中だるみの時期とは、俺にとっては限定されるものではないと思っていた。…いや、今でもそう思う。地元でも有名な進学校へと去年の春に入学し、順風満帆な人生を謳歌しているんだと自惚れていたんだ。俺みたいな天才は、ほんの少しだけ努力すればいい…そう思っていたんだ。そして勉強を抜かるんだ結果見事にダブってしまい、身の程を知った俺は都外の高校へと転校した。

「お兄ちゃん、起きてよお兄ちゅぁん」

今日から正式に、一つ下の連中と付き合うことになったわけだが…どうにも気が進まない。県内偏差値35、東北で一番問題の不良高校だ。くっそう…なんで俺が

まぁいい今日から俺は変わるんだ。眉をそり、髪も染めた。こんな田舎街の奴等が俺に敵うわけがないんだ…。

(あぁ~♪ 君はサンシャイン 僕のマイマイハニー)

変にイカれたようなラブソングが曲がり角の向こうから聞こえてくる。音源からして俺よりも身長の低い人間である可能性が高い。…女か?

(ポーポ~ ポッポポポポポポッポポポポ~♪)

よし、故意にぶつかろう。互いに衝突した勢いでおっぱいを揉みしだくとしよう。満員電車での痴漢成功率が八割を越える俺にとってはレベルが低い。容易いことだ

「あぁ、ちこくちこくぅ~」ドンッ

鈍い痛みを感じる
結果からして女は倒れていない。というより俺がぶつかったのはでっかいヤンキーだ

「キォン!?」

「なんじゃ、うぬぅわぁぁ!!」

時代遅れもいい髪型をした長身のヤンキーに睨まれ、胸ぐらを引っ張り上げられた。や、やんのか…お、おらぁ空手習ってんだよぉ

「ぬぅやぃび~んかい!」

「止めんしゃい」

俺が乳を狙っていた女と思われる少女がヤンキーにそう言うと、すぐさまヤンキーは手を離した。ちくしょう…こんな美人の乳を揉みそこねたなんて…。

「キョンとかゆーたの?すまんな、血の気の多い奴なんじゃ。許してくり」

そう言って、少女とヤンキーは去って行った。ついでに俺の心はブロゥキンした。ちくしょう…なんなんだよ藪からstickにあのヤンキー…っつーか同じ制服かよあいつら、ちくしぉ

●rz ← ●<FACKッ!

初っ端からこれかよ…嫌だよもう…ごめんよ…実は俺、イジメられて転校したんだ…進学校なんて嘘だよ…普通にポカしたよ…手続きとか大変だったよなぁ…ごめんお母ちゃん…僕、もう一回だけ転校したい

新しい学校の校舎は時計台の上に「ハ」と書かれただけの旗が突き刺さっていた。前にいた工業高校と違い、可愛い女子もたくさんいる……が、さっきのヤンキーもいるんだよなぁ…ふぁ…。

「すぅずぅみぃぃやぁぁぁ」
「番ッ!長ぉッ!!のぉ」
「おな~~~ぬぅぁるぃッッ!!!!」

やおら奇声を発した一人のヤンキーに応じ、十数人のヤンキーが整った体制で道を開いた。するとその道を先程の少女が闊歩しているではないか

「とおりゃんせ」

「およぉござぁまーッ!!」

今朝はあまりよくみなかった腕に「番長」と書かれた腕章をつけている。……ここに通うのか…鬱だ

さてと、俺のクラスは1年5組か…あーよかった。さっきの不良達も女の子もいない

「初めまして、僕の名前は「「キォンッ!!!」」

突然ヤンキーの声が…

「ヌァハハハハッ!!今朝はやってくれたのぉッ!!この借りは今日中に晴らしたるさかいッ」ジー

ショルダーバックと思われた寝袋のファスナーをヤンキーは閉めた……ふぁ…。

「じゃあ、キョン君は有希さんの隣りに行ってくれ」

「…よ、よろしく」

「あぁ、うん」

田舎もんは転校生にいちいち「ヨロシク」なんて言うんだな。さすが偏差値35変人ばっかり

その後も質問責めだったり、いきなりソッコーメルアド交換だったり、東京では絶対に味わうことのないドラマみたいにありきたりなことばかりするクラスに溶け込んだような気がして、徐々に気分が楽になり、少し自分に自信を感じた。…ここでならやっていけるかもしれないな

