サマー・デイズ (※微鬱展開あり、注意

 

 

 
 さて、いつ決めたんだったかもう忘れちまったが、俺は今夜SOS団のメンバーを集めて怪談でもやろうと誘うことにしたのだ、場所はいつもの長門のマンションで、すでに許可は取ってある。
 今日の日付は忘れもしない、8月31日だ。まだ残暑が残っている。時計を見ると、今は午前9時、とりあえずこの日は何の予定も組まれていない、そう、予備日なのだ。
 てなわけで、これから古泉と朝比奈さんに連絡するところだ。まあ二人は都合が悪いなんてことはないだろう、問題は後一人の団長様だけだ。しかしその心配も徒労に終わるはずだ、何故なら他のメンバーが集まる事になるなら絶対アイツも来るはずだからだ。
 
 俺の予想通りハルヒは食いついて来た、俺が何を考えているかなんて知るよしも無く、
「何勝手に決めてるのよ!そういうことはまず団長のあたしに許可を取りなさい!」
「そりゃすまなかった、もし、次の機会があればそうすることにするよ。それより急に閃いたんだよ、なかなかいい怪談話がな、それで皆にも聴かせてやろうかと思ったまでさ」
 
 ま、そんな訳でその日の夜、みんなで長門のマンションに集まったのだ。ハルヒも古泉もそれなりの数の怪談を知っていて、それぞれ披露していく。
 長門は怖いというよりシュールでブラックな話を淡々としていった。まあ、どんな話でも長門が抑揚の無いしゃべりかたで話すとシュールな感じになるのかもしれないが。
 残る朝比奈さんはと言うと、初っ端から戦線離脱気味だった、ま、これは予定通りだがな。そして俺も取って置き以外の話を何種類かする。ハルヒは定番ね、等と言っていたがそこそこ真剣に聴き入っていたし、時折ビクッとしていたのを俺は見逃さなかったぞ。それに定番と呼ぶべき話は古泉がしてた方の話じゃないのか?プールの排水溝に引き込まれて死んだ生徒の霊の話って、よくある話だと思うけど。
 
 まぁそれはこの際どうでもいいことなのだ。俺にとっては最後に残して置いた取って置きの話がメインだからな。その話は日付が変わる少し前に話が終わるのが効果的だと事前に伝えておいたので俺のその話をトリにしてもらったのさ。
「さ、キョン、そろそろ時間よ、その取って置きの怪談を聴かせてもらおうじゃないの、でもね、ここまで勿体つけて、もし、しょーもない落ちだったりしたら罰ゲームよ罰ゲーム、解ってんでしょうね」
 そんなことにはならないさ、この話がうまくいけば多分、そんなこと気にならなくなるはずだからな。
「ふーん、キョンにしてはえらく自信過剰じゃない、じゃ早く聴かせなさい」
 言われなくてもそうするよ。俺の目的はそれなんだからな。それじゃいくぜ――――。
 
 
 
 それは今日と同じ夏休みの最終日に起きたことだった。とある男子高校生が、明日から新学期ということで次の日の準備をして眠りについたんだ、そして次の日、目が覚めると昨夜準備したはずの物が全て元の場所に戻っていたんだ。
 
 
 
「まさかポルターガイストってんじゃないでしょうね」
 ハルヒは不服そうに尋ねてきた。そんな単純な話じゃねえよ、それに話の腰を折るなって、もう少しおとなしく聴いててくれ。
 
 
 
 ――――その高校生は勘違いかと思い、もう一度急いで学校に行く準備をしたんだ、そして家族と朝食を食べ始めた時に異変に気付いたんだ。その日が9月1日じゃなくて8月31日であることに。

 その後、その高校生は昨日経験した事と全く同じ日が繰り返されていることを知ったんだ。さらに次の日も学校は始まらず、8月31日のままだった。そいつも始めのうちは学校が始まらなくてラッキーなんて思っていたが次第に不安になっていった。
 そう、そいつは終わらない夏休みに迷い込んでしまったんだ。
 考えてみろ、毎日が同じ日の繰り返しだ、テレビの番組もその日に起こるニュースも全く同じだ、なにより自分の記憶以外全てリセットされるんだからな。
 
 その日に何をしても次の日に引き継げないんだ、ゲームをしていくらセーブをしても次の日には、昨日したことが全てなかった事になっていてセーブしたデータも消えてしまっているんだからな。ずっと今日しかない世界。未来も希望もない、そしてその事実に気付いているのは自分だけという世界だ。そんな世界に居ると、徐々に孤独感がその男子高校生を支配していくことになる。その後、不安から絶望へとかわるのにそう時間はかからなかった。
 
 そしてとうとうそいつは実行してしまったんだ。そう、自殺という選択を。
 自殺方法はあまり恐怖感や苦痛を伴わない首吊りだったんだが、結果的には死ぬ事は出来なかった。
 首を吊った後、気が遠くなり、意識を失った後どうなったのかわからないが、次に気が付いたときは朝だったんだ。そこは病室ではなく、自分のベッドだった。最初何が起こったのか解らなかったが暫くすると理解できた。
 そう、また8月31日の朝が始まったってことに。
 
