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「お題がスパイスって事は……今回のおかずレシピは間違いなくカレーネタね」

 朝、教室であったクラスメイトへの第一声がそれか朝倉。

「でもそうなんでしょ? スパイスといえばカレー、カレーといえばスパイスじゃない」

 どいてくれ、席につけない。それと今のはお前の偏見だ。

「でも、カレーなんでしょ? 今回もカレーよね? 死ぬのって怖い? 何カレー?」

 さらりと嫌な言葉を混ぜるな。それと俺が何か作るのは規定事項なのか?

「カレーと聞いてやってきました」

 そうか長門。そりゃよかったな。ところでどこから出てきた? そろそろ教室に戻ったほうがいいぞ。

「貴方の反応が理解できない。もう少し喜びを表現するべき」

 その表現とやらは後でゆっくりやってやる。場合によってはダンスの一つでも踊ろう。ただ、今は落ち着け。

「何故」

 HRが始まってる。

 俺は長門に早くクラスに戻れと手で合図し、次いで朝倉へは自分の席に戻るように促した。
 そして教壇で固まっている岡部にHRを再開してくださいと掌を上げて見せ「今日はカレーなのか」
 ……お前もか、岡部。


 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 4食目「歯茎」「スパイス」


 その後の休み時間、俺はいつものように一人でのんびりと過ごそうと机にのしかかろうとしたのだが、俺の体を
強引に持ち上げ歩き出す宇宙人の二人組ってちょっとまてよおい!
「何」
 一応返事はするものの、どうやら苦情を聞く気は欠片も持ち合わせていないらしい朝倉と長門によって運び
出された俺は、教室を出て廊下をずんずん進み階段を一段飛ばしで登り屋上へ出るドアの前まで来て停止する。
「協力して下さい」
 ……俺を熱い眼差しで見つめるこの宇宙人どもに、どなたか常識を叩きこんでやってもらえませんか?
 えっと、何を協力するって?

「私達の台所事情」

 凄い具体的。

「この間のカレーも、可能な限りルーと玉葱を足して食べてたんだけど、もう限界なのよ」

 作り方は教えただろ、やってみたのか?

「材料が続く限りやってみた」

 そうか、偉いぞ。

「でも美味しくならないのよ、何がいけないのかな」

 ここで問題点を指摘しろとか言われてもな……。とりあえず、ちゃんと素材に火を通したか?

「その前に、ガスコンロに火がつかない」

 ……そこからかよ。



「まさかガス料金の引き落としが失敗してるなんてね、通帳記入しても記載されないから変だとは思ってたのよ」

「迂闊」

 ……まあ、お前らの家計事情はいいとしよう。コンビニで支払いも済んだし、俺、帰っていいか?

「え、カレーは?」

 そろそろカレーから離れろ。読み手も書いてる人もお腹が空いてくるだろうが。

「歯茎、これがきっとキーワード」

「……流石長門さん、最高のインタフェースね」

 インタフェースなら会話を成立させてくれ。まあいい、とにかく分かってるのはガスコンロが使えないって事だな。

「そう。これは貴方にとって試練」

 俺にかよ。

「私達は手伝えないからがんばってね」

 しかも丸投げ? ……まあいいか、じゃあ何か作ってやるよ。

「信じてた」

 そうかい。だが作るのはカレーじゃないぞ。

「そんな」

「あー、女の子の期待を裏切るなんていけないと思うな?」

 お前らのレパートリーを増やしてやるだけだ。買い物に行くから部屋の電気消してきてくれ。 

「同棲生活、ひいては結婚後を連想させる発言」

「これって結婚のお題も消化するつもりなの?」

 いや、あれはネタが思いついてるからここでは使わない。あと、中の人ネタは自重した方がいい。



 ――そんな訳で今日はコンビニではなく近所のスーパーにやってきている。

 長門の部屋の台所には致命的に足りない物がある。さて、それはなんだと思う?

「あ、わかった。調理器具でしょ?」

 それも足りないな。

「男手」

 それは普通はいらないはずだな。

「じゃあ女手?」

 お前らの性別を言ってみろ。足りないのは調味料だ。

「え、調理器具よりそっちが優先順位高いの?」

 ケースバイケースだな、使い方がわからない調理器具が増えるより、振りかけるだけの調味料が
有効な場合も稀にある。

「//」

 褒めてないぞ。最低でも塩、さとう、醤油、味噌は欲しい。

「今日の予算だと全部は買えないかな」

 もうちょっと頑張れよこの銀河を統括する情報統合思念体、自律進化の可能性がかかってるんだろ?

