「あたし古泉くんと結婚するの」 
 ある日、喫茶店に呼び出され、ハルヒからこう聞かされた。
 高校を卒業してから7回目の春のことだった。
「え…お前達つき合ってたのか…?」 
「うん…三年前から、ね…」
 初めて知った事実に俺はしばらくポカンとする。
「ねえ、キョン…祝福してくれるよね?」 
  ハルヒが不安そうにうつむく。
「ああ、もちろんだ。おめでとう」
 気のきいたセリフも言えず、お決まりの言葉を口にした。
「ありがとう。これから式場で打ち合わせだから…もう行くね」
 レシートを手に取り立ち上がるハルヒ。
「あたし…本当はキョンの気持ちに気づいてた…でも…でも…!」
 苦しそうな顔で俺を見た。俺は何も言えない。何を言えばいいのかもわからなかった。
 しばし沈黙が流れた後、ハルヒは喫茶店を出ていった。
 冷めたコーヒーを一口飲む、いつもより苦い味がした。


 俺は喫茶店を出て、あてもなく街をぶらついていた。
 さっきから頭の中をハルヒの言葉がループしている。
 何で早く自分の気持ちを伝えなかったのだろう。なぜ…なぜ?
 わかってる、わかってるさ。俺がいけなかったんだ…
 自分の気持ちには気づいていた。アイツのことがどうしようもないくらい好きだと。
 でも…拒否されるのが怖かった、関係を壊したくなかった…
 これも全部、ただの言い訳だな。 いつのまにか涙があふれでてくる。情けねえ…
 公園にたどり着き、目に止まったベンチに腰を下ろす。
 少し煤けた靴を見ながらため息をついた。
「あれ?キョンくん、何してるんですか?」
 聞き覚えのある声に顔を上げると心配顔の朝比奈さんが目の前に立っていた。
「どうかしました?わたしでよければ話聞きますよ」
 朝比奈さんはにっこりと笑ってベンチに座った。
 そんな優しいこと言われたら…ああ…ダメだ、話せない…いや、話しちまおう…
 俺は朝比奈さんにハルヒと古泉のこと、そして自分の気持ちを話した。
 話を聞き終わった朝比奈さんは何度かウンウン頷くと、ゆっくりと喋り始めた。
「あなたの気持ちはわかりました。それでキョンくんはどうしたいんですか?」
「どうって…別になにも…もう遅いですし」
「本当にそれでいいんですか?」
 朝比奈さんが諭すように言った。
「いえ、それは…」
「遅すぎるかもしれません。許されないことかもしれません。でも、伝えることで何か変わるかもしれませんよ」
「朝比奈さん…俺…」
「頑張って。わたしは応援してます」
 朝比奈さんはいつも以上に魅力的な笑顔を浮かべた。
 そうだな…自分の気持ちに従おう。ありのままの想いを伝えよう。よし、やってやるぜ!


 その日の夜、俺は電話をしてアイツを呼び出した。
 待ち合わせ場所で待っていると向こうから歩いてくるのが見えた。
 俺は想いを押さえきれず、駆け寄って強く抱き締めた。 困ったような、緊張したような顔をしている。
「いきなりスマン、聞いてくれ!俺はお前を愛してる!」
「でも…もう…」
 今にも泣き出しそうな震える声が聞こえた。
「お願いだ。わかってくれ…俺にはお前しかいないんだ。大好きなんだよ!」
「キョン…キョーーーン!」
 相手も強い力で抱き返してくる。俺たちはそのまま優しくキスをした。
「ずっと…ずっと待ってた。キョンが気持ちを打ち明けてくれるのを」
「待たせて悪かったな…もうつらい思いをさせたりしないから…」
 俺はにっこりと笑ってもう一度キスをした。
「もう、バカバカ!こんなに不安にさせたんだから、ちゃんと責任とってよ!」
「ああ、ずっと一緒にいよう。幸せになろうな」
「うん。約束だよ」
 
 きっとこれから大変な問題がいくつも降りかかってくるのだろう。
 でも大丈夫。こいつとだったらどんな困難にでも立ち向かっていける。
 閉鎖空間、神人なんでもこいだ!
 愛してるぞ………一樹!

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最終更新:2008年08月31日 18:13