 この終わらない夏休みはどうやらそいつの生死に関わらず、繰り返しているということを悟ったんだ。まあ、そのことを悟るまでにはいろんな自殺を試みた訳なんだが。すべて意識を失った後、目覚めると自分のベッドで、朝を迎えることになっているんだからな。
 はっきり言えばそいつにとって精神の牢獄と言っても良い世界なわけだ。既に絶望から虚無感に移行し始めていたけどな。
 
 そして、どうやら時間のリセットは夜中の0時きっかりに行われることが判明したんだ。なぜそれが解ったのかというと、自暴自棄になって傷害事件を起こした時だった。
 そいつは警察につかまり、事情聴取を受けていたのが、その時間だったんだ。そいつは事情聴取を受けながら、ぼんやりと壁にある時計をながめていた。その時計が夜中の0時になったところで記憶は途切れ、気が付いたら朝になっていたからだ。
 
 そんな状態に陥っていたある日、何気なく街をふらふらしていたそいつはふと図書館に行き着いたんだ。虚無感に支配されつつあったそいつはそこで天啓が舞い降りた。
 この閉じられた世界で唯一引き継げるものは……そう、自分の記憶だけ。だったら本を読むことなら可能だ、読んだ記憶はなくならないんだ。明日になってもその続きを読み始めればいいんだからな。
 毎日が同じ日の繰り返しの中、唯一繰り返されない本の中の世界にそいつはのめりこんだ。
 
 毎日、と言っても同じ日付だが、そいつは図書館で一日中本を読んでいた。
 そいつ以外にも人はいたが、メンバーはまったく同じで、指定席と言っていいくらい同じ席にそいつは座る。
 そんなある日、ふと気付いたことがあった。
 その、いつも同じメンバーの中に同じ年くらいの女子がいるのだが、彼女が読んでいる本が以前見た時と違っていることに。
 
 自分の記憶以外は同じ日の繰り返しなのだから以前と違う本を読むことなどありえないはずなのだ、現に彼女以外のメンバーは初めて見た時と同じポーズで同じ本を読んでいて、読むペースも同じで、席を立つ時間も同じなのである。
 気のせいか? それともまったく同じ日の繰り返しだとしても実は微々たる違いがあるのか? などとそいつは思っていたが、次の日に彼女が読んでいる本を見て気のせいではなく、確実に毎日違う本を読んでいると言うことがわかったのだ。
 
 まさか! いや、そんなはずは、でも、もしかして……。
 そいつにとっては衝撃の出来事だ、そして思わずその彼女に声をかけたのである。そう、自分と同じ状況に陥っているかもしれない彼女に。
 声をかけた時は、彼女も驚いていたが、彼女は感情を表に出さないクールなタイプらしく、興味なさげに受け答えをする程度だった。
 それでもそいつには嬉しかった、仲間が居たと言う事実が励みになったんだ。自分は孤独じゃなかった。それと、他にも仲間が居るかもしれないと思えたからだ。
 
 だが、そんな考えはすぐにかき消されてしまった。それよりももっと重要な情報を彼女から訊けたからだ。この繰り返される夏休みは実は去年もあったというのだ。
 その話が本当だとするとこの繰り返される8月31日にはいずれ終わり、待望の9月1日が来るってことだ。しかし、次の彼女の言葉にその情報はただのぬか喜びだったことに気付かされた。
 去年の夏休みは一万回以上繰り返されたと彼女は言ったのだ。一万日ってーと約27年くらいだ、もし、今年もそれくらい繰り返されるとしたら……、そんなことは考えたく無かった。
 永遠に続くと思われていたこの夏の日々に終わりが来ると言う希望の後にその事実は辛い、その日その男子学生は本を読むことも忘れ、放心状態のまま次の日を迎えることになった。
 
 いきなり冤罪で懲役27年を言い渡されたようなものだ。しかも執行猶予すらない状態だ。
 またもや虚無感に支配されてしまったが、次の日もそいつは習慣になっていた図書館へ無意識に向かった。
 図書館に着いてもそいつは本を読むこともせず、放心状態のままだった。
 放心状態のままいつもの席に座っていると例の彼女が近づいてきた。
 
 昨日言い忘れていたことがある、と言い彼女は語り始める。彼女が語り始めた内容はこの繰り返される日々の原因、事の真相だった。
 その話の内容は、はっきり言って信じがたい内容だったが、すでにこのねじれた時間の渦中にいるそいつは疑う事などしなかった。そいつは、彼女から訊いたこの現象の当事者を探し出すことにした。
 そう、そいつはこの繰り返される毎日を作り出した犯人がいるということを知ったのだ。
 