「申し訳ない」

 まあいいか、とにかく今日の夕飯だけはなんとかしないとな。長門、ご飯はまだあるのか?

「後3年は生きられる程度は備蓄がある」

 消費期限を意識するのは大事だぞ。まあ御飯があるならなんとかなるかな。

「あ、調味料コーナーってここね。……何これ、調味料ってこんなに種類があるの?」

 専門店だとこの倍は種類があるぞ。最近は手軽な値段で専門的な調味料も買えるようになってきて助かるよ。

「それで今回はどれを買うの? 言っておくけどご飯意外に食材は残ってないからね」

 そうだな、コンロは使えなくて予算もないなら……調味料は白胡椒と塩にしよう。
 最近は100円で買える小瓶があるから助かるな。

「白胡椒?」

 そうだ。胡椒はスパイスの一種で一般に使われるているのは黒胡椒、特徴は辛味が強い事だ。
 それに対して白胡椒はマイルドな味でかけすぎによる大惨事が少ないから素人向きだと俺は思う。

「楽しみ」

 そうかい。後はアルミホイルと、ベーコン……は高いから豚細切れを1パック。後リンゴも欲しいな。

「どんなカレーができるのかしら?」 

 おい、何の話だ? パセリと玉葱と……そうだな、メインは鱈にしよう。

「あ、急に用事を思い出したかも」

「私も」

 魚の名前が出た途端に逃げようとするな。

「だって……魚って難易度高いじゃない」

「あの視線が怖い」

 捌くのが苦手なら、店の人に頼めば切り身にしてくれる店もあるぞ。この店もそうだし最近はそーゆーサービスを
やってる店は結構多い。

「サービス業には自律進化への可能性が秘められている」

 それを言うなら自立生活だ。それと、できれば自分で捌けるようになってくれ。
 俺には主夫願望はないからな。

 

「ただいまー」


 はいはいお帰り、じゃあ料理手順を説明するぞ。

「ここまでにずいぶんレス数つかっちゃったけど大丈夫?」

 ああ、今回は調理シーンが少ないんだ。

 1 まずはアルミホイルを広げて、その上に薄くスライスした玉葱を乗せる。

 2 玉葱の上に鱈を乗せて、白胡椒と塩をまぶす。後で味を調節できるように薄めにしてくれ。

 3 そして豚細切れを散らして、小さく切ったリンゴの欠片を鱈の上に並べてパセリを乗せたらアルミホイルを閉じる。

 4 最後にオーブントースターに両端を折り返して入れる。こうすると取る時に火傷しなくて済むぞ。

「メモメモ……この順序に意味は」

 あるぞ、まず最初の玉葱は鱈がアルミホイルにくっつかない様にしてくれるんだ。

「リンゴはどうして入れたの? そこだけ浮いてる気がするんだけど」

 ああ、リンゴはホイルの中の湿度を高めてくれるのと、豚肉の臭みを消す為に入れたんだ。ちなみにパセリも彩りと
消臭目当てだ。

「余った林檎は」

 デザートにしてもいいし、そのまま齧ってもいいぞ。

「林檎ってそのまま齧ったら歯茎から血が……はっ!」

 運よくお題も回収できたみたいだな、それと健康な歯茎なら血はでない。カレーもいいが、たまには果物も取らないとな。

「食欲を誘う匂いがしてきた」

 もうちょっとかかるからその間にご飯を温めておいてくれ、俺は林檎でも切ってる。

「任せて」 

「あ、林檎のうさぎさんだ。キョン君って可愛い所あるのね」

 妹にせがまれて覚えたんだ。よし、こんなもんかな……じゃあ俺、帰るわ。

「えー? 何でいつもキョン君が帰るオチなの?」

 前にも言ったろ? 家に帰ったら妹に夕飯を作らなきゃいけないんだ、文句があるならむしろ俺の家に来ればいい。

「盲点だった」

「それもそうよね」

 ……俺は今、取り返しのつかない事を言ってしまったような気がするんだが……。


 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 4食目「歯茎」「スパイス」

 

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