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「…………」

この三点リーダーは長門のものではなく俺のものであり、

「何か…言いなさいよ。」

この歯切れの悪い台詞はハルヒのである。

突然こんな場面から始まっても何がなんだかわからないだろうから、

今俺が置かれている状況を簡潔に箇条書きしてみる。

 

・俺とハルヒは俺の家で二人っきりである。

・ハルヒは猫耳メイドの格好をしている。

・俺はハルヒに何かしら命令をしなければならない。

 

訳がわからんだろうがこれが今俺が置かれている状況である。

さて、何でこんなことになっちまったんだろうな。

現実逃避がてらにこの状況を作り出した出来事を振り返ることにするか。

ということで回想モードスタート。

 

 

あれは昨日のことだった。

 

バンッ

 

「皆!トランプするわよっ!」

部室に入るなりハルヒはそんなことを言い出した。

今度はトランプか。しかし、こいつが実にいい笑顔をしてるってことはどうせただの

トランプではあるまい。

「何だ、藪から棒に。」

「ただのトランプじゃつまんないから、最下位になったら罰ゲームね。」

俺のことは無視か。まあ、慣れてるが…。それにしてもやっぱり普通のトランプじゃなかったな。

「えっ。ばば罰ゲームって、何するんですか?」

さすが朝比奈さん、驚くお姿も微笑ましい。

「そうね、罰ゲームは皆で決めるってのはどうかしら。」

「それはいいですね。でもどのように。」

おい古泉、あんまりハルヒをもちあげるな。

「まずは皆1つずつ罰ゲームを考えるの。」

「そう。」

おーい長門、本当に聞いてるか?

「具体的には条件、場所、する事もしくは、される事。この三つを決めるの。因みに罰ゲームは

明日、土曜にやるから場所は学校内じゃなくてもオッケーだし、する事は1日でできる範囲まで

オッケーだから。」

ハルヒよ、何故そこで俺を見る。今度は俺の番ってか。はあ、しかたがない聞いてやるか。

「する事に対象相手がいる場合や何かをされる罰ゲームの場合相手はどうすんだ。」

「それは別に作るわ。どの道相手がちゃんと罰ゲームをしたかを確かめる証人がいるし…。」

 

コンコンコン

 

「あっ、は~い。」

 

バンッ

 

「ひゃぁ。」

「ちぃーっす!みくる、忘れ物届けに来たっさ!」

来客は鶴屋さんか。相変わらず元気なお人だ。

「あっ、ありがとうございます。」

「気をつけなよ。」

「あっ、はい。」

「鶴屋さん調度いいところにきたわね。実はさ――。」

ハルヒは鶴屋さんに近寄るなり内緒話を始めた。別に内緒話をするような内容でもあるまいに。

「――ってわけよ。鶴屋さんもやるでしょ。」

「おもろそうだねっ。やるやるっ!」

その面白いと言うのがここにいる全員、特に俺と朝比奈さんにとっても面白いであることを願いたい。

「それじゃあ紙を配るわね。はいキョン。」

「ああ。」

さて、何て書こうかね。

 

 

まあこんなところが妥当だろう。

『トナカイの被り物をして 部室で 芸をする』

「ハルヒ、できたぞ。」

「よし、これで全員ね。」

「ところで、一体何をするんだ。トランプと言っても色々あるぞ。」

「そうね、最初はオーソドックスにばば抜きにしましょう。」

 

 

ここまでくれば、みんなおちに気付くだろうから意味がなさそうだが、

一応トランプの結果を全てお伝えしよう。

 

1回目:最下位古泉

     罰ゲーム『男装or女装して部室で写真を撮られる』

      相手鶴屋さん

 

2回目:最下位朝比奈さん

     罰ゲーム『かえるのきぐるみを着てデパートで 500ページ以上の本を1冊読み終える』

      相手長門

 

そしてこの次がいよいよ核心だ。

 

3回目:最下位ハルヒ

     罰ゲーム『猫耳メイドの格好をして相手の家で 言うことをきく』

      相手

 

