「出かけるわよ、有希!」
 
高校2年生になった年の夏休み、玄関のところで叫ぶ少女がいた。玄関のドアは鍵を閉めておいたはずなのだがなぜいるのだろう、涼宮ハルヒは。
声を聞くのと同時に「また」私の心臓の鼓動が早くなる。
 
長門「まったく、面白い人」
 
私は布団からもぞもぞと腰を上げて時計を見た。まだ9時である。
 
 
この現象はあの時最初に起きた。
彼女に最初に会った日。昼休みに文芸部室で椅子に座って本を読んでいた時、いきなりドアが開いた。
 
ハルヒ「あっ文芸部員の人ね!ここ当分あたしに貸して!」
 
思わず顔を上げてトビラを見た。そこには観察対象が笑いながら立っていた。
彼女がここに来ることなど情報統合思念体から聞いてない。私は情報統合思念体とテレパシー(光速でやりとりする)で議論した結果、彼女に部室を明け渡すことになった。
 
長門「どうぞ」
ハルヒ「ありがと!」
 
読書に戻る動作をしつつ再び情報統合思念体と議論し始めた。議題は、今後の「私の配置」、果たして彼女の近くにいるべきかどうかである。彼女のすぐ近くで監視する、という結論が出たとき
 
後ろから抱きしめられた。
 
ハルヒ「あなた名前は?」
 
内心驚いたが、無感動に答えた。
 
長門「長門有希」
ハルヒ「私は涼宮ハルヒ。にしてもぶ厚い本読んでるわねー。」
長門「本は情報の宝庫。厚さは関係ない。」
ハルヒ「難しいこと言ってるとモテないわよ!有希はかわいいんだからさ!」
 
彼女の手が私の頬をなで始めた。暖かい。そして初めて気づいたエラー。私の鼓動が速くなっているのだ。
 
ハルヒ「もう照れなくてもいいのよ。顔赤くしちゃってー。」
 
どうやらもうひとつのエラーがあるようだ。
原因について脳内模索していると、彼女は腕をほどきドアの方へ走った。
 
ハルヒ「んじゃ放課後また来るわ!じゃあね有希!」
 
ドアが閉まるのを音で確認した。
 
その日から私はこの2つのエラーについて原因・解決方法を調査し続けた。家に貯蓄してある本や、学校の図書室の本、そしてSOS団唯一の一般人であるキョンが連れていってくれた図書館の本も利用している。
 
