「免許を取りに行くわよ!」
中間試験前最後の授業の放課後、部室のドアを勢いよく開け放った我らが団長は高らかに宣言した。
「探索の効率が悪い理由がわかったの。行動範囲が狭いのと移動時間が長いのが原因だったわけ。
原付なら移動も速いし、現地に到着してから使う体力も温存できるし言うことないわ!」
ハルヒがこんなこと言いだした原因は何となくわかっている。
谷口が試験休み中に原付免許を取りに行くなどと言ってたからだ。
それにしてもハルヒ、お前が谷口なんぞの言葉に影響を受けるとは思わなんだ。
まぁそう思いつつもだ、確かに俺も免許やバイクが欲しい。しかし免許取得は校則で禁止じゃなかったか?
「だまってりゃバレないわよ。現にクラスでも何人か持ってるでしょ。」
バレなきゃいいのかよ。
「いいのよ。今度の試験休み取りにいくからね。みくるちゃんも有希も古泉くん、ついでにキョン!あんたもよ!」
えらく急だなおい、ってか中間試験と免許取得の両方勉強するのか?
「そうよ、善は急げ、思い立ったが吉日よ!安心しなさい、原付免許の問題なんて小学生でもわかるわ。」
「ふぇぇ、涼宮さん、急すぎませか~??」
「確かに善は急げと言いますが、免許を取るのに住民票やら講習の受講やら準備が必要ではないのですか?」
「講習は次の土曜でいいじゃない。不思議探索は中止ね。」
試験前なのに探索やる気だったのか。長門、お前はどう思う?
「校則に違反する行為は推奨できない。また、原動機付自転車自体危険の多い乗り物。 この点でも推奨できない。」
「んもー固いわね。いいわ、あたしが先に取ってくるから、あんた達はあたしを参考にして後に続きなさい。」
やれやれ、やる気マンマンだ。こうなったハルヒは暴走機関車のごとく誰にも止められない。
いや、この場合は暴走原チャリか?
無事中間試験とその試験休みが終わって最初の授業の日の昼休み、俺は文芸部室にいた。
「長門、もしかしてお前が仕組んだのか?」
「違う。ほとんど偶然。わたしの計画は今日の解散後、あなたに話すつもりだった。」
計画?
「涼宮ハルヒに原動機付自転車の所有および運転を諦めさせるのに2種類の方法が考えられた。
一つは免許証を取り上げられること。もう一つは身近な人間が原動機付自転車で怪我をすること。」
いちいち原動機付自転車は長いだろう。原チャリとかバイクでいいぞ。
「知ってのとおり原チャは便利な反面危険な乗り物。運転者本人が気をつけていても外的要因により事故に巻き込まれる確率が高い。」
お前が『原チャ』と略すとは思わなかったな。
「ただ免許証を取り上げられても反発し、余計な情報爆発を起こされる可能性がある。
だからわたしが原チャに当て逃げされて骨折するようにするつもりだった。」
「おい、そこまで体を張る必要はないだろう。」
「大丈夫、本当に怪我をする必要はない。見せかけだけ。」
それにしても長門じゃなくても。それくらい俺が…
「あなたでは駄目。かえってあなたにいいところを見せようとして余計な挙動を示す可能性が高い。」
確かにあいつは俺を馬鹿にしているところがあるからな。
古泉や朝比奈さんは?
「古泉一樹に依頼すると彼の機関によって大げさな状況が生まれるかもしれない。」
俺の脳裏にライダースーツの森さんや岡持ちバイクの多丸兄弟が大立ち周りする情景が浮かんだ。
「朝比奈みくるの場合、芝居がばれるか本当に重傷を負う可能性がある。」
朝比奈さん、長門の評価は低いですよ…。それに残念ながら俺の評価も似たり寄ったりです。
にしても免許取得者一斉摘発とはねぇ。運が悪かったな、ハルヒ。
岡部がたまたま大型二輪免許を取りに行ってたとは。
それにしても一斉摘発って岡部にしては厳しい態度じゃないか?
「涼宮ハルヒが担任と運転免許試験場で会ったのところまでは偶然。」
会ったところまで?
「涼宮ハルヒは担任に免許取得がばれたことによって校則違反による免許の取り上げと停学を想像した。」
「まぁ普通そう思うわな。」
「そこで彼女は逆恨みに近い感情を抱いた。
『なぜ私だけ。他の人間はばれていないのに自分だけ罰を受けるのは不公平だ。』」
それで道連れを…。
「そう。実際のところ岡部教諭は黙認しようとしていたと思う。しかし涼宮ハルヒの思い込みの力によって」
岡部は一斉摘発を校長に進言して、校長もハルヒの影響ですぐそれに乗ったわけか。やれやれ。
おかげでひとクラス平均5人が停学処分になっている。
しかし団長とすでにこっそり免許を取ってた古泉が校則違反で停学3日、
これは生徒会も黙ってないんじゃないか?
「生徒会長も摘発の対象。」
マジで?
「マジ。」
ここで長門が一瞬微妙な表情をしたのを見逃す俺ではなかった。
なんだ?その呆れたような、苦笑のような、縦線が入ったような顔は。
「……喜緑江美里も停学になった。