以上、第一回SOS団トランプ大会(仮)の結果である。

因みにハルヒは自分の罰ゲームを見たとたん、悔しさのあまりか顔を真っ赤にして

すぐに帰っちまった。やれやれ。

 

その後、夜中の11時位にハルヒが電話をかけてきて、

「明日、9時からあんたの家行くから。」

と言われ、慌てて家族に明日1日中外出してもらうように取り計らい、―猫耳メイド姿のハルヒに

命令する姿を見られたら、すさまじいことになりそうだからな―、そして翌日、

家族と入れ違いに来たハルヒが洗面所で着替えてから俺の部屋に来て今に至る。

 

以上回想モード終わり。

 

「ねえ。」

「なっ、何だ。」

いかん、緊張して声がうわずった。

「何か言いなさいよ。あんたの言うことを聞かないと罰ゲームしたことにならないんだから。」

「そ、そうだったな。すまん。」

これじゃあさっき回想した意味が無いな。我ながら情けない。

「で、あたしは…何を…すればいいのよ。」

ええっと、ハルヒが来るまでに何かさせることを考えていたはずなんだが…、なんだっけ?

「ちょっとまってくれ。確か何かさせる事があった気がするんだ。」

駄目だ、全く思い出せん。

「ちょっと、まだなの?」

ええい、人が必死に思い出そうとしてる横で喋るな。気が散るだろ。

「気が散るから、黙ってろ。」

「…わかったわよ。」

やけに素直だな。まあいい思考続行だ。

 

 

そうだ思い出した。お袋が家を出る前に掃除、洗濯を俺に頼んで行ったんだ。

「ハルヒ、お袋に頼まれた掃除と洗濯をしてくれ。」

俺のめ命令にハルヒは口をカモノハシのようにして不満を訴えていたが、

「お前が罰ゲームをしてるところを家族に見られないように出かけてもう事を取り計らったら、

その条件として家事をお袋に頼まれたんだ。」

と言い足してやると渋々首を縦に振った。

 

 

この後は、ハルヒが洗濯や家の各部屋を掃除をしただけで特に描写することもなく

――本当はハルヒが俺の部屋を掃除しているときに他人には見られたくないものを見つかって、

一悶着あったが、思い出したくも無いので省略。――昼飯時をもう少しに控える時間になった。

 

 

「もうこんな時間か。」

「………。」

無言で肯くハルヒ。

ハルヒのやつさっきから長門並みに無口にだな。まあ無口なハルヒっていうのも

悪くは無いが、やはりちょっと違和感があるな。

「なあ、ハルヒ。」

「………。」

ハルヒは、何?と言いたげに無言で首を傾ける。

うっ、それは反則だ。か…、かわい…って、何考えてるんだ俺、相手はあの涼宮ハルヒだぞ。

しっかりしろ、KOOL、…いやいや、COOLになるんだ。とりあえず今の状況を打開せねば。

「何でさっきから喋らないんだ?」

「………。」

おい、何で溜息ついて俺を馬鹿を見るような目で見る。そして何で俺の横に回って手をとる。

「おい、何す…、」

 

ツー

 

「!」

く、くすぐったい。

 

ツー

 

どうやらハルヒは俺の手のひらに字を書いてるようだ。なになに、

「あ ん た が だ ま つ て、いや“だまって”か。……つまり、

『あんたが黙ってろって命令したんじゃない。』って言いたいんだな。」

肯くハルヒ。

「そうだっけ?」

「………。」

 

ツー

 

「今度は何だ?『あ ほ き ょ ん。』……あほで悪かったな。」

俺が顔をしかめつつそう言うと一瞬だけ部屋を静寂が支配し、

その次の瞬間には表情を緩めた俺たちの笑い声がそこを支配した。

深い意味は無い、ただ笑いたかっただけだ。俺もハルヒも。

 

「おい、お前は喋っちゃいけないんじゃないのか?」

 

ツー

 

「『あ た し は し ゃ べ っ て る ん じ ゃ な く て わ ら っ て ん の。』」、

おいおい、それは屁理屈だろ。

「そうかい。」

ハルヒは『そうよ』と言わんばかりに満面の笑顔で肯いた。

 

