「なぁ、ハルヒ」
「なによ」
「今日のアルバイトの給料なんだが・・」
「ないわよ。かわりにみくるちゃんの衣装が増えたからいいじゃない」
時計の短い針は既に真下を指しているのに、
太陽は沈みそうで沈まない。夏の夕方だ。
「ねえ、キョン」
「なんだ」
「あたし最近憂鬱なの」
それは古泉も困るだろうな。
「悩み事でもあるのか?」
「聞いてくれる?」
「聞いてやらない事もないが、座って話さないか?」
「うん・・・」
俺達は近くのベンチに座る。
「ジュース買ってきてよ」
「お前悩み聞いてもらう態度じゃないな」
そういいながら、腰を上げて財布を更に軽くしにゆく俺はなんだろうね。
「ほらよ」
「ありがと」
しばしの沈黙。
ハルヒは黙って赤く染まる空を見上げていた。
たまに俺が買ってきたファンタに口をつけている。
「あたしすっごく今、楽しいの」
「じゃあ憂鬱ではないんじゃないのか?」
「だから憂鬱なのよ」
何をいってるんだコイツは
「あたし夏が終わって欲しくない」
「・・・・・」
またあのエンドレスサマーを続ける気か
「楽しい日々はすぐ過ぎ去ってゆく、っていうでしょ?
あたしホントにそう思う」
「でも人間は前に進まなければいけなくてだな・・」
「あたしは嫌だ!」
ハルヒは空き缶を思いっきり蹴り上げた。
電柱にぶつかってハルヒの足元に戻ってきた。
ハルヒはそれが気にくわなかったのかもう一回蹴り上げた。
今度は木に当たってまた足元に戻ってきた。
ハルヒはついに泣き出した。
「あたしみんなが・・・えぐっ・・いつか・・・離れ離れになっちゃうんじゃないかって・・・そんなきがするの」
ハルヒの予感はおおかたあってるだろう。
長門はどうかしらんが、朝比奈さんはいずれお別れのときが来る。
「あたし昨日から眠ってないの。眠ってる時間さえもったいなく思えるわ。あたし時の流れが憎い」
そういえば最近のハルヒは去年にも増して、なにかに追われるように行事をこなしていた。そうかハルヒは時間に追われてたんだ。
「去年の夏は終わったわ。二度と来ない。
今年の夏ももうすぐ終わり。二度と来ない」
ハルヒはそういうと真っ赤な目で俺の方を向いて、
「そうやって、みんなもいなくなっていくんだわ!
なんで時はこうも簡単に過ぎ去って行くの?」
と叫ぶと、また泣き出した。
ハルヒはこころからみんなとずっと一緒にいたいと思っていた。
「ハルヒ、聞いてくれ」
「確かにお前の言うとおり、SOS団みんながずっといっしょってわけにもいかないだろう。でもひとつだけ約束できる事がある。」
「・・・なによ」
「俺がずっとそばにいる」
ハルヒが泣くのをやめて、ポカーンとした顔でこっちを見てる。まさか拒否するのか?そしたら俺相当カッコ悪いぞ。
ハルヒはここで300Wの笑顔を見せた。
「うん!」
俺とハルヒはしばらくそこにいた。手をつないでな
俺が夏を終わらせるために嘘をついたのかって?
それは違うな。俺の心の晴れ晴れしさが証拠だ。
ハルヒは空き缶を蹴り上げた。
空き缶は今度は電柱にも木にもぶつかることなく遠くに消えていった。