 
ハルヒ「有希ー!あと30秒以内に準備しなさい!あっ有希だから10分待つわ!」
 
回想しすぎてしまった。私はゆっくり立ち上がり、服を全部を脱いでクローゼットへ向かった。
 
長門「さて団活動だし何を着ていこうか。」
 
そう呟いた時玄関から
 
ハルヒ「今日は私と有希の二人だけだからね!服は適当でいいわよ!」
 
なん・・・だと。ならばとびっきりかわいい服を着よう。私はクローゼットからまだ一度も使ったことのない服を手にとった。
 
 
長門「お待たせ」
 
涼宮ハルヒは団活動でも見せた赤いシャツと青いスカートを着ていた。手には手提げバック。私に会った途端彼女は口を閉ざしてかたまった。
 
私に会った彼女の第一声
 
ハルヒ「有希・・・」
 
なにかまずかったかな。私はワンピースと呼ばれる白い服を着ている。あとはむぎわら帽子を頭にかぶり、手に麦で編まれた手提げバックを持っている。
 
長門「・・・なにかまずかったかな」
ハルヒ「・・・かわいいー!」
長門「あっ・・・」
 
突然彼女が抱きしめてきた。暖かい、いや熱い。自分の全身が熱い。あぅっ頬ずりしないで。顔がどんどん熱で真っ赤になるのが自分でもわかる。
 
ハルヒ「もーこんなにかわいいのにどーしていつも着て来ないのよー!」
長門「・・・アゥ」
 
耳元で聞こえる彼女の声に自分の思考回路がオーバーヒートしそうである。
彼女は私を解放すると
 
ハルヒ「さあ行くわよ!」
 
と勢いよく言い放つ。彼女が私にだけ向けた言葉。
 
長門「・・・うん」
 
こうしか答えられない自分を少し恨んだ。
 
 
そう、様々な情報から私は涼宮ハルヒに恋している、という結論に至った。男女の「恋愛」ではない、という違いはあるが。
 
エレベーター内で
 
ハルヒ「私ね、有希のことをもっと知りたいの。だから今日はよろしくね」
長門「話すことで理解してもらえるなら、16時間聞いてもらっていい?」
ハルヒ「お断り」
 
だよね。
 
私たちは玄関ホールを出た。すると私を導いていた彼女が急に私の後ろへ回り
 
ハルヒ「一度やってみたかったんだー、えぃっ!」
 
と言い私のワンピースを下から上へ勢いよく上げた。たしか男性が女性のスカートをまくりあげてパンティを見る行為だ。
彼女のはしゃぐ声が聞こえるかと思い振り向くと、彼女は顔を真っ赤にしたままかたまっていた。なにかおかしかっただろうか。
 
ハルヒ「有希・・・」
長門「なに?」
ハルヒ「下着ぐらい着なさーい!」
 
その後私たちは再び私の家に戻った。彼女と出かけることに夢中になりすぎて着替え中に下着まで脱いでしまい、そのまま着るのを忘れていたようだ。涼宮ハルヒは私のクローゼットを勝手にあさり、白い下着を選んでくれた。
 
長門「ごめん」
ハルヒ「いいわよ別に。意外に有希ってドジっ娘ね。」
 
あなたの前だけ、とは言えずただ頷いた。
 
2度目の外出。
 
ハルヒ「じゃあどこ行く?」
長門「・・・図書館」
ハルヒ「有希、そこは遊びに行く場所じゃないわ」
長門「冗談」
ハルヒ「なんだ冗談か。じゃあ買い物に行く?」
長門「財布の中身を確認してみる。」
 
たしか残金は680円。あとで情報統合思念体に金を要求しよう。がま口財布の中身を確認すると、小銭の他に紙切れが2枚入っていた。
 
ハルヒ「あれ有希、それって最近新しくできた遊園地の無料入場券じゃない?」
長門「昨日郵便受けに入ってた。」
ハルヒ「へー。じゃ遊園地に行きましょう!」
長門「わかった。今からコンビニで金を下ろしてくる。」
 
 
ハルヒ「やっと着いたわね」
長門「おつかれさま」
ハルヒ「まだ疲れちゃいないわ。」
長門「あの長蛇の列に並んで疲れないはずがない。」
 
実際彼女は汗まみれだし、椅子にぐったり腰かけている。私は立っている。突然だが意を決して聞いてみた。
 
長門「あなたのことを『ハルヒ』って呼んでいい?」
ハルヒ「もちろんよ。私だって『有希』って呼んでるんだから。」
長門「・・・ありがとう」
 
人と交流することに慣れていない私は今まで人を下の名前で呼んだことがない。だから好きな彼女を下の名前で呼べることがうれしい。
 
ハルヒ「じゃ休憩終了!どこ行く?」
長門「ではあれ」
 
そう言って自分が指さした物はバンジージャンプである。
 
私たちはスカート着てるからダメ、ときっぱり断られ、向こうにあるアトラクションへ行った。ハルヒの下着を見たかった。
 
 
ハルヒ「なんでカップがあんなに速く回るのよ、どこの漫画よ!」
長門「いろいろごめんなさい」
ハルヒ「あっ有希のせいじゃないわよ。」
 
私たちは「マグカップ」と呼ばれるコップ型の乗り物を中央の台を使い回して遊ぶ乗り物を体験した。だが突然、というより私のせいで、マグカップが普通ではありえないスピードで回ってしまった。
まあそのおかげで、乗り物内でハルヒがおびえるように私にぎゅっとだきついてきてくれた。
 
長門「なかなかレアなハルヒを見れた。」
ハルヒ「あっあれはそのなんていうかそうよ不可抗力よ!」
長門「クスッ」
ハルヒ「いーい?他の団員には内緒だからね」
長門「じゃあクラスメートに言い」
ハルヒ「ダメ!有希がそんなひどい人だとは知らなかったわ」
長門「茶化してごめんなさい」
ハルヒ「もー有希ってやっぱり面白いわね」
 