「話を戻すが、そろそろ昼時だな。」

「………。」

ハルヒ首肯。

「だから、昼飯を作ってくれ。冷蔵庫にあるもん何でも使っていいから。」

「………。」

再びハルヒ首肯。

「あー…、それと…」

「………。」

またもやハルヒは、何?と言いたげに無言で首を傾ける。

だからそれは反則だって。

「もう喋ってもいいぞ。」

この言葉を聞くやいなやハルヒはすぐに口を開いた。余程黙ってるのが性に合わんのだろう。

「あっそう。ところであんた昼ご飯に何か希望ある。あったらそのほうが作るの楽なんだけど。」

何故か俺はハルヒが何時もどうりに話す様子を見て安心した。

もの静かで甲斐甲斐しく家事をこなす(俺の部屋での騒動を除く)ハルヒは様にはなっていたが、

やはり、無駄に元気で姦しいのが1番あいつには似合ってるみたいだ。

それに…、このままあの物静かな猫耳ハルヒを見ていると…変な事を…考えちまいそうそうだしな。

…断っておくが、変なことと言っても別にやらしいことじゃないぞ。ほ、本当だぞ!

って、俺はいったい何に念押しをしてるんだ?

「ちょっと、キョン!」

「なっ、何だ?ハルヒ?」

「何だってじゃ無いわよ。さっきから昼ご飯に何がいいかって聞いてるの。これで4回目よ。」

そういえばそんなこと言ってたな。でも4回も言われたのか気付かなかった。

「そうだな、お前の作る料理は何でも美味そうだから昼飯は別に何でもいいぞ。」

「ばっ…、ばかキョン!何恥ずかしいこと言ってんのよ!」

そう叫ぶやいなやハルヒは物凄いスピードで台所へ行っちまった。

はて、俺は何か不味い事を言ったんだろうか。

 

そんなことを考えつつ、俺はハルヒ特製の昼飯ができるのを待つことにした。
 
待つこと約30分。台所のハルヒからお呼びがかかった。
「キョン、昼ご飯できたから運ぶの手伝いなさい。」
「わかった、今行く。」

台所に入った俺を出迎えてたのは、ハルヒ特製料理の美味そうな匂いとメイド服を汚さない
ためにだろう、エプロンドレスの上からお袋のエプロンを着ているハルヒだった。
「これを運べばいいんだな。」
俺はハルヒ特製昼飯を見る。
「そうよ。」

俺がハルヒ特製昼飯をあらかた食卓に置き終えたときにハルヒは台所から帰ってきた。
「はいキョン、箸。」
「どうも。」
俺たちはそんなことを話つつ、向かい合って食卓についた。何か新鮮だな。
「いただきます。」
「このあたしがあんたのために作ってあげたんだからね、感謝して食べなさい。」
へいへい。そうさせて頂きますよ。
「命令しといてなんだが、ありがとなハルヒ。」
俺がそう言ってやると、ハルヒの奴は何故かそっぽ向いちまった。何でだ?
「べ…、別にお礼なんていいわよ。あたしは…そう、罰ゲームを遵守しただけなんだから。」
おいおい、どっちなんだよ。と思ったが口には出さなかった。
なんとなくだが口に出さないほうがいい気がしたんでね。

 
パクッ

「美味い。」
「あたしが作ったんだから美味しいに決まってるでしょ。」
口調は素っ気無いが、そっぽ向いてるハルヒの頬は僅かに朱がさしていた。
どうやら料理を褒められて嬉しいらしい。ハルヒもこういうところは女の子なんだな。
「本当にお前は料理が上手いな。」
「…ふん。そんなわかりきった事言ってないでさっさと食べちゃいなさい。ご飯が冷めるわよ。」
「はいはい。」

 
その後は、やはりこれと言って描写することもなく―強いて言えば昼飯中ハルヒが何時もと違う、
柔らかくてどこか満足しているような表情で飯をがっついてる俺を見ていたって事があったが、
別に大したことじゃないし、なんとなく俺の胸の内にとどめておきたい気分なんで省略。―
昼飯タイムが終了した。
 
