カッチ コッチ
今日は1月1日、いやすでに時計の短い針が右に傾いてるから、もう1月2日だね。
ハルにゃん達SOS団の冬合宿最終日。
「そろそろかな。」
ガラガラガラガラ
「う~、さぶさぶっ。さすがに真冬の夜中の寒さは堪えるっさ。」
そんなことを言いながらあたしは自分の部屋を抜け出した。
これは冬合宿が始まってから―と言っても3日間だけど―のあたしの日課になのさっ。
あたしは昨日や一昨日のように目的の場所へと足音を立てないよう静かに向かう。
これは部屋の中で寝てる人を起こさないようの配慮でもあるけど…、
「いた、いたっ。」
目的地には先客が一人いた。いや、と言うよりここで何かしているのはその先客さんだけで、
あたしはその人物目当てで毎晩通っているだけどね。
そしてこれまた昨日や一昨日のようにあたしは物陰からその人物を眺めている。
“先客”とか”その人物”何か回りくどいなあ、すっぱり、はっきり言っちゃおっと。
そう、あたしの視線の先にいるのは星空を見上げているSOS団副団長古泉一樹くんなのさっ。
ただ、今あたしが見てる古泉くんは、あたしやキョンくんやハルにゃんと一緒にいるときとは
表情や雰囲気がちょっと違う。表情はいつもより少し柔らかくて、雰囲気のほうは、
上手くは言えないけど、なんか見えない仮面を外してる、みたいな感じ。あはは、
訳わかんないよね。まあそれくらい微妙で抽象的な変化ってことっ。
とりあえず、いつもと違う―と言うかこっちが素なのかな?―古泉くんはすっごくかっこいい。
そーゆー訳で―どんな訳だろ?―あたしは星空を見上げる何時もと違う古泉くんを見るために
合宿初日の夜以来ここにきているのさっ。何か同じようなこと2度説明したような気がするけど
気にしない気にしない。あっ、こっそりと音を立てないようにしてたのは
あたしがいるのに気がついて今の表情を引っ込めちゃうんじゃないか、と思ったからね。
彼を眺め初めて5、6分くらいたったときかな。
いくら防寒着として半纏を羽織っているといっても流石に3日間連続で寒空の下にいたのが
体に堪えたらしく、この3日間で初めて物音を立ててしまった。
「くしゅん。」
まずっ。
古泉くんはすぐにこっちに振り返った。
「何方ですか?」
どどど、どうしよう。逃げ出すのは不自然だよね、じじじゃあ大人しく出て行くしかないよね?
「やあ。」
「おや、鶴屋さんでしたか。どうしてここに?」
「いや~、なかなか寝付けなくってさっ!それで眠くなるまで星でも見ようかな~って。」
よかった、急なことだったけど何時もどうりに話せてる。でも古泉くんは何時もの雰囲気に
戻っちゃったなあ、ちょっと残念。あっ、別に何時もの古泉くんがよくないってことは
ないんだよっ。でもさ、もうちょっとあの古泉くんを見ていたかっただけ。
「そうですか。ここの星空は本当に綺麗ですもんね。」
「だよね、だよねっ!あたしも初めて見たときはすっごく感動したよっ。」
あれっ、古泉くんが微笑みながらあたしを注視してる。何だろ?
「上着をお貸ししましょうか?」
あっ、そ~いうことか。すっごく嬉しい提案だけど、そんなことしたら古泉くんが
風引いちゃうよねっ。
「え?いいって、いいって。半纏の保温性をなめちゃいけないよっ。すっごく暖かいんだからっ。」
古泉くんはまだ納得してないようだった。う~ん、どうしよっかな。あっ、
いいこと思いついたっ!
「それにさっ…、」
「?」
「こうしたほうがもっと暖かいにょろ!」
ガバッ
そういうが早いかあたしは古泉くんに正面から抱きついた。
「えっ?」
古泉くんの声はかなり上擦っていた。あはは、奇襲成功っ!
「つつ、鶴屋さん?」
「ねっ、暖かいっしょ。」
「…ええ、まあ。」
人肌ってかなり暖かいからこうするともう寒くなんてなかった。まあ、暖かいのは
それだけが原因じゃないけどね。
どれくらい時間がたったんだろう?時間間隔が麻痺しちゃっててよくわかんないけど、
多分2分くらいたったんだと思う。
「あ…、暖かいですね。」
「うん。」
「ですが…。」
「?」
何だろう。
「ひゃっ。」
「…こうしたほうがもっと暖かいですよね?」
そう言いながら古泉くんはあたしの背中へとゆっくりとそして優しく抱きしめ返してくれた。
「うん。」
初夢はまだ見てないけど、今年もいい年になるような気がした。
Fin