いつもより長びいた不思議探索の帰り。もうとっくに日が暮れていた。
時計の太い針は真下をとうに過ぎていて、テレビ的にはゴールデンタイムと呼ばれる時間だ。
今日も暑かった。7月の中旬で暑いのも当然なのだが少しはお天道様も遠慮をしてもらいたい

薄暗い街灯が灯るいつもの公園を通った俺は道の真ん中に黒光りする何かが落ちているのが見えた。
近くに寄るまで何が落ちてるかわからなかった。近くによるとそれはピストルの形をしていた。
ピストルの形をしているそれ(以下ピストル)は落ちていると言うより置いてあり、
銃身を横にしてはいなく、俺と進む向きを向いて立っていた。怪しすぎる。

 

 

俺は無論、素通りした。怪しいそうなことには首を突っ込まない性分なんでね。
大体、そういうのに首を突っ込もうとする奴はバカかハルヒであってだな・・・ブツブツ

公園を出る頃にはすっかり俺はピストルの事など頭に無かった。
信号が赤から青に変わるのを待ちながら。俺は今日の夕飯を予想していた。
今朝、冷蔵庫には人参、玉ねぎ、じゃがいも、お肉ぐらいしかなかった。
この材料からして今日の晩飯はカレーになることは明確で・・・ええええッ!

 

 

人目も気にせず叫んだ俺は周りからおもいっきり冷たい目で見られた。
俺よりも絶対にあやしいピストルはさっきとおなじように横断歩道の反対側に不自然に立っていた。同じ日にあんな意味不明なピストルとめぐりあう確率は何パーセントだ?
1%ぐらいあるか。   否!ありえん。断じてありえん
しかも何で人が繁盛に歩いているこの大通りをあの状態で立ってられるんだ。
意思のあるなしはともかく誰かが絶対に蹴飛ばすだろう普通。


俺は横断歩道は渡らず回り道して家に帰ることにした。
俺は走った。ピストルはもともと物騒で恐ろしいものだが、
あそこまでに戦慄を感じるピストルはそうそうない。
アレは絶対に危ない。俺はまたピストルとめぐりあう予感がしてやまなかった。
夢中で走っていたので途中でがらの悪い高校生にぶつかってしまった。

「痛ッ・・・おいコラ!」

怖くない。僕は怖くない!
あのピストルに比べればお前なんか弾のないピストルとおなじくらい怖くない。
いやあのピストルは弾が無くても怖いがな

 

 

夢中で家に駆け込むことが出来た俺は一安心した。
たかなる胸をおさえて俺はいつもの倍以上にリズムを刻む鼓動を落ち着かせる。

「キョン君、どうしたのー?」

妹よ。お兄ちゃんは幾度となく襲い掛かる非日常にという名の波に流されるままだったが、
ようやく1つ非日常から逃げ切ることができたのだ。誉めよ称えよ
大体俺はもう非日常は結構だ。
俺に向かってくるぐらいならもっと日常に退屈してる奴のところに行けばいいのだ・・・ああああ!

 

 

OH!誰ですか?俺の机の上にそんな物騒なものを置くのは。
俺の小汚い机の上には鈍く光るピストルが置いてあった。案の定、立っていた。
なんでそんなに持ちやすい向きになってるんですか?
俺は持ちませんよ。
たとえ今、この瞬間に強盗がはいってきても俺はお前なんか絶対使ってやらないんだからね!

 


とりあえず俺は机をガタガタ揺らして、忌々しいピストルを倒した。
触れるのも嫌だった俺はいっそ机ごと運び出して粗大ゴミに出してやろうかとも考えた。
・・・いやまてよ。これはドッキリなんじゃないか?
それで俺が机を捨てたりしたら、首謀者のおもうがままじゃないか。
くそ。誰だ首謀者は。通報するぞ。一体、俺になんの恨みがあるんだ。
美少女3人と(一応、ハルヒも加えといてやる)いつも一緒にいるからか?
はたまた俺と古泉がデキてると勘違いした妄想女子の仕業か?
ふざけんな。嫉妬にも妄想にも悪戯にも程があるぞ。

ドッキリとわかったからにはこのヤケにリアルな小道具を捨てるまでだ。
いや捨てる前に叩き割ってやる。再びこんなドッキリが起こるのを防ぐためにも。ん?