 その犯人は、夏休みがこのまま終わるのを不満に感じていて、何か満足する出来事が起きるまで繰り返すらしい。去年は一万回以上繰り返した時にその満足する様な出来事が起こり、そこで繰り返される夏休みが終わったそうだ。
 だとしたらその犯人に満足するような出来事を提供しなければこの状況から抜け出すことが出来ないってことだ。
 そしてその犯人を捜し始めることからしなければならないのだが、意外とその犯人を見つけるのは簡単だった。
 
 図書館で出会った彼女がその犯人を知っていたからだ。だったらなぜ彼女は何もせずにこんなところで本を読んでいるのだろうと、そいつは疑問に思い、彼女に問いただした。
 彼女はその問いにこう答えた。
「その当事者自身、何が不満なのか、どうすれば満足なのかまったく理解していない。そのような人間にこちらからどうアピールすれば満足のいく夏休みになるのかわたしには想像もできない、去年も、ふとした出来事に満足してあっけなく終わりを迎えた。だからわたしは今年もただ見守るだけにする。いずれ誰かがきっかけを与えてくれるはず、それが誰なのか解らないけれど、ひょっとしたらあなたなのかもしれない」と。
 
 そう言って図書館の彼女は当事者の名を彼に告げた。
 
 そいつはその名前を訊いて正直驚いたんだ。何故かと言うと、それはクラスメイトだったからだ。
 まさか同級生がこの事件を引き起こしているなんて考えもしなかったからな。しかし、まったく知らない人間よりかは、アプローチがしやすいはず、と思い直してそいつはすぐさま行動を起こしたんだ。
 しかし、行き当たりばったりでそううまく事が運ぶわけが無かったのさ。
 何度もやり直しをするはめになってしまった。そう、たった一日しかない上に、相手の記憶はリセットされてしまうからだ。
 
 そいつは、相手を満足させる方法を色々と考えて、それを実行した。
 それによって相手も一応満足しているように見えていた、だが、9月1日が来ることはなかった。
 
 その、当事者のクラスメイトが女子であることから、愛の告白なんてことまでやったんだが、それでも時間は繰り返されるままだったんだ。
 そんな繰り返しの日々に少し疲れてきたそいつは久々に図書館に向かった。女の子が喜びそうなことは女の子に訊いた方がいいんじゃないかと思ったからだ。そいつは彼女に相談しに行った。
 しかし、あまり実のある返答は得られなかった。彼女も愛の告白が一番最良の手だと思っていたからだ。
 その男子高校生が繰り返されてる日々に気付かされている理由は、当事者が彼に何かを期待しているのではないかと彼女は考えていたらしいんだ。
 だが、告白ではないとするともう万策は尽きたようなものだった。
 
 その後、そいつは当事者に何度かアタックしたりしたが結果は変わらず、はずればかりだった。どうすれば当たりを引くことができる? 色々と考えたが、追い詰められ始めていたそいつはまともな思考も出来なくなっていたんだ。
 そしてとうとう、そいつは最悪の結末を選んでしまったんだ。
 まあ、最悪なのかどうかはまだ解らないがな――――。

 
 
 
 それでハルヒ、そいつはどんな結末を選んだと思う? 
「な、なによ、急に、もったいつけないで続き聞かせなさいよ。それにこのままじゃ全然怪談になってないじゃない」
 俺が急に話をふったからか、ハルヒはビクッと体をこわばらせた後、口をアヒルのように尖らせながら文句をいった。
「まあ、この話は怪談なんだからそこでどういう選択をするかなんてのは限られてるわね、そうでしょ、キョン」
「そうだな、だいたい予想はつくよな」
 そう言って俺は、他のメンバーの方をちらりと俺は見る。
 長門はいつものように無表情。朝比奈さんは予想通りその丸い瞳をウルウルとさせて緊張した面持ちで俺の方を見ている。古泉はいつに無く真剣な表情で何か言いたげな目で俺を睨むように見ている。
 まあ、何を言いたいのか大体解るがな。だが、今は黙っててくれ、その方が都合がいいんでな。
 
 俺はハルヒのほうに向き直り、そうなんだハルヒ、そいつはその当事者を呼び出し、最後の手段を取ったんだ。
 それで、なんて言って呼び出したと思う? 
 そいつはな、『いい怪談話を思い付いたんだ』って言って呼び出したんだよ。そう言って俺は事前に用意していた得物を取り出しハルヒに向かってそれを振り下ろした。
 ハルヒは一体何が起こったのか解らない表情のまま、俺を見ていた瞳を大きく見開く。
 
「危ない! 涼宮さん!」
 咄嗟に古泉が横から飛び出して来た。
 しかし、俺とハルヒの間に割り込もうとした古泉だが、どうやら自由に体を動かせなくなっているらしく、割り込めたのは左腕だけだった。
 ザシュッ!
 いやな感触が俺の腕に伝わってきた。
 そして、ろうそくの明かりしかない部屋で、古泉がドサッと倒れる音と何かの液体がボタボタっと床に落ちる音が聞こえて来た。俺はその姿を見て思わず長門の方を見た。
 長門は無表情のままゆっくりと頷き、
「薬はちゃんと効いている。その状態でそこまで動けるのはさすがとしか言えない」
 そうだった。あらかじめ長門が用意した飲み物に薬がしこまれてて俺の邪魔が出来ないようにしてあるんだったな。
 ハルヒの運動神経のよさを考慮してのことである、当然、念のために古泉と朝比奈さんの飲み物にもその薬は仕込み済みだ。
 