あなたの方が面白いよ、ハルヒ。
ふと私は普通にハルヒに接することができていることに気づいた。と同時にまた鼓動が速くなる。
 
ハルヒ「じゃあ次はあれに行くわよ。」
 
それからも私はハルヒと一緒の時間を味わいたくて、ハルヒの案内に従った。
例えばお化け屋敷。歩いている間ずっとハルヒは私の手を握って歩いていた。
例えばジェットコースター。私たちはとなりどうしの席に座った。この乗り物が急降下する直前、ハルヒは私の手をぎゅっと握ってくれた。
 
ジェットコースターに乗った後私たちはファーストフード店で昼食をとった。その昼食でのこと
 
 
ハルヒ「あっ有希。ほっぺにソース付いてる」
長門「えっどこ」
ハルヒ「左の方よ。あっもうちょっと右」
長門「ここかな。とれた?」
ハルヒ「だめね。私がとってあげる。」
 
と言って私の唇のすぐ近くをハルヒは人差し指でなぞった。あっ唇に少しだけなぞった。そしてそのままハルヒはその指を舐めた。
 
ハルヒ「にしても紙ナプキンもない店なんて珍しいわね、有希」
 
彼女が何を言ってるかわからないほど私は恥ずかしかった。
 
ハルヒ「じゃ次行く場所は有希が決めていいわよ。ただバンジージャンプは勘弁ね」
長門「じゃあれ」
ハルヒ「んー『スプラッシュ・ウォーターマウンテン』?私たち水着なんて持ってないわよ」
長門「なくていい、いやむしろなくしてください」
ハルヒ「なに言ってるのよ!あっなんだ別に水着いらないじゃない」
長門「ざんねん」
ハルヒ「有~希~少しお黙り~」
長門「ごめん」
ハルヒ「・・・・プッあはははは!」
長門「どうしたの?」
ハルヒ「有希がここまで面白い人だとは思わなかったわ!さあ行きましょう!」
長門「うっうん」
ハルヒ「ほら有希、手」
 
そう、私たちはいつのまにか移動時は常に手を繋いで行動するようになっていた。
 
 
そしてその乗り物に乗ってみた。あんまりこのアトラクションは面白くなかったが、ハルヒと一緒にいられるだけで嬉しくなる。
 
ハルヒと一緒の時間に慣れたのか、私は自然に楽しんでいた。今まで味わったことのないほどの「喜び」。顔には表現しづらいけど。
 
ハルヒ「有希。おみやげ買わない?」
長門「財布に18万あるから買ってもいい」
ハルヒ「・・・えーとね有希。一度に財布に入れる金は5000円ぐらいでいいのよ?」
長門「ハルヒと出かけることが楽しみだったから。思い出の品をいっぱい買っておきたい。」
ハルヒ「はぅーけなげな有希かぁいい~お持ち帰り~!!」
長門「抱き着かないで、あっ暑いよハルヒ。」
ハルヒ「ごめんごめん。もうそんなに顔真っ赤にしなくても。じゃあ思い出たくさん買うわよー!」
長門「ハルヒの思い出をいくらで売ってくれる?」
ハルヒ「へっ?」
長門「ナガトユキジョーク」
 
 
私たちはたくさんの思い出を買った。服や人形、アクセサリー。私にとって最高の一日。ハルヒがいれば私は楽しめる。
私は、ハルヒがそばで支えてくれなければ存在できない。そう確信した。なぜって、こんなに楽しませてくれるのは彼女以外にいないからだ
 
そして空がオレンジになりかけた頃
 
ハルヒ「有希。観覧車に乗らない?」
長門「カンランシャって何?」
ハルヒ「それもナガトユキジョーク?あれよあれ」
長門「あの円形の機械?」
ハルヒ「本気だったとは。まあ男女で行けないのが惜しいけど。」
 
というわけで今観覧車に乗っている。私たちは向かいあわせの席に座っている。ハルヒの話によると、ここは男女が愛の気持ちを告白する道具、とのこと。
私の気持ちを伝えてもいいよね。
 
ハルヒ「有希」
長門「なに・・・かな」
ハルヒ「いやー気になったんだけどさ。そんなかわいい服があってしかも普段は着てないってことわさ。いつか好きな男に見せるつもりなの?」
長門「えっ・・・いや」
ハルヒ「顔が否定してないし真っ赤。どんな男よ!相手によっては交際していいわよ、あたしが許可するわ!」
 
