蝉の鳴き声がする。やつらの鳴き声は暑さを増長させているんじゃないかといつも思うのだが、まあ錯覚だろう。そう信じることにしよう。七月、八月と日本中を席巻したうだるような暑さは、九月に入っても一向に衰えを見せていない。

 

今日は九月一日、夏休みが終わり、久しぶりに学校に登校する日・・・といいたいところだが、高校ともなると実際は八月の末にすでに夏休みは終わっている。
八月三十一日に必死こいて宿題を片付ける・・・なんてのは小学校くらいまでの話で、
ゆえにこの九月一日のもつ特殊性も若干薄れているような気がする。
だが、九月一日には高校でも変わらない特別な名前がある。そう、今日は防災の日なのだ。

 

 

防災の日といえば避難訓練をするのがお約束だ。先生方は必死に「真剣にやれ」と呼びかけるが、生徒達のほうはあまりまじめには参加しない。どこの学校もそんな感じだろう。こういう訓練をきちっとやっておくことはとても大事なことだということは分かっているが、だからといって俺も避難するときに友人としゃべるのを止めるわけではないし、ハンカチを口にあてるという、本番においてはかなり重要であろう作業に力をいれるわけでもない。結局、避難訓練での緊張感などそんなものなのだ。きっと今日の訓練もそんな感じで進むのだろう。

 

余談だが、今日は月曜日だ。ゆえに俺は気分がいい。なぜかって?まあ本当にどうでもいいことなんだが、月の始め、つまり一日と、週の始めである月曜日が重なるとなぜか嬉しくなるのだ。

まあ本当は日曜日が始まりなのかもしれないが、学校が始まるのは月曜だしな。
ふたつの「始まり」が重なる、そんなことでなぜ喜べるのは俺自身でも謎だが、
とにかくなぜか気分がよくなる。さらに余談だが、これが一月一日ならなおさらにいい。

 

 

さて今まで語ってきた俺だが、実はこの足は学校には向かっていない。
月曜と一日が重なった気分のよさが軽くふっとぶほどの高熱をひっさげて、俺は今、ベッドの中にいる。なんということだろう。人生で初めて俺は、防災の日に風邪で休んでいるのだ。防災訓練がしたくてしょうがなかったわけではもちろんないが、それにしても夏休み明け早々学校を休んじまうとはな。

 

目覚めた瞬間に体のだるさを感じた俺は、妹がやってくる前に起きることが出来たことに感謝した。この状態でボディーブローをくらっちまったらなかなかよろしくない状況に陥るだろうからな。遅れること数十秒で部屋にやってきた妹に、具合が悪いことを親に伝えるように頼んだ俺は、その後親が持ってきてくれた体温計で体温をはかった。三十八度九分。文句なしの高熱だ。
医者に行くのもだるかったので(まあ本当に体がだるかったのだが)、
俺はとりあえず寝ていれば治るだろうから今日は学校を休むという旨を親に伝え、
そして今、布団をかぶってベッドに横たわっている。

 

 

風邪で学校を休むという行為には、なぜか甘美な背徳感がある。
みんなが授業を受けている間に、自分は布団でぬくぬくしているというなんともいえぬ感覚。さきほど暑さに関して少し語ったが、俺自身は今、クーラーのきいた部屋にいる。風邪を引いていることを考えればどう考えても優越感ではないはずだが・・・まあそんなことはいいか。どのみち今日はまだ授業はないだろうしな。

 

そんなことを愚かにも熱に浮かされた頭で考えたために、俺は少しばかり頭痛を覚えた。考えることを止めてしばらく寝ることにしたそのとき、机の上で携帯が震える。

 

案の定というか、メールのあいてはやはりハルヒだった。まあ予想はついてたよ。
学校を休んでいるだけでわざわざメールしてくるなんてハルヒくらいのものだ。
いやそれとも・・・俺が密かに期待していただけか?

 

 

メールの内容は、なんで休んだのかというこれまた予想通りのものだった。
俺は「風邪だ」とだけ打って返信し、再び枕に顔をうずめる。
願わくばそろそろ眠りたいんだが・・・まああいつのことだからこれでは終わらないだろうなと、そこまでは予想できた。
しかしあいつは予想の斜め上をいき、こともあろうに手段を電話に切り替えて来た。
さすがはハルヒ、やってくれる。出なければそれはそれで後が怖いので、しかたなく俺は携帯をとった。

 

「もしもし」
「あ、キョン。・・・風邪ひいたの?」

単刀直入だが、ハルヒにしては落ち着いた声だ。

「ああ、原因はわからんが結構な高熱だ」
「そう・・・。まあ日ごろの行いが悪いからかしらね!」

そりゃお前のことだろう。やっぱりいつものハルヒだな・・・ん?そういや・・・。

 

「おい、お前ひょっとして今避難訓練の最中じゃないのか?」
「そうよ。別に平気よ。先生がずっと見てるわけでもないし。でも校庭に集合したらさすがに話していられないからそろそろきるわね」

なんというやつだ。訓練中に電話とはな。だがとりあえず礼は言っておこう。

「そうか。まあ・・・なんだ、ありがとな」
「あ・・・うん。あ、あのさ・・・」
「なんだ?」

 

 

「あんたがいないとSOS団の活動も出来ないし、早く治してきなさいよ。きっとみんなも心配してるし、あ、あたしも・・・心配だから」
「あ・・・ああわかったよ。なに、すぐ治るさ」
「そうよ。団長命令だからね!」

 

ひとつ前のセリフをかき消すかのような元気のいい声でハルヒはいった。
俺は別れをつげ、電話を切る。自分の顔が少し熱いのに、俺は気づいていた。
おそらくだが、熱だけが原因ではないだろう。なぜそうなったのかはあまり考えないことにしよう。なにせ俺は今風邪を引いているからな。早く寝たほうがいいのさ。
みたび枕に顔をうずめた俺は、そのまま目を閉じる。

 

 

今日は九月一日、月曜日。こういう日は、なぜか気分がいい。

 

 

 


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