「悪いな、お前が邪魔しに来ることは既に考慮済みだ、だからこうならないためにも薬を盛っておいたんだがな。俺の目的はハルヒだけなんだ、それ以外には危害を与えるつもりはない」
「な、なに? どういうことよ、キョン。一体何が起こったのよ、それに薬ってどういうことなの」
 ハルヒが当然の疑問を俺に投げかける。まあその気持ちは解らないでもないがな。
「そういや俺も以前凶器を持った知人にいきなり襲われたことがあったからなぁ」
「どうやら彼はあなたを殺すつもりですよ涼宮さん」
 古泉は痛みを堪えるように顔を歪め、左腕を押さえながらゆっくりと体を起こした。
「古泉くん、ちょっと、大丈夫なの?」
 ハルヒは古泉の方に駆け寄って、押さえている左腕を心配そうに覗き込む。
 
「お前が邪魔するから悪いんだぞ古泉。別に俺はお前まで傷つけるつもりなんて毛頭ないんだからな、そんな訳でおとなしくしててくれ。一応俺もお前が出てきた瞬間に振り下ろすスピードを緩めたんだ、だからそんなに深い傷じゃないはずだ」
「な、なに落ち着きはらってるのよキョン、あんた何をやったのか解ってるの、古泉くん怪我してるじゃない。いくらなんでも怪談話の最後に襲い掛かって驚かすつもりだったとしてもこれじゃシャレにもなんないじゃない!」
 ハルヒはすごい剣幕で俺をにらみつけた。
 まったく、お前はまだ状況を解ってないみたいだな、まあ、それでもいいがな俺は。お前がそう思うならそう思えばいいさ、その方が都合がいいからな。
「そうだな、俺も本当にシャレで済ませたかったよ、だがこれ以上被害を出さないために、間違っても古泉や朝比奈さんの影に隠れたりするなよハルヒ、俺とサシで勝負しようじゃないか」
 ハルヒのことだ、こういえば自分が不利でも真っ向勝負に出てくるはずだ。そうすれば俺も行動しやすくなるもんさ。
 
「キョン、あんた正気なの? どっか頭のねじがぶっ飛んでるんじゃない」
 まさかハルヒにそんなことを言われるとはな、お前は夏休みを15000回近く繰り返したりするようなぶっ飛んだやつなんだぜ。そう思うと思わず笑いがこみ上げてきた。
「フフフ、俺は正気だよ、どっちかと言えば正気じゃないのはお前の方じゃないのか? まあ、そんなことは今更なことだ、しかし、本当はお前に苦痛も恐怖も感じる前に終わらせてやりたかったんだがな。古泉のせいでそれができなくなっちまった。だから俺だけじゃなくて古泉も恨むんだな」
「く、狂ってる……」と、ニヤケながら答えた俺を見てハルヒがつぶやいた。
 何を言ってるんだハルヒ、狂ってるのは俺じゃなくてこの世界のほうさ。俺はこの狂った世界を元に戻そうとしているだけなんだ。まあ、百歩譲って俺も狂ってるんだとしても、俺を狂わせた張本人はお前だよ、ハルヒ。
 
「有希? 有希もキョンの味方なの? ねえ、黙ってないで何とか言ってよ。これって冗談なんでしょ、あ、あたしを殺そうとするなんてウソよね」
 ハルヒは俺の隣でひっそりとたたずんでいた長門に声をかける。
 長門はハルヒの問いかけに、
「わたしの意思は彼の判断にしたがうことにした、それがどういう結果になろうとも、わたしはかまわない」
「それ本気でいってるの? 有希ならキョンが馬鹿なことをしようとしてるって解るでしょ」
 
 まあ、長門は俺が提示したこの事態の収束方法を理解して協力してもらってるからな。
 悪いがハルヒ、お前が薬の影響で体の自由がきかないうちに俺の目的を達成させてもらうぜ。
「おっと、古泉、お前もこれ以上巻き込まれたくなかったらおとなしくしてるんだな」
「くっ、涼宮さん、逃げてください、あなたが本気になれば彼から逃れることも可能なはず、それに彼の目的はあなたです、僕と朝比奈さんはこのままここにいても彼は危害を加えることはないでしょう」
「でも……」
 
