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 ――長く続いてきた神と人の子の戦いに、最後の時がやってきた――

 


 年末に向けて何かと忙しい今は十二月の半ば、狭くなってきた部室を少しでも広げようと
私物の整理をしていた時の事だった。
 本棚の上にあった見覚えのない段ボール中身を確かめようとを開いてみると……。
 あ、これは。
「ずいぶん懐かしい物が出てきましたね」
 段ボールの中に入っていたのは、新聞で包まれた2丁のモデルガンだった。
 映画の時のか、どこにしまったかと思えば……。
 何となく手に取ってそれを眺めていると、
「こらキョン! 今は掃除中なんだから遊ばないの」
 珍しく掃除に勤しんでいたハルヒに怒られてしまった。
 俺はすごすごと段ボールの中へモデルガンを戻すと、横から伸びてきた手が再び掴んでいく。
 おいハルヒ。
「何よ」
 ご機嫌でポーズを取ってるところ悪いんだがな、今は掃除中だったんじゃなかったのか。
「ねぇキョン。モデルガンで遊んだら部屋は弾で散らかるわよね」
 部屋の中で遊べばな。
「だったら掃除を今やっても無駄になるとは思わない?」
 外で遊べばいいだろう。
 幸い今日は雪も降ってないんだし、放課後の時間も過ぎてるんだから教師に見つかる事もない。
「寒いから嫌」
 そうかい、じゃあ春までしまっておくぞ。
 俺がモデルガンを取り上げようと手を伸ばすと、ハルヒはすぐさま逃げ出していき、ほわほわ
とした笑顔で見守っていた朝比奈さんを背後から抱きしめて、モデルガンを突き付けやがった。
よりによって朝比奈の胸に!
 黒光りする銃口が張り詰めた朝比奈さんの胸に何度も深く沈んで……ああ! 銃になりたい!
「わふっ……え? あう? 涼宮さん?」
 怖がっていいのか恥ずかしがっていいのかわからない顔で朝比奈さんは戸惑っている。
「さあキョン、おとなしく掃除を止めてあたしと遊びなさい」
 お前は何を言ってるんだ。
「キ、キョン君」
 そんな怯えた顔をしなくても大丈夫ですよ。俺は貴女の胸を危険にさらして平気でいられる程、
掃除好きじゃありませんから。

 


 ――人の子は、圧倒的な神の力の前に平伏す。されど――

 


 そんなわけで急遽開催された射的大会だったのだが、
「やっぱり……的を狙うだけじゃつまらないわね」
 ぶっちぎりの一位でありながらハルヒは不満そうだった。
 ちなみに長門も同点一位で、後は俺、古泉、最後に殆ど床に弾をばら撒く結果に終わった朝比奈
さんという順位だった。
 じゃあ、動く的でも作るか。
 回転する的くらいならなんとか作れると思うぞ。
「そーゆー意味じゃなくて。動いてようが的は的でしょ? 当てて当然じゃない」
 そうかい。
 俺は的どころか、段ボールに当てるだけで精一杯なんだがな。
「やっぱり的は人間じゃないと、それに自分が撃たれるかもしれないって緊張感も欲しいわ」
 ……嫌な予感がする。
 さて、寒くなってきた事だし掃除は明日にして帰ろうか。
「待ちなさい」
 遅かったか。
 荷物をまとめはじめた俺に対して、ハルヒは笑顔と銃口を向けていた。
 良い子のみんなは、絶対に真似しないように!

 


 ――それは強き者故の驕り。……それとも――

 


 部室棟の一階入口、壁に背を預けた状態で俺は息を殺してしゃがんでいた。
 俺の右手にはずっしりと重そうな外見で実は軽いモデルガンがあり、胸の辺りには三十セ
ンチ四方の段ボールがテープで張り付けてある。
 そして顔を覆う登山同好会のゴーグル(無断拝借)
 やれやれ……と言いたいところだが、ハルヒに聞かれるかと思うとそれすら躊躇われるな。
 さて、俺が何をやっているかと言えば……ハルヒ考案のサバイバルゲームの真っ最中だっ
たりする訳だ。
 ルールは簡単、ゲームは部室棟の中だけで行われ、胸の段ボールに相手の弾を先に三発受
けた方が負け。
 そして残念ながら俺の段ボールにはすでに二つ弾の痕があり、もう後がない。
 別に適当に負けてやればいいような話しなんだが……問題は勝者の権利だ。

 


 ……本気か?
「もちろん本気よ」
 呆れた顔で聞き返す俺に、ハルヒは自信満々な顔で言い返す。
 俺が本気かどうか聞き返したのも無理はない、なんせハルヒは「負けた人は勝った人の要
求を何でも一つだけ聞く」などと言い出しやがったんだ。
 なんでたかがゲームにそんな権利を賭けなきゃならんのだ。
「別にいいでしょ? 恐かったら勝負を受けなきゃいいんだし」
 ハルヒはノリノリだが、意外にも参加は強制するつもりがないようだ。
「それに、自分の意思で勝負を受けなきゃ勝者の言う事に従う気にもならないでしょ」
 なるほどね。
 そんな成り行きに長門は当然関知せず、朝比奈さんは怯えた顔で見守るだけ……。
 そして古泉は……営業スマイルを浮かべた超能力者は一旦はテーブルに置かれたモデルガン
に手を伸ばしたものの、
「やはりやめておきましょう」
 結局、モデルガンを手に取る事は無かった。
「みんな怖がりね~……。キョン、あんたはどうするの?」
 俺か?
 ……考えてみれば、だ。
 どうせハルヒはいつも好き放題に俺達に命令している訳で、ここで負ける結果に終わっても
それは変わらない。だが万一勝つ事ができたら? もしかしたら、ハルヒの我侭との戦いに終
止符を打つことができるかもしれないじゃないか。
 宝くじも買わなければ当たらない。
 そう自分に言い聞かせて、俺はモデルガンを手に取った。

