出張メイドカウンセリング。
おそらく似たようなシステムでひどくいかがわしい商売に俺は心当たりがあったのだが、
そこは一応ハルヒに尋ねてみた。

 

「そりゃあ読んで字のごとく、よ。自分が作り出しちゃった重荷に絶え切れずに、へばっちゃった人たち。そうした人たちのところにこっちから出向いて、悩みを解決しましょう、って言うサービスね。」

 

「今の日本経済の低調は、どこかの大国の経済の不調が原因でも、新興国の勃興でも、制度の疲弊でもないわ。ズバリ競争力の低下よ。そしてそれを招いたのは、なんと言ってもインターネットの普及によって、少なからぬ人が心にどろどろした澱、怒りと不信感を抱えてしまったせいよ。」

 

団長席の机に仁王立ちになり、腰に手を当てて演説を始めるハルヒ。

 

「だから今、私たちがそういうおじけづいた連中の尻をひっぱたいてやりましょうってわけよ。それも、こっちからわざわざかわいいメイドが出向いてね。そして私たちは、立ち直った人たちから正当な対価を頂きましょうっていう事。人よし我よし世間よしのこの計画、成功間違いなしよ!」

 

相変らずの自信100%の満面の笑みで、人差し指を突きつける。
聞いた限りでは絵空事だが、しかしこいつの話はいつだって絵空事だ。

 

『しかし、お前カウンセリングの心得なんてあるのか?そんな一筋縄ではいかないような引きこもりたちを、首尾よく立ち直らせる目算でもあるのか?』

 

ハルヒは俺の事をはす目でちらりと見つめると、鼻で笑いながら言った。

 

「あのね、やれうつ病だ、やれひきこもりだなんていっても、主たる原因はつまりネット依存症なのよ。だからとりうる手段はズバリ一つ、」

 

ハルヒが、胸の前で拳を下から突き上げる。

 

「一に鉄拳二に鉄拳、三、四がなくて、五に拳よ!目の前でPCと携帯を叩き壊して、頬の2、3発も引っ叩いてやれば、怖気づいた心にも喝が入るってものよ!」

 

電話一発、メイド姿の女子高生が飛んできて、家財道具を破壊した挙句に住人を叩きのめしてゆく、そんな事がまかり通る世間になれば、それはおちおち家に引っ込んでもいられないかもしれない。

 

腰の入ったフォームで拳を振るうハルヒとは対照的に、当のメイド姿の張本人である朝比奈さんは、手を胸の前に抱えて体を固くし、恐慌状態に陥っている。

 

「そ、それは、わたしもするんですかぁ?」

 

ハルヒはふと朝比奈さんを見つめ、今気付いたかのように手を打って言った。

 

「そういえばみくるちゃんがいたか。そうねえ、じゃあみくるちゃんは適当な鈍器でも持っていけばいいわ。ストッキングに100円玉をいっぱい詰めたのなんかいいんじゃない?有希かキョン、ちょっとコンビニ行って、1万円札崩してきなさい。」

 

黙って席を立つ長門に、「ひいい」とばかりに更に恐慌状態をエスカレートさせる朝比奈さん。
これはいかん、そう思った矢先に、今まで沈黙を守ってきた古泉が挙手をした。

 

「ちょっと、よろしいですか。」

 

ハルヒはそう言えば古泉君がいたわね、と言って長門を手で制し、発言を促した。

 

「お三方の案ですが、それぞれ興味深く拝聴しました。そこで僕の案なのですが、」

「ちょっと涼宮さんの案と重なるんですが、メイドマッサージ店経営を挙げさせて頂きたいと思います。」

 

挙手を下げつつ立ち上がった古泉は、立て板に水の如く説明を始めた。

 

「まあ、いま都会の方で少し流行ってる商売で、読んでそのままメイドの格好をした人が客に時間あたりいくらのマッサージをするサービスなんですが、これがまあなんと言うか今そこそこの人気を得ているようなんですね。」

「そしてこれがこの案の急所なんですが、どうもこのマッサージと言う商売、行うに当たって、特に何か資格のような物が必要ではないようなんですね。はっきり言ってしまうと、別に昨日アルバイトで始めたばかりの高校生がマッサージをしてしまった所で何ら問題は無いようで、実のところ実際にそうした店も存在するんです。まあ、個人的な意見では早晩問題視されるとは思うんですが、それまでの束の間、われわれがこの商売に打って出てみるのも、そうつまらないではないアイディアでもなかろう、と思って発案した次第です。」

 

ちょっと目を離した隙に、世の中際どい商売がはびこってるもんだな。しかし古泉、マッサージをするのは高校生で問題なくても、店の代表者や、店を開く場所を借りる為の名義なんかはもちろん俺達じゃだめだろう。

 

「ええ、そのことなんですが、「たまたま」僕の知り合いの貸しビルオーナーが、今まで間借りしていた小間物屋が店じまいするとかでビルの1フロアが開くそうなんですね。そこで部屋をあそばせておくのもなんだし、次の店子が決まるまでの間、何かちょっとした商売でもはじめるなら、部屋を格安で提供してくれて、商売の名義人にもなってくれる、と言う話なんです。」


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