 ハルヒ、いいのか? お前から見れば俺は狂ってるように見えるんだろ、安心してていいのか。それに、お前が本気で逃げるんなら、本意ではないが古泉と朝比奈さんは人質として活用させてもらうことになるんだが。
「ちょっと待ちなさい、誰が逃げるって言ったのよ、あんたの望み通りサシで勝負してやるわ、その代わりあたしにも何か武器を頂戴よ、それとも丸腰の相手にしか勝負を挑めないほど腰抜けなのかしらね」
 ハルヒのセリフを聞いて俺はくくくっと、こみ上げて来た笑いを堪えながら、
「確かにさっきサシで勝負しよう、と言ったがな、だけど俺の目的はお前と勝負することじゃ無いんでな、その条件を飲むことは悪いが出来ない相談だ、それに時間もあまり無い。さっさと決着をつけないとまたやり直しなんだ」
「やり直し?」とハルヒ。
 
 お前は俺の話をちゃんと聞いていたのか? 時計を見てみろ、もうすぐ深夜0時だ。深夜0時になったら今日がリセットされてまた今日が始まるんだ。そしてこの現象を起こしてるのがお前だ、ハルヒ。
 俺の目的は無事に9月1日を迎えることだけだ。この狂った時間のループを終わらせるためにはこうするのが手っ取り早いんだよ。
 そう言って俺はハルヒに向かって突進する、既にハルヒは古泉と朝比奈さんから離れていて、さっきのように邪魔をするやつはいない。もうすぐ俺の目的は達成する。俺はハルヒの信じられないと言う驚愕の表情を網膜に映しながら右手に持っている得物をハルヒに向けて突き出した――――。
 



 
 長い長い夜も明けて日が昇り、そして長かった夏休みも終焉を迎え、その日、二学期が始まった。
 始業式のあとの教室で、HRなどのあいだ俺は普段と違う背後から雰囲気に少々違和感を感じていた。なにか物足りなさを感じるってのは一体どういうことなんだろうね。本来ならこれが普通の学校生活なんだろうけど、俺の日常では後ろの席のヤツが色々とちょっかいを出してくるのが本来の姿だ。だが今日は静か過ぎる。これがどうにも落ち着かない。
 まったく、今日から学校が始まると言うのにしょっぱなからこんな状態じゃ先が思いやられるぜ。
 
 しかし、休み明けというのはこうもだるくて眠いものなんだな。まあ、夜更かしと朝寝坊の日々から生活習慣が変わって、早起きを強いられるわけだからな、言ってしまえば軽い時差ぼけ状態だ。
 うーん、眠い。とはいえ、今日は授業も無く、HRが終われば放課後だ。そういや今日の団活はどうなるんだろうな。さすがに誰も来ないかもしれない。確か去年はあの長門ですら来なかったしな。
 
 俺にとって今日はつかの間の平穏なのかもしれない。でも、たまにはいいだろ、なんせ俺は繰り返されて終わらない夏休みを終わらせたんだからな。
 少しは感謝してくれてもいいんじゃないか、誰か俺に賛辞の一つくらいあってもおかしくはないと思うんだがな。しかし、俺の昨日の苦労なんて誰も理解してくれないのが辛いところだ。少しくらい見返りがあってもいいはずだ。だが、そんなものはまったく無い上に、どちらかと言えば昨日しでかしたことによる弾圧的な弊害が俺に降りかかろうとしているのは明白だ。
 
 まったく、一体誰がこんな苦労を俺に課したんだ。
 でも、これで夏休みが繰り返されるような事態はもう来ないだろう。それだけは言い切れる。
 
 
 HRも連絡事項も終わり、放課後になった。
 俺は自分の居場所である部室に向かい、そこで寝不足の解消をすることにした。まあ、全然涼しくはないが、炎天下の中、下校するよりは幾分ましに思えたからだ。
 いつもの席に座り、机に突っ伏して入眠することにする。机に突っ伏したまま、俺は寝不足の原因になった昨夜の出来事を思い返した――――。
 
 
 
 ――――薄暗い長門の部屋で俺は、薬で体の自由がきかなくなったハルヒに対して突進していった。どんどん近づいていくにつれて、ハルヒの表情がよく見えてくる。
 そして、信じられないと言う表情のハルヒに向かって俺は、右手に持っている得物を突き出した。
 ドスッ!
 またもやいやな感触が腕に伝わる。
 ハルヒは最後まで俺の顔を見ていたが、耐え切れなくなったのか寸前で硬く目を閉じていた。しかし、俺が持っていた得物はハルヒには届かなかったのだ。いや、本来なら届いていたはずなのである。ではなぜ届かなかったのか。俺の目の前にはハルヒではなく、別の人物がいたからである。その人物は……。
「あ、朝比奈さん、なんで? どうやって……」
 朝比奈さんは悲しそうな微笑を俺に投げかけたままゆっくりと倒れこんだ。
 どさり。
「おそらく、座標移動をしたと思われる」
 長門の淡々とした声が聞こえてきたが俺にはどうでも良かった。
 
