「みくるちゃん遅いわねぇ…キョン、なんか聞いてる?」
「いや。掃除当番とかじゃないのか?」

放課後の部室。朝比奈さんがまだ来ていない。

「掃除当番はおとといだったはずだから今日は違うわ。」
「そうかい。じゃあ体育館裏に呼び出されて告白でも受けてんじゃないのか?」

朝比奈さんならありうる話だし、と適当に返事をしたのがまずかった…

「…何ですって?」

気付いた時には遅かった。

「い、いや例えばの話ね。例えばの…」
「あたしに許可無くみくるちゃんに告白するなんて許せないわ。」
「や、だから…」

「見に行くわよ。」
「待て待て!例え本当に告白されてるとしても覗き見なんてしていいわけないだろ!!」

「うるさい。あたしは保護者としてみくるちゃんがそこらのアホな男に引っかからない様監視する義務があるの。みくるちゃんと付き合いたいなら年収5億が最低ラインよ。」

なんだそれは。イチローくらいしか思いつかねぇよ。

「ほら古泉君!有希も!本閉じなさい、行くわよ!!」
「分かりました。」
(コクリ)

――

体育館裏

『ずっと前から好きでした…付き合ってください!』
『え……と…、』

ホントに告白されてんじゃねーかおい!!

「ちょっとみんな、あの男知ってる?」
「…いや、知らないな。」
「3年4組に在籍、バスケ部。一学期中間テスト総合84位。2人兄弟の長男。父親の年収650万。」

年収までわかんのか長門よ…。

「ふざけんじゃないわよ!そんな低スペックでみくるちゃんと釣り合い取れると思ってんの!?」
「デカイ声出すなアホ!大体それは朝比奈さんが決める事だろーが!」

まぁ、なんとなく結果は見えてるけどな…。

「振れ!こっぴどく振りなさいみくるちゃん!!」

『……ごめんなさい。』
『…………。』

「よし!よく言ったわ!!」
…こいつは…。

『…あ、えと、あなたの事が嫌いとかそういうことじゃないんです。ただ私…今は誰とも付き合うわけにはいかないんです…。』

『……そっ…か…。』
『…本当にごめんなさい。』
『い、いやいいんだ。聞いてくれてありがとう。それじゃあ…。』
『…はい。』


「…もう、みくるちゃん優しいわね。バッサリと「鏡見てから出直してこーい」、とか言ってやればいいのに。」
「朝比奈さんがそんな事言うか。相手を傷つけないよう最低限言葉を選ぶさ、誰かさんと違ってな。」

「下手に言い訳される方が傷つく事だってあるわよ。それに何今の?私の事言ってんの?
言葉選んで振るくらいアタシだって出来るわ。」

「ほーう、そうかい。…好きだハルヒ。付き合ってくれ。」
「いいわよ。…ってえええぇっ!!?なななななに言ってんのアンタ!!!」
「付き合ってくれって言ってんだ。」
「あ……え…う、うん…。いい…けど…。」

「いやいや何をOKしてるんだ。言葉選んで振るんだろ。」
「…は…?…あ……ぁ…んた…!!」

…あれ…?

「ふっざけんなっこの馬鹿ぁっ!!腐った魚みたいな顔してアタシをからかおうなんて5万年早いのよっ!!!前世から遺伝子レベルでやり直した上でその干からびたナスみたいな体を全身整形するまで話しかけてくんな!!!」

……………。

「…なぁ長門、古泉、死んでいいかなぁ俺…。」
「……。」
「フフ、死ぬのは涼宮さんよりも後でお願いします。」

――

ピリリリリリリリ

『from 長門有希  本文:家に来て。』

家に着いた早々届いたメール。
長門クラスの美少女からこんなメールが届いた日には普通なら泣いて喜ぶ所なんだろうけどな…。
何かあったのだろうか、…ハルヒ絡みで。

――

「傷つけずに振る、とは何?」
「へ?」

長門宅。
開口一番、長門が口にしたのは何ともおかしな質問だった。

「告白を断られたとしても、傷は付かない。」

あー…、そういうことね。

「お前ひょっとして、告白されたのか?中河以外に。」
「された。すでに断った。」
「…で、傷つけたのかどうかってのが気になった、と。」
(コクリ)

「…ちなみにだ、なんて返事したんだ?」

「できない。」

「……それだけ?」
(コクリ)

「…なるほどな。なぁ長門、好きな子に告白するってのはもの凄く勇気がいることな訳だ。一大イベントだ。それは分かるよな?」

「……?」

「…分かんないか。例えばだ、長門がハルヒの前で情報操作連発した上に私は宇宙人だとぶっちゃけるのと同じ位の一大事だ。これならどうだ?」

「…最終手段。」

「そうだ最終手段だ。好きって気持ちがどうしようもなくなった時に使う最終手段な訳だ。」
(コクリ)

「それなのに、今日のハルヒが俺に言ったみたいに「話しかけてくんな」とか返事されたら悲しい気分になるだろ?」

「……?」

「自分の身に置き換えてみろ。ハルヒや俺から「話しかけてくるな」って言われたらいい気分はしないだろ?」

(…コクリ)

「それが傷つくって事だ。肉体的に傷が付くわけじゃなくて心が、ってやつだな。」
「…理解した。」

「それはよかった。お前なら今後何回も告白されるだろ。参考にしてくれ。」
「明日は努力する。」

「明日?…また告白されるって事か?」
「3日前に告白を受けた。返事は明日欲しい、と。」

「そっか。ま、受けるにせよ断るにせよ真面目に答えてやれ、長門。」
「分かった。」

――

「有希遅いわねぇ…キョン、なんか聞いてる?」
「いーや。掃除当番じゃないのか?」

うまく返事しろよ、長門。

――

『できない。』
『…そっか…わかった…。』


『…でも、』
『?』


『好きと言われた事はうれしかった。』
『…う、うん。』


『――ありがとう。』



おわり


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