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気がつけば夏である。

結局、俺とハルヒが手に入れたSOS団のアジトは、大して機能することなく、特にやることのない時にぼーっとしにいく程度のそんな場所となっていた。
まぁ溜まり場としての役割は十分に果たしているか。

やることがある時はどんな時かというと、ハルヒ曰く楽しいこと探索という名の散歩をこれまたぼーっとしながら行うのである。

ちなみに、今は夏休み真っ最中あって、俺は毎年強制的に盆休みになったところで母親の実家に泊まってくることになっているわけで…
したがって連日行われていた楽しいこと探しも一旦休憩し、久しぶりに財布に優しい休暇をとっているのである。

というか何で俺が毎回罰ゲームをうけにゃならんのだ。
いついかなる時間に行こうと何故かハルヒは先に待ち合わせ場所に待機しているのである。

「あんたの考えそうなことなんかすぐわかるわよ」

…だそうだ。
もう前日から待機してやろうかと思ったこともある。
…めんどくさいからやらないが。

「しっかし暇だな…」

親の実家は誰も知らないような田舎にあり、こうして縁側に座ってぼーっとしていることくらいしかすることがない。

「キョンくん遊ぼー!」

かと言って妹と遊び相手になってやれるほど元気があるかと言ったらそうでもなくて

「あぁ…すまん、寝かせてくれ、疲れたんだ」
「えー、つまんなーい!」

いつかお前にも1人でのんびりすることの素晴らしさがわかるはずだ…あ、そうだ。

「お前は何で俺のことキョンって呼び始めたんだ?」
「え?おかーさんがそう呼んでたからだよー」

…お袋かよ…まぁ暇な時にでも聞いてみるか。

さて、妹もどっか行ったことだし昼寝でも…

「あ、キョンー」

…なんだお袋よ。

「なんだとは何よ、暇ならおつかい行ってくれないかしら?」
「おつかい?」
「えぇ、醤油とみりんと…あとはスイカかな」
「何でそんなに重いのばっかり…」
「重いからよ。私の父さんと母さんも無理できないんだから、それくらいやりなさい」

…了解。


「あ、そうだ」
「…まだ何かあるのか?」
「私の幼なじみが久しぶりにこっちに帰って来てるのよ。もし会ったら挨拶しなさいよ」
「…何で俺が」
「何でって…あなたちっちゃい頃にその人の家にいってよく遊んでたのよ?娘さんと一緒に」

…全く覚えてねぇや。

「とりあえず行ってくる、醤油とみりんとスイカで良いんだな?」
「うん、挨拶もちゃんとするのよ?」
「…覚えてたらな」



















子供の頃の遊び相手ねぇ…
というか名前くらい教えろっての。
聞かなかった俺も俺だが。

最寄りのスーパーでぶつくさ言いながら買い物を続ける。

「重い…運動してないからなぁ…これ運ぶだけで筋肉痛になりそうだ」

醤油、みりん、あとはスイカ。
…スイカは…あった。
夏場はよく売れるのだろう。
売り場には一つしか残ってなかった。
まぁどうせすぐ補充されるだろう。

そう思い手を伸ばす。

「…あ」

別の人も同じように手を伸ばしていた。
やはりスイカを取ろうとしたらしい、こちらをみてどうしようか迷っている。
…というかこの人の顔…見覚えが…
「あれ?もしかしてキョンくん!?」
「へ?」

思わず間抜けな声が出てしまった。

「あぁ、ちっちゃい頃だったからあたしのこと覚えてないかしら?」
「っと…俺のお袋の幼なじみの?」
「そうそう!覚えててくれたんだ!」

…まぁついさっきお袋に指摘されたんですか。
そしてあぁ、納得。
さっき感じた既視感はこれか?