「え!? み、みくるちゃん? なんで」
 ようやくハルヒも目の前の状況に気が付いたようだった。ぐったりと倒れて動かなくなった朝比奈さんを見つめている。
「みくるちゃん、しっかりして、ねえ、返事してよ、お願い、ウソでしょ……」
「やめろ、ハルヒ。もういい」
 俺は倒れて動かなくなった朝比奈さんを揺さぶっているハルヒの肩をつかんでとめた。と、同時に。
「ひ、人殺し!」
 そう叫んで俺の手を払いのけるハルヒ。
「なんとでも言え、どうせもうすぐリセットなんだ、そう、やり直しだ」
 もうすぐだ、あと少しなんだ……このままいけば……。
 
 時間がゆっくり流れている感じがする。ろうそくの光の部屋の中、時計の針の音だけが聞こえていた。
 ふと、部屋の壁に掛けてある時計を見ると時刻は0時過ぎを指していた。
「おい、ちょっとまて、どうなっているんだ。時間が、過ぎている……?」 
「予定の時間はすでに過ぎている」
 長門の声が静寂の部屋に響いた。
「どういうことなんだ、これは! なぜリセットしないんだ」
 俺はうろたえるように辺りを見渡した、ぼんやりと倒れている朝比奈さんを見つめている長門。悔しそうな表情で俯いている古泉。そして、朝比奈さんのそばで魂が抜けてしまったようにしゃがみこんでいるハルヒ。
 俺はそのハルヒにゆっくりと近づき、最後のキメ台詞を言う。
 
「ハルヒ、何やってるんだ。早くリセットしてくれよ。なんでこんな時に限ってやり直しをさせてくれないんだ。おい! 頼むよ、おまえなら出来るんだろ、なあ、ハル……」
 ヒュン、と言う風切音が聞こえたかと思った瞬間。ゴッ! 
 という衝撃が俺を襲った。吹っ飛ぶ俺。つまりハルヒに殴られたんだ、やっぱりグーで。
 
 で、俺を殴り飛ばしたハルヒは、わなわなと震えながら涙声で、
「そ、そんなこと、あたしに出来るわけ無いでしょ! そもそも時間が繰り返されるなんて事、あるはずないじゃない!」
 
 俺は殴られてジンジン痛む頬を押さえながらそのハルヒのセリフを聞いていた。そして、
「おい、ハルヒ。今のセリフもう一度いってみろ」
「何よ! 何度でもいってやるわ! 過ぎ去った時間はもう元には戻らない、みくるちゃんも……」
 ハルヒは両手で顔を押さえて肩を震わせながらぺたんとしゃがみこんだ。
「みくるちゃん……なんで、こんなことに……」
 
 重苦しい空気がこの部屋を支配していた。
 
 俺はそんな姿のハルヒを見て、ちょっと気まずい気分になり、気を紛らわすように長門に目配せをする。
 長門はゆっくりと俺の方に向き、
「……あと20秒」と、ポツリとつぶやいた。
 そう、あとたったの20秒程なのだが実はこれがえらく長く感じられた。まるで時限爆弾の解体作業のような緊張感だ。すでにカウントダウンが始まっている。
 
 3、2、1、0。
「……日付が、変わった」
 長門がゆっくりと立ち上がる。その表情に何故か安堵の色が伺えたのは気のせいではないようだ。
「そうか、じゃあこれで終わりだな」
 さて、この後のことは俺も考えたくないな、なんせ俺にとってこれは最後の手段で、事後処理の手段を考えずに立てた計画だったんだからな。まあ、うまく言ったのは幸いだが、しかしあんな姿のハルヒをなだめるのはどうにも骨が折れそうだ、しかもそれをやった張本人は俺なんだからな。古泉あたりがうまくなだめてくれれば助かるんだが、さすがにそれは無理だろうな。どう考えてもあいつはこの後呼び出されて現場に直行だろうからな。あーあ、やだなぁ、誰か代わってくれないかなあ。
 俺は助けを求めるように長門の方を見る。
 
 長門は瞬き二回ほどした後ゆっくりと壁の方に歩いていき、部屋の明かりを点けた。そして後は俺の役目だと言いたげにその水晶の様な瞳を俺に向けてきやがった。
 そんな風に長門に見つめられては俺も覚悟しなければならないな、俺は深い溜息をついて、ゆっくり立ち上がり、一言「やれやれ」と、つぶやいてハルヒの方に歩み寄っていった――――。
 



 
 ふと目を開けるといつのまにか部室に誰かが来ていた。寝ぼけ眼で頭をめぐらすと、いつもの定位置で長門が本を読んでいた。
「ん、長門。来てたのか」
 長門は本から目を離さずに、
「あなたには感謝している、この後のことは出来る範囲でサポートをする」
 
 そいつはありがたい申し出だ、その言葉だけでも俺には充分だな。
 まあ、お前の力を借りなくても何とか乗り切ってやるさ、でもどうにもならなくなった時は頼む。
「わかった」
 そう言ってまた本を読む作業に戻る長門。
 長門が味方なのはこの上なく心強いな、そう考えると少し元気が出てきた。
 そんな長門を眺めつつ、長門から連絡が来た時のことを思い出していた――――。
 
