていく。 俺の体が震えているのは、寒さのせいだけか?
 規定事項を抹消したら、この俺とハルヒの歴史はどうなる?
 7年前(今時点からなら5年後だが)の、両親の事故をきっかけに始まったゴタゴタ。 あれにはハルヒはもちろん、俺もずいぶん苦しんだ。
 だが、今の俺たちの絆と幸せがそれを乗り越えた上にあるのも確かだ。
 それだけじゃない。 事故の起こる歴史に上にいる俺は、事故の起こらない歴史の7年後に帰れるのか?
 帰ったら別の俺がいて、ハルヒの隣には別の俺が立っている可能性があるんじゃないか?
『すべて失う』
 いいや、可能性なんかじゃない。 俺が規定事項を変えれば、この俺の存在は無かったことになるんだ。
「そろそろ上がった方がいいんじゃないか? 寒いだろう、風邪を引くよ」
 振り向くと、逆光に照らされた影二つ。

 外へ出た時の俺は、明るい可能性にわくわくしていた。 なのに、部屋に戻る俺は……
 簡単なことだ。 俺が犠牲になればハルヒは笑っていられる。 この人たちも死なずにすむ。 この俺の存在は別の俺で上書きされるだけだ。 誰もこの俺に気づかない。 誰一人悲しませずにすむ。
 ソファに深く腰を下ろした俺は、7年前の運命を変えるべく口を開きかけて、ハルヒの貌が脳裏に浮かんだ。 笑っている。 俺の帰りを待って、台所で料理をするハルヒ。
 慌ててビジョンを振り払い、言いかけてまたハルヒの貌が浮かんでは振り払う。 夕焼けに染まるハルヒ、口元をきつく結んだ喪服のハルヒ、最初のプロポーズは断られたっけ。
「俺はっ!」
 笑っているハルヒ
 泣いているハルヒ
 怒っているハルヒ
 照れているハルヒ
 真剣なハルヒ
 おどけたハルヒ
 アヒル口のハルヒ
 得意げなハルヒ
 眠っているハルヒ
「邪魔をっ、するな! お前のために俺はっぁ!」
 全部、二人で積み上げてきた幸せの時間。

 テーブルの上には、涙がいくつもこぼれて小さな水たまりになっていた。
 はは、これじゃおかしな人だな。 さぞかし二人もおかしな目で――
 ――見ていなかった。 お義父さんの瞳も、お義母さんの瞳も、俺と同じくらい苦しそうで、悲しそうだった。
「君はもう、帰った方がいい」
 お義父さんが静かに言った。

 結局、俺は言い出せなかった。 ハルヒが得られるはずの幸せより、今俺の手にある幸せを選んだ、俺は卑怯者だ。
 玄関先でお義母さんが
「サンタさんに言うのもおかしいですけど、メリークリスマス」
 そう言って差し出したのはクリスマスカードだった。 お義母さんはカードをクリスマス仕様の封筒に入れて手渡してくれた。
 俺はそれを受け取り、なんと言って別れればいいのかわからなかったのでメリークリスマスとだけ言って立ち去った。
 いつのまにか雪が降っていた。

 どうやって帰ろう。 長門が待機モードに入るのはハルヒが中一の時からだ。 あのマンションに行っても長門はいない。
 いたとしても、7年間の凍結なんてできやしない。 ふすまの向こうの部屋は来年から3年間、予約済みだ。
 かといって他にアテと言えば一つしかない。 俺は仕方なく、宇宙人と未来人のメッカであるベンチへと向かった。
 自己嫌悪に落ち込んだ俺が倒れるようにベンチに腰を下ろすと、ほとんど間を置かずに背後の植え込みが揺れた。
「……朝比奈さんですか?」
「はい、お久しぶりです。 キョンくん」
 俺は振り向きもせずに続けた。
「言えませんでした」
 朝比奈さんは俺の言葉には応えず、
「キョンくんを元の時間平面に送り返します。 目を閉じて、リラックスしてください」
 俺は目を閉じあの感覚に身をゆだねた。 そして再び目を開けた時、雪は降っていなかった。
「着きましたよ、キョンくん」
 俺は朝比奈さんに向き直り、
「あの時は、酷いことを言ってすみませんでした」
 頑なに規定事項を守ろうとする朝比奈さんに、酷いことを言ったことが俺にはあった。
「わたし達は、慣れてますから」
 朝比奈さんは薄く笑ってメリークリスマスと一言残して立ち去り、俺も家路に就いた。