彼女は突然立ち上がって、「いい男」について語り始めた。私の気持ちには気づかないようだ。
その時ゴンドラが突然ゆれて止まり、すぐに動いた。当然ハルヒは立っていたのだから振動で体は倒れるだろう。
 
ハルヒ「キャッ!」
長門「あっ・・・」
 
ハルヒは私に抱き着く形で体を安定させた。だが今回他人から見ればハルヒが私を椅子に押し倒しているように見えるだろう。
私の思考回路の大半が緊張と熱で機能停止していた。自然治癒にしても時間がかかる。私は一人の「人間」として行動する。
彼女が体を起こそうとしたので私は彼女を自分の方に押さえ付けるように抱きしめた。あたたかい。
 
ハルヒ「ちょっと有希!?ななななに!」
長門「私はハルヒのことが好き。恋人として」
 
勇気を振り絞って、私は告白した。
ハルヒは困惑しているようだ。言葉にならない言葉を耳元で発している。
 
長門「あなたの元気や行動力、温もりに私は恋をした。付き合って欲しい」
ハルヒ「・・・ごめん」
 
私の思考回路が徐々に直り始めたころ、私は全身の力が抜けるのを感じた。
 
 
 


ハルヒ「私たちは女同士。だからできないよ」
 
そうだよね。私たちは同性だから。でも
 
長門「外国では同性で結婚もできる」
ハルヒ「それでもだめなの。だって私・・」
 
ハルヒの涙が私の頬を濡らしはじめた。私はハルヒに傷を与えてしまったようだ。
 
長門「ごめん」
ハルヒ「私キョンのことが一番好きだから!」
 
二人が同時に発した言葉。だがハルヒの言葉は私に深刻なエラーを与えた。
私は今の言葉を脳内再生し続けた。彼女が私に大声で叫んでいるが、何を言ってるのかわからない。
あっ目から冷たい液体が溢れてる、止まれ涙。まばたきしてない、動けまぶた。だがどんなに命令しても「エラー」で全て受け付けなかった。
 
気が付いたら私は電車の中で座っていた。右肩が重いので見ると、ハルヒが私の右肩に両手を乗せて泣いている。思考回路が戻ったのだろう、現状の認識ができる。
 
長門「ごめんなさい」
ハルヒ「私こそごめん。でも」
長門「気にしないで。ハルヒに泣かれる方がつらい」
ハルヒ「ごめんね」
長門「私頑張って悲しみに耐え切った」
ハルヒ「うん、よく頑張ったわ有希」
 
ハルヒを安心させるために私は笑顔で言った。
 
長門「わたしがんばった」
 
 
その後私たちは会話もなく地元の駅で下車し、解散した。
私は家へ帰った途端にエラーを起こした。全身の力がなくなりその場に正座状態になった。おみやげは辺りに散らかった。私の頭に次々と情報がダウンロードされる。
 
長門「私の行動の枷となるのは他TFEI及び情報統合思念体私が起こしたエラーの原因は観察対象の発言キョンが一番であるならば彼を消せばいい情報統合思念体がそれを邪魔するならば情報統合思念体から消せばいい今彼らは会議中ハッキングは容易彼らを破綻させるには・・・」
 
長門「情報のダウンロード完了情報統合思念体の消去開始情報統合思念体の削除完了同時に他TFEIの消失確認自身消失へのプロテクト成功私自身の能力の消失を確認彼を消去するには比較的原始的な手段が必要「道具」は台所にあり」
 
私は自我を取り戻すと、全身汗びっしょりだった。3時間あのままだから当然だ。情報統合思念体が削除されたことに対して特に感じない。エラーはまだ続いている。
私は台所から「道具」を寝床に持ってくると、1時間以上手入れをしたあと「道具」を枕元に置いて就寝した。その間ずっと頬に涙を伝わせながら。
 
 
朝がきた。私は学校への「準備」を済ませていつも通りに登校した。途中古泉一樹や朝比奈みくるに情報統合思念体やTFEIの消失について問いただされたが、知らない、と言って通り過ぎた。
 
学校の玄関の下駄箱でキョンに会うと、まず
 
長門「話したいことがあるから今日早く文芸部室へ」
 
わかった、という返事をもらった。
 
授業中退屈だった。6時限終了後、私は足早に文芸部室に向かった。
部屋に誰もいないのを確認すると、バッグから「道具」を取り出し制服の内ポケットへ入れた。ジャストフィット。あとはいつもどおり椅子に座って本を読めばいい。
 