 
 
 ――――それは夏休みの最終日だった、だが俺にとっては最初と呼べる日かもしれない。長門から連絡が来た。
 異常事態が起きている。と一言だけだったが、俺にとってはその一言を聞いただけですぐさま長門のマンションまで駆けつけた。なんせあの万能選手の長門からの連絡なんだ。これは俺の想像だが、少々のことなら誰にも悟られることもなく長門は何とかできるはずであり、そしてその行動を決して長門は自ら話したりしないのである、そんな長門からSOSとも取れる連絡が来たと言うことは、長門ですら手におえない事態が起きたと容易に判断できる。
 
 それに、長門はどうにもならない事態に対して自分を犠牲にしてでも対処をしようとしかねないしな。それで、その相談というのはまあ、この繰り返す日々だったってわけなんだが。
 俺はそれを聞いて「またか、去年からアイツは進歩してないのか」と、思ったが、去年の二週間の繰り返しから最終日だけの繰り返しになったのは果たして進歩と言ってよいのだろうか? ……解らん。
 
 たった一日だけの繰り返しでは、去年のように朝比奈さんが未来と連絡できなくなって、この異常事態に気付くなんてことは起こりにくい、そうすると長門が俺に連絡をよこすまで誰もこのことに気付くことなく悠久の日々を送らねばならないところだったろう。
 これについてはその数日前の俺に感謝しなければならない。いや、感謝ってほどではないな、ふと、長門に何気なくこう言っただけだからな、
「ひょっとして、また夏休みが繰り返されたりしてないよな?」
「……大丈夫、まだ繰り返しは始まっていない」
「おいおい、その言い方だとこれから始まるみたいじゃないか、まあ、もしそんなことが起こったら今度はちゃんと俺たちに相談してくれよ、解決できるかどうかはさておき、悩みを共有するだけで結構救われたりするもんなんだ、俺たちは仲間なんだからな」
 なぁんて、ちょっとクサいセリフを言ってたような、言わないような。
 
 それはさておき、今回の件で一番厄介なのが、去年と同じ手が使えないと言うことだ。なんせ今回は去年とは違い、既に夏休みの課題は終わらせてしまっていたからな。
 まあ、ハルヒ曰く、
「夏休みの課題なんて三日もあれば余裕で終わるでしょ、七月中に終わらせなさい!」
 などと言って、半ば強引に無理やりやらされた。まあそのおかげで、心置きなく八月中遊べたってのはいいことなんだが、その結果がこの状況とは、何の因果なんだろうね。
 
 それはさておき、今回のループは一日しかない上に、失敗すれば前回同様、長門以外全員記憶がリセットされてしまうことになる、そうなると、そのたびに長門が俺にこの状況を説明しなければならなくなり、その後に他のメンバーに連絡して相談なんて手順を踏んでいくと、もれなくその日が終わってしまうことになりそうだ。なのでどうにか記憶をリセットされない方法はないかと長門に訊いてみたら、
「記憶の継続はあまり推奨できない、もし、失敗し続けていけばあなたの精神が持たない」
 そんなことはわかってるさ、だからこそ早くこの状況から抜け出そうとしてるんじゃないか。それに推奨は出来ない、ってことは可能ってことでいいんだろ。だったらそうしてくれ、今回はたった一日しかないんだ、前回何をして失敗したとか、次は何を試そうとかそういう計画を立てなきゃ話にならないくらい厄介なことなんだ。
「……わかった、ただし、安全のために240時間だけ記憶保存を出来るようにする、それより以前の記憶は新しい記憶に上書きされる」
「240時間ってことはつまり十日間か、まあ、それだけあれば何とかなるだろ」 
 
 そんなやり取りがあった後、とりあえずハルヒのご機嫌をとって見るなどをしていたんだが、実はこれが逆効果だったようだ。
 どうやらハルヒの機嫌をとるだけではこの状況に満足してしまい、逆にループを続けていく働きが強くなってしまうらしい。つまり、盛り上がってテンションが上がったカラオケルームのような状況だ、延長してもっともっと楽しみたいと考えたんだろうな。
 そんなわけで、俺は違うアプローチでハルヒに接する方法を模索することになった。そこで考え付いたのがこの怪談話に誘うと言う方法だ。
 とはいえ、この考えにいたるまでに一体どれくらいかかったのかと言うのは、すでに俺にはわからない、何せ俺には十日分しか記憶が残らないんでな、しかし、この最初の一日目の記憶は消えないようだ、これが消えちまったらいろいろとややこしいことになると長門が判断したんだろう、よって俺の記憶は最初の一日目とその後、何度も上書きされているだろう九日間だけだ。
 