 

 

WHY?ナンデマタタッテルンデスカ?
さっきあるべき状態に戻したピストルが再び起立していた。

俺はすっかり腰が抜けてしまっていた。
逃げる事も叫ぶことも出来なかった。
俺はとっさに古泉に電話をかけ、この数時間のことを話した。


「それは少なからず異常な事態ですね。あなたが恐れるのも頷けます。
 残念ながら今回僕らはそのようなサプライズを・・・いやドッキリといったほうが分かりやすいでしょうか。
 とにかくそのような企画はしていません」
「お、俺はどうすればいいんだ?」
「今すぐ僕らが行きましょう。いいですか?絶対に触らないでくださいね?」
「お、おう。待ってるからすぐ来てくれ」
「おや、ちょっと待ってくださいね。・・・申し訳ない今日は行けそうにないです。
 閉鎖空間が発生しました。少々大きな規模のが」
「なっ・・・!じゃあ俺はどうすればいいんだ!」
「落ち着いてください。僕の根拠もない予想ですがその銃は触らなければ大丈夫だと思います」
「触らなければって・・・」
「あなたは明日、学校にこのピストルをもってきてください。触らないようにです」
「俺にこの気味の悪いピストルと夜を明かせってのか?」
「我慢してください。あなたは僕の仕事がどんなものか充分、理解しているはずです」
「だがなぁ・・・」
「とにかく。あした持ってきてください。絶対、触らないようにですよ?では・・・」

古泉は急ぐように電話を切った。

 

長門にも電話しようかと思ったが、いつのまにかもう11時になっていたから電話はやめて寝ることにした。
早く眠りに着いて明日になって欲しいからな。
俺は机をできるだけベッドから遠ざけてから、布団を頭までかぶった。暑いが、怖いからしょうがない。
ホラーを見ると眠れなくなるってのは、あながち嘘ではないようだ。
ホラー的な体験をした俺は朝まで一睡も出来なかった。

 

 

登校中は笑われたり変な人を見る目で散々見られたが、気にならなかった。
だって今の俺の姿は誰から見ても滑稽なものだもんな。
木片の上に立ったピストルを置いてそれを持って歩いてるのが滑稽ではないといったら、一体何が滑稽なのか。

「古泉!」
「こんにちは。なにか異変はありましたか?」
「いや。全然眠れなかったけどな」
「それは僕もですよ。かなり長引きましてね」
「それは大変だったな。ハルヒは今度は何に不満だったのかね」
「僕にもわかりません。昨日は涼宮さんいつも通り元気だったように見えたので」
「同感だ。それは置いといてピストルの事なんだが・・・」
「放課後に部室で話し合いましょう。話し合いの間は涼宮さんは生徒会長に呼び出してもらいましょう」

 


古泉にピストルを預けた俺は教室に入り席についた。
そのとたんどっと眠気に襲われた。
ハルヒがシャーペンの先で背中をチクチクしてくる。

「あいかわらず冴えない顔してるわね」
「ほっとけ」
「ふん、眠くても部活には来なさいよ」

ハルヒは不機嫌そうだった。話し合いが終わるまで閉鎖空間はつくらないでくれよな

 

 

 

4人はピストルを囲むんで座った。
対怪しいピストル会議だ(ハルヒ抜き)。

「まずこのピストルの正体がわかるひとはいますか?」

「今は正体不明。情報統合思念体に調査の依頼をした。正体の判明ができ次第報告する」
「さすがですね。よろしくお願いします」
「わ、わたしはわかりません・・・。」
 朝比奈さんは申し訳なさそうに下を向いた。
「ではこの件についてはひとまず保留ということで。ピストルは機関が保管しておきます」
「おう。まかせたぞ」
俺はひとまず安心した。今日はあのおぞましいピストルと同じ部屋で寝るなんてことはn

 

バタン!

 

急にドアが開いたかと思えばハルヒが入ってきやがった!
朝比奈さんが、ひぇっと小さな悲鳴をあげた。
古泉がなんとかいつもの表情を維持しながらピストルを隠そうとする。
「あー!あのいしあたま生徒会長に意味のわからない説教されたわ。
めんどくさいから途中で抜けだしてきてやったわ」
「そ、そうか。それは大変だったな。ハルヒ」
そうよ。あんなやつやめてしまえばいいのよ・・・ん?古泉君なにそれ」
まずい。気づかれた

 