キョン「おう長門」
 
来たか
 
長門「あんたが立ったままじゃ失礼だからここに座って。お茶を入れてくる。」
キョン「え・・気のせいだよな、ありがとう」
 
「あなた」と呼ぶところをつい「あんた」と言ってしまった。まあいい。標的はさっきまで私が使ってた椅子に腰かけた。
沸かした茶をカップへ入れてるとき
 
キョン「あっ長門。ハルヒがおまえに渡したいものがあるようだぜ。」
 
注ぎ終えたヤカンを乱暴に机に置いた。オマエガハルヒヲナレナレシクヨブナ。
 
キョン「大丈夫か長門?」
長門「平気」
キョン「ネタバレするとな、中身は菓子だ。大丈夫ハルヒの許可はとってある。」
 
長門「ナレナレシクハルヒノ」
 
とと危ない危ない。本音を言ってしまうところだった。
おそらくそのプレゼントは私への愛の気持ち。そうかハルヒは考え直してくれたんだ。私と恋人になれる。じゃあその菓子は今日の祭でのお祝いだ。
 
キョン「長門、だよな?」
長門「私は私。はいお茶」
キョン「どうも。にしても今日はよくしゃべるな。あっ座るか?」
長門「いい」
 
私はお茶を彼に渡し終えると彼の背後に立って話をした。
 
長門「他のTFEI及び情報統合思念体とコンタクトがとれなくなった」
キョン「古泉から聞いた。長門は大丈夫なのか?」
長門「このとおり大丈夫。できればあなたにも打開策を考えてほしい」
 
彼は座ったまま腕を組んで考え始めた。私は内ポケットから銀色に輝く鋭い「道具」を取り出した。自分の顔がにやけているのがよくわかる。
 
サヨウナラ
 
彼の首に「包丁」を突き刺そうとした。
その時思考回路に急な負荷がかかった。エラーだ。いや正確には人格修復プログラムだな。
これはたしか情報統合思念体に敵対する異常な行動を18時間以上していた場合に起きる、私の治療プログラムだ。情報統合思念体削除から今までの行動によって起動したか。私としたことがプログラムを削除し忘れたようだ。
ここで負けるわけにはいかない。だが抵抗をすると激しい頭痛に襲われた。
途端彼との思い出が溢れてきた。彼を助けたことや、彼に助けられたこと。「消失」事件での彼。彼の優しさ。彼への殺意が消えかけた。
だがハルヒとの生活を夢見る自分が殺意を増幅させた。消しては増幅し、を繰り返す。頭痛がひどくなる。
私が頭を押さえて必死にあらがっていると、彼が振り向いたのでとっさに包丁を持つ右手を後ろに隠した。
 
キョン「長門!大丈夫か!?」
 
彼は茶を床に転がし、立ち上がって私の正面に近づいた。頭痛がさらにひどくなり
 
 
思考回路がカンゼンニコワレタ。
 
「あははははははははは」
 
どこから聞こえるのだろう
 
「長門!?しっかりしろ!!」
 
なぁんだ自分の口から聞こえてるじゃないか
 
ヤツが私の両肩を掴んでなにか叫んでいる
 
長門「きたきたきたキター!アハハハハハハハハハハ!!!」
 
私は右手を前に素早く突き出した。そのさきは害虫の首。感触あり!そしてえぐったあと一気に引き抜いた。
 
キョン「長門・・・・」
長門「修復プログラムに勝った!ダイオキシンの処理は完了した!!あとはハルヒと幸せ生活が待ってるわウヘヘヘヘ!!!」
ハルヒ「騒々しいわね、どうし・・・」
 
ハルヒが部室に入ってきた。辺りにばらまかれた鮮血。床に血まみれで倒れている、首をえぐられ息の絶えた疫病神。悪魔の返り血を全身に浴びた私は振り向いた。
 
ハルヒ「有・・希・・?」
 
私は、ヨロコビのあまり絶句しているハルヒに満面の笑みで言った。
 
わ た し が ん ば っ た
 
ハルヒ「いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
 
赤黒い彩りをまとう私を数人の男たちが白黒の送迎車で歓迎してくれた。サイレンまで私を歓迎していた。ハルヒは笑顔で見送ってくれた。涙流すほど喜んでくれるなんて。
あのあと部室でハルヒが大声をあげて歓喜したかと思ったら携帯電話でどこかに連絡をし始めた。
私が喜びを分かち合おうとして彼女に近づくと、彼女は狂喜したまま部室から出た。私は満足した。
 
