それは、一人暮らしを始めて最初の夏の話なんだけどな。

  

 
まぁ、あれだよ。よくある男の一人暮らしって、大体想像つくだろ?
それに大学生だしな。金ないし、部屋は汚いし、料理なんてここ最近ロクなモン食べてないし。
とまぁ、そのへんは置いといてだな。
でだ。
大学生の夏休みはちょっとばっかり長いんだよな、期間にしたらニヶ月くらいか?
どうやって過ごすか決めかねていたんだ。
ちょうど期末試験が終わって一息ついた頃合に電話が鳴ったんだよ。
お袋からだったよ、用件を簡潔に言えば、
「じーちゃんが危篤だから、すぐ帰ってこい」
ってな具合だった。
小さい頃、じーちゃんには色々良くして貰ったしな、すぐに荷物まとめてアパートを飛び出したんだよ。

 

 
でもな。
実はこの時既に、事態は深刻な状況を迎えつつあったんだ。

 

 

◇ ◇ あのスイッチを切るのはあなた ◇ ◇

 

 
新幹線に飛び乗って田舎に帰ると、じーちゃんは既に息を引き取っていた。
死に目に会えなかったのは残念だったけどさ、一足先に帰省していた親父の口から、
「じーちゃんは、お前が孫で良かったと言っていたぞ」
と、聞いたときは胸が熱くなった。
安らかな顔で眠るじーちゃん、大往生だった。
妹と一緒にじーちゃんに向かって手を合わせた。妹はずっと泣いていた。
俺は妹の背中を擦りながら、この部屋でじーちゃんと一緒にスイカを食べた事を思い出した。
思い出は、塩の味がした。

 

それからしばらくして親父は仕事があるから地元に戻った。
お袋と妹は盆が終わるまで居たけど、親父一人では生活が心配だろうという事で帰る事になったんだ。
「俺、夏休みの間。ここに残るよ」
お袋も、妹も反対しなかった。
せめてもの恩返しがしたいと思って、畑仕事やばあちゃんの世話、ヘタクソなりに料理の手伝いもした。
振り返るとじーちゃんが居る気がして、悲しくもなったりしたが。ばあちゃんは元気だった。
こんなに長い間田舎に居たのは初めての事だった。

ゴールデンウイークには親戚一同集まったりするし、盆も正月も来ているのだが。新鮮と言うか、不思議な感覚だった。
例えば畑で取れるキュウリやトマトがとても美味しく感じられた、魂に響く味だった。

 

今住んでいる都会に比べれば何も無い場所だからさ。
暇を潰せるゲームセンターもなければ、高校生がタムロするようなコンビニエンスストアの灯火も無いんだよな。
あるのは田んぼか、点在する民家くらい。あとは山、川、池。記憶という道筋を辿るが如く、俺は足を進めた。
小さい頃じーちゃんに連れて行ってもらった川は、来年ゴルフ場の建設が予定されているらしく立ち入り禁止の看板が立てられていた。
こんな所まで開発しなくてもいいのに。
ひぐらしの鳴き声が聞こえる。
ヒヤリと、背中が寒くなった。

 

釣竿を持ってはしゃぐ子供達の背中に、小さい頃の自分を見た気がした。
あの頃、俺はあんな風に笑えていたのだろうか? そして今は、どうだろうか?
何かと理由をつけては自分の殻に閉じこもっている気がする。
大学に入れば何かが変わると思っていたが、押し付けられた自由の中で生きるのは案外辛いものだった。
ハルヒと出会って「そんな気分」を味わう事は皆無になっていたのだが。
結局、いつの間にかまた「そんな気分」に支配されている俺が居た。
フワリと風が吹いて木々が声をあげる。その声が何を告げているのか。
きっと、それは。

 

 

「ありがとね、キョンくん。夏の間、大助かりだったよ」
「これくらい何でもないって」
「あの人もきっと喜んでるよ」
「ばあちゃん」
「何だい?」
「長生き、しなよ」
「はっは、せいぜい長生きするさね」

 

ばあちゃんに別れを告げて、一度家に帰った。アパートへはもう少し後で帰ることにした。
妹はもう学校が始まったらしい。そういえば大学は十月から始まるんだったな。
それまでは家に居よう。
ハルヒに会うのもいいかもしれない、長門のマンションにも行ってみよう。
朝比奈さんには会えるかわからないが、古泉にも会ってやってもいいかもしれない。

 

九月の中頃といえどもまだまだ暑く、熱帯夜が続いた。

クーラーをつけると、ひんやりとした空気が部屋を包む。
久しぶりの自分の部屋は、懐かしい匂いがした。
アパートに帰ったら、最初に掃除をしよう。
それから、料理を覚えて。
ちゃんと、洗濯もしよう。

 

それから、荷物を纏めてアパートへ向かった。
どうしてだろう。足を進める度に嫌な予感が高まっていく。
こういうのをシックスセンスと言うのだろうか?
何か、忘れている気がする。
しかも、結構重要な事かもしれない。
何だ?

 

アパートが見えてきた。
嫌な予感は治まらない。
何か。
何か大事な事を忘れている気がする。
とても、くだらない。とても、重要な何かを。
答えは、割とアッサリと見つかった。
それは、絶望と共に……。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

「ねえ、キョン」
「何だよ」
「あたしね、その話のオチが読めたわ」
「……、まあ。これだけ引っ張ればな」

 

 
「ったく」
「……、今回もボツか?」
「そうね、でもいいんじゃない? これオリジナルなんでしょ?」
「いや……、実は結構前に『なる○モ』で見たヤツを参考にだな……」
「あ~、だから見覚えあると思ったんだわ、きっと」
「お前も見てるのか?」
「当たり前じゃない、基本よ。キ・ホ・ン」

 

 
「……ねえ」
「何だよ」
「あのね、キョン」
「?」
「あの……その、ね」
「ん?」

 

 
「あたしが居たら、ちゃんと気づいてあげれたと思うの」
「気づく? 何に?」
「だから、ね」
「?」
「も~! バカキョン!」
「へ? あ? 何だよ。痛い、痛いって! わかった、わかったから」 
「何よ! 何がわかったのよ! 言ってみなさいよ!」

 

 
「ハルヒがクーラーのスイッチを切ってくれるんだろ?」
「……」
「違うのか?」
「あんた、鈍いんだか鋭いんだかどっちかにしなさいよね」

 

 

 

  おわり。


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