「それで次は何をすればいいのかしら。」
罰ゲームに慣れてきて悪ノリでもしたくなったのか俺を上目遣いで見ながら問いかけるハルヒ。
おいおい、その格好、その表情、その台詞の組み合わせは色々やばいって。
「次と言われてもな。何でも命令していいと言われると逆に何を命令していいか思いつかないんだよ。
それよりハルヒ…」
「何?」
ハルヒは首を傾けながら返答した。うぐっ、今回は上目遣いのオプション付か…。
どうやら俺の頭はどうかしちまったらしい、あの涼宮ハルヒをかわいいと思っちまった。
「その…だな、俺を上目遣いで見るのをだな…止めてくれないか。」
緊張しながらも何とか声を絞り出した。
「何で?」
そう言いながら徐々に距離を詰めて来るハルヒ。
「何でって…。」
「もしかして嫌だった?」
ハルヒは悲しそうな表情浮かべたかと思うと俺の胸に飛び込んできた。
「なっ!?」

 
困惑する俺をよそに俺にくっ付きながら体を振るわせるハルヒ。
も…、もしかしてハルヒを泣かせちまったのか!?
「いや、別に嫌って訳じゃないんだがな…。」
「…じゃあ、何でだめなのよ…。」
ハルヒは体と声を震わせながら悲しそうにそう呟いた。何か物凄い罪悪感。
「あの…だな、嫌じゃないけどさ…、何て言うかその……。」
「………。」
「上目遣いで見られるとさ…、何か…変な気分になってさ、…落ち着かないんだよ。」
「ぷっ。」
「ハルヒ?」
「あははははははははははははははは。」
何だ?
「もう駄目。あんた面白すぎ。」
ハルヒはそう言うとまた盛大に笑い出した。その笑い声を聞きながら徐々に再生する俺の思考能力。
そしてようやく一つの結論にたどり着いた。

 
「お前、俺をからかったな。」
笑いながら肯くハルヒ。
「お前なあ。」
「別にいいじゃない。ちょっと位。あたしの奉仕代にしては安いもんでしょ?」
「奉仕代って、これはお前の罰ゲームだ…」

ピタッ

いきなりハルヒは指で俺の唇を押さえた。
「!!」
「男なら細かいこと気にしないの。」
恥ずかしさで顔に血が上るのがわかる。
「ふふっ。さて今日はいい天気だからそろそろ洗濯物乾いてるわよね。取り入れてくるわ!」
そう言って外に出て行ったハルヒの耳は朱に染まっていた。笑いすぎたからだろうか?それとも……。
俺はハルヒが出て行ったドアを眺めながらそんな事を考えていた。
 
思考を始めてからものの3分ほどでハルヒは洗濯物を取り込んで帰ってきた。
「ただいま~!」
やけに上機嫌だな。さっき俺をからかったのがそんなに楽しかったんだろうか。
「ご苦労さん。」
「何言ってんのよキョン。仕事はこれからよ。取り込んだ洗濯物を畳んで仕舞わないといけないんだから。」
「そう言えばそうか。」
「そうよ。」
ハルヒはそう言いながら洗濯物を畳み始めた。
俺はと言うと、特にすることも無いので洗濯物を畳むハルヒを眺めておくことにする。
まあこれも罰ゲームだ、がんばれハルヒ。
 
「………。」
「………。」
「………。」
「ねえ。」
「何だ?」
「じーっと、見られてるとやりづらいんだけど。」
意外だな。バニーガールでビラ配りとかへいきでしてるからてっきり他人の視線なんて気にしてないと
思ってたんだがな。
「へー、お前でも他人の視線を気にするんだな。」
俺がそう言うと、突然ハルヒは恥ずかしそうに頬を朱に染めながら慌てだした。
一体俺の発言のどこに恥ずかしがるようなところがあったと言うのだろう。誰か教えてくれ。
 