しかし、現実っていうのは厳しい。振り向けばロッカー棚の上でヤンキーが寝ているのだから

「最初の授業は…世界史か。長門さん、教科書みしてくんない?」

「……………」ビクッ

モジモジしながら広げられた教科書にはページいっぱいに「バカ」「アホ」となぐり書きされていた

「……………」グス

「センスのねぇ奴等だな。人を馬鹿にしたいなら、もうちょっと面白いこと考えろっての」

我ながらよくもこんなムサい台詞が吐けたものである。だがムサい奴にムサい事言ってもなんら問題ない

「…ありがとう、キョン君」

「おう、あんま気にすんなよ?」

しかし、連中に変なニックネームをつけられたことに腹を立てていた俺は、一時限目から四時限目の終わりまでに長門有希目掛けて飛び交う消しゴムのかけらをシカトしてやった。涙目になってやがる。ざまぁねぇな

昼休みにもなると、何故か誰も話しかけてくれる奴はいなくなった。ついでだからってオドオドしてる俺にもケシカス投げんなよ。ざまぁねぇな

「よかったら……一緒に食べない?」

「黙れ貧乳貧乳、コスプレコスプレ、谷間にダーリンダーリンフリーズッ!!!」

「……………」グス

2chで極めた俺の誹謗中傷スキルに田舎もんはたじたじさ、ざまぁねぇな

「……………」ヒックヒック

「ゆ、有希ッ!?なぜ泣いておるのだ!?」

え?ななんで今朝の番長が…

「どうしたのじゃ?私に申してみるがよい」

「……………」シクシク

「遠藤ッ!遠藤ぉッ!!」

「ヌゥァ?」

「有希のことはお主に任せたはずじゃが…これはどういうことかの?」

「ウヌゥ!有希ぃッ!!何故、泣いておるのだッ!!!」

どうやらこの長門は涼宮番長とヤンキーの仲間らしいな。まぁ、そんな団塊世代の夫婦みたいな反応されても、現代の複雑な社会問題は解決できないんだよ。つーか、いじめの原因は絶対お前らだよ。よくあるパターンだよ

この様子だと、俺の仕業ということは気付かれていない……うん、馬鹿は多いにこしたことはないな

「ん?おお…キョンではないか」

こ、この女、まさか俺よりも模試の成績が上なのか!?

「ヌァヌァ!!キォォン!!貴様ぁワシはまだ肘が痛むんじゃッ!!引導を渡してくれるッ!!!」

「んぎゃーッます!!黙りんしゃい!!」

「すまんのぉ…こいつみたいな男が同じ組だとやかましいであろう?」

番長と呼ばれるこの女、十数人のヤンキーを従えるこの女。そんな女が俺みたいな奴に下手にでている…ん?ま、まぁ別にいいけどさぁ

「有希とも仲良くしてやってくれ、組のもんとウマく馴染めんゆーてもまだ四月じゃからの…有希の事は遠藤なんかよりも主に任せるとしよう」

「じゃあの有希、キョン」

珍妙なしゃべり方をする番長殿は去って行った。何しに来たんだよ

「…弁当たべn」グス

「な、泣くなよぉ…」


●rz ← ●<インコース高めッ!


なんだかんだで放課後だ。日直でもないのに相合い傘書かれたり、「お前の席ねぇからぁ」って台詞に思わず噴出してしまったり。…やれやれだ。明日からもこんなわけの分からないノリの学校に通い続けるのかよ

ん?あれは…

「へっへっへ、有希ちゅんよぉ」

「や、やめて下さい。…そんな」

な、ながと!?不良に絡まれている…いや、あれは不良じゃない。外見だけみれば普通の男子高校生だ

「こいつ苛めても、たかっても何も言わないんだぜ?犯しても問題ねぇよ」

「…………」グス

こ、これはどうするべきか…流石にレイプされたりしたら学校なんか来れないだろう、長門が不登校になればケシカスは飛んでこない…俺もクラスで上手くやっていけるということかッ!?いやいや待て待て…デメリットを考えるんだ。長門がいなくなった場合どうなる?イジメの標的が俺になるという可能性も大だ。やはり……これはいかんッ!!

