冬はつとめてとは昔の物書きの言ではあるが、全く賛成する気が起きない。俺は寒いのは嫌いであるし、早朝はもっと嫌いだ。しかし、一個人たる俺の思いが地球の傾きに働きかけるはずもなく、冬はやってきて、当たり前のように朝がやってきた。
 そんなわけで表情も暗く、ハイキングコース的通学路を登っていると、
「よっ、キョン」
 と、空気よりも軽い調子で俺の肩を叩く男がいた。振り返かえるのもおっくうなので、前を向いたまま返答する。
「よお、谷口」
 谷口は俺の前に出ると、くるりと反転して器用にバック歩行をしてみせた。口から白いを噴出して妙な歩き方をする様は、どっかの妖怪のようだ。
「何浮かない顔してんだ? 中間も終ったってのに。だいたい、お前は涼宮といちゃいちゃするついでに勉強してたじゃねえか」
 言い方に語弊はあるが、妖怪後ろ歩きの言うことはもっともである。ハルヒの熱血指導のおかげでこいつと仲良くデッドラインすれすれをタンデム飛行していた時期に比べれば、俺の偏差値は十の位を一つ増やしている。
 それにしても、こいつはもう少し将来のことを心配した方がいいんじゃないか、と余計な心配をする余裕まであるのだから大したものだ。
「そんなもんは来年になって考えればいい。それより、今年の文化祭こそは他校の女子をナンパしてやる」
 間近に控えた文化祭に闘志を燃やすのは勝手だが、どうせ成功率は我が家のシャミセンがせしめた獲物を俺に分け与えるよりも低いだろう。
 
「うるせえ。行動しなきゃ、なんにも起きねえんだよ」
 一瞬すこぶる哲学的なことを言われたような気もしたが、当たり前のことである。因果応報、撒かぬ種は生えぬだ。
「成功しても、お前にだけは紹介してやんねえからな。二三年の綺麗どころ総取りしやがって」
 谷口が捨て台詞とともに白い息を吐き出したところで、何の前触れもなく水の結晶が舞い落ちてきた。はらはらと頼りなく揺れていた一つがそっと出した手のひらに乗る。
 
 じんわりと溶けていく粉雪よりも儚いものがあろうとは知らず、俺は初雪に思いを馳せていた。


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