「あ…。」
「あ?」
「相手によるのよ。」
声が小さすぎて何て言ってるのか聞き取れない。
「何だって?」
「だから…。」
何故かわからないが、さらにハルヒの顔が赤くなる。
「相手によるのよ。」
今度は何とか聞こえた。
相手によるか。ハルヒの奴も少しは成長したってことだろう。いい兆候だな。
「そうかい。そりゃ悪かったな。」
「わ、わかればいいのよ。」
そう言いいながら再び作業に取り掛かったハルヒは耳―頭に付けてる猫の奴じゃないぞ―
まで真っ赤だった。俺に意外な面を見せて恥ずかしかったんだろう。
「それじゃあ俺は邪魔にならないように自分の部屋に行くことにするよ。」
「勝手にすれば。」
台詞の割には声事態は不機嫌ではなさそうだ。単なる照れ隠しだなこりゃ。
「ああ、そうするよ。それが終わったら呼びに来てくれ。」
まだ罰ゲームは終わってないからな。
「わかったから、さっさと行きなさい。」
「へいへい。」
言われなくてもそうするさ。何故か知らんが今のハルヒを見てると妙に落ち着かないんでな。
「にゃあ」
部屋に入るとシャミセンが出迎えてくれた。
「お前はいいよな。」
俺がハルヒの相手をしてる間中ずっと惰眠を貪ってたんだからな。
まあ、猫と人間を比べるのもあれな話だが。
 
ボフッ
 
「疲れた…。」
ベッドに倒れこむと同時に今までの―主に精神的―疲労が一気に襲い掛かってきた。
昨日の夜から今日の朝にかけて家族の説得と質問の回避で四苦八苦した後にハルヒの来襲だ、
疲れない訳が無い。後半日もつかどうか自信がない。
だがその代わりに何時もと違うハルヒを見ることができた訳だが。
 
・慣れないシチュエーションに戸惑うハルヒ
・物静かで甲斐甲斐しいハルヒ
・疑問げに首を傾げるハルヒ
・料理を褒められて頬を朱に染めるハルヒ
・俺が飯を食べるのを柔らかい表情で見るハルヒ
・上目遣いのハルヒ
・恥ずかしさで耳まで真っ赤にするハルヒ
 
どのハルヒも普通に学校生活や団活をしていたら見られなかったんじゃないだろうか。
別に…見たから…って何かある…わけじ…ゃない…け…ど…な。
い…かん、ね…、ねむ…く…な……t……。
そこで俺の意識は途絶えた。
 
「…ョ……お………い。」
睡眠を貪っていて最中何かが聞こえた。
「め………き…る……よ。」
何…だ……よ。
意識がはっきりしないなか、ほんの少し目を開けると猫の耳が見えた。
シャ…ミ…か?
俺はそいつの頭をなでてやった。
まだ眠いんだ…、もう少し…寝かせて…くれ。
「!!」
最初、そいつは体を強張らせたが、暫く撫で続けると元に戻った。
それにしてもやけに肌触りがいいな、撫でてる間指に殆ど抵抗を感じない。
「シャミ…いつの間にお前…そんなに…毛並みが良くなったんだ。」
「!!」
手元で何かが震えている。
「シャミ?」
「誰がシャミですって、この!ばかキョン!!!!!!!!!!!」
「おわっ。」
頭が一気に覚醒し、思わず飛び起きた。そして俺の前にいたのは…、
「お、おはよう。ハルヒ。」
 
「何がおはようよ。メールが来てたから起こしてあげようとしたのに。
人を猫呼ばわりってどういうことよ!毛並みってどういうことよ!」
ハルヒから凄まじい怒りのオーラが、人を殺せるんじゃないか、これ。
こういう場合は…、
「す、すまん。」
 
ダッ
 
逃げるが勝ちだ!
「待ちなさい!!」
待てと言われて誰が待つか。たとえ逃げ切れる可能性が限りなく0に近くてもな。
 
ダッ ダッ ダッ ダッ
 
「捕まえた!」
 
ガシッ
 
「なっ。」
おいおい、いくらなんでも早すぎだろ。まだ階段の途中だぞ。何でメイド服でそんなに速く走れるんだ?
それより階段で人の腕を引っ張るんじゃない。そんなことしたら…。
 