「ヌゥァ? なんだキォンッ!!」

「か、かくかくしかじかヘルプスノー!」

「ナァにぃぃ!!有希がだとぉぉッ!!!」

「じ、実はお、俺、空手なんかや、やってないんです。な、長門さんをた、助けてくだしゃぃッ!!」

「まっかちょーけぇッ!!!」

そう奇声を発した後、遠藤さんは放送室へと闖入し、マイクを握りながら叫んだ

『田中!山崎!ジミー!岡本!その他ぁ!!涼宮組のもんはぁ!!校舎裏にぃぃぃ!!!であえッ!!!であえッ!!!!』

ダダダダッ

たぶん、学校中のヤンキーが集うのだろう…終わったな、あいつら。しかし、俺と遠藤さんが見たものは十数人のヤンキーが全員撲殺されている壮観な光景だった

「おぃ…浜田ぁ…松本ぉ…なんッッのつもりやぁ?」

「涼宮組だって?あぁ?大したことねぇなぁ」

「死なすッッッ!!!」

「ふん」バキッ

「オォォル!!ハィィヌゥッ!!ロックハァァンドッッ!!!」

え、遠藤さんがやられた…な、ながとぉ…犯されても学校ぐらい来いよ…来たら来たで今よりイジメられるから…犯されたことによって

「キョン君……」

「すまんな長門、逃げさせてもらう」

(あぁ~♪ 君はサンシャイン 僕のマイマイハニー)

こ、このインディーズ演歌モドキのパクリ楽曲はッ!!

東北地方で最低の偏差値を誇る、岩手県の県立北高校で、〝番長〟と呼ばれる現役女子高生。その女――――ッ!!

「とおりゃんせ」

「す、涼宮番長ぉッ!!!」

普段は何をしているのか、一体何者なのかすら分からない。だけど!もう貴女しかいないのですッ!頼んだぞ、番長!

「気、奇、鬼、喜、祈、危、忌、帰、記……字百六十九計を占める〝き〟」

「その中でも〝木〟は硬い幹をもち、幾つもの枝があり、地面に根を張り、成長する。幹は木質化し、次第に太く成長する。枝先には葉と芽をつけ、やがて花を咲かせるッ!」

「我こそは首領ッ!!涼宮組の幹なりッ!!!!!」


力強く吠えるその姿は頼もしく、そして男らしくもあった…。

「女だからって調子に乗ってんじゃねぇ!」バキッ

「あぁーれぇー」

き、鬼畜ぅ!殴るなんてあんまりじゃないか!モラルのかけらもない奴めぇ!!

「ふざけやがって…あんまナメんなよ。この場ですぐに有希を犯ってもいいんだぞ?」

「あ、あのぉ…」

一年生だろうか?女子達がこちらを伺っている。

「はッ! お前らも有希を助けようってか?」

「番長に手を出すな」

…なんということだろう、そこら中から生徒や先生、明らかに学校関係者ではない人達までゾロゾロと出てくるではないか

「…な、…なんで」

「涼宮組をただの良からず者の集団と思っていたか?ナメられて困るのはこっちの方だ…」

ヨロヨロと立ち上がる番長

「私が更生させた不良共…信頼する先生方…登下校中いつも声を掛けてくれるおばちゃん…諦めかけていた大学受験へ再び立ち向かうことに決めたニート…飼い主に捨てられてまでも懸命に生きようとする野良犬…」

「浮き世と言ってくれるなよ…他者との総和で成り立つ素晴らしきこの世界樹を…たった一つの幹から幾つも枝は分かれ花開くッ!」

――涼宮番長ッ

「……貴様らごときに幹は、私は――折れぬッッ!!!!!!!!」

「ち、ちくしょう…」ダッ


●rz ← ●<ohhh!!


パタッパタパタパタ

「祖父さんがヤクザ?」
「うぬ」

「まぁ、ヤクザと言っても少数だったがの…」


涼宮ハルヒ。時計台の上で自分の名前一文字が書かれた旗を支えながら夕日に照らされた田舎のパノラマを笑顔で見つめていた

『春日は、太陽の神アマテラスのようにと名付けた』

『お前がいつも笑顔でいてくれたから、おじいちゃんはいつも頑張って生きられたんじゃよ』

『皆を支える幹となり、木を照らす希望の太陽になっておくれ』


「みなのものぉ」

大丈夫だよ連中はちゃんと下から見てる

「「お主らの幹、涼宮春日はここにいるッ!!」」

…やれやれ、想像していたよりもここは楽しめそうだ




●<疾いですね、早漏ですか?オワリ?

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