『台風一過のハレの日に』

 

 

○ エピローグ

 

「なによ、また台風? バカにするんじゃないわよ!」

団長席でハルヒが怒っている。この分だと、閉鎖空間が発生するかもしれないな。そう言うわけでなんとかフォローしようとする古泉は必死のようだった。

「まぁまぁ、涼宮さん、そうおっしゃらずに……」

「だって、ついこの間もきたところじゃない、台風!」

あの時は、お前喜んでたじゃないかよ、と言いたくなるのを俺はぐっとこらえた。

今度の台風は、明日の土曜日の午前中に最接近するらしい。その明日は久々の不思議探索を予定いていただけに、ハルヒも納得できないようだ。

「あーあ、つまんないなぁ。やっぱ、こういう時は宇宙人よね」

ハルヒの言葉を聞いた長門は、いつもの丸テーブルのところから顔を上げることなく、少しだけ上目遣いで俺の方を見ていた。

「一度でいいから、雨と一緒に降ってこないかなぁ、宇宙人……」

そう言ってハルヒは少し雨脚が強くなった窓の外を眺めていた。

あのな、ハルヒ、お前が知らないだけで雨と共に宇宙人はやってきたし、その液体宇宙人のこゆきと、たっぷり遊んだんだぜ、俺たち。

 

こゆきが地球を後にしてから一週間が経った。

部室の壁には、以前のメイド姿の写真に加えて、こゆきを中心としたSOS団+鶴屋さんのウェディングドレス姿の写真がピンでとめられている。

長門が情報統合思念体に確認してくれたところによると、こゆきは無事に新たなる故郷である惑星に帰還したそうである。そして、統合思念体から派遣されている対液状化分散集合生命体用アクアノイド・インターフェースの婚約者と晴れて夫婦となったということだ。結婚式とか披露宴とかあったのか、と長門に聞いてみたが、詳細はよくわからないらしい。

とにかく幸せに暮らしている、ということなので、俺もほっと一安心だ。

 

「ねぇ、有希、その後、こゆきちゃんから何か連絡はない?」

「無事に到着したという連絡以降は特にない」

「ううーん、せっかくのバミューダトライアングルなんだから、飛行機とか船とか消えないのかしらねー、つまんないわ」

そこでハルヒは長門の方に振り向いて、

「こゆきちゃんに連絡しといて、今度絶対遊びに行くから、って、ね」

「了解した」

おい、長門、軽々しく引き受けるんじゃない。こゆきが住んでいることになっているカリブ海の島国『アンティグア バーブーダ』に行くことになるような事態はなんとしてでも避けなくてはならないんだからな。

 

 

パタン。

しばらくして長門が本を閉じる音が雨音に混じって聞こえた。

「そうね、雨がひどくなる前に帰りましょうか」

長門の合図にはハルヒも素直に従うようだ。

朝比奈さんの着替えとハルヒの片付けを待つ間、俺と古泉は先に部室を出て廊下の窓から空を見上げていた。着替える必要のない長門も俺の隣で空を見上げている。

 

「そういえばこゆきがいた間はずっといい天気だったな」

俺は隣にたたずむ小柄なアンドロイドに話しかけた。

窓の外を見つめたまま、こくんと肯く。

遠くの木が揺れている。少し風も出てきたようだ。

「直接は会えないのかもしれないが、連絡は取れるんだろ、こゆきに」

再び肯く。

「よろしく伝えといてくれよな」

「大丈夫」

振り向いた長門は、いつものようにミリ単位で首をかしげると少しばかり微笑んだ様に見えた。

その長門の表情越しにこゆきの笑顔が浮かんで、俺はふと思った。

ひょっとすると、今度こゆきと会う時には、子供を連れてくるかもしれない。きっとまた長門にそっくりのかわいい子に違いないはずだ。

 

いや、待て、ということは、なんと俺はおじいさんになってしまうのか?!

 

……うん、まぁそれはそれで悪くないかもしれない。待ってるぜ、こゆき。

 

 

Fin.

 

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