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 見上げた空は突き抜けるような青さで、聞こえてくるのは引いては寄せる波の音とみんなの
楽しそうな笑い声。
 私達は今、夏休みを利用して合宿に来ています。
 遥か彼方に見える海と空の境目を見定めようと視線を投げてみると、まるで心まで広がって
いくような感覚でした。
 ……凄いなぁ……海ってこんなに青かったんですね……。
「なんだか楽しそうですね」
 あ、キョン君。はい。凄く楽しいです。
 少し休憩したくてパラソルの下に座っていたあたしの横に、遠慮しながら座って……。
 あ、キョン君の肌はすでに少し色が変わっていきているみたいです。
 男の子っていいなぁ……私も日焼けとか気にしないで遊んでみたい。
「朝比奈さんだったら日焼けしても似合うと思いますよ?」
 ううん、私って日焼けしても赤く腫れて痛くなるだけで色は殆ど変わらないんです。
 だから日焼け止めをいっぱい塗ってるんですけど……いつも塗り忘れがあって痛い思いをす
る事になるんですよね……。
 早々とパラソルの下に逃げ帰った私と違って、涼宮さん達は今も海の中で楽しそうに遊んで
います。
 あ、キョン君はどうぞみんなと遊んできてください。
 せっかく海に来たんですから勿体無いですよ?
「いや、実は俺もちょっと疲れちゃって休みたかったんですよ」
 私を誘って立ち上がろうとしていたキョン君は、そんな私でもすぐにわかってしまう嘘をつ
いてまたシートに腰を下ろしました。
 気を使って貰ってキョン君に申し訳ないなぁ……そう思う気持ちと、これで少しの間は一緒
に居られるという嬉しいという気持ちが、私の中で一緒になっています。
 涼宮さんはみんなとのビーチバレーに夢中で、こちらの様子には全然気づいていません。
 ……これくらいなら……いいですよね。
 私は彼の嘘に気づかない振りをして、そっとキョン君の斜め前に体をずらしてみました。
「何してるんですか?」
 えへへ、内緒です。
 ……よかった。気づかれて無いみたい。
 振り向いた私とキョン君の影が、まるでパラソルの下でキスをするような形で重なっていた
のは、私だけの秘密です。
 

 

 もしかしたら何か甘い思い出が出来るかな? なんて淡い期待を抱いていたSOS団の合宿
はそんな素敵なはじまりを迎えたんですけど……突然起きた殺人事件によって急展開を向かえ、
殆ど寝込んだままで終わりを迎えてしまった時、私は少しだけ落ち込んでいました。
 みんなはまた一緒に海に来られるかもしれないけど、私はその時までこの時代に居られるか
わからない……なんて、そんなの勝手な理由ですよね。
 それでも、あっという間に終わってしまった夏合宿はやっぱりショックで……あ~あ……楽
しみにしてたのになぁ……ふぅ。

 


 その後も本当に色々あった夏休みが終わり、2学期が始まってようやく私達の日常が帰って
きました。
「みんな~合宿の時の写真貼りだしておいたから! 明日までに欲しい写真の横の紙に名前を
書いておく事! いいわね?」
 涼宮さんはそう言いながら、右上から順番に全部の写真に自分の名前を書いていっています。
「古泉、お前こんな写真何時の間に撮ったんだ?」
 黒板に貼られた写真の1つを指差し、キョン君は不思議そうな顔をしています。
 これって……ベットで寝ているキョン君ですよね。
「これを撮ったのは僕ではありません。確か、長門さんだったと思いますよ」
 名前を呼ばれたからなのか、古泉君とキョン君の間に入るようにして黒板の前に長門さんも
やってきました。
「長門、何で俺の寝顔を撮るんだ。っていうか俺と古泉の部屋にどうやって入ったんだ?」
「ベストショット」
 よくわからない返答を返して、その写真に長門さんの名前が書き込んでいます……あ、いつ
の間にか古泉君の名前もあります。もちろん涼宮さんの名前も。
「お前等……俺の寝顔の写真なんて買ってどうするつもりなのか言ってみろ」
 キョン君の疲れた顔を見て涼宮さんは少し考えた後、
「ダーツの的か……ごめん、それしか思いつかなかったわ」
「謝るのはそこかよ」
 ……あ、今なら……。
 2人がそんなやり取りをしている内に、私もその写真の紙にそっと自分の名前を書き記しま
した。

 


 写真を現像に出しに涼宮さんと古泉君がでかけてしまって、部室の中はとても静かでした。
 はい、どうぞ。
「今日はなんだか、いつもより楽しそうですね」
 え、そうですか?
 お茶を受け取ったキョン君がそう指摘したのも、無理はないと思います。
 だって、記念写真が増えるって考えると何だか嬉しくなってしまいませんか?
 お茶を配り終えた私は、黒板に残ったままの写真を見に行きました。
 一面に並んだ写真の中から、気になっていた一枚を手にとってみました。それは海だけを写
した写真で、一面に広がる青い海と空を見ていると合宿の思い出が次々と思い出される気がし
ます。
 来年また……行けるかなぁ。
 ――SOS団に入るまでの私にとって、一年はとても長い時間でした。でも、今はもっとも
っと長く感じるんです。少し怖い事や恥ずかしい事もあるけど、一日一日がとっても楽しくて
……大切で……。
 こんな時間が、少しでも長く続けばいい。最近はそんな事ばかり考えています。
「朝比奈さん」
 いつの間にか隣に来ていたキョン君の手が、何かを持ったまま私の持っていた写真に伸びて
いきました。キョン君の指は写真の海の上で止まって……あれ? 海が膨らんでる? あれ?
 よく見ると写真が膨らんでいるんじゃなくて、キョン君は指先に海にそっくりな色の小さな
青い石を持っていました。
 綺麗……あの、これって何て名前の石なんですか?
 そう訪ねる私の手に石を渡しながら、
「ラピスラズリっていいます。海を見てた時に似てる色だなって思ってたんですよ。この色、
瑠璃色っていうらしいです」
 キョン君から手渡されたその石は、まるで海を固めたみたいな青い色をしていました。 
 わぁ……綺麗……。瑠璃色かぁ……綺麗だなぁ。
 思わず見入ってしまっていた私に、キョン君はあっさりと
「それ、朝比奈さんにあげますよ」
 ええ?! い、いいんですか?
「はい。いつも美味しいお茶を淹れてもらってるお礼って事で」
 キョン君は頷いて、自分の席へと戻って行ってしまいました。
 

 

 ……公園で秘密を打ち明けて以来、キョン君はこうやって思い出になるような物を時々プレ
ゼントしてくれるんです。
 それは、いずれ未来へ帰る事になる私への気遣いなんだろうけど……やっぱり嬉しくて。
 どうしよう……この時代から帰りたくなくなくなっちゃったら? 
 そんな事ある訳ないんですけど……どうしよう……かなぁ……。

 


 「ラピスラズリ」 ~終わり~

 

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