「えと…お袋と高校も一緒でしたか?」
「良く知ってるわね、大学に入って、お互い結婚するまでずっと一緒につるんでたわ」

やはり、春先に見たアルバムの中でお袋と一緒に写っていたのはこの人か。

「どうせだから、家でスイカでも食べてかない?家も近いし、娘とも久しぶりに会うといいわ!」
「いや…娘さんのことも覚えてないし…」
「いいからほら!早くおいで!」

そう言いながら会計を済ませ、俺の腕をひっつかんで外に出て行く。

…やれやれ。
どうせ暇してたところではある。
とりあえず腕を掴まれたままだと気恥ずかしいので、ちゃんと着いて行くから、と離してもらいいつかよく行ったらしい場所へ歩いていった。

…この強引さ、もしかしたらどこかで気がつくべきだったのかもしれない。




『涼宮』

そう書かれた表札の前でとりあえず俺は硬直した。
お袋の実家から徒歩約5分程の場所にあったその家に入って行ったお袋の幼なじみに続いて入って行っていいのかひたすら迷った。

「何してるのキョンくん?入っていいのよ?…あれ、あの子どこか出かけちゃったみたい」
「あ、わかりました」

どこかに出かけた、という発言を聞いて少し安心した俺がいた。
いや、まぁここで言うあの子があいつである可能性はなかなか無いわけだし…

「…あんた何やってんの?」

だからいきなり真後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたのもきっと気のせいなんだ、そうなんだ。

「…その台詞、そのままそっくりおまえに返すよ」
「あたしはただ母さんの実家に来ただけよ」「…その台詞もそのまま返すよ」

…涼宮ハルヒがそこにいた。
驚いた、というよりは完全にハテナマークを頭の上にだして首を傾げている。

「あらハルヒ、帰ってきたの?ほら、キョンくんよ、小さいころあんたとよく遊んでた」
「えぇ!?」

…まぁその反応が普通だろうな。
いつかみたいに口開けたまま固まってやがる。

「ま、2人ともそんなところに突っ立ってないで、中に入りなさい。さっき買ってきたスイカでも食べましょう」


















「そっか、じゃああたしがキョンのこと見覚えあるって思ってたのは気のせいじゃなかったのね」

切り分けられたスイカを食べながらハルヒが呟く。

「あはははは!それにしてもあんたたちが同じ高校に入ってたなんてねぇ、しかもハルヒがよく話してた男の子がキョンくんだったのかぁ」
「…おまえ俺のこと喋ってたのか?」
「ち、違うわよ!母さんが学校のこと聞いてくるから…たまたまだからね!」

2日に1回、おばさんがそう呟くのが聞こえた気がしたが、意味は深く考えないようにした。

「いーっつも嬉しそうに話すのよ。ニコニコしながら。今日はあれした、今日はこれしたーって」
「…あぁ、そうなんですか」

…反応に困る。
というかハルヒ、顔赤くしすぎだ。

「性格がきっついから大変でしょう?いっつも無茶なことさせてごめんね?」
「…いや、まぁ…大丈夫ですよ」
「もう!あたし麦茶入れてくる!」
「あーあ、すねちゃった」

あのハルヒを一方的なまでにからかうとは…流石生みの親と言ったところか。
「昔はもっと素直だったんだけどね。今は頑固になっちゃって…」
「聞こえてるわよお母さん!」

台所の方からハルヒの怒号が…

「そういや、おばさんも俺のことキョンって呼ぶんですね。ったく、お袋め、変な呼び名を定着させおって…」
「あら、キョンのお母さんじゃないわよ?その呼び名を定着させたのは」

…へ?じゃあ誰が?

「ハルヒよ。あなたと遊んでる内にいきなりあなたのことキョンって呼び出したの」

…頭が痛い。

「あれ?妹ちゃんじゃなかったの?その呼び名付けたのって」
「元を辿るとお前なんだそうだ」
「未だにわからないんだけど、何でキョン、って付けたの?」
「んー…わかんないわ。というか覚えてないし。何か変な感じ、あたしがキョンの名付け親だなんて」

…一応言っておくが、俺の本名はキョンじゃないからな?

「知ってるわよ…全く…」
「あはは、ハルヒったら本名忘れてそう!」

もちろんおばさんは俺の本名言えますよね?

