こころのやさしいうちゅうじんのうちです
どなたでもおいでください
おいしいおかしもございます
おちゃも、わかしてございます
「助かるわ、ここに来れば美味しい料理に美味しいコーヒー、もう言う事無いわね」
「さようで」
「最近、忙しくて作ってる暇が無かったもの。こんな事ならもっと足繁く通うんだったな」
「はは、ありがとうございます」
「ねえ、喫茶店のマスターさん」
「はい?」
「わたしの悩み、聞いてくれない?」
「はい、なんなりと」
「あのね──」
◇ ◇ マスターと朝倉さん ◇ ◇
「──、つまり。それをしないと上司から大目玉をくらう。逆にそれをすると大切な友人を傷つけてしまう。と」
「そんなところね。最近その事ばかり考えてもうどうかしてしまいそう」
「……ふ、む」
「まあ、ちょっとスッキリしたかな。聞いてくれてありがと」
「朝倉さん」
「なあに?」
「なんでしたかな、あのお話は」
「あのお話?」
「ああ、思い出しました。たしか泣いた赤鬼、でございましたか」
「赤鬼?」
「はい」
「そのお話、聞かせてもらえるかしら?」
「ええ」
むかしむかし、あるところに赤鬼がありました。
赤鬼は人間の友達が欲しかった、そこで色々と策を練るのですが、鬼であるという理由から中々信用してもらえないのでございます。
そんな日、家に遊びに来た青鬼に赤鬼はこう相談するのでございます。
「人間と友達になりたいんだけど上手くいかない」
と。
すると青鬼はこう提案しました。
「僕が村で暴れてくるから、その僕を退治すれば君は英雄だよ」
そうすれば人間も鬼である赤鬼に心を開くのではないかとね。
しかし赤鬼はそれでは青鬼に悪いと渋りましたが、青鬼はどうしてもと言い、村で大暴れを始めたのでございました。
「赤鬼はどうなったの?」
「それは、もう」
計画は見事に成功しました。
来る日も来る日も赤鬼の元には人間が遊びに来るようになりました、赤鬼は人間と友達になる事が叶ったのでございます。
しかし、青鬼の事が気がかりでした。
意を決して赤鬼は青鬼の家へと赴きました。辺りには青鬼の気配はありませんでした、代わりにそこには張り紙が。
そこにはこう書かれてありました。
「赤鬼くん、人間と仲良くして、楽しく暮らしてください。もし、ぼくが、このまま君と付き合っていると、君も悪い鬼だと思われるかもしれません。
それで、ぼくは、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。さようなら、体を大事にしてください。どこまでも君の友達、青鬼」
赤鬼はだまってそれを読みました。二回も三回も。しくしくと涙を流して泣きました、いつまでも、いつまでも。
「それで、その赤鬼は人間と幸せになれたの?」
「さあ」
「さあ?」
「物語はそこで終わりでございます、その後の事を知る術はありません」
「……だったら結末はこうね。赤鬼は人間と幸せになれる」
「どうしてでございますか?」
「だってそうじゃなきゃ青鬼は何のために人間を襲ったのかわからないじゃない。赤鬼も青鬼の意図くらいわかるはずよ、とっても優秀なんだから」
「さようでございますな……、しかし」
「なあに?」
「物語の続きを書こうとすれば、それこそ幾通りもの筋書きを用意する事ができます」
「そうね」
「……この物語で一番無責任なのは誰だと思いますか?」
「質問の意図がよくわからないのだけれど」
「ならばこうしましょう、朝倉さん。ご自分は赤鬼ですか、青鬼ですか、人間でございますか、それとも」
「……」
「本当に友の事を思うならば、その行為を正当化できると先程おっしゃいましたね」
「ええ、確かに言ったわ」
「ですが──」
「だって仕方ないじゃない! わたしは、そのためにいるんだから! わたしは、わたしは──」
◇◇
あの一件以来。
朝倉さんがこの店を訪れる事はありませんでした。
彼女が去り際に見せたあの釈然とした笑顔だけが、私の心の中で強烈に残っております。
私は、彼女に一体何をしてあげることができたのでしょうか。
その事だけが、未だに心残りでございます。
私が……、赤鬼なのでしょうか。
◇◇
きょんくんたちと なかよく まじめに つきあって、いつもたのしく くらしなさい。
わたしは、しばらく、ゆきとおわかれ。この ほしを でてゆくことに きめました。
ゆきとわたしと、いったりきたり していては、きょんくんたちは、きになって、
おちつかないかも しれません。そうかんがえて、たびにでることにしました。
ながいたび、とおいたび、けれども、わたしは、どこにいようと、ゆきをおもっているでしょう。
ゆきの だいじなしあわせを いつもいのっているでしょう。
さようなら、ゆき、からだを だいじにしてください。
どこまでも ゆきの ともだち あさくらりょうこ
おわり。
冒頭と文末はこちらから引用させていただいています。