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 「おはよう、キョン君」甲高くも何処か優しげな声が俺の情けないあだ名を呼ぶ。
その声に振り向くと、前は只のクラスメイトだった成崎が微笑みを浮かべ此方に向かって歩いて来た。
「あぁ、おはよう」
そう、今では只のクラスメイトではなく俺の彼女だ。正直恋愛がどういう物か全く解らない俺は、
どうしていいものかと日々悩んでいる。それに、友達だった頃と比べると不思議と会話にも気を遣う様になった。
もっと自然で在りたいとは思うのだが、どうにも肩の力が抜けない。
「難しい顔して何考えてるの?」
不思議そうに此方を見上げる成崎に、俺は誤魔化す様に手を振り、「行こうか」と自転車に跨り後ろに乗る様に促した。
「うん」
と嬉しそうに微笑む彼女の鞄を受け取り、ママチャリの籠に入れペダルを踏む足に力を入れ颯爽と漕ぎ出した。
付き合い出してから、俺達は駅と駐輪場の丁度中間地点辺りで待ち合わせている。
最近、スピードが乗らなくなって来た俺の愛車。タイヤの空気が減ってきたのか?うん、帰ったら空気を入れよう。
と心に誓い駐輪場へと向かった。
やはりというか、手や顔に吹き付けてくる冬の風は冷たい。だが、背中に抱きつく彼女の体温がコート越しでも伝わってくる。
その暖かさを感じると不思議と心も暖まるというものだ。って何言ってんだ俺。

 駐輪場に着き自転車を停め、外で待つ成崎の元へと歩き出す。
寒そうに手に息を吐きかけている彼女を見て、俺は一度やってみたかった事を思い付いた。
「ほら」
そう言って差し出した手を、彼女は嬉しそうにそっと手を重ねてくる。羞恥心からか思わず目を逸らしてしまう。
はぁ、情けない。手を繋ぎ歩き出した俺達は、傍から見ればバカップルに見えるかもしれないが、構うものか。
今はこの一時を大事にしたい。
「キョン君の手、暖かいね」
恥ずかしそうに顔を俯かせ、チラチラと此方を見上げながら口を動かす彼女を見て、自然と笑みが溢れる。
こうして歩いていると、今ではハイキングコースでもある急勾配の坂ですら苦にならないというものさ。

 教室に着き成崎に一瞥した後、俺は脇目も振らずに自分の席へと向かった。
俺の席は今では窓側の前から二番目の席。アイツは窓側の一番後ろの席だったが。
何故、位置が変わっているのかと言うと、SOS団を脱退というか除名処分を通知された次の日、突然席代えが行われた。
そこまで俺といるのが嫌なのか。と傷付いた心が更に傷口を広げ、打ちのめされそうになったが、今ではもう平気さ。
要は気にしなきゃ良い。それから数日して、窓際最後尾の席に誰も座らなくなったのは。
ハルヒは学校に顔を出さなくなっていた。別に心配してる訳じゃない。俺にはもう関係ない、関係ないんだから。
ふと、黒板横に掛けられているカレンダーに視線を向ける。今日は何日だっけ…?確か、12月15日だ。
ハルヒが学校に来なくなってからもう10日が過ぎている。そういえば、2学期ももうすぐ終わりを迎える。
23日になれば待ちに待った冬休みだ。それに、24日のクリスマスイブ。勿論、成崎とデートの予定が入っている。
だが、もう一つ何かあった様な…大事な事を忘れている気がしてならない。窓から外を眺めると枯れ葉が舞っている。
木々はその肌を露にし、次に迎える暖かな季節に向け蕾を枝に宿す。
そんな風情を感じつつも、何処か満たされない何かが俺に訴え掛けてくる。
 
 さすがに冬となると、俺を惰眠へと誘う誘惑も少なく、前の方の席と言う事もあり俺は真面目に授業を消化している。
昼休みになりいつもの様に国木田、谷口と供に弁当を食している時の事だ。
以前、SOS団を辞めた事を二人に告げると驚愕の表情を浮かべ、理由等を聞いてきたが。