 冒頭の、『いつ決めたんだったかもう忘れちまったが』てのはこういうことなのさ。
 
 そんなわけでこの方法は、ハルヒを誘い出し、最初に怪談だといって今の状況をハルヒに認識させる、そのあとこれは実際のことだって感じでハルヒを驚かし、最終的にそんなことはありえないフィクションだと思わせるっという算段だ。
 ハルヒに夏休みがループするなんてことは俺が作り出したウソ話だと信じ込めばそれでこの状況から抜け出せる、そのために俺は色々試行錯誤して今回のシナリオを作り上げたんだ。
 それでも何度か失敗したがな。
 
 失敗したのはほとんど俺たちの演技不足が原因だった。
 なかなかハルヒを追い詰めて驚かすことができなかったのだ。本人には言えないが、とくに朝比奈さんの演技がもう目も当てられない代物だったからな、てのは俺と長門だけが記憶しているここだけの話だ。
 と言うわけで急遽セリフをなくし、朝比奈さんにはハルヒをかばって死ぬ役をやってもらうことにした。いやー、まったくもってこれがはまり役でうまくいったって訳だ。
 朝比奈さんが最後に刺されて倒れていく時、悲しそうな微笑で何か言っていたけど、何を言おうとしてたんだろう? そういや朝比奈さん、終始しゃべってない気がするけど……、まあいいか。
 
 そして最後の駄目押しに長門の部屋の時計全て五分程進めておいたのだ。そのおかげでハルヒに時間が繰り返す現象は終わったと思わせる事に成功し、最後のあのセリフをハルヒから引き出すことに成功したってわけなのさ。
 
『時間が繰り返されるなんて事、あるはずない、過ぎ去った時間はもう元には戻らない』
 
 そう、俺たちはこのセリフをハルヒから聞くためだけにこんなに苦労したって訳だ、それに、触っても傷つくことなく、柔らかい素材で出来た見た目が凶器の得物まで長門に用意してもらってな。しかもそいつは先からは血糊が噴出す仕掛けまで施されてる優れものさ。さすが長門、抜かりはないなっと感心したもんだ。
 
 しかし、さすがにあのハルヒが泣き崩れるとまでは予想しなかった、いや、どちらかと言えばもっと怒り狂い、我を忘れて反撃に出てくると思っていたからな、それの防御策として体の自由を奪う薬まで準備しちまったんだからな、言っておくがこれは自分の身を守るためにしたことだからな、いわば正当防衛だ。それでもいいパンチを貰ったけどな。
 あと、けっして薬物法違反とかそんなものもなしだぞ、その薬も長門が用意したものだしな。それに本当に薬かどうかも俺には解らん。
 
 おかげであの後は大変だった、人間サンドバックになる覚悟までしてハルヒをなだめることになったんだからな。しっかし、古泉の野郎、なにが『僕はやりすぎじゃないかって引き止めたんですが……』だ、お前はさっきまでハルヒを騙すために迫真の演技をしていたじゃないか、いつもより規模の大きい閉鎖空間が発生したからっていきなり意見を180度変えるなよ、今更そんなことを言ってもハルヒをなだめる効果はまったくないぞ、ただ怒りの矛先を全て俺に押しつける行為なだけだ。もっともそれが狙いだとしたら充分効果はあるだろう、だが、そんなことなどしなくてもハルヒは既に俺をターゲットにしていたんだ、だからお前の態度はただ俺からの反感を買う結果になっただけだぞ。
 今や仲間から俺の味方になった長門だ、これほど心強い味方はいないんだぜ、いいのか古泉。なんてな、まるで虎の威を借る狐だな。まあ、それでも団長のハルヒには対抗できるとは言いがたい。あいつは何でもありであり、万能宇宙人の長門ですら解決できない事件を巻き起こすことがあって、今回もそんな事件の一つだったってわけだ。
 
 そんなこんなで、寝不足のせいで今日の団活はなし、っと宣言してったハルヒ団長は教室にいる間、ずっと静かに居眠りしてたって訳だ。俺にとっては嵐の前の静けさと感じていたがな。なんせ、罰金と罰ゲームを言い渡されちまってるんだ。ハルヒは「明日までに罰ゲームの内容を考えてくるから覚悟してなさい!」と言っていた。なるべくお手柔らかに頼みたいところだ。
 というか、俺の怪談話でハルヒをビビらせることには成功したんだよな、にもかかわらず罰ゲームとは、これいかに。
 結局、本気で怖がらせても、怖がらせることができなくても罰ゲームを言い渡される結果が待っているってことか。
  
 俺は少し伸びをしたあと部室の窓から雲ひとつない空を眺めた。そしてこんな時こそ鬱蒼とした気分を晴らすために朝比奈さんのお茶でくつろぎたいんだが、今日はそれすらかなわない。まったく残念だ。
 
 
 そして、本当に久しぶりにこんなことを考えてる俺に少し感動した。
『今日の夕飯のおかずはなんだろう?』てな。
 そうなのだ、もう繰り返される日々ではないのだ、やっと、毎晩同じメニューというある意味拷問に近い状態から抜け出せたんだからな。それだけでも良しとしておこう。
 

 
 
 
     おわり

      挿絵

 


|