※※※※※※※※

 おかえり、と迎えてくれたハルヒの貌を見たとたん、俺は駆け寄って抱きしめていた。
 後悔と自己嫌悪、そして幸せになる覚悟がわき上がってくる。
「俺は、幸せだ」
「どうしたのよキョン、いきなり。 泣いてるの? 何があったのよ、サンタの衣装なんて着て」
「なあハルヒ、俺はこんなにも幸せなんだ」
「はいはい、あたしも幸せよ。 これでいい?」
 ありがとうハルヒ。 その一言でどんなに俺が救われたか、お前にはわからないだろう?
「もっと幸せになろうな」
「はいはい。 でもとりあえずはお腹がいっぱいになる幸せを満喫してちょうだい」

 サンタの衣装を脱いでいくとき、ポケットから封筒が落ちた。
「なにこれ」
 拾い上げて中を見たハルヒの貌が、さっと青ざめた。 いきなり詰め寄ってきて
「キョン! これどこで?! 悪戯なんかだったら承知しないわよ!」
 正直になんて言えるわけがないが、まるっきりの嘘も不味い
「中年くらいの夫婦がくれた。 場所は憶えてない。 なんなんだ、それ?」
 ハルヒはカードの表面を指でなぞって
「あり得ないけど、――お父さんと、お母さんの字だわ」

 『幸せそうで安心した』
 『体に気をつけて』

 ハルヒの手許をのぞき込むと、カードにはそう書かれていた。
 待て。 じゃあ、俺の正体を知っていたのか? そうとしか考えられない。 なら真逆、俺が言おうとして言えなかったことも?
 ――知って、いたんだ。 カードにに書かれた内容、そこには娘の幸せを見届けられない、そんな前提が含まれている。
 だがどうして? 俺は未来人だなんて言ってない。 まして、ハルヒとのつながりを示すようなことは何一つ……
 鍵、か。 家の鍵。 あれに、家族にしかわからないような特徴があったに違いない。 使い込まれて古くなった、ハルヒの鍵を持つ男。
 俺は不審なサンタなんかじゃなく、義理の息子として歓迎されたのか? あれは義父と娘婿の交わすグラスだったのか?
 知っていたならどうして何も言わなかった。 どうして何も訊かなかった? 訊かれていたら俺は――
 浮かんだ答えに、俺は愕然とした。 だからなのか? 訊けば俺が答えてしまう。 だから訊かなかったのか?
 自分たちが死ぬとわかっていても、その上に築かれた娘の幸せを――

「なぁハルヒ」
 ハルヒはカードを大切に、手のひらに包むようになぜながら、頷いて応える。 その眦には光る物があった。
 俺も涙を浮かべながら、最高の尊敬を込めて
「世界最高のお父さんとお母さんだな」
 ハルヒは胸に顔を埋めて泣いた。 大きな声で。 俺も泣いた。 ハルヒを抱きしめて、大きな声で。

※※※※※※※※

 その夜、ベッドの中で
「キョンはいつ頃までサンタを信じてた?」
「そうだなぁ…… 実を言えば、最初から信じてなかったな」
「そうなの? 夢のない子供だったのね。 あたしは今でも信じてる。 今日もお願いしたとおりのプレゼントがあったし」
 何を頼んでたんだろう?
「あたしは幸せでいるって、二人に知らせたかった。 そしたらあんなカードが届くじゃない。 吃驚しちゃったわよ」
 カードは綺麗にラミネートされて、居間の写真立ての間に並んでいる。
「小学校最後のクリスマスにも変なサンタが来てね」
 ぎくっ
「いつもしてた黄色いカチューシャくれたわ。 その一個目ね。 それと予言。 予言の方はダメダメだったけど」
 いや、あなたに自覚がないだけです。
「お父さんとお母さんはあたしが寝た後、サンタといっぱい話をしたって言ってたわ。 そのときは信じなかったんだけど」
 嗚呼、確かに、あれをサンタのプレゼントと言わずになんと言えばいいんだ?
「お母さんと庭の掃除をしててね、お金拾ったのよ。 信じられる? 年号が未来だったわ。 えと、たしか10年くらい」
 あ、それ、俺が投げたやつです。
「だからね、ほとんどニセモノでも本物のサンタはいるのよ。 キョンが会ったのはきっと本物よ」
 そうとも。 紛う事なき本物だったさ。
「それでね、キョン。 あたしはニセモノのサンタだけど、あたしにしかできないプレゼントをキョンにあげたいの」
 ハルヒが耳元で、そっと囁いた。
「あたしたち、そろそろ子供を持ってもいいと思わない?」
「嗚呼、俺もそう思ってた」
 即答
 俺はハルヒにキスをして
「世界一の親になろうな」

fin.


おまけ4コマ

「そういや、最初のプロポーズは断られたなぁ。 何でだったんだ?」
「同情だと思ってから」「プライド傷ついたか?」「そうじゃなくて」
「同情で結婚なんかしたら、あんたが幸せになれないじゃない」
「惚れ直すぞコンチクショー!」


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