「ああ、それか!エアーガンだ。登校中に拾ってな・・・」
「エアーガン?懐かしいわねー、昔よく遊んだわ。ちょっと貸して」
「いや、だめだ。垢がつく・・・じゃなくて。とにかくダメだ」
「なによ。貸しなさい!古泉君、団長命令よ。貸しなさい」
「す、涼宮さん、聞いてください。このピストルは少々レアなものでしてね。
 今、オークションにだそうと話し合ってたんですよ。」
古泉がまだなんとかいつもの表情を保ちながらデタラメを言った。さすがだ
「何よそれ。そんなに値の張るお宝だったの?
 いいわね!みんなで売って部費にしましょう!・・・て、アレ?何アレ」
ハルヒが窓の方を見て口をポカーンと開けている。
なんだ?ハルヒ以外の全員が窓の方を向くと・・・やられた。

 

「すきあり!」

 

ハルヒがピストルをつかんでしまった。

 

 

 

「なにこれっ!結構よくできてるじゃない!」
ハルヒはピストルをSOS団1人ずつに向けて、
撃つまねをする。
「ドキューン!ドキューン!」
すっかり触れた瞬間に何かが起こると思っていた俺は拍子抜けしていた。
俺達の杞憂だったのか?ん?

ハルヒがピストルを自分の頭に向けている。
「おい、ハルヒ。何してる」
「か、体が勝手に・・・」
4人でハルヒからピストルを奪おうとしたその時。

 

バン!

 

耳をつんざくような音に目を塞ぎ開けた時には遅かった。
ハルヒは自分の頭を撃ちぬいた。
カチューシャが落ちるのとハルヒが倒れるのが同時だった。

「ハ、ハルヒ!」

俺は絶望した。

 

 


朝比奈さんが悲鳴をあげている。
長門がハルヒに近寄って何かを唱えている。
古泉が救急車を呼んでいる。

俺は何も出来ずに赤く染まったハルヒを見つめている。

「ハルヒ・・・?」

うわぁあああああッ

俺は叫んだ。叫ぶ事しか出来なかった。
俺はハルヒのそばにかけより、ただ名前を呼びつづけた。
ハルヒ・・・ハルヒ・・・なぁ、起きてくれよ。
団長が居なくなったら、SOS団はどうするんだよ。
おい・・・頼むから起きてくれよ・・・!

ハルヒはすぐに来た救急車に乗せられて緊急治療室に運ばれた。
執刀医はハルヒの状態を見ると、これはダメだ。とつぶやいた。
俺はそいつの胸倉を掴み怒鳴り飛ばした。
古泉に止められなかったら、そいつを殴っていただろう。
落ち着いた俺は執刀医に土下座して頼んだ。
「・・・助けてください」
執刀医はしばらく俺の顔を見つめたあとに無言で頷いて手術室に入っていった。

 

 

俺は病院の待合室で手術中の誰かを待つなんて事は始めてだった。
ドラマなんかで落ち着きなく動き回ってたり、泣きつづけていたりしてるのを見て
俺はそんなに落ち着かないものかとかいくぐっていた。
俺はとうに落ち着くことを忘れていた。
ハルヒが運ばれてきてから2時間経つが、
その間に口を開く者は皆無だった。
聞こえる音はエアコンか換気扇かなんかの音と
朝比奈さんの嗚咽だけだった。
古泉は難しい顔で頭を抱えている。
長門は手術室の扉の前でずっと何かを唱えている。
最初は長門も手術室に入ろうとしたが、
当然、病院関係者に止められた。
俺は長門に情報操作でもなんでもしていいから、
手術室に入り、ハルヒを助けてくれといったが、
「人間の医療にかんしては彼らのほうが私より技術がある。
 部屋の外からでも情報操作はできる。
 ただ、そとで待ってるのが嫌だっただけ。
 わたしは部屋の外から彼らの手助けをする」
と言われた。長門の目は本気でハルヒを助けようという決意が見られた。

 

 

俺は頭がふわふわしていて今にも倒れそうだった。
勉強をしすぎたときの感覚に似ていた。

俺のせいだと思った。

もし俺がピストルと出会わなかったなら。
もし俺がピストルのことを誰にも話さなかったなら。
もし俺が学校にピストルを持ってこなかったなら。
もし俺がピストルに触れていたなら・・・。

どう考えても俺の行動がハルヒをこんな目にあわせている気がしてやまなかった。

「あなたは自分に責任があると思っているのかもしれません」
古泉が急に口を開いた。
「あなたに責任があるのなら、ピストルを持ってくるように指示した僕にも責任はあります。
 それが違うとは言えません。でも、今はそんな事を考えるべきではありません」
古泉は顔をあげると噛み締めるように言った。
「涼宮さんの生還を祈るのです」