「きゃっ。」
「うわっ。」
 
ガン ガン ガン ガン ドスン
 
「いった。」
「いてて。」
くそっ。やっぱりバランス崩して転げ落ちちまったじゃ…。
「「!!」」
 
そこで俺の思考は中断を余儀なくされた。何故かって?
俺がハルヒの上に覆いかぶさっているのに気が付いたからさ。
「………。」
「………。」
 
俺たちの顔の距離は5センチそこらだろうか。
「ちょ、ちょっと。」
瞬く間にハルヒの顔は真っ赤に染まった。そう言う俺も顔が赤いだろうが。
「重いから早く退きなさいよ。」
そう言いながらハルヒは俺を退かそうと腕を動かすが、何故かその腕に込められている力は
何時もからは想像できないぐらい弱弱しく、くすぐったいだけだった。
そして、そのハルヒらしからぬ弱弱しさが、俺の中の大事な何かを壊していく。
「ハルヒ。」
壊れていくそれは理性なのかもしれないし、別のものかもしれない。
「な、何よ。」
そう言いながら俺に添えられているハルヒの掌を俺のそれで床に押さえつける。
「あ、あんた何か変よ。」
俺は答えず、ハルヒの瞳を見ながら少しずつ顔を近づける。
抵抗されると思ったが予想に反してハルヒは大人しく、ただ俺を見つめているだけだった。
「キョン…。」
どうやら壊れたのは頭だけではないのか、ハルヒの瞳に戸惑いと少しの嬉しさが宿っているに見える。
「………。」
こういうときは目を閉じるのがマナーなので俺はそれに則った。
 
バンッ
 
「ただい!」
「「へっ」」
「……ま…。」
俺の耳に唖然とした妹の声が響く。慌てて振り返ると、妹が唖然とした表情で立っていた。
あまりに衝撃的だったのか手に持っていたもの全てを玄関にぶちまけている。
無理も無い、なんせ帰ってきたら、玄関で兄が猫耳メイドの女の子を襲っているのである。
俺が逆の立場でも同じくらい驚くだろう。因みに俺の下にいるハルヒはあまりの衝撃に、
心がどこかに行ってしまっているっている。って、冷静に分析してる場合じゃない。
「お前、今日は一日中遊びに行くんじゃなかったのか?」
「そのはずだったんだけど。美代ちゃんと二人で遊んでたら、みよちゃんが
急におうちの人と出かけることになって…。」
「それで帰ってきたわけか。」
「うん。でもキョンくんが今日は家で一人でいる必要があるって言てたから、メールで『帰るって』
連絡したよ。」
それがハルヒの言ってたメールか。って納得している場合でもない。
 
「あの…、だなこ…。」
「い、妹ちゃん!」
「いてっ」
「これはね、違うの。」
さっきの弱弱しさはどこへやら、ようやく復活したハルヒは俺をあっという間に押しのけ
妹に弁解を始めた。
 
ハルヒの妹への弁解をBGMに少しずつさっきのことが、ゲームのリプレイみたいに頭の中に蘇る。
なんてことしちまったんだ俺!銃があったら即刻自分の頭をぶち抜きたい!
何が、“俺の中の大事な何かを壊していく”だ。恥を知れ恥を!
 
「ちょっと、キョン。あんたも妹ちゃんの誤解を解くの手伝いなさい。
元を正せばあんたのせいなんだからね。」
「あ、ああ。」
本当は誤解じゃなくて見たまんまだが、そんなことは口が裂けても言えんな。
くそっ。この状況をどう誤魔化せばいいんだ?誰か教えてくれ。
「あのな、妹よ。これはだな…。」
「これは?」
妹への言い訳を考えつつ、俺は未来の自分のためにあることを心に深く刻みことにした。
 
メイドハルヒには気をつけろ、と。
 
 

 終わり

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