どうも初めまして。
皆さんに分かりやすく名前だと、ハカセと名乗った方がいいでしょう。
今から暫し、思い出話にお付き合いください。
あれはまだ涼宮お姉さんと親しかった頃、僕が小学校の六年生だった頃。

 

 

暦は四月、外では桜が気持ちよく咲き誇っている。
この頃の僕はまだ朝日が昇る前に起きて、研究をするのが日課となっていた。
なんでこの時間に研究するのかって? 
それはこの研究が両親見つかったら、少し恥ずかしいからです。
この頃やっていた研究とは春休みに涼宮お姉さん家で見せてもらった、SOS団の機関誌の中にあった涼宮お姉さんの書いた論文についてです。
この論文の内容は半分以上、解らなかったけど。この論文の内容をすべて理解できれば僕の目標に近づくことができるはずです。

 

春休みの半ばから始めたこの研究も一週間を過ぎた頃にあることに気づいた。
本日から新学期の始まる日に、ふと外を見ると黒塗りのタクシーが家の近くで止まって、白い髭をはやした運転手が降りてきた。
この運転手の人は見た目はおじいさんでタクシーを降りてから微動だにせずに背筋を伸ばして、一点を見つめていた。
おじいさんの見つめる先には涼宮お姉さんの部屋があった。

 

それからおじいさんは小一時間程経った後に携帯電話を手に取って、何かを話した後に再びタクシーに乗り込んでどこかに消えて行った。
少し不気味に思って、涼宮お姉さんの報告しょうと思ったが僕の研究がばれるといけないので話すのを止めた。

 

 
十日程が経過をした。おじいさんは毎日ではないが十日うちに六日程やって来ては涼宮お姉さんの部屋を見つめていた。
来る時間帯や見つめている時間はいつもバラバラだけど太陽が昇る間際にはタクシーに乗って去って行った。
初めはストーカーかなと思ったがおじいさんの顔をよく見るとそうは思えず、何かと戦っている顔に思えた。
段々と僕はこのおじいさんと話がしたいという思いが強くなっていった。

 

 

おじいさんを見かけてから七回目で僕はある計画を実行した。
前日に僕は自分の部屋に靴を用意して置いておいた。
靴を手に持ち、台所の勝手口に向かった。
勝手口は両親の寝ている部屋に持っても遠いので大きな物音を立てなければまず起きない。
外に出た僕は物音を立てずに慎重に庭を歩いて表への脱出に成功した。
脱出した僕は一目散におじいさんの元へと向かった。

 

「何をしているんですか?」
僕は少し怖かったが勇気を出して、おじいさんに話しかけた。
おじいさんは振り返り、少しびっくりした顔をしたがすぐにやさしい微笑みを向けてくれた。
「おやおや、こんな時間にお散歩ですか? お坊ちゃん」
「おじさん、十日前から涼宮お姉さんの部屋を見つめているでしょう」
敢えておじさんと言ったのは若く言ったほうが印象が良くなるかなと思って、ここはおじいさんと言わずにおじさんと言った。
おじいさんはさっきよりもさらに驚いた顔を覗かせた後に何かを決意した顔でやさしく話し始めた。
「私のタクシーはお客様ではなく、戦士を死地に送り、そして死地から戻った戦士を安息の地に送るのが目的なタクシーでございます。
  私は自ら死地には赴けずに若者を送り込むことしかできません。老兵が死地に行っても何の役にも立てませんが
  ……せめて、戦士達が戦っている間は神経が高ぶっているか、悪夢を見ているお嬢様を見守ろうと思いまして」
僕はおじいさんが何を言おうとしているのかよくは分からなかったけど、ひとつだけはよく分かった。
「おじさんの言っているお嬢様って涼宮お姉さん?」
「左様でございいます、涼宮お嬢様も自分自身と戦っておいでです」
「何と戦っているか分かんないけど、涼宮お姉さんってやっぱりすごい人なんだね」
「はい、左様でございいますな」
おじいさんは再びやさしい微笑みをかえしてくれた。

 

それから僕はおじいさんに涼宮お姉さんのことや学校のことを話した。
おじいさんはやさしい笑顔で僕の話を聞き、相槌を打ってくれた。
おじいさんに話している時はまるで春の木漏れ日のようなやさしい時間が流れた。
その時間はゆったりと暖かく、僕は心地良い感じた。

 

しばらく話していると辺りが明るくなり、後僅かで日の出が顔を出す手前の時間となった。
ここで僕は自分の研究の最終目標をおじいさんに話した。
「おじいさん、僕……タイムマシンを作りたいんだ。」
今まで両親や友達に話すと笑われると思って、心の奥底に秘めていた思いを告げた。
おじいさんも笑うかなと怖がりながら顔を覗くとおじいさんは今日一番の微笑みを送ってくれた。
「君なら必ずできるよ」
そう言い、僕の肩に手を乗せてくれた。その手は暖かかった。
「うん、完成したらおじさんを一番最初に乗せて上げる」
「楽しみにしているよ。さぁ、日も昇ったことだし、ご両親が心配するからお家に戻りなさい」
「うん、じゃあね! おじさん!」
僕は家に戻る途中に太陽に向かって、タイムマシンを絶対に作ると心に決めた。

 

 

 

「新川さん、ご苦労様です」
「これは朝比奈みくるお嬢さんの異時間同位体様」
「みくるでいいわよ」
「ではみくる様、これで例の情報はお教え頂けますかな」
「ええ、この封筒の中に書いてあります」
「ありがとうございます。今日の件であなた方の未来へと正しく進めましたかな」
「ええ、これであの子は壁にぶつかった時や諦めかけた時に今日の新川さんに話したことを思い出して、時間平面理論を完成させるわ」
「左様でございいますか」
「それにしても名演技でしたわ」
「名演技ですか、途中からは任務を忘れて話していました……私にも孫がいれば、あれぐらいの年か」
「……」
「あの子がタイムマシンを完成させる頃には私は生きてはいないでしょうな」
「……」
「一つご質問ですが、なぜこの任務を私に? 他の者でも宜しかったんじゃないでしょうか」
「禁則事項って言いたいところだけど、これは私の気まぐれよ」
「気まぐれですか?」
「そう、ただの気まぐれよ」
携帯電話が鳴った。
「すいません、失礼します……閉鎖空間が消滅したようなのでここで失礼させて頂きます」
新川さんの乗り込んだ車を見送りながら、私は心の中で呟いた。
『あなたは私がハカセ君と同じ年の時に時空管理局員になりたいっていったことに笑顔で聞いたくれたおじいちゃんに雰囲気が似ているわ』
新川さんの車が消えたところでTPDDを使って元の時間軸へと戻った。

 

 
END

 

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最終更新:2008年09月04日 23:32