注意 この話は死ネタです。欝展開にならないようにしたつもりではありますが、こ

    のようなネタが苦手、嫌悪する方は、お読みにならないよう 気をつけて下さ

    い。                                           

    色々とつっこみどころがあるかもしれませんが、ご容赦願います。      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  黄昏が少しずつ勢力を弱め、辺りは宵に染まり始める。それでもまだ猛暑は引くそぶりも無く、今夜もどうやら熱帯夜になるようだ。水の近い河原というのに、絶えず汗が滲み出してくる。

  空は今日も嫌味なくらい爽快な快晴だった。日中は容赦なく俺たちに熱と光を注いでくれたあの太陽が沈みきれば、街中とはいえ、それなりに星が見えるだろう。

 

    

  そうして、今日が終わっていくのだ。

 

 

 

 

  「いやぁ、最近の花火は凄いですねぇ」

  赤、青、緑。それから金やら白やら。刻一刻と変化する光に照らされた顔は、や

っぱりムカつくほどに整った男前だった。俺は何も返さず、ただ古泉の隣に同じように座り込んで無言で花火を見ていた。しゅるしゅると打ちあがった光は、パラパラと四方に飛び散っていく。 

  軽い爆発音の合間に、ハルヒの「たまや~!!」なんていう掛け声が聞こえてくる。おいおい、こんな市販のロケット花火に言われていると知ったら、語源となった玉屋市兵衛氏が泣くぞ。

 

 「ほわ~・・・。この時代の火薬玩具は原始的ですが、とても綺麗です。」

夏らしいまとめ髪で、男心をグッと揺すぶる朝比奈さんが、大きな目で火花の軌跡を追っている。花火初体験だった孤島での、恐々と借りてきたウサギのように震えていたお姿も大変可愛らしかったが、こうやって素直に見とれている姿も、また別格です。

 「・・・・とても綺麗な風習だと思います」

ね、と1つ上の先輩には見えない愛らしい顔が大人の笑みを浮かべる。その笑顔こそが本当に綺麗だと俺は思いますよ。

 「みくるちゃーん、次みくるちゃんが点火係ね。」

 「ふ、ふえぇぇぇぇ!?む、無理です!」

 「何言ってんの、この導火線に火点けてすぐ下がればいいだけじゃない!」

ほらほら、とマッチを押し付けて及び腰をガッチリホールドしたハルヒは、花火を設置した場所へと朝比奈さんを連行していく。あぁ、朝比奈さん、なかなか火が点かない場合でも覗き込んじゃ駄目ですよ、と去年の経験を元に一応アドバイスを伝えておいた。

  孤島での海岸でやった花火の思い出は、部室に写真で残っている。ねずみ花火を投げられて焦ったりもしたが、なんだかんだで楽しかった記憶しかないな。

 

 「爆発・燃焼反応に伴う光と音を楽しむという感覚は、とてもユニーク。」

手持ち花火10本同時持ち、なんて妹には決して見せられない見事な荒技を披露してくれた長門は、今はじっと朝比奈さん点火により発生した火花の束を、眺めていた。色とりどりの火花は、一瞬たりとも同じ形を留める事無く、色を変えて散っていく。

 「私もこの伝統慣習は好ましいものだと判断する。」

 「そうか、じゃあ来年もやろうな。」

もっとも団長様には1年後の事もとっくに既定事項だと思うけれど。 立っている長門は俺の顔を上から見つめること数秒、それからコクリと頷いた。

 出会ったときから変わらぬ無表情は、それでも花火の色を反射しているせいか、いつも以上に感情的に見えた。

 

 「ちょっと有希、この花火ぬいぐるみが降ってくるらしいわよ!誰が取れるか競争し

  ましょ!」

 「わかった。」

長門はスッと背を向けて、ハルヒの元へと向かう。ハルヒもだいぶはしゃいでるようだ。 

 コンビニでどっさり買い占めたはずの花火も、ハイスピードで消化されていく。来年は、もっと多めに仕入れておくべきかもしれないな。余らせるくらい買っても問題ないだろう。来年だけじゃない、その次の年も、その先も、俺たちはやっぱりこうやって花火をするんだろうからな。

 「それは光栄ですね。」

クッと笑みを深める気配が隣から伝わってきた。お前はなんだか裏がありそうな笑い方するよな。もっと屈託なく笑えと何度思ったか。

 そう忠告のように言ってやれば、これはもう癖のようなものですから、と難なくかわされてしまう。

 

 

 「涼宮さん達、元気そうですね。良かった。」

まぁ、確かに。ハルヒが元気すぎるというのは今更否定できんな。こんな熱帯夜にわざわざ外に出て花火に興じるくらい、活力が有り余っているんだろう。今まさに、ぬいぐるみ付きパラシュート花火であれだけ盛り上がっているんだ、夏バテとは一生縁のない人種に違いない。長門含めて。

 

 「んじゃラスト、100連発打ち上げで華々しく締めるわよーっ!!」

じゃじゃん、と1番ぶっとい筒の花火を手に、ハルヒは誇らしく宣言する。きちんと大物を残しておいたらしい。トリを飾るのに相応しい、連発の派手な花火のようだ。

 

 

 「おや、もう最後なんですね。いやぁ、楽しい時間は過ぎるのが早いものです。」 

ドン、ドン、と爆発音が連続的に響く。100発、と聞くと長そうに思えたが、こうテンポよく打ち上げられれば案外あっという間に終わってしまいそうだ。なんともなしに、頭上で炸裂する花火に数を、声には出さずに頭の中でカウントしていた。

 

 1、2、3、4。

 