「…あはは…」

…何でそんなに微妙な笑顔で目をそらすんですか。

「そういえば、キョンくんとハルヒが遊んでるところは見てて微笑ましかったわぁ」

…俺の名前は?

「キョンくんってば、いっつもハルヒにくっついていって、もう少し男の子らしくなりなさい!っていっつもハルヒが言ってたのを覚えてるわ」

…まぁいいや。
俺の名前なんか語られることは無いのだろう、きっと。
そう思いハルヒが汲んでくれた麦茶を飲む。

「キョンったら今も変わってないのよ、絶対に自分から何かしようとしないのよ」
「あんたはそういうのほっとけないもんねぇ、キョンくんは覚えてる?優柔不断なキョンくんに耐えかねてハルヒが言ったこと」
「いえ、というか小さなころにハルヒと遊んでいたことを忘れてたので…」
「あたしも覚えてないわ」

ふふっ、と笑い、おばさんが一つ咳払いをする。

「キョンは1人だと頼りないから、あたしがお嫁さんになって一生お世話をするの!!!」


麦茶を盛大に吹いた。
親子だからなのかわからんが、おばさんの真似声がハルヒにそっくりなんだ。

「…なのに今はこんな頑固になっちゃってねぇ…はいキョンくん、台拭き」

何も言い返さないハルヒを見ると…顔を真っ赤にさせて固まってた。
本日二度目でもある口を開けたままの格好で。
…というか俺も何も言えない。

「あ、もうこんな時間。キョンくん夕飯も食べてく?」
「あ、いえ、買い物の途中でしたし…そろそろ帰ります」

また遊びに来るのよー、とおばさんに見送られながら帰宅。
ちなみにハルヒはずっと固まったままだった。



















その夜。

「キョーン!花火するわよー!」

いきなりハルヒが押しかけて来やがった。
立ち直り早いなおい。

「あー…いちいち気にしてたってしょうがないじゃない。子供が言ったことなんだし」
「ま、それもそうか」
「あー!キョンくん花火やるの!?」
「あ、可愛い!何?妹ちゃん?」

あぁ。

「私も花火したいー!」
「お袋に聞いてこい。良いっていったら連れてってやる」
「わかったー!」
「元気な子ね、キョンとは似てもにつかないくらいに」
…余計なお世話だ。

「キョンくーん!行ってもいいってー!」
「よし、じゃあ行きましょうか!」




「…全部線香花火か」
「お母さんが好きでいっつも買いだめしちゃうのよ」

ほら、とハルヒが指差した先にはいつの間にやってきたのかお袋とおばさんが久しぶりの会話に花を咲かせている。
流石に妹から目を離すわけにはいかないらしい、離れないようにと言い聞かせて近くで花火をさせている。

「まぁあたしも好きなのよね、線香花火」
「…もっと派手なのが好きかと思ったけどな」
「何というか…火種が落ちるまで光り続けようとするのが…一生懸命な感じがしていいなぁって」
「…そんなもんかねぇ」

パシャッ

「あー!ちょっと、何勝手に写真撮ってるのよ!」
「だって2人とも良い雰囲気だったからさ、何?笑ってる写真が良かった?」
「そういうことじゃなくてね…もういい、一生母さんには勝てない気がする」

流石のハルヒも親には勝てないか。

「あー…線香花火落ちちゃった、キョン、次のやつ取って」
「ほれ、というか今更だが、こんなとこまで来てお前の顔を見ることになるとは思わなかったよ」
「あたしも、まぁどうせあんた1人じゃなにもしなかったでしょ?」

…多分。

「もう、あたしがいないと本当に駄目なのね…」

………。

「…あたし今そんなに変なこと言った?」
「いや、おばさんの話を聞く限りお前も変わってないんだなぁって」
「…それもそうね」

あははっ、とハルヒが笑う。
それにつられて俺も笑う。

その瞬間を待っていたかのように、もう一回、カメラのシャッターが切られた。

つづく
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