どこかの建物で男たちからたくさん質問を受けた。私たちが結婚するにふさわしいか、問いてるらしい。もちろん満点だ。
しばらく私の寝床はシンプルで鉄に覆われた部屋だった。花嫁修行だろう。はやくハルヒに会いたい。でもこの修行が終われば会える、と思うといくらでも待てる気がした。
 
仮住居に移住して3日目。私に朗報が届いた。ハルヒが先に新住居へ引っ越したらしい。私宛ての手紙があり「私のせいだよね、生きててごめんなさい」と書かれていたらしい。
つまり私とハルヒが愛しあったことで、私たちの恋愛を邪魔されない場所へ移住する必要がある。ハルヒは先に引っ越しをして待っててくれている。もうすぐ行くから待っててハルヒ。いっぱい愛してあげるよ。
 
 
その日の夜中、口から大量の血を出して倒れている長門を警察官が発見した。彼女は舌を噛み切って自殺したようで、すでに息はなかった。その死に顔は満面の笑みを浮かべていた。
――――――bad end―――――
 
 

 
 

 

  ルート:good

ハルヒ「私たちは女同士。だからできないよ」
 
そうだよね。私たちは同性だから。でも
 
長門「外国では同性で結婚もできる」
ハルヒ「それでもだめなの。だって私・・」
 
ハルヒが泣いている。私はハルヒに傷を与えてしまったようだ。
 
長門「ごめん」
ハルヒ「でもね有希のことも大好きだよ!」
 
あっ。こうもはっきり言われると結構恥ずかしい。でも「恋人」としての好きではないのか。
 
ハルヒ「ごめんね」
長門「さっきの一言で十分満足した。ありがとう」
 
私はハルヒを解放した。だがハルヒは私から離れない。
 
長門「どうしたの?」
ハルヒ「えっとね。せめてのお詫びにと思って・・・えいっ!」
 
ハルヒの顔が私の顔に急接近した。あれ近すぎじゃあれあれあっ!
 
私がハルヒとキスをしていると理解するまで十秒かかった。だがハルヒの唇が離れるまで30秒かかった。
 
ハルヒ「これで許して。ファーストキスなのよ」
長門「・・・・わかった」
 
自分でもわかる、真っ赤な顔で満面な笑顔で答えた。ハルヒも顔がりんごのように真っ赤だ。
 
その後私たちは電車で帰った。ずっと手を繋いだまま。
 
長門「ハルヒは?」
ハルヒ「どうしたの有希?」
長門「ハルヒは好きな人いるのかな、て」
ハルヒ「う・・・うん」
長門「誰」
ハルヒ「今の有希に言うとその人殺しそうね」
長門「そんなことはしない。ハルヒもひどい冗談はダメ」
ハルヒ「あははそうよね!実を言うとキョンのことさ・・・えっとその」
長門「ライバルはキョンか。私、いつかあなたを振り向かせてみせる」
 
笑顔で彼女は言ってくれた。
 
ハルヒ「ありがと有希」
 
その後も楽しい会話は続いた。私たちは確実に親しくなれた。
 
私たちは下車駅で解散した。家に着いてから私はすぐにお風呂に入って寝床に入った。
恋人にはなれなかったけど、彼女の優しさをたしかに感じただけで満足だ。私はキスの感触を何度も思い出しながら寝た。
 
朝が来た。私はひとつの決心を貧相な胸に秘めて登校した。
登校中情報統合思念体は、世界に影響が起きないレベルまで私を応援する、と約束してくれた。
 
学校の下駄箱置場でキョンに会った。
 
退屈な授業が済むと私はスキップしながら文芸部室へ向かった。
 
部室に着いた私はいつもどおり椅子に座り本を読んだ。
少ししてキョンが入ってきた。
 
キョン「よう長門。で話ってなんだ?」
 
胸に秘めた決心を伝える時がきた。顔を彼の方に向け言った。
 
長門「あなたには負けない」
―――――good end――――
 
 

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最終更新:2020年05月29日 14:00