詳細を語る事を堅くなに拒んだ俺を見て、ただならぬ何かを感じとったのか国木田が谷口を制した。
それ以来というもの、SOS団関連、主にハルヒの事が話題になる事は無くなった。
だが、今日に限って谷口が痺れを切らしたのかハルヒの名前を口に出した。
「なぁキョンよ、最近涼宮来てないけどお前知らないのかよ?」
さあね、知っていた所でどうにも出来ないさ。
「だが、お前と涼宮は…」
「やめなよ谷口。キョンだって解らない事だってあるし、触れられたくない事だってあるんだしさ。
僕だって涼宮さんの事は気になるけどね、きっと彼女の事だからまたひょっこり顔を出すんじゃないかな」
谷口の言葉を遮る様に国木田が、弁当のおかずを丁寧に切り分けながらいつもと変わらない落ち着いた物腰で語り出した。
「ちぇっ解ったよ、涼宮の事はもう聞かねぇ。だか、キョンよ成崎と一体どんな関係なんだよ。いい加減教えやがれ」
国木田の言葉に渋々諦めた谷口が、顔をニヤつかせながら問掛けてくる。実にそこは触れて欲しくないんだが。
「俺は見たぞ!お前らが仲良く手を繋いで登校していたのを!俺は悲しいぞ、キョン!」
やめろ、頼むからそんなにでかい声で叫ぶな。周りの視線が痛いだろうが。それに、さっきから唾が顔にかかってる。
「それは僕も興味あるな、キョン。教えてくれよ」
谷口とは違い嫌味のない笑顔を見せてくる国木田だったが…。しかし、なんなんだろうねこいつらは。
まったく…やれやれだ。
俺達の会話が聴こえたのか、此方に恥ずかしそうに視線を送ってくる成崎が視界の端に映る。
俺は気にするなとアイコンタクトを送るが、どうやら効果は望めないらしい。
何故かと言うと、俺と目が合った瞬間目を逸らしたからな。
「何処見てるんだキョン?」
そう言うと谷口が俺の視線の先を追うようにその先を見詰めている。くっ…ぬかったか。
谷口が俺が何を見ていたものを理解したのか、悔しそうに顔を歪めて俺の両肩を掴み揺らしてくる。
なぁ谷口よ、いい加減飯食わせてくれないか。

 

 放課後、部活があるから先に帰っててと言われた俺は、久しぶりに一人で帰路につく事にした。
部室にそう何度もお邪魔するのも悪いし、何より今は部室棟に行きたくない理由もあるし。
それに待っていても良かったのだが、この寒さの中待っていたら凍えてしまう。
思えばこの時、一人で帰る事になったのは運命めいたものだったのかもしれない。

 

 駐輪場に赴き、自転車を引きずり出し家路へと着く。いつの間にか後ろに人を乗せる事が当たり前になっていた俺の自転車。
ペダルを踏み込めば二人分の重み、そして背中に当たる温もり。それらがないと、不思議と寂しさを感じずにはいられなかった。
自宅付近に着くと見覚えのある車が駐車していた。黒塗りのセダン。まさか…古泉か?
妙な胸騒ぎを感じつつも、俺は黒塗りのセダンの車を通り過ぎようとした。案の定、車の後部ドアが開いた。
車から出てきたのは意外な人物だった。予想していた人物とは違っていた俺は、唖然とその人物を眺めていた。
「お久しぶりです」
丁寧にお辞儀をする黒いスーツに身を固めた女性。朝比奈みちる誘拐事件の時にも、一役買ってくれた森さんだった。
彼女に俺も合わせてお辞儀を返す。
「突然の来訪、大変申し訳ございません。ですが、一刻を争う事態が発生しまして」
そう言う彼女の瞳は、真っ直ぐでそれでいて何処か哀しそうな感じが見受けられた。
一体何が起きたと言うのか、俺が聞き返そうとすると彼女は俺に車に乗るよう促した。
「ちょっと待っててください」
さすがに自転車を放って行く訳には行かないので、俺は自宅に急いで向かった。
門戸を開け自転車を中に入れ、玄関を開け鞄を中に投げ入れ、俺は森さんの元に駆け出した。