 古泉が口を開く。

 「貴方は恋愛事では、超、がつく程の鈍感ですからね。それに関しては、朝比奈さ

 んに相談してください。きっと喜んでアドバイスして下さると思います。ですから貴方

 も、彼女が困っていたら、手を差し伸べてあげてくださいね。」

  

 あぁ、そのつもりだ。彼女はハルヒの良き理解者だからな。俺の知らないところでこっそり話を聞いてもらっているみたいだし。よい先輩をもったな、俺たちは。

 

 20、21、22、23。

 

 「長門さんの事は、常に気にかけてあげて下さい。去年の冬のようにエラーが溜ま

 ってしまわないように。彼女は知らず知らずのうちに無理をしてしまうでしょうから。 

 助けてあげて下さいね。」

 

 お前に言われんでもわかってるさ。俺は誓ったんだよ、あの時に。長門に頼りっぱなしでは駄目だと。無理をさせないよう、俺も出来る限り頑張ると。

 

 46、47、48、49。

 

 「今日はありがとうございました。楽しかったです、本当に・・・・。心から。」

 50を過ぎたところで、ふっと右肩に重みがかかった。頭を凭れてくる古泉は、もう花火を見ていない。本来ならば、寄るな、気色悪い、とでも言うのだろうが。俺はいつからこいつにここまで気を許したのかね・・・。

 

 69、70、71、72。

 

 「涼宮さんを頼みます。そしてお幸せに。彼女を守ってあげて下さい。なかなか素

 直になれない、勝気で元気な我らが愛すべき団長を。人一倍仲間思いの、優しい

 彼女を。大切になさってください。」

 

 勿論そのつもりだ。相変わらずの唯我独尊っぷりだが、それでも俺たちを引っ張って行ってくれる大切な団長様であり、俺の大事な人だ。お前とも約束しただろう、アイツを守ると。

 無駄に美声でやわらかく紡がれる古泉の言葉は、どこまでも穏やかに空気に溶けていく。

 俺はただ、花火だけを馬鹿みたいに見ていた。隣は・・・・。もう見れない。見たら何かが耐え切れなくなりそうだから。あぁ、クソっ。堪えろよ、俺。

 

 「・・・・時間ですね。」

 

 93、94・・・。

 

 此処まで来たら、もうカウントは必要ないか。俺も瞳を閉じた。暗闇の中、直前まで見ていた光の残像がちらついている。視界を失えば、より一層存在感を増す肩の重み。最後まで震える事なく優しい声音で告げられる別れの言葉。

 

 「では、また。どうかお元気で・・・。」

 

     -あぁ、古泉。また来年な。

 

 

 

 

 

 100回めの音が止んだのを確認してから、俺は1人立ち上がって団長の下へ向かう。ハルヒはまだ空を見上げたままの姿勢だ。横に立ち並んで、俺も同じように視線を上げる。長門も朝比奈さんも、一緒になって天体観測でもしているかのように皆で夜空を仰いだ。

 「・・・ねぇ、キョン。」

ハルヒがポツリと俺を呼ぶ。

 「古泉君に、ちゃんと届いたわよね・・・・?」

安心しろ、アイツは実はちゃっかり間近で見ていて、そしてきちんと迷わず帰路に着いてるから。 

 「大丈夫だ。お前がそんな顔してたら、いつもお前を気遣ってくれてた優しい副団

 長が慌てふためくぞ。」 

  ーだから・・・・・

 そっとハルヒの頭上に手を伸ばし、くしゃり、と撫でる。

 「そんな泣きそうな顔するな。」

お前は傍若無人完全無欠スマイルの方が似合う。

 「・・・・そう、ね。うん、そうよね。」

祈るかのように瞼を下ろした一瞬、その後ハルヒはいつもの満面スマイルに切り替えた。

 「よし!来年はSOS団オリジナル打ち上げ花火を作るわよ!サイズは特大の4尺

 玉でね!!。」

SOS団副団長相手ですもの。迎え火も送り火も超ど級にいくわよ!!なんて言う。ハルヒは本当に実現してしまいそうだから怖い。大文字焼きまでグレードアップしてくれるなよ、頼むから。でもちょっと、心の奥底では1年後の事を期待してもいるが。

 

 

 8月16日は終わろうとしている。今頃アイツは彼岸に渡り着いただろうか。長いようで短い4日間の再開。あの鳶色の目を細め、形の良い口端を上げて馴染みの笑みを浮かべてる姿。最期に病室で見た青白い無表情じゃない、俺が思い起こすのはいつだって癪に障るくらい完璧なニヤケスマイル。

 あぁ、クソ。思い出したら、若干目頭が熱くなってきた。なんで俺が古泉でここまで不安定にならなきゃならんのだ。ったく、堪えろよ、俺も。

 

 ふぅ、とため息をつき、もう一度空を見上げる。なぁ、古泉。お前との約束、俺はちゃんと果たすつもりだから、心配するなよ。

 

 「キョーンっ!帰るわよーっ。」

 「キョン君、花火の片付け終わりましたよ。」

 「・・・・・・・・・。」

 

 花火の残骸を片付け終わったハルヒ達が俺を呼ぶ。しまった、いつの間にか俺は片付けの手が止まっていたようだ。

 

 「キョン、片付けおわったんだからとっとと帰るわよ!そんな所にボーっと突っ立っ

 てないで。置いてくわよ!!」

 「あぁ、悪い。今行く。」

  

 歩き出したハルヒ達を俺は駆け足で追いかけた。そして一度立ち止まり、河原の方を振り向きつぶやく。

 

 「じゃあな、古泉」

      

 また来年会おうぜ。


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