 


 ――人の子は武器を手に取り、自らの運命を変えようと立ち上がった――

 


 宝くじは買わなければ当たらない。
 が、宝くじを買うにはその対価を支払わなければならないわけで……。
 開始直後にハルヒの銃弾を2発もくらってしまった俺は、こうして隠れている訳だ。
 しかし、外の風が入ってくるこんな寒い場所にいつまでも隠れて居られない。
 そっと階段の方へと体をずらした途端、俺の手元に数発の弾が飛んできやがった!
「バレてるわよ、そこに居るの」
 階段の上から余裕あり気なハルヒの声が聞こえてきた。
 あいつがいったい俺に何を要求するつもりなのか知らんが、これを最後の戦いにする為にも
負けるわけにはいかないんだ!
 俺は被弾するのを覚悟で、上着を盾に階段を上り出した。
 幸いハルヒのルールによれば、胸のダンボール以外の被弾は勝負に関係ないらしい……が、
何ていうかもうとにかく痛い。
 ようやく2階に上がった時、すでに俺は涙目になっていた。
「ほらほら~、撃たなきゃ当たらないのよ?」
 廊下の先から、ハルヒの銃弾が雨霰の様に飛んでくる。
 慌てて階段へと逃げ戻る俺を、弾は的確に追いかけてくるのだった。
 いていてっ! くそ~。
 ひりひりと痛む手を擦りながらじっと反撃の機会、ハルヒが弾の補給をするのをじっと待つ。
 いくらあいつが天才的なガンマンだろうが、弾が無ければ戦えないんだ。
 俺は自分のモデルガンの残弾を確かめ、その時をじっと待っていた。
 ――今だっ!
 廊下から聞こえ続けていた弾の音が止んだ瞬間、俺は一気に廊下へと飛び出した。
「あ、ずるい!」
 廊下の真ん中で立っていたハルヒは、その場で弾を装填中らしく反撃してこない。
 いける!
 そう確信した俺はそのままハルヒに向かって走っていった。
 俺の腕前で確実にハルヒのダンボールに命中させるには至近距離まで行くしかない。
 手早くカートリッジに弾の装填を終えたハルヒの手から弾のケースが投げ捨てられ、モデルガ
ンの底部にカートリッジが飲み込まれ……る事はなかった。
 角度が悪かったのかどうかなんて事は知らないが、慌てるハルヒの手から滑り落ちていくカー
トリッジ。
 チェックメイトだ、ハルヒ。
 拾いなおそうとしゃがんだハルヒの目の前に、俺はついに立った。
「う……あ……」
 自分が負けるなんて事は微塵も考えていなかったんだろうな、ハルヒの顔は驚きで固まったまま
動かない。
 俺はハルヒの胸のダンボールを左手で持つと、銃を押し当ててから引き金を引いた。
 フルオートモードだったモデルガンは嬉しそうに弾を吐き出し、10発程の弾の痕を作った所で
俺は手を止めた。
「……」
 俺のダンボールには2発の痕があり、自分のダンボールには明らかに3発以上の痕があるのを見
てハルヒは唇を尖らせる。
 何でも1つだけ言うことを聞くんだよな。
「……そうよ」
 不服そうな顔で答えるハルヒに俺は……あれ、俺は何て言えばいいんだ?
 えっと、我侭を止めろってのは……駄目だ。ハルヒが大人しくしている所なんて想像できない。
 いたずら止めろとか言っても、こいつの普段の行動はいたずらなんかじゃなくて常に本気なんだか
ら意味がないだろうな。
「早く言いなさいよ」
 まあ待て、ここで何て言うかで今後の高校生活に深く影響しそうなんだ。
「何よそれ」
 ハルヒにこうあって欲しいという欲求を、次々と思い浮かべていった結果辿り着いた結論は……だ。
 どうせこいつに何を言っても無駄なんだろうし、それならばせめて自分の思う姿で居て欲しいだろ?
 俺は自分の顔をかきながら、願いを口にした。
 ハルヒ。俺がいいって言うまで、ポニーテールにしてくれないか?
「……え?」
 意味が分からないのか、唖然とした顔をするハルヒ。
 お前のポニーテールが好きなんだよ。
 俺がそう言い切るとハルヒは急に顔を赤くして、
「わ、わかったわ」
 大人しく頷くのだった。

 


 ――かくして世界に平和が訪れた。俗に言う、デレ期の到来である。 yuki.N――

 

 
 ……何が理由かなんて事はわからない、とかくこの世は謎だらけって奴だろうか。
 翌日、というかそれ以降ずっとポニーテールで学校に通うハルヒは、以前の様な我侭を言わなくな
った。古泉によれば例のバイトも開店休業らしく、朝比奈さんに時間旅行に誘われる事もなくなって
久しい。
 SOS団設立以後、台風の様にこちらの都合を考えずやってきていた非日常は過ぎ去り……その代
わりなのだろうか。
「ねぇキョン。一緒にお弁当食べよう?」
 ん、ああ。
 あの日以降、ハルヒはやけに俺にくっついてくるようになったんだが……さて、これは何故なんだ
ろうな?

 


 「ハルマゲドン」 ~終わり~

 

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