 

 

俺はさっきから何かしなきゃいけない大事な事をし忘れているような気がした。
その焦りにも似た感覚の正体がその時の俺にはわからなかった。

 

 

手術室から執刀医が出てきたのは既に夜の11時をまわった頃だった。
SOS団とハルヒの両親が執刀医にかけよる。
彼は顔を歪めて言いにくそうに言った。
「最善をつくしましたが、時間の問題です。
 今から病室に彼女を移します」

俺たちはハルヒを囲んだ。
包帯で頭をぐるぐる巻きにされたハルヒは
顔面蒼白でもう死んでいるようにも見えた。
当然意識はない。おふくろさんが泣き叫んでいる。
親父さんは静かに震えていた。

俺はハルヒのそばによると顔に触れた。冷たかった。
触れた瞬間にいつもの元気なハルヒの姿が走馬灯のように頭に浮かんだ。
俺はそのギャップに嘆き悲しんだ。ひまわりは枯れかけていた。

 

 

――――俺はやっとさっきから感じていた気持ちの正体に気がついた。

目から涙がこぼれる。
「ハルヒぃ・・・俺、お前に伝えたい事があるんだ。
 よく聞いてくれ」
ハルヒに応答はない。
「俺、やっと気づいたよ・・・。俺はハルヒが好きなんだ
 本当に最期の最期にになっちまってすまねぇなぁ・・・
 ずっと一緒にいたかったなぁ・・・」
俺は流れる涙をぬぐうこともせずにハルヒの顔に触れた。
「ハルヒ、愛してるぞ」

―――ハルヒ・・・返事は聞けなかったが、気持ちを伝えられて良かったぜ・・・。
   次に会う時は返事を聞かせてくれよな。ハルヒ

 

 

 

 

 

ハルヒはゆっくりと・・・ゆっくりと目を開けた。


結果から言おう、ハルヒは生還した。
しかも目を開けた瞬間にハルヒの傷が跡形もなくなくなっていたのだから驚きだ。
機関の病院でなかったら、大騒ぎになってただろうな。

次の日。ハルヒの病院に御見舞いに行く途中で長門とばったり会った。

「で、正体がわかったのか?」
長門はコクリと頷き、真実を告げた。
「名前はまだ決められてない。宇宙に存在するウイルスのようなもの」
「阪中ん家の犬に憑依したウイルスみたいなものか?」
「そう。ただし今回のウイルスは人を死に至らしめることの出来るもの、
 いわゆる武器に憑依するのが特徴」
「今回はピストルに憑依したってワケか」
「そう。ウイルスが憑依した武器に触れたものは自殺行動をとる」
「随分、タチのわるいウイルスだったんだな」
「ウイルスにはもう1つ特徴がある。それは大切な人の存在に気づいてない人に発見され、
 その大切な人が必ず最初に触れるようになっていること」
「ほう」
「既にウイルスに対する対策は解明されてる。それは・・・」
「それは?」
「大切な人の存在に気がつくこと」

 

 

つまりこういうことだ。俺が自分の気持ちに気がつくことが出来た事でハルヒが生還することが出来た。素敵な話じゃないか
ハルヒは意識を失ってたから俺の気持ちは伝わらなかったが、またの機会にでもするさ。近いうちにな

 

ハルヒの病室に入ると、既に朝比奈さんと古泉がいた。
「遅いわよ。キョン!」
「わかったから、あんまりさわぐな」
他の患者さんに迷惑だろが。
「ほら、プリン」
「またプリン?!なんでみんなプリンばっかなのよ!」
「あ、いらないんだな。○○のプリンだぞ」
「あ、いるいる!」
はぁー、まったく。本当に昨日死にかけたやつか?
患者さんは患者さんっぽくあるべきであってだな・・・ん?何アホ面してやがる
「食べさせて」
「は?何、言ってやがる」
「もういい」
「・・・わかったよ。ほら」
「あーん」
ハルヒは俺が顔をよせたとたん無理やりキスしてきやがった。
「何しやがる!」
「いいでしょ、別に。ずっと一緒にいたいんでしょ?」
「な、お前・・・」
「みくるちゃんに聞いたわよ」
「キョン君、ごめんなさぁい」
「しょうがないから、ずっと一緒に居てあげるわ!

 

FIN

 

 

 


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