 俺が車に乗ると同時に、「出して」という彼女の言葉が車内に響く。そして、少し急発進気味に動き出す。
「それで、一体何があったんです?」
俺の言葉に森さんは間を置き、淡々と語り出した。
「実は、先日発生した大規模な閉鎖空間の中で、古泉が重症を負いました」
何だって…?古泉が?
「どういう事ですか!?」
衝撃の事実に俺は冷静を保ってなどいられなかった。
「先程、申し上げた通りです。実際、我々が貴方と接触するのは古泉を介して行われるのですが、緊急時に当たり馳せ参じたまでです」
あくまで冷静を装う彼女の瞳は、やはり冷徹な表情とは違っていた。
「そうですか…」
古泉とは妙な付き合いではあったが、それなりに思い入れもある。だが…今の俺には…。
暫しの間車両内に沈黙が続く。車窓から見える流れ行く町並みを眺めていると、不意に運転席に座る人物が口を開いた。
「実は、古泉からはくれぐれも貴方には言わない様にと念を押されていたのですが…」
「ちょっと…新川!」
俺の耳に入ってきたのは、独特な渋さがある聴き覚えのある声だった。
隣に座る森さんが腰を上げ声を荒げていたが思う所があるのか、その後何も言わずに再び腰を下ろした。
ふと、視線をバックミラーに移すとそこに映る初老の男性、確に新川さんだ。
俺の視線に気付いたのか、ミラー越しに目が合う。再び進行方向へと視線を戻し再び語り始めた。
「実は、最近まで涼宮さんの精神状態はそれはそれは、以前とは比べ物にならないくらい安定していました。
ですが、ある日を境に次第に不安定になっていき、遂には完全に自身の殻に篭ってしまわれたのです。
境になった日はお解りでしょうが、その日から休む間も無く閉鎖空間が発生しましてな、古泉の不登校の理由はこれです。
何度か貴方に助力を願おうとしたのですが、古泉が「彼にも選ぶ権利はある」と申し立てて来まして…。
我々機関も動かせる人名が少なくなって来ましてな、これ以上はもう…限界なのです」
その言葉を聴き、俺は言葉を失っていた。古泉…お前って奴は…。
新川さんは俺の心中を察したのか、続けて古泉の事を語り出した。
「貴方方の前ではあの様に振る舞っていますが、彼は心の優しい青年なんですよ。
だから、貴方方の為に必死になってこの世界を守り続けているんです。他の誰でもない、貴方方の為にね」
新川さんの言葉は重く俺の心に響いた。古泉にそんな一面があるとは考えもしなかった。
ただ、その言葉を噛み締めるように俯く俺の膝に手を置いてきた。
「彼は自分の居場所を守りたかったの…、今の貴方には関わりたくない事かもしれない。
それでも、貴方にしか出来ない事なんです」
俺は彼女の言葉に何も答える事が出来なかった。
「着きました」
新川さんがそう言うと車を停めた。森さんが車を降りたのを横目で確認した後に、俺も続いて車を降りた。
着いた場所は町の中でも一番大きい大学病院だった。ここに古泉がいるのか。
しかし、今更どんな顔して会ったらいい。
「こちらに」
病院を見上げている俺に彼女が声を掛けてきた。先を歩く彼女の後を着いていく俺の脚は、
本当に自分の物か疑いたくなるくらいに重かった。

 

 古泉が入院している病室に着いたのか、森さんが足を止めた。
扉の横のネームプレートに書かれている名前を確認した。「古泉一樹」と書かれていた。
間違いなく古泉が此処にいるんだろう。
「どうぞ」
森さんが引き戸を開け中に入るよう促してきた。俺は森さんに一瞥し、複雑な心境のまま病室内に足を踏み入れた。
「お久しぶりです」
こちらにいつもと変わらぬ微笑を浮かべ言葉を投げかけてくる古泉は、全身包帯に巻かれていた。
ベットに寝込み左腕と右足にギブスを付け、痩せこけ心なしか小さく見える身体。
「あぁ…」
そんな古泉を見て言い様のない罪悪感が胸に立ち込める。
「どうしたんですか?浮かない顔して。貴方らしくない」
馬鹿野郎、そんな姿を見て平然としていられる訳ないだろうが。
「ははっそれもそうですね…。ここに来られたという事は、森さんと新川さんですね?」
「あぁ、そうだ。二人が迎えに来た。それより、何故何も言ってくれなかったんだ?」
俺がそういうと、古泉が笑みを崩し俺から視線を逸らし外を眺める様に視線を窓辺に向けた。
「まったく彼等には念を押していたんですがね。いやはや、仕方ないお話します。
僕達は貴方の一挙一動に涼宮さんの全てを委ねたりしました。貴方に負担を掛けているのは百も承知でね。
それに貴方にだって自分の行く先を選ぶ権利はある。だから、というのも変な話しですが。
僕が貴方の代役を務めようにも、彼女の視線の先にはいつも貴方がいた。
だから、僕は自分に出来る事。つまり本来自分に課せられた役目を果たそうと思いました」
「だからと言って…俺達仲間じゃなかったのか?相談…してくれれば…」
「相談すれば貴方は涼宮さんの側を離れなかった…ですか?」
古泉は俺の言葉を遮る様に、口調を強め言葉を放った。俺に向けられた古泉の真摯な瞳は真っ直ぐで、
それでいて俺を見透かす様な力強い目だった。
「そんな中途半端な気持ちで、貴方は涼宮さんや僕等の気持ちを裏切ったのですか?」
「違う…俺はそんなつもりじゃ…」
「貴方は涼宮さんの気持ちから逃げていただけではないんですか?
それとも、彼女から向けられる恋心を弄び苦悩する彼女が見たかったんですか?」
「違う!俺は…俺は…」
「…すいません。少し言い過ぎました」
そう言うと古泉は目を伏せるように俯いた。そんな古泉に俺は何も言葉を発する事が出来なかった。
「これから言う事は僕の独り言です。気にしないでください」
呆然と立ち尽くす俺に古泉が囁くように呟いた。
「僕がSOS団の皆さんと出逢ってから、自分でも解る程に自身が変わっていくのが解りました。
それまでは人と深く関わる事を忌み嫌い、距離を置く事に徹していた僕ですが彼女は強引ですからね。
深く関わらずにはいられませんでした。最初は、少々辛いものがありましたが。
何時からか僕はSOS団で過ごす時間が堪らなく幸せに思えて来ました。
それは、自分が今までに感じた事がない感情でした。そう、こんな僕にも自分の自分の居場所が出来たんです。
ですから、その居場所を守りたかった。ただそれだけなんです。
おや…、そんなに顔を顰めないでくださいよ。これでも素直になってる方なんですよ?」
どうやら俺は顔を顰めていたらしい、別に古泉の話しに苛立っている訳ではない。
只、少しでも俺に古泉の様に自分の居場所を想う気持ちに気付く事が出来ていればと思うと、
愚かな自分に苛立ちを隠せずにいたのだ。しかしよ、古泉。もう全てが遅いんだ…。
「そんな事はありません、涼宮さんは貴方の事を待っているはずです。ですが…恐らく。
もう時間は余り残されていないかもしれません」
何だって?
「つまり、もうこの世界が形容を保てるかどうか保障はない…という事ですよ。憶測ですが…ね」

 

 「もう、宜しいのですか?」
病室を後にした俺は森さんに一礼をしてその場を去ろうとすると呼び止められた。
「えぇ。自分なりに動いてみるつもりです」
「そうですか…古泉の事は心配しないでください。恐らく、暫く入院すれば良くなると思いますので」
そういうと、森さんは今までの冷徹な表情を崩し微笑みかけてきた。正直、驚いたね。
「あら、私だって笑うんですよ?後、帰りは心配いりません。新川に申し付けてありますので」
くすくすと鼻で笑った後に、「失礼します」と言って森さんは病室の中に入っていった。
俺は神妙な面持ちで廊下を歩き出した。しかし、俺はどうしたらいいんだろうな…。

 

 エントランスを抜け、病院を後にした俺は外で待つ新川さんを見つけた。
「もう…宜しいのですかな?」
「えぇ、なんだかお世話になりました」
どこか含むような笑みを浮かべてた後、新川さんが車の扉を開け「どうぞ」と車に乗るように促してきた。
俺はその言葉に甘え、一瞥した後車に乗り込む。
「さて、どこに行きますかな」
「少し考えたい事があるので…取り敢えず家までお願いできますか?」
「かしこまりました」
そうだ、思い付きで行動を起して悪戯にハルヒを苦しめる訳にはいかない。
すっかり薄暗くなった空を車窓から見上げ、淡々と流れていく景色を見ながら答えを見つけられない自分に呆れるように溜息を付いた。
しかし…成崎とハルヒを天秤に掛ける様な事は俺には…。
「到着しました…では御武運を」
いつの間にか自宅付近に到着していた。見慣れた住宅街すら気付かないくらい考え込んでいたらしい。
俺は新川さんに一瞥した後車を降り、走り去る車を見送った後門戸を開け家に入ろうとした時、
予想もしていなかった人物に声を掛けられた。
「遅いわよ、キョン」
俺の耳に飛び込んで来たのは、決して忘れる事は出来ない慣れ親しんだ声。そう。ハルヒの声だった。
声の方に振り向くと、夜風に髪を靡かせているハルヒが暗闇の中に佇んでいた。
思わぬ人物の登場に俺は動揺を隠さずにはいられなかった。

 

 


 

(次回予告)

 

 「お前は誰だ?」

 

 「意外と鋭いのね」

 

 「貴女は私が情報の結合解除したはず。何故」

 

 突如、現れた思わぬ人物涼宮ハルヒの登場により俺は動揺を隠せなかった。

だが、彼女の登場により事態は急展開を迎える事になる。

 

「次回、涼宮ハルヒの憂鬱 「偽りの世界」 見なきゃ死刑なんだから!」

「おいハルヒ、タイトル間違って…」

「うるさい!あんたねぇ…いっつも細かすぎんのよ」

「だが作品ちが…、っていってえな!なにしやがる!」

「うるさいうるさい!あんたはもう少しは控えてなさい。只でさえあたしの出番少ないんだから!」

「どっちが細かいんだか…、はぁ…まったく。やれやれだ」

 

 

 

 

 ちょっと